ハイスクール感染×少女   作:只の暇人

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第4話:聖女の罪

廃墟のホテル(ポートラル仮拠点)

 

「聞いたぞサン君。街で襲われたそうじゃないか」

 

ある程度片付いたエントランスのソファで礼音に問い詰められる太陽。

 

「すいません」

「あ、いや、別に怒っているわけじゃないんだ。………まあ無事でよかったよ」

 

礼音にぎゅっと抱きしめられる太陽。

 

「………アヤネル、見ない間に雰囲気変わった?」

 

様子を見ていたアドが思わず漏らした。

 

「うん?そうだろうか?」

 

対する礼音はキョトンとする。

 

「なんというか………サンちゃんを前にすると甘くなるっていうか………」

「………どうだろうな」

 

難しい顔のアドに対し、礼音はいたずらっぽく笑みを浮かべる。

 

(そろそろ離してほしいんだけどな…)

 

そんな中太陽は礼音の胸の中で思考にふけっていた。

 

(ってか今更だけど礼音さん柔らかいなぁ。一誠のこと悪く言えないかも)

 

礼音のおっぱいを感じながらそんなことを考えた太陽。

 

(だからずっとこのままでいよう。………決してひさぎが怖いわけじゃないぞ)

 

だからひさぎが遠くから黒いオーラを出して睨んでいるのは気のせいなのだと自分に言い聞かせるのだった。

 

「話は変わるけど最近変わった殺人事件が多いよね」

「ん?…ああ、あの話か。確かに人間が出来るものではないな」

「なんの話ですか?」

 

太陽はふたりの会話が気になって礼音のおっぱいから引き剥がす。

 

「サン君が神器を覚醒させる以前に起こっている怪奇的殺人の話だ」

「怪奇的?」

「そ、まるでオカルトが起こったみたいな死体が発見されたの。死体を苗床に花畑ができてんの」

「花畑?死体に綺麗な花を咲かせる話は聞いたことがあるけど…」

「そ、花畑。死体を覆い隠すぐらい花がびっしり」

 

太陽はその怪奇的殺人事件に眉をひそめる。

 

「どうせ花を咲かせるならここの庭を咲かせたらいいのに」

「…ノーコメントだ」

「おい!こっち手伝え!」

 

遠くから栗子の怒鳴り声でお開きとなった。

 

 

 

 

翌日

 

近くの公園のベンチで太陽は物思いにふけっていた。

その隣にはマフラーを弄りまくるひさぎがいる。

 

(ネットで調べてみたら意外に出るもんだな)

 

昨日アドが言った怪奇的殺人事件を調べた太陽。

ネットではなんと計8件もの死体が花畑事件が起きていた。

 

死体がほぼ見えないくらい色とりどりの花畑に人々は恐怖を感じずにはいられない。

 

しかし太陽は『遺体がミイラみたく養分を吸われた状態』『花畑の成長速度』が気になった。

 

植物は大量の養分を吸って美しい花を咲かせるが、たった数分で綺麗な花を咲かせるのはおかしいと思った。

 

(………なぁブラッド。植物を操る神器も存在する?)

『ん〜、ないことはないぞ』

 

ブラッドからの答えはなんだか曖昧なもの。

しかし太陽は、犯人は人間ならざるもの、もしくは神器所有者の可能性を結論付けた。

 

「………ん?あれは…」

 

ふと顔を上げると見覚えのあるふたりの人物がいた。

一誠とアーシアである。

 

「なんだか様子がおかしいな。ちょっと話してみようかひさぎ」

「はいはい分かったわよムッツリ変態」

「誰が変態だコラ」

 

やっぱ昨日の視線は気のせいではなかったか。

 

 

 

 

 

太陽とひさぎと一誠はアーシアの口から、「聖女」と祭られた彼女の末路を聞いた。

 

 

生まれてすぐに両親から捨てられた事。

教会兼孤児院で育てられた事。

八つの頃に不思議な力、神器が宿った事。

そこからカトリック教会の本部に連れて行かれ、「聖女」として担ぎ出された事。

皆が裏で自分の力を異質なものを目で見ている事。

怪我をしていた悪魔を助けた事。

それが原因で「聖女」は、今度は「魔女」と恐れられ、カトリックから捨てられた事。

誰一人、教会で自分を庇ってくれる人がいなかった事。

 

神から力を授かったと言うのに、あまりにも酷い仕打ちだった。

 

 

 

神は助けてくれなかった………

 

 

 

