ハンターナイフ ―老いた狩人の回想―   作:はせがわ

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意味すらなく。

 

 

 例えば、一振りの大きな剣を華麗に操り、竜を討伐する英雄。

 炎の出る剣や、氷の槍や、神秘的な輝きの防具を纏う英雄。

 

 今でこそ、ありふれた存在であるそれら。村の子供達が憧れるありふれた英雄譚。

 

 しかし、自分達の時代には誰一人として、そんな物を胸に思い描く者は、居なかった。

 竜を討伐してみせよう、英雄になりたいなどと、それはもはや夢物語ですらない。

 

 何故なら、神話のように“人が竜を倒す“。そんな事が出来ると想像する人間が、そもそも存在していなかったのだから。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 おじいさんが生まれたのは、辺境の小さな村だった。

 しかし今、その村は存在しない。ある日突然モンスターの大群に襲撃を受け、おじいさんの故郷は一夜の内に壊滅した。

 

 これは特に珍しい話でもなく、同じ時期に、世界中のほぼ全ての小さな村々は壊滅した。

 巨大な竜種の姿が、世界中で一斉に観測されるようになる、少し前。

 突如として狂暴化したモンスター達により、人とモンスターの共存という理想的な関係は、唐突に終わりを告げた。

 

 力の無い村人たちは、その悉くが、抗いようもなく死んでいった。

 現在でいうポッケやココットのように、村に専属ハンターを抱えて守ってもらうという形は、確立していなかった時代だ。

 そもそも狩人を3人4人と抱えていたとしても、モンスターの襲撃から村を守る事など、出来ようはずもない。

 一対一でランポスに立ち向かい、勝てるかどうか――――

 それがこの時代のハンターという存在であり、モンスターとの力関係であった。

 

 幸運にも生き延びる事が出来た者達が、城壁に囲まれた大きな国へと移り住んでいった。若き日のおじいさんもその一人だ。

 だが、そうやって逃げてきた者達に、職と市民権などはあろうハズもなく、国内は移民と浮浪者で溢れかえった。

 

 移民達が日々の糧を得る為には、老若男女を問わず、ハンターとなるしか無かった。

 命を危険に晒す、誰もやりたがらない、そんな職につく以外ない。

 国の発注する数多の“クエスト“を受注し、命を削りながら、生きていく為のはした金を得るのだ。

 

「そうする事でしか、生きられなんだ時代じゃ。

 家族共々飢えて死ぬか、ハンターとなってモンスに食い殺されるか。

 その二つしか、道はなかったのじゃから」

 

 当時のクエストという物は、今のように四人一組ではなく、主に何十人という単位でこなす、大規模な物ばかりだった。

 その内容も「どこどこの地域にいるモンスター共を殲滅せよ」といった、軍隊における“作戦”に近い。当然ながら依頼主も個人ではなく、そのほとんどが国によって依頼された物。

 ご丁寧なことに、クエストを統括する指揮官までいる場合もあるのだから、その在り方は狩人というよりも、傭兵に近い物だった。

 

「国はモンスターの脅威から身を守る為、そして増えすぎた人口の間引き(・・・)の為に、次々とクエストを出していった。

 依頼をこなし続け、もし生き残り手柄を立てる事が出来れば、優秀なハンターだとして市民権を得る事も出来る。……そんな餌もぶら下げての」

 

 兵士とは違い、ハンターが得るのは僅かな金銭だけ。何の保証もない。

 怪我をしようと遭難をしようと、救援は来ない。死亡しても死体は回収されないし、ご丁寧に遺品を家族へ渡してくれるなんて事も、ありはしない。

 たとえ、その大規模なパーティが全滅の目に合おうと、あるのはただ“クエスト未達成“という結果のみ。

 なにかしらの書類に、そう文字が刻まれるだけだ。

 

 

「身分に拘束されておらん分、責任という物がないのは気が楽じゃったがの。

 国の命令で動いとる兵士とは違い、こちとら金銭で繋がっただけの雇われじゃ。

 敵わんと思ったら最悪そこから逃げる事も出来る。ただ金が貰えんというだけじゃ」

 

