一話【トールズ士官学院】
-1204年、三月三十一日 初春-
エレボニア帝国郊外に在る小都市トリスタ。
その北部に位置するトールズ士官学院では新入生達によるオリエンテーリングが行われていた。
真紅の制服に身を包んだ十名の少年少女達。
彼らは魔獣が徘徊する旧校舎地下迷宮を協力しながら進む。
多少の対立やハプニングは有ったもの無事に迷宮入り口まで到着。
訓練教官のサラに迎えられオリエンテーリングは終了となった。
先ずはこのオリエンテーリングの意図が説明される。
開始の際に渡された戦術オーブメント【ARCUS】
結晶回路クオーツを装着することで導力魔法アーツを使えるという装置だ。
従来の物とは異なり通信機能の他に、目玉ともいうべき戦術リンクと呼ばれる機能が搭載された最新式だ。
『戦術リンク』
ARCSの所持者の心を繋げる事で高い連携能力を発揮させる事の出来るものだ。
試作段階という事から、【ARCUS】は個人の適正に差が激しく、特に高い適正数値を出した十人が選ばれたとの事だった。
そしてサラによる生徒たちへの最終確認。
「やる気のないものはⅦ組への参加を拒否できるわ。今なら初日だし通常のクラスへ行っても馴染めると思う」
「アリオリハヴェリ・イマソガーリ、特科クラス«Ⅶ»組への参加を拒否します」
黒髪の少年が前に出て宣言した。
サラが言葉を終えて一秒も間を置かずに直ぐにだ。
真紅の制服が全くといって良いほど似合っていない少年。
この中の少年少女たちは皆揃って見目麗しいというのに一人だけ浮いた容姿。
この少年だけは間違いなく『並』と言っても良い。
口元の締りの無さが更に輪をかけていた。名前同様に。
そして身に纏った真紅の制服姿は、現代日本人の出来の悪いコスプレ姿に見える。
見た目が日本人の少年がコスプレしているのだ。痛すぎる…。
いろいろな意味で残念な少年だった。
「そうか…、残念だな。アリハのお陰でここまで助かったんだけど…」
同じく黒髪の男子が残念そうに言った。
アリオリハヴェリ…長いので今後はこの男子に習ってアリハで。
アリハとは違って凛々しい表情の少年だ。
「リィン…。そう言ってくれるのは有難いけど」
「ボクも…、最後のガーゴイルを倒したのもアリハだしね」
赤毛の可愛らしい少年も寂しそうに肩を落とした。
「はいはい。参加しないにしても同じ一年。すぐに会えるわよ!それで他に辞退するものは居ないのかしら?」
サラ教官は先を促すように手を叩いた。
「リィン・シュヴァルツァー。特科クラス«Ⅶ»組へ参加します」
この言葉を皮切りに次々と他の者達も参加を表明。
アリハを除いた他九名がサラ教官の前に立ち並んだ。
「それではこの時より特科クラス«Ⅶ»組の発足を宣言するわ」
そうして特科クラス«Ⅶ組»の発足が成された。
そして一人残された少年は続いて説明されている脇でいそいそと真紅の制服を脱いでいた。
「…戦術リンクか。確かに急場の隊が手っ取り早く連携を組むには有効だけど…、それでも遊撃士達の連携能力に比べればなぁ…」
アリハは知っていた。
確かにARCUSの戦術リンクは素晴らしいが、あくまでも装置に頼った急場の物に過ぎないことを。
そして自分の知る真の連携の前には急場の戦術リンクでは及ばないという事も。
アリハはそっとARCUSと真紅の制服を置くと、皆に気付かれないように旧校舎を後にした。
途中、学院長と何処かで見た事のある金髪美形を見たが気にしないことにした。
あちら様もⅦ組発足に夢中で空気を読まずに一人抜けたヌケサクには用が無いみたいだ。
一人だけ容姿が並で涙し…。
アリハはワイワイキャッキャな声を背中に受けながら一人寂しく寮への帰路についたのだった。
「とまぁ、そんな事があったのだよ」
「…駄目じゃん」
次の日、アリハは平民という事でⅣ組に割り当てられていた。
教官はまだ来ていない朝のHR前の時間。
クラスの皆はそれぞれ親交を暖めていた。
アリハはというと、幼なじみの少年アランと向かい合って駄弁っていた。
初日、真紅の制服でやって来た幼なじみが次の日には緑の制服で登校。
話題になりオリエンテーリングの経緯を話していたのだ。
そしてアランの駄目だし。
「なんでだ?せっかくその適正って奴に選ばれたんだろ?」
「いやサラ教官が言ってたんだけどさ、他のクラスよりも色々とハードみたいだし」