神への祈りと感謝を一度も忘れた事などない少女を…………神は助けてくれなかった。

 

彼女の救いは「はぐれ悪魔祓い」の組織、つまり堕天使の加護しかなかった。

 

「……きっと、私の祈りが足りなかったんです。ほら、私、抜けているところがありますから。ハンバーガーだって、1人で買えないぐらいバカな子ですから」

 

アーシアは笑いながら涙を拭った。

一誠は慰めようにも、かける言葉が見付からなかった。

 

ひさぎは興味なさそうにしている一方、太陽は怒りでギリリと拳を握る。

 

アーシアは誰よりも神に敬意を払っているのに、誰よりも救いを求めているのに………

 

太陽は神をあまり信じない人間だが、この時ばかりは神に対して怒りを隠せない。

 

ふざけるな

 

低い声音で空に向かって暴言を放ち、側に立っていた木を拳で打ち付ける。

非力な彼では逆にダメージを負うが、怒りでそんなものを忘れていた。

 

「一誠。彼女を、アーシアに何もしなかった神様に、人間だろうと悪魔だろうと………助ける事が出来るって証明しよう」

 

一誠も頷き、太陽と一緒にアーシアの手を取る。

 

「アーシア、俺が、俺達が友達になってやる。いや、もう友達だ」

 

一誠の言葉にアーシアはキョトンとしている。

 

「……どうしてですか?」

「どうしてもこうしてもあるもんか!今日一日、俺とアーシアは遊んだだろう?話しただろう?笑い合っただろう?なら、俺とアーシアは友達だ!太陽も来栖崎もアーシアの友達だ!」

「ちょっと!勝手に決めないでくれる!?」

「……それは悪魔の契約としてですか?」

「違う!俺とアーシアと太陽と来栖崎は本当の友達になるんだ!わけの分からない事は抜き!そういうのは無しだ!話したい時に話して、遊びたい時に遊んで、そうだ、買い物も今度付き合うよ!本だろうが花だろうが何度でも買いに行こう!な?」

「そうだね。友達………て呼べるかどうかわからんが知り合いにも声をかけるよ。………まぁ面白いことに付き合わされるけど」

「………………迷惑かけない程度ならなってやってもいいわ」

 

アーシアの目から涙が溢れ出る。

 

しかし、その涙は悲しみの塊ではなく―――――――喜びを表す涙だった。

 

太陽もひさぎもむず痒くなったが、一誠と共に笑う。

 

「……私と友達になってくれるんですか?」

「ああ、これからもよろしくな。アーシア」

「僕も忘れず、よろしく」

「………ふん」

 

こうして、アーシアに初めての友達が3人も出来た。

 

「それは所詮、叶わぬ願いよ」

 

しかし突如飛んでくる否定の声。

太陽とひさぎと一誠が声のした方向へ顔を向ける。

そこには黒いローブで身を包んだ男と、一誠を殺した堕天使レイナーレがいた

 

「ゆ、夕麻ちゃん……?」

「あら?あんたあの時のカラスじゃん」

「………また会ったわねマフラー女。今すぐあなたを殺したいけど大事な用があるからまた今度ね」

 

ひさぎの毒舌に青筋を浮かべるも、即座に抑え込んで侮辱交じりに喋る。

 

「ふーん。んでそこのやつは何?」

「私の名は………そうだな。観察者(ウォッチャー)と名乗ろう。そして君にこれを送ろう」

 

ウォッチャーと名乗る男が即座に隠していた銃を撃つ。

 

「…………っ!?」

 

動体視力も上がったことで軽々と避けたひさぎは一瞬、目を疑う光景を見てしまう。

 

射線上にあった木の銃痕から色とりどりの花が咲き乱れ、木がだんだんと養分を吸い取られたかのように枯れ果てていく。

 

この光景を見た太陽はあることを聞く。

 

「まさか………死体を花畑にした怪奇的殺人事件の犯人は……!」

「ふむ、賢いな。その通り。彼らは私の能力の実験台だ。実にいい花を咲かせてくれたぞ」

 

死人を侮辱するような発言に、太陽は嫌悪感をむき出しにする。

 

「どういう意味だ?」

「私は観察者。あらゆるものを観察し、実験成果をあの方に報告する義務がある。私が行うのは生命力を吸う植物がどんな反応を示すか観察するのだ」

「そのために、8人の人らを殺したのか!?」

「正確には8人とその場にいた小動物数匹だな。見た所君たちは他の人間たちと比べて栄養価が高そうだ。この吸生草がどれくらい成長するか、気になって仕方がない」

 