「ただ、周りの仲間を見捨てて逃げ出し、モンスターがウジャウジャいる見ず知らずの土地で、ひとり生きて帰る事が出来れば、の話じゃがの」

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 若い頃のおじいさんは、数多くのクエストに参加した。

 それはもう、数えきれない程なのだが、全てに記録が残っているワケじゃないし、とてもじゃないが全部は憶えてはいない。

 

 怪我を作っては治し、クエストに出掛ける。

 また怪我をして帰っては、治してまたクエストに出掛ける。

 ベッドと戦場を往復する日々。それはおじいさんが最後の狩場で片腕を無くしてしまう日まで、何年も続いた。

 

「片腕を失うたとはいえ、こうして生きておれたというのは……いったい何が違ったんかの?

 狩場で死んだ連中と、こうして生き永らえておるワシ。

 どこがどう違ったのかは、どれだけ考えようとも、未だにわからんよ」

 

 少なくとも、運だけは強かったんじゃろうけどな。今こうしてひ孫の顔まで見れておるんじゃから。

 このお話をし始めてから、初めておじいさんが、屈託なく笑った。

 

「ただ……運が悪いというだけでは、とてもじゃないが言い表せん程に、バタバタと死んでいった。

 狩り場で死んだ者もいたが、それ以外で死んでいった者達も、沢山いたんじゃよ?」

 

 男の子は、どこか理解しきれていない顔で、キョトンと首を傾げる。

 モンスターと戦う以外の事で死ぬ。

 それは、ハンターになる事を夢見る少年にとって、想像すらしていない事だった。

 

 

「意外かもしれんが、そういう者達も多かった。

 人類を、国を、家族を、モンスターの脅威から守る為に、戦って死ぬ。

 剣を突き立て、仲間をかばい、勇猛果敢に華々しく死ぬ。

 そういった連中も、おるにはおったんじゃろうが……あまり記憶にない」

 

「ワシが憶えておるのは、ランポスのようなありふれた鳥竜種に喰われて死ぬか、

 もしくは戦う事なく死んでいく、そんなハンター達じゃよ」

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 クエストを受注し、戦場へ向かう時。

 まず一番最初に危惧すべき事は、【無事に狩場へたどり着けるかどうか】であった。

 

 

 人類がモンスターの驚異にさらされ、否が応なく戦いの道へと進んでいった当初。

 狩人たちを狩場へと運ぶという、その行為そのものが、非常に危険を伴う物だった。

 

 目的地が近場であれば、馬車を使って隊列を組み、比較的安全に狩場へと届ける事が出来よう。

 まぁ自分達のような身分の者に、馬車なんて大層な物を用意してもらえるなら……の話ではあるが。

 大抵の場合、おじいさん達は鳥竜種や肉食獣たちの襲撃に怯えながら、身を寄せ合うようにしてビクビクと、狩場まで歩いたものだ。

 その道中で、何人もの仲間を食われながら進んだ。

 

 そして、目指すべきモンスターの生息地や、向かうべき狩場までの道のりは、なにも陸路ばかりではない。時には船に乗り、海を越えて行かねばならなかった。

 

 何十という狩人をすし詰めに乗せ、何隻もの船が隊列を組んで、海を渡る。

 それでも無事に狩場へとたどり着ける確率は、決して高い物では無かった。

 海竜に代表される、巨大な海のモンスターたち――――

 海を行く船団は、頻繁にその襲撃に見舞われた。

 

 大きいばかりで、ろくに当たりもしない大砲を使い、必死に応戦する船員たち。まるでそれをあざ笑うかのように、ガノトトスが船底に穴を開ける。

 体当たりで、噛みつきで、時には水のブレスで船を真っ二つに割って。

 そして乗っていた何十という狩人と船員達は、海に投げ出され、全滅した。

 

 敵から襲撃を受けている状況下では、海に落ちた者達の救助など、望むべくもない。

 ただひたすらに帆を広げ、モンスターを振り切る事しか出来ない。

 次々とガノトトス、そしてサメの餌食となっていく狩人たち。それを見ない様にしながら、あるいはそれが自分でなかった幸運に感謝をしながら、生き残った船団はただひたすらに目的地へと進んでいく。