「あぁ、お前って面倒くさがりだからな…」
「それにさ…」
「何だよ」
アランは肩を落として机に突っ伏したアリハの顔を覗き込むように先を促した。
アリハは直ぐに勢い良くガバっと顔を起こした。
「アイツら、アイツら全員美形なんだよっ!!!」
「…へ?」
「何だよ!あのイケメン率。女子皆は可愛すぎるし好みだしっ!」
「あ、ああ…、わかった。わかったから…」
アランが理解したように呆れ顔で椅子にもたれる。
「分かってねぇっ!その中で俺だけが並だぞ!耐えられるかっ!」
アリハは尚も捲し立てる。
「右を見れば男の娘!左を見れば凛々しい美形っ!後ろを見れば金髪美形っ!斜めには褐色の長身美形っ!更にその先にはメガネ系美男子っ!何でその中に普通の俺を放り込んでんだよっ!理解できんわっ!」
いやマジで。
クラスメイトから視線が集中する中構わず叫ぶ少年に幼なじみの少年は苦笑する。
何で俺、コイツと友達やってんだろう…。
「ところでアラン」
「何だよ」
「部活は決めたか?」
「あぁ…、とりあえず入学式の時、先輩にフェンシングに勧誘されてさ、見に行ってみようかと」
「へぇ…面白そうだ。俺も一緒に行こうかな」
「お前が?けどお前、同好会を作るって言ってなかったか?」
「いやまぁ…、そうなんだけどさ。実は調べてみたんだけど場所がないんだよなぁ…それでさ」
「お前まさか…」
アリハの何かを企むような表情にアランは顔を青くした。
アランは知っていた。
この表情をした時のアリハの行動は碌なものじゃない事を…。
『もう一人の幼馴染』共々どれほど頭を痛めたことか分からない。
「アリハ…、くれぐれも無茶なことは…ここには貴族生徒もいるし…」
「ん?それが?」
アリハの言葉に今度はアランが突っ伏した。
「頼もうっ!!!」
放課後。アリハは練武館であるギムナジウムの扉を勢い良く開く。
奥にはプールもあり、女子の水着姿への誘惑も駆られたが踏みとどまってフェンシング部が使っている練武場へ入る。
「あら?」
出迎えたのは白い制服に身を包んだ金髪の女子生徒だった。
『制服の色』から貴族生徒という事が分かる。
奥には緑色の制服を着た強面の男子の姿も有った。
手にはレイピアが握られており、真剣な表情で練習している。
男子は此方を一瞥して言った。
「入部希望者か?」
「は、はい」
アランは姿勢を正して自己紹介する。
「ふぅん…、それで君は?元気よく入って来たけど」
アリハはコホンと咳払いをすると声を高らかにして叫んだ。
「アリオリハヴェリ・イマソガーリ、今日よりここにセクシーコマンドー部を設立するっ!よってこの場を明け渡していただきたいっ!」
「何だと?」
「は、はああああああああっ!!?」
とんでも無く阿呆な発言を高々とした、それでいてハツラツとした音量で叫ぶ幼馴染を横目にアランは唖然とするしかなかった。
分っている事は一つだけ。
入学早々、入ろうとした部活動を幼馴染のお馬鹿な行動で台無しにされそうになっている。
いや間違いなく台無しにされる。自分には抗う術はない。
それだけだった。
しかしそれでも無駄な抵抗を試みる。
「お、おい止せ!そんないきなり…、先輩方に失礼だろっ!それに何だよ!セクシーコマンドー部ってっ!」
敵意を向けて睨む男子と目を合わせないようにアランはアリハに詰め寄った。
「けどさ、やりたい部活動は存在しない。しかも場所がない。だったら何処か適当な部と交渉して場を奪うしか無いだろ?」
「交渉するのに何で奪うっ!?」
「因みにセクシーコマンドーとは最強の格闘技のことだ」
「聞いたことねぇよっ!大体お前の馬鹿力と器用さなら何やっても一緒だ!」
「照れるじゃん」
「褒めてねぇ!」
「アハハ!面白いわねぇ…」
金髪の貴族女子が笑いながら近づいてくる。
「いやいやそれ程でも」
「私はフリーデル。この部の部長を務めているわ…。えっと」
「呼びにくいならアリハでいっす」
「分かったわ。それでだけど」
次の瞬間フリーデル部長の姿がブレた。
彼女は一足飛びでアリハとの間合いを詰めレイピアをアリハの眼前に突きつけた。
「へぇ?どうして避けないの?」
「止める攻撃を避ける必要が?」
「フフ、どうやら口先だけじゃないわね。少し興味が出てきたわ」
「へぇオレに興味が?」
「ううん。君が最強の格闘技と豪語するセクシーコマンドーとやらにね」