ローブを深くかぶっているため表情は見えないが、笑っているかもしれないウォッチャー。

事情をよく知らない一誠もこれだけは分かる。

 

「あんたイカれてるんじゃないのか!?その花を見たい為だけに人を殺して来たのか!」

「私は探求と好奇心が強い。そのために皆は私の………いや、あの方のためにその身を捧げたのだから本望であろう?」

「ふざけんな!そんな勝手な理由で殺されてたまるか!セイクリッド・ギア!」

 

一誠が叫ぶと、左手に赤い籠手が出現。

太陽も左腕に籠手を展開、ひさぎは常時持っていた木刀を構えて戦闘体勢を取る。

 

「上の方々にあなたのセイクリッド・ギアが危険だからと以前命めいを受けた訳だけれど、どうやら上の方々の見当違いだったようね」

 

レイナーレは心底おかしそうに一誠を嘲笑う。

 

「私もセイクリッド・ギアに関して多少の知識はある。そいつは確か『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』。所有者の力を一定時間、倍にするセイクリッド・ギア。しかし、その弱いセイクリッド・ギアはごくありふれた代物だ。例えるならどこでも手に入る銅の剣のようなものだ」

 

ウォッチャーは一誠のセイクリッド・ギアを見ながら感想を述べる。

 

「弱いセイクリッド・ギアって、一誠運がないね………。一度元カノに殺されているし」

「うわ〜、ばっかで〜」

「憐れみの目を向けるなーっ!ちきしょう、今は何でも良い!セイクリッド・ギア!動きやがれ!俺の力を倍にしてくれんだろう!?動いてみせろ!」

『Boost!!』

 

籠手から機械的な音声が発した。

一誠の体内に力が流れ込む。

 

「ソーンウィップ」

 

が、ウォッチャーが掌から生み出した巨大なイバラの蔓に腹部を突き刺される。

 

「ごふっ!」

「一誠!」

「君たちにはこれをプレゼントしよう。リーフカッター」

 

シュバババッ!

 

今度は掌から無数の葉っぱの刃が太陽とひさぎの体を切り裂いていく。

 

「うわあああああああ!!」

「ケツパ………キャアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

負傷した一誠に気を取られていたので、まともにくらってしまい後ろに吹っ飛ぶ。

 

「どうだね同盟者レイナーレ?協力すれば、いとも簡単に『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』が手に入る」

「ええ。アーシア。その悪魔と人間を殺されたくなかったら、私達と共に戻りなさい。あなたのセイクリッド・ギアは我々の計画に必要なのよ」

「『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』は希少価値のあるセイクリッド・ギアらしいのだ。応じないのなら、そこの少年達は死ぬ事になる」

 

一誠の傷を治すアーシアに冷酷な提示をしてくる。

一誠が喋る前にアーシアは堕天使とウォッチャーの提示を受け入れた

 

「アーシア!」

「イッセーさん。今日は一日ありがとうございました。本当に楽しかったです。太陽さん、ひさぎさん。私と友達になってくれてありがとうございました」

「待てアーシア……!」

 

アーシアはウォッチャーとレイナーレの方へ進み出す。

 

「いい子ねアーシア。それでいいのよ。問題ないわ。今日の儀式であなたの苦悩は消え去るのだから」

 

不吉極まりない単語、一誠はアーシアへ叫ぶ。

 

「アーシアさん!行っちゃダメだ!」

「アーシア!待てよ!俺達は友達だろう!」

「はい。こんな私と友達になってくれて本当にありがとうございます………さようなら」

「…ではさよならだ」

 

別れの言葉を告げられ、アーシアの手を取るウォッチャー。

そしてレイナーレ、ウォッチャーはアーシアと共に空の彼方へと消え去った。

 

あとに残されたのは黒い羽と飛び散った花びらだけだった。

 

「アーシア………ちくしょう………………ちくしょおおおおおおおおお!!!」

 

一誠は生まれて初めて自分の非力さを呪い、太陽は悔しさの末に拳を地面に叩き付けた。

 

バギャッ!!

 

大きな鈍い音が聞こえ、振り返るとひさぎが素手で木をたたき折ったようだ。

 

「………ケツパ………1秒でも早くあいつらのアジトを調べろ。一匹残らず切り捨ててやる!」

 

そういう振り返ったひさぎは憤怒の表情で『左目が赤黒く』変化していた。


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