 

 ある時は、6隻あった船の内、その半分しか目的地へとたどり着けなかった。

 クエストを終えた帰りに襲撃を受け、そのまま全滅してしまった船団もあった。

 

 例えば、今の時代に狩場に赴けば、ひとつのエリアでみかける鳥竜種の数は、多くて数匹ほどだろう。

 しかし、人類と竜種の戦いが始まった当初である、この時代には、それこそ“無限湧き“と称されるエリアの存在すらも、数多く確認された。

 今とは比較にならない程、狩場で遭遇する個体数が多かったのだ。

 それは陸地だけの話ではなく、海に生息するモンスター達も、またしかり。

 

 狩人を無事に狩場へと送り届ける事、それ自体が困難とされる時代。

 ゆえに数をこそ頼りにし、大量の人員を雇ったとしても、依頼主にとっては大した問題とはならなかった。

 結局の所、クエストを達成して無事に生きて戻ってくる者の数など、たかが知れている。

 ゆえに、依頼さえ達成さえしてくれるのならば、支払う報酬に大差などないのだ。

 

 そもそもの話、依頼したクエストが無事に達成される確率など、元々がそう高いとは言えない物だったのだから。

 

 

「海に投げ出され、必死にこちらの船へとしがみついている者達。

 そこにサメの魚群が近づいてきて、一斉に食い散らかしていった」

 

「たとえサメが来ずとも、船に乗れる人員には、限度という物がある。

 船が沈む事もあれば、速度が落ちて敵に追いつかれる危険性もある。

 何より、人間が沢山へばりついとる事で、『トトスがこちらに向かってくるんじゃないか』と、みな心配をした」

 

「そして船に乗っとる者達は、必死に船体にへばり付いとる連中を武器や棒で殴り、船から引き剥がそうとしだすんじゃ。

 顔が血まみれになるまでしがみついていた連中も、やがて皆、海へと叩き返されて、水底に沈んでいった」

 

「果たして連中を殺したのは、モンスターだったのか、ワシらだったのか。

 しかし……ワシらの胸にあったのは、ただただ『あの巨大なモンスターから、逃げのびる事が出来た』という、安堵の想いだけ。

 あの圧倒的な存在を前にしては、ワシらが思うのは、ただそれだけじゃった」 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 無事に狩場へと辿り着いた、その後。

 もちろんモンスターと戦って死んでいくハンター達の数は、とても多かった。

 しかしおじいさんが思う、同じくらい多かった死因――――それは“自害”であったという。

 

「狩場では、様々な理由で、自害に追い込まれる者達がいた。

 皆たいていは、このハンターナイフで首を搔き切って死んだ。

 しかし、自害したヤツが思う事など、みな同じじゃよ。

 ようは『モンスターに喰われるよりは』と、自らの手で死んでいきよった」

 

 一番多いのは、狩りの途中で仲間とはぐれてしまった者。

 モンスター達の住処であるこの地で、仲間とはぐれるという事は、すなわち死を意味する。

 人間が存在する事を、決して許さない――――ここはそういう世界なのだ。

 

 ある者は、モンスターから逃げまどう内に仲間とはぐれ、キャンプ地へ帰る事も出来なくなり、人知れず自ら命を絶った。

 岩の陰や、木の陰に隠れ、匂いを嗅ぎつけたモンスターがやってくる前に、己の首を切り裂くのだ。

 

 またある者は、怪我をして歩けなくなり、仲間に置いて行かれた後、自害をした。

 狩場にあって、自分の足で歩けなくなる。それはそのまま死を意味する。

 モンスターの住処。鳥竜種で溢れ返る土地・そんないつ戦闘になるかわからない状況では、怪我人を救助する余裕などない。

 たとえ運よく救助されたとしても、そこをモンスターに出くわした時点で終わりだ。戦う為にと地面に放置され、そこを敵に群がられて、喰われて死ぬ。

 

 ゆえに歩けなくなった者は、皆そうなる前に自ら首を搔き切って、死んでいった。

 

 