「おい!フリーデル」
「あら何かしら?ロギンス君?」
「何をまともに相手をしている!こんな奴ら」
「まぁ良いじゃない。それに私のやり方は知っているでしょ?」
フリーデルの言葉にロギンスは押し黙った。
ロギンスは知っていた。
フリーデルは普段は温厚だが、とてつもない実力者だということを。
そして真の恐ろしさも。
ロギンスとアランはふと目が合った。
そして何方ともなく笑いあった。どうやら気が合ったようだ。
「それじゃあ始めるわよ?用意はいい?」
「はい。ルールは実戦形式で」
「ええ。降参したり気絶したりした方の負けで」
「期待してますよ」
フリーデルはレイピアを持ち直すと微笑を浮かべる。
「それで?私が勝ったら?」
「その時は好きにしても良いですよ」
「じゃあ私がフェンシング部で一から鍛え直してあげるわ」
「じゃあオレが勝ったらフェンシング部はセクシーコマンドー部に。この部の皆はセクシーコマンドー部の部員としてオレと一緒に頑張りましょう」
「良いわよ。私に勝てたらね」
「お、おい!フリーデル!」
フリーデルは切っ先をアリハへと向けた。
「ふふ…心配要らないわロギンス君、で何時始める?」
「もう始まってますよ先輩」
アリハの言葉と同時にフリーデルの剣閃が奔った。
「どうやらお互いに苦労してるみたいだな」
「先輩…はい。オレがどれだけ頭を悩まされたか…」
「けど…アイツ、かなり出来るんだろ?」
「……はい。非常に残念ながら」
「フリーデルのやつが汗を流す所を見るなんて初めてだからな」
「…アイツ、武術の…、武術の腕だけは非常識ですから…」
「そうか…天才ってやつか。それにしてもセクシーコマンドーとは一体?泰斗流なら有名だが」
「多分いつものです」
「は?何だ」
「テキトーに言ってるだけです。そんな武術は存在しません。セクシーコマンドーなんて聞くからに怪しい武術なんて在るわけ無いじゃないですか」
アランのげんなりとした表情にロギンスは気の抜けた声を上げる。
「いつもそうなんですよ。突拍子もない事を初めて周りを掻き回して…、でも大丈夫です。飽きっぽいので直ぐに元のフェンシング部に戻ると思いますので安心して下さい」
「そりゃアレか?フリーデルのやつが負けて此処がその、訳の分からんセクシーコマンドー部とやらになるってことか?」
「はい。遺憾ながら」
「ば、バカを言うな…、あんな一年如きにフリーデルが…っ!?」
何時の間にか始まっていた試合にロギンスは目を向けて息を呑んだ。
あのフリーデルが膝を付いて肩を落としていたのだった。
アランは諦めた声で言った。
「敵う訳ありません。アイツは…、アリハは既に武の理に至った拳聖ですから…」
そしてその力を悪戯に使う快楽主義者。
それがこの世界で生まれた転生者。
そしてエレボニア帝国の武術界において達人にすら一目置かれた少年拳士。
知る人ぞ知る武の達人。
誰が付けたのか『大地の拳聖』の二つ名を持つアリオリハヴェリ・イマソガーリなのだから…。
続く?
次回予告。
トールズ士官学院に入学を果たしたアリハ。
彼は幼馴染のアランと共にフェンシング部を訪れる。
そして始まるフェンシング部長とのバトル?
次回『セクシーコマンドー部』にご期待ください。
おまけ
アリオリハヴェリ
LV135
【HP】65020/65020
【EP】0/0
【CP】200/200
【STR】2030
【DEF】3500
【ATS】522
【ADF】1203
【SPD】187
【DEX】78 命中率+0%
【AGL】52 回避率+70%
【MOV】20
【RNG】1
ATTACK Rank
【斬】S【突】S【射】S【剛】S
CRAFT
【C】気合
補助:自己 STR+50% DEF+50% SPD+50%
【C】気合防御
補助:自己 一度だけ完全物理防御と完全魔法防御
【C】ナイアガラバスター
攻撃:威力A+ 単体 駆動解除 遅延+70%
【C】練気拳
攻撃:威力A 円LL 地点指定 吸引 気絶50%
【C】タイガーブレイク
攻撃:威力SS 単体 即死50% 遅延50% 駆動解除50%
【S】龍神烈火拳
攻撃:威力SSS 単体
竜の闘気を纏っての怒涛の連続攻撃。止めの回し蹴りと同時に竜気を解き放つ。
【S】DSC
攻撃:威力SSS+ 単体
スライディング、スープレクス、ジャイアントスウィング