旧校舎の部室
「………………」
僕らポートラルはやる気がないとも気分がわかないとも取れる態度をしている。
それもそうだろう。
グレモリー先輩が投了(リザイン)、降参を宣言したからだ。
その原因はアーシアに治療を受けて今は眠っているイッセーだ。
グレモリー先輩を助けるため、ライザーに挑むもなす術なく一方的にやられてしまい、グレモリー先輩は何か琴線に触れたのか降参を宣言したのだ。
眷属たちが頑張っていたのに何やってんだと怒りを感じるものの、僕らはグレモリー先輩達のおまけ。つまり部外者だ。
部外者の僕らは悲しみの表情をするグレモリー先輩にとやかく言える立場ではないのだ。
「………………」
とは思いつつもこの燻る複雑な思いはどうすればいいかも検討がつかない。
全く大した参謀さんだよ僕は。
「………リーアちゃん、結婚するんだってね」
「………ああ」
「リーアちゃんの花嫁姿かぁ。見てみたかったなぁ。まぁ招待状ないけど」
「………ああ」
僕の隣でアドが独り言を言う。
お喋りなアドはこうしないと落ち着かないと本人の談である。
「………サンちゃん。一言本音を言っていい?」
「………ああ」
「私、やっぱ気に食わないわ」
アドがぶっちゃけた。
「リーアちゃんとライザーの………悪魔の未来のための結婚だってことは頭では理解しているよ。でも………私は納得できない」
「アド」
「他人の事情にはあまり干渉しないスタンスをやってきたけど、やっぱあれだね。「うん、これはちょっとダメだ」ってやつだね」
つまりアドはこの結末が受け入れられないと言うことだ。
「………言っておくが、ライザーは『冥界』で婚約を始めるとグレイフィアさんは言ってた。僕らがなにを考えようが向こうに干渉する手段がない」
アドがガクリとうなだれた。
そう、ライザーとグレモリー先輩の結婚は『冥界にある屋敷』で行われる。
なので冥界への通行手段を持たない僕らは今のようにだらけるしかない。
「………奇跡でも起きない限り、この結婚が覆されることはないからね」
と言いながら僕は立ち上がる。
「どこいくの?」
「イッセーの様子を見にいくんだよ」
––––––––––––
イッセーが眠っている部屋へ入った僕。
しかしそこにすでに目覚めたイッセーと何故かグレイフィアさんがいた。
「イッセー!?気がついたのか!?」
「うお!?太陽か?」
僕の登場にびっくりしたイッセー。
「と言うか、なんでグレイフィアさんが?」
「グレイフィアさんは伝言係みたいなもんだよ」
そう言うイッセーの手に何やら札のようなものがあった。
「その札は…」
「こいつは………結婚式場の片道切符さ」
「はい。イッセーさまに会場へ直接転移出来る魔法陣を差し上げるのと、サーゼクス様からの言伝を伝えに」
「言伝?」
「太陽さまにもお伝えしましょう。『妹を助けたいなら、会場に殴りこんできなさい』とのことです」
それを聞いて僕は呆れた。
つまり、グレモリー先輩のお兄さんは魔王という立場でありながら政治的に複雑な利権が絡んだ今回の婚約を不意にしようというのだ。
普通なら政治的指導者が貴族同士とはいえ婚約一件に口を出すことなどありえない。つまり、サーゼクスという男はいち兄としてこの婚約を阻止したいらしい。
よほどグレモリー先輩がライザーとの婚約を嫌がっているのを知ってるか、自分の妹が可愛いようだ。
「なるほど。つまり魔王様の仕切りで婚約阻止に殴り込めってことですか」
「そう捉えていただいて構いません。乗るか乗らないかは当人の自由ですが」
「………………」
僕は悩んだ。
魔王様からの提案といえ簡単にのっていいのかと。
………いや、多分あいつなら…。
「その話聞かせてもらったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
とアドが凄い勢いでドアから侵入した。
「「あ、アド!?」」
「話は聞かせてもらったぞ!イッちゃんはリーアちゃんを助けにいくんだね!ならば私も連れて行けえええい!!」
チラッとアドの後ろを見ると、武器を片手にやる気を見せるポートラルメンバー達が。
「全く、アドはどうしていつもこう…」
百喰だけは頭痛を訴えていた。
「お前ら…」
「………これが僕らポートラルなんだよ」