 ハンターは皆、モンスターに【生きたまま喰われる】というのがどんな事かを、熟知している。

 言葉も分からぬモンスターに対して、必死に許しを請い、恐怖で股から尿を垂れ流し、そして断末魔の声を上げながら、ジワジワと身体を喰われて死んでいく。

 運よく首を狙って貰えたら、幸運だ。しかしランポスなどのモンスターは食欲旺盛で、まずは美味しそうな()や、肉のたくさん付いている脚などに食らい付く。獲物の息の根を止めてやる慈悲など、彼らには無いのだから。

 そんな光景を、自分達は嫌というほど、狩場で見てきた。

 

 おじいさんは一度、仲間のハンターが重症を負った所をモンスターに組み付かれ、そのまま巣へと連れ去られていったのを見た事がある。

 後にモンスターの巣へ一行がたどり着いた時、そこにあったのは無残な状態となった仲間の姿だった。

 身体は至る所が欠損し、四肢も大半が無くなり、それでも殺してもらえずに、生かされた状態のまま胸から下までを地面に埋められていた。

 

 後で喰うつもりだったのか、それとも幼い子供達の為の餌だったのか。敵の生態など自分達にはわからない。

 弔ってやる余裕もなく、焼いてやる事も出来ず、ただ機械的に息の根だけを刃で止めてやってから、その場を後にした。

 

 

 その他で自害の原因としてかなり多いのが、一行が時間内にクエストを達成する事が出来ず、そのままタイムアップしてしまった時だ。

 予定されていた時刻までにキャンプ地へと帰る事が出来ず、帰りの足が無くなってしまった場合にも、全員死ぬ事となる。

 

 クエストの制限時間と定められた時刻は、絶対だ。

 その10分後には、ハンター達は何が何でも、自分達が乗って来た船なり馬車なりの元へと、たどり着いていなければならない。

 船や馬車は、決してハンター達を待つ事なく、時間通りに出発する。例え遠くにハンターの姿が確認出来ていようとも、時間となったら問答無用で出発する。

 

 死んだものとみなされる、救出や連絡をする術などが無い事が、まずひとつ。

 だが一番の理由は、【動かず留まっている】という事自体が、大変な危険を伴う事だからだ。

 

 無事にクエストを達成してきたとしても、乗って来た馬車や船が、既にモンスターの襲撃によって破壊されおり、帰る事が出来なくなった者達は、泣き喚きながら全員自害する羽目となった。

 そんな事例は、枚挙にいとまが無い。

 

 

「当時は今みたいに、正式なギルドも無かったからの。

 国や依頼主が、それぞれ自分の裁量にとって、護衛や人員輸送の手配をしていたのさ」

 

「依頼主が金をケチれば、狩場に辿り着く事も、ハンター達を家に帰す事も出来なくなった。

 サポート体制の確立など、まだ望むべくも無い時代だったのさ」

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 人間の命は軽く、瞬く間に人の命が消えていく。

 そんな塵芥のような存在だった事を、証明するかのように、おじいさんのお話は途切れる事なく、続いていく。

 

「次に多かったのは、モンスターのもとに“たどり着く前に”死んでいった者達じゃ。

 決して、巨大な竜や猛獣達に殺されていったワケではない。

 人を寄せ付けぬ自然。命という物を許さぬ大地。

 そういう物に、次々とワシらは殺されていった」

 

 未開の森。ジャングル。孤島。断崖の絶壁。

 そこは人が住む事どころか、生きる事すらも許さない。

 

「当時は、飛竜観測所などは無かったからの。

 ただ『その地域に居たらしい』という情報だけを頼りに、ろくなアテもないまま、狩場を彷徨い歩いた。

 山を登り、川を渡り、時に木々の中を泳ぐようにして進んだ。

 そうして、標的となるモンスターの所にたどり着く頃には、元々の人数の半分ほどが脱落、というのも珍しくない事じゃった」

 

 川を渡ろうとし、激流に流されて溺死した者。

 足を滑らせ、断崖絶壁を落下していく者。

 沼に足を取られ、這い上がる事が出来ずに、そのまま沈んでいった者。

 立ち寄った先で湧き水を飲み、それが原因で死んだ者。

 水辺に近づいた途端、一瞬にしてモンスターに水中へ引きずり込まれていった者。

 ジャングルの巨大な虫に刺され、発熱し、うわ言を言いながら死んでいった者。

 

