「はくかいって白い海ってことだったんですね…」
真下の青い海を見下ろして呆然とした。はるかかなた向こうにある水平線を見て、地球って大きくて丸いんだ、なんて笑えるぐらい普通のコメントしか出てこなかった。雲の上だとは聞いていても、まさか本当に、本当の本当に雲の上だなんて、心の底から信じきれてなかったものだから、この光景は本当に…衝撃的すぎた。ラキさんにとびきり天気がいい日を選んでもらえてなければ、視界が悪い日だったなら、きっと青い海すら見えなくて、私はいつまでもここが雲の上だと信じちゃいなかっただろう。脱力してへたり込んでしまいそうな足と、涙が飛び出てきそうな目を叱咤する。
「あはは……うそみたい…」
とうとう耐えきれなくなって、涙がどっと溢れ出てきてしまった。雲の上が高いからだけでなく、たぶん自分の置かれたこの非現実さに打ちのめされてだろう、歯の根が合わなくなる。
「…うそみたい」
地上に行く方法はあると教えられた。でもそんなの、無理じゃない?だってここ、空の上だ。パラシュートなんて使ったことも触ったこともない。そもそも地上に降りたとして、そこが日本だという保証なんてない。帰れない。それだけが事実だ。涙を拭おうとワイパーさんから手を離そうとすると、ワイパーさんにがっしりと両手の手首を掴まれてしまった。驚いて顔を上げると、肩越しに振り返ったワイパーさんがすごい形相と鋭い眼光で私を見下ろしていた。
「ーーー今、何をしようとした」
「え」
「この手を離して、何をしようとした!」
ワイパーさんが低い声で怒鳴った。間近だから威圧感がかなりすごい。滝のように飛び出ていた涙まで止まった。
「あの、顔を拭こうかと、思って…ぶむっ!?」
ワイパーさんに腕を勢いよく引っ張られて、顔面がワイパーさんの羽の飾りに直撃した。結構痛い。ただでさえ低い鼻が潰れてしまいそうだ。
「…戻る。捕まっていろ」
「ハイ」
不機嫌そうにそう言われてしまったら、それ以上何も言えなかった。もしかして、私が飛び降り自殺でもするとでも思ったのだろうか。それを心配して引き止めてくれたんだろうか。だとしたらワイパーさんってめっちゃ優しい人じゃん。傷心した乙女相手に気遣う言葉は出ないようだが、それでも、私が再びしっかりと腹に抱きついたことに気付いていないわけがないのに、私の腕を掴む手が離されないのは、たぶん私に気遣ってくれているからなんだろう。ビュンビュン速度を上げて走っているはずなのに、密着しているからか行きよりも全然怖くない。丸ごと否定したい白い雲の海も、見えない。見たくないものが全部視界に入らない。今は何も考えたくない。だから何も見なくてもいい、何も考えなくてもいいこの状態は、たまらなくありがたかった。
「……ワイパーさん、ありがとうございます」
「………」
また涙腺が緩くなった私の鼻声での感謝に、ワイパーさんは何も言ってはくれなかった。けれど私の両手を掴んだ熱い手に、少し痛いぐらい力が入った。