第8話:純愛の悪魔の憂鬱
アーシアが悪魔に転生し、リアス・グレモリーの眷属となって一週間ぐらいの月日が流れた。
その間の出来事をぼくなり解釈してみる。
まずアーシアさんは住む家がなく、イッセーの家にホームステイする形で居候することになった。
勿論聖欲の塊たるイッセーを一緒にすることを彼の両親は反対していたが、リアスが「ホームステイを花嫁修行と思ってはどうか」という提案にさっきとは打って変わって号泣しながらホームステイを認めたのだ。
まぁアーシアさんは良心の塊みたいな人だからイッセー相手でもいい対応をするだろう。
次にイッセーの悪魔稼業だが、アドが「イッセー君の仕事を見学したい人手ェあげて!」みたいな感じで半ば強引にイッセーの悪魔稼業の見学をすることになった。
参加したのは僕とひさぎ、言い出しっぺのアド、なんとなく面白そうだと栗子、とりあえず付いてきたやちるちゃんの5人である。
見学早々自転車で依頼者の元へ行くイッセーにアド達は爆笑する。
あとで聞いた話だがイッセーは埃カスほどの魔力しか持ってなくて転移(いわゆるワープのようなもの)出来ないとのこと。
まぁそんなこんなで依頼者のいるマンションへ来たのだが、その依頼者がかなり独特で魔法少女を愛する漢女とかいて乙女と呼ぶミルたんさん。
服装は魔法少女。けど見た目は世紀末の覇王の彼女?に僕らは思わず絶句してしまった。
だって世紀末の覇王が魔法少女って衝撃的すぎて何いうべきかわからなかったんだよ?むしろ悲鳴をあげなかった僕を賞賛して欲しかった気分!
唯一アドだけはビビらずミルたんさんと仲良くなり、色々話していたらなんとか苦手意識は薄れて今じゃ友達になれたのはちょっと嬉しかった。格好はあれだけど…。
次に学校に関することだけど、実はアーシアが転校してきたと同時にやちるちゃんが塔城ちゃんのクラスメイトとして転校してきた。
野郎ども含め元浜はかなりハイテンションでやちるちゃんに迫るも、栗子の威圧的な視線にみんな屈してしまった。
というかやちるちゃんほとんど裸かティーシャツ一枚だから制服は新鮮な気がするな。
………まぁ本人は渋々きてるって感じだけど。
…そうそう大事なことを忘れてた。
実は僕らポートラルに新人が入ったんだ。
イッセーを殺し、僕とひさぎを殺そうとしたレイナーレ。
あの後どさくさに紛れて逃げ出そうとしたがひさぎ達にとっつかまって今やポートラルの一員(本人否定)となっている。
最初は何人も噛み付いてきたけどひさぎとアドの説得により今はおとなしくなって精一杯働いていました。
…時折ひさぎに対して引きつった顔でガタガタ震えていたのはご愛嬌である。
「太陽、ちょっと話があるんだが…」
「どうしたのイッセー?」
イッセーに呼ばれて思考の空間から出る僕。
「悪い。でも、お前にどうしても聞いて欲しい事があるんだ」
どこか真剣みを帯びたイッセーの顔。
幸い、ホームルームが始まるのにまだ三十分ほどある。それにこの部屋は滅多に人が来ない。他人には聞かれたくない話なのだろう。
「わかった。話って何?」
「ああ、実はな……」
イッセーが本題に入る前に一拍置く。
「昨日の晩、俺の部屋にリアス先輩が来たんだ」
「……え?」
「処女をもらってくれって言われた」
「………は?」
………え?こいつ何言ってるんだ?
まさか薬物でもキメて、なにか見てはいけない何かでも見てしまったのか?
それともまた記憶が混乱して、ありもしない出来事を語ったのか?頭がおかしくなりそうだった。
「イッセー、ちょっといいか?」
「ん?なんだ?」
とりあえず変なことを言い出したイッセーの頬をつねる。
「いダダダダダダダダ!!!なにふゅんふぁよ!?」
「なんだ。夢見てるんじゃないのか。………ひさぎ、なんでもいいから僕の目を覚まさせてくれ」
「………りょーかい」
ひさぎは僕の頭を掴んで、そのままコンクリートの柱に頭をぶつけ始める。
「太陽ォォォォォ!?」
「ケツパァァァァ!!死ぬ気で目を覚ませェェェェ!!」
「やめろ、来栖崎!!なんか途中から方向性がおかしくなって……って、柱にヒビがァァァァァ!!」
イッセーの言う通り、柱に放射状のヒビが走り始める。
「おい、マジでやめろ!!学校が壊れる!!というか太陽が壊れる!!」
そう言ってイッセーはひさぎを羽交い絞めにする。
………正直助かった。あと少しで永遠の夢の世界に旅立つところだった。
「お前が変なこと言うからだろうが」
「ホントキモ」
「いや嘘じゃねぇって!!マジでリアス先輩に夜這いされたんだよ!!」
確かに嘘ついてまで語る内容の話ではない。それに無いとは言え、僕はともかくひさぎもしくはアドがこのことを吹聴すれば学園中の生徒がイッセーを文字通り袋叩きにされるだろう。嘘をついてひさぎをおちょくるには高すぎるリスクだ。
「……まあ、それが真実だとして、まさか最後まで行ったのか?」
「いや、いざ本番って時にリアス先輩の実家から銀髪のメイドさんが「話がある」って現れて、おじゃん。グレイフィアさんって人だった」
「その銀髪メイドが気になるけど……その後は?」
「そのグレイフィアさんと一緒に帰っていったよ。だけど、アーシアに見つからなくて良かったぜ。錯乱するかもしれないからな」
「お前、二股がバレることを気にする男か」
そう言いながらも、太陽は考える。
リアスがイッセーに夜這いをかけた理由。
グレイフィアなる人物の要件。
そこである可能性にたどり着く。
「ひょっとしたら、グレモリー先輩ってお家騒動に関わってるとか?」
「あ、そういえば部長って、グレモリー家の次期当主とかだっけ。……ありうるな」
「この件を他に知っているのは?」
「うーん………そういえば、朱乃さんが話に同伴するって言ってたな。女王は主のそばにいるもの、とかで」
「なら、放課後に朱乃さんに聞いてみよう。いずれにしろ、何かあるのは間違いないよ」
「………んなことよりさっさと離せこの変態が!」
「理不尽っ!」
いつまでも羽交い締めしてたからイッセーはひさぎにぶっ飛ばされた。
「ん〜、よくある話だよね〜。貴族の責務みたいな」
放課後、僕らポートラル(礼音さんは実家に帰っているため不在)はグレモリー先輩から呼び出しを受け彼女らの拠点である旧校舎へ移動している。
移動中売店で買ったフライドチキンを食べながらアドが話す。
「まぁ仮にサンちゃんが貴族として、『家を守るか』『友達を取るか』と言われたらどっちにする?」
「………………」
僕には答えにくい問題だった。
貴族というものはプライドが高いという欠点があれど人の上に立つものとしての責任が重い。
一部では外との関わりが薄い連中もいる。
が、リアス・グレモリー先輩のような下々の方々や仲間を尊重する人達は性格はどうであれいい人であるほど必ず試練にぶち当たる。
それこそ『家を存続させるか』『友達とともに生きるか』だ。
小説では傲慢な貴族は前者が多く、私利私欲に肥え太るイメージが強い。
また、後者の多くは自分勝手な親を決別し友達や仲間の元へ歩むことも多い。
しかし、リアス・グレモリー先輩はどちらでもなく、悪魔ではあるが真っ当な善人貴族と言った感じだ。
だから彼女は多分家と友を両方選ぶことだろう。
………だがあいにくと僕は選ぶことに迷っている。
家(じぶん)か友達(なかま)かと言われたって僕にはそれを決断する気がなかった。
………いや、多分いう勇気がないのだろうな。
グレモリー先輩やアド達のように考えて行動するのに対し僕は言うか見るだけ。
だから僕は何もできないんだ。
ひさぎが傷ついた時も礼音さんが化け物に成りかわるところも。
そして、自殺した彼女のことも。
よくよく考えれば彼女を一度も見かけていないな。
こことは遠くで生きているのかこの世界にいないのか。
(………僕はどうすればいいのかな?甘噛)
そんなことを考えながら部室の前にたどり着き、扉を開けようとした。
グッ
「…あれ?」
「どったのサンちゃん?」
「いや、扉が…」
扉が“全く時間が止まったかのように動かない”。
試しにアドが開けてみるが何も変わらなかった。
「かった!まるで扉が『いしのなかにいる』みたいだ」
「扉死んでんじゃねぇか」
アドのボケに栗子がツッコム。
「冗談だよ。…人を呼び出しといて門前払いなんてリーアちゃんも人が悪い」
「リーア?」
「もち、リアス・グレモリーだからリーアちゃんだよ?ま、それはともかく、ヒサギン、ゴー!」
「はいはい、わかったわよ」
ひさぎはそう言って扉の前に立ち、
スパパハパッ!ガシャーン!
扉をバラバラに切った。
つーかひさぎのそれ木刀だよな?
「リーアちゃん!呼び出しといて扉閉めるなんてひどい………」
アドが怒った顔でグレモリー先輩に問い詰めようとしたら途中で止まる。
中にいたのはいつものオカルト部メンバーと、銀髪の清楚なメイド、ホスト崩れの男がいた。
「えっと、これどういう状況?」
「いやそれこっちのセリフ」
アドの漏れた言葉にイッセーがピシッとツッコム。
「…扉を壊して入るなんて貴方達は何考えてるの?」
「いやいやいや、呼び出しといて扉をがっちり閉めてる人に言われたくないよ」
「あらあら、それはごめんなさいね。こちらは大事な話がありましたからそっちにまで手が回りませんでしたわ」
平謝りする朱乃さんにジト目で睨むアド。
大事な話というと初対面の銀髪メイドさんとホスト崩れの男のことだろうか?
ふとひさぎをみると銀髪メイドさんに対して警戒と威嚇の混じった視線を向けていた。
「………あんた、この部屋にいる奴らより一番強いんでしょ?」
その言葉に僕らは銀髪メイドさんをみる。
「初対面でそこまで察知するとは驚きました。では、改めてご挨拶させて頂きます。はじめまして、私はグレモリー家に仕えるグレイフィアと申します。以後、お見知りおきを」
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」
頭を下げて挨拶するグレイフィアに対し、僕は丁寧に挨拶する。
ちらっと横を見ればひさぎは好戦的な笑みを浮かべ、アド、栗子、やちるちゃんは「銀髪メイドキターーーー!!」と謎の踊りを披露し、百喰はその三人をおとなしくさせるのに必死だ。
「おいおいリアス。この人間どもはなんだ?いきなり扉を壊して入ってくるとは、正気の沙汰じゃないな」
ホスト崩れの男が僕らを見て嘲笑していた。
「グレイフィアさん。あの男は誰ですか?」
「この方はライザー・フェニックスさま。純血の上級悪魔であり、古い家柄を持つフェニックス家のご三男であらせられます。そして、リアスお嬢様の婚約者です」
「へっ?」
婚約者と聞いて思わずグレモリー先輩をみる。
グレモリー先輩はバツが悪そうに顔を外らす。
………どうもまた厄介ごとになったようだ。