「そりゃお前のその苦々しい顔してたらなんとなくわかるよ。まぁそれはともかく、部長を取り返すぞ!」
「「「「「「おーーー!!!」」」」」」
ーーーーーーー
婚約披露宴会場
冥界の名家同士の婚約パーティーとあって、会場は大いに賑わっている。会場には数々のドリンクや食事が並び、まさに贅の限りを尽くしたと言わんばかりの光景だ。
だが、所詮は婚約披露宴。本当の結婚披露宴ではこれ以上の趣向がこられるはずだ。そして社交場らしく、貴族同士の会話もあちこちで見られる。こういった場における会話は、ただの世間話ではない。お互いのビジネスの近況や、政治についての意見交換もある。さらには将来のためのコネクション作りや重要な商談につながる会話も起こる。貴族社会においては往々にして、パーティー会場が政治の場になっていたりするのだ。
そんな中、レイヴェル・フェニックスは他の眷属たちをそばに置いて、顔馴染みの貴族との談笑を楽しんでいる。
「うふふふ。お兄様ったら、レーティング・ゲームでお嫁さんを手に入れたんですのよ。結果の見えていた勝負でしたが、見せ場ぐらいは作ってさしあげる余裕はございましたわ。オホホホホ!」
実際はそこまで余裕があったわけではないのは、実際にゲームを見ていればわかるのだが、相手は中継されていた試合を見てはいないのだろう。それを聞き手の悪魔は鵜呑みにしてしまっている。
その姿をリアスの眷属悪魔として招待されている朱乃たちは遠巻きに眺める。
「これみよがしに、言いたい放題だ」
タキシードでキッチリ決めた木場が苦笑する。
「中継されていたのを忘れているのでしょう」
そこへ、ドレスで着飾った女性が現れた。
「会長……」
彼女は支取蒼那。リアスの友人であり、駒王学園の生徒会長でもある。
「私は学校の関係者ということで観戦していましたが、結果はともかく勝負そのものは拮抗、いえ、それ以上のものでした。それは誰の目にも明らかです」
アドがこの言葉を聴いていたら間違いなくムッとした表情しただろうが、同じ場にいた上役たちも同様の意見だったという。
「ありがとうございます。でも、お気遣いは無用ですわ」
朱乃のその言葉に、蒼那は怪訝そうな顔をする。
「多分、これで終わりじゃあない。僕らはそう思ってますから」
「……ええ、終わってません」
木場と子猫が言い終わると同時に、壇上に大きな火の手が上がる。ライザーの登場だ。
「冥界に名だたる貴族の皆様方!本日は貴重なお時間をさいて頂いてのご来場に、フェニックス家を代表して御礼申し上げます。」
ライザーが恭しく、会場の貴族たちに挨拶を述べる。
「本日お集まりいただいたのは私ライザー・フェニックスと、名門グレモリー家次期当主リアス・グレモリーとの婚約という歴史的瞬間にお立会いいただくためであります」
その言葉をレイヴェルは誇らしげに聴き、グレモリー眷属たちは厳しい視線でもって聞く。
「さあ、ご紹介いたします!我が后……リアス・グレモリー!!!」
リアスの魔法陣が展開し、そこから純白のドレス姿のリアスが現れる。
紅い光が収まり、リアスが目を開けようとした、まさにその時。
「ごめんくださぁぁ〜〜〜〜い!!!」
と、騒音と共に扉ごと見張り兵をドロップキックでぶっ飛ばした少女が現れた。
誰もがそこに視線を釘付けにしていた。
すべての貴族達も。
蒼那も。
ライザーも。
グレモリー眷属たちも。
そして、リアスも。
土煙が晴れ、複数の人影が見える。
そこにいたのは紛れもない、ポートラルメンバーと一誠だった。
「どうも〜!三河屋で〜す!」
「あたしらにしか分からねぇボケかますな」
「…人、いっぱい」
「ああもう、アドはどうしてこう…」
「それが樽神名君だからだよ」
「ねぇケツパ。今すぐあのしたり顔切っていい?」
「まだ早いから待って」
「おい、お前ら。一応俺が主役なんだからな」
「……イッセー!?」
リアスが突然のその登場に驚く。
えっ?私ら無視?と呟くアドをよそにライザーが立ちはだかる。
「おい、貴様!ここをどこだと思っている!?」
それに構わず、イッセーは宣言する。
「俺はオカルト研究部の兵藤一誠!リアス・グレモリーの処女は……俺のモンだァァァァアアアア!!!」
イッセーの最低の告白が会場に響き渡った。