 溺死、落下死、病死、毒死、出血死、獣害、遭難――――

 ありとあらゆる“死の影”が、狩場にはあった。

 

 貧弱な装備とはいえ、それなりの重さがある武具とポーチ。そんな物を持って未踏の自然を踏破していくのは、並大抵の事ではない。

 唯一の武器であるハンターナイフを手放す事の出来ぬまま、溺死していった者が沢山いる。

 また山や川で剣を手放してしまい、後になすすべなくモンスターに喰われていった者達も、沢山いる。

 

「ワシが一番恐ろしかったのは、あの虫じゃな。

 “ランゴスタ”と名付けられた、巨大な虫じゃったが、あれに刺された者は十中八九は死ぬ」

 

「毒針でショック死するか、はたまた動けなくなった所を、モンスターに食い散らかされるのか。それは分からんよ。

 じゃが、あれに刺されて無事でおれた者を、ワシは一人も知らん。

 特に、直接“頭“を刺されてしもうた者達はな」

 

「……そんな憎い虫でさえ、このハンターナイフでは、4度斬っても倒す事が出来ん。

 例え危険であろうとも、その場から逃げるか、放っておくかしかなかった。

 そんな物がブンブン羽音をたて、もうそこらじゅうに飛んでおるんじゃ」

 

 

 自然の全てが、自分達に牙を剥いた。

 そして死んでいった仲間の遺体は、全てランポスやブルファンゴといったモンスター達が、瞬く間に“処理”をしていった。

 死んでいようと、まだ息があろうと、一度地面に倒れた者は、その悉くを彼らが処理してくれた。

 

 この世界は人間が生きていける場所ではない。人が居るべき所ではないと、思い知らされた。

 今でも自分達古いハンター達の間で、あの通称森丘という狩場はこう呼ばれている。

 

 “命を吸い取る森”――――と。

 

 

 少し地面を掘るなり、探すなりすれば、当時自分の仲間だった者達の骨が、いくらでも見つかる事だろう。

 

 あの場所はまさに、そういう場所だった。

 人間が存在する事を、決して許さない。そんな世界であったのだ。

 

 

 

 

 自分達の大部分は、勇猛果敢に戦って死んでいったのではない。

 時に無知で。稚拙さで。そして湯水のごとく命を軽視する国や依頼主の意思(・・・・・・・・)によってこそ、自分達は殺されていったのだ。

 

 そこには何の意味もなく、なんの意義もない――――

 何を成す事もなく、ただただ大量の命が狩場へと送り込まれ、そして意味もなく死んでいった。

 

 

 そういう者達の名を“ハンター”という。

 

 まだ若者であった、自分達の時代――――

 ハンターとはまさに、塵芥と同義であったのだ。

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 そんな自分達が、初めて大型の竜種と対峙したのは、ハンターとなって数か月ほどした時だった。

 

 

「初めて大型のモンスターと対峙した時は、そりゃあ膝が震えたよ。

 でもちょっとの間でも動けなくなれば、たちまち自分達はミンチにされちまう。 

 大声を上げながら、しょんべんを漏らしながら……、それでも必死にかかっていった」

 

「とにかく生き延びたきゃあ、このデカいヤツを殺すしかない。

 家族の顔も、自分の家も、そんな事を想い浮かべる余裕なんてない。

 大の男も女も、みんな獣みたいに声をあげながら、一斉に飛びかかっていくんだ」

 

 

 自分達は、英雄などではない。

 自分より小さな鳥竜種にも、羽虫にすら勝つ事の出来ない、ただの人間だ。

 

 それでも竜という存在は、決して自分達を待ってはくれなかった。

 超人的な英雄も、神秘的な武具も、満足な回復薬すらまだなかった、自分達の時代。

 

 

 “ハンターナイフ”

 

 自分達はこのなまくらを、いつだって必死に握りしめていた。

 

 このか弱く、脆弱な武器。

 まるでこれが、自分達の存在そのものに思えた。

 

 

 

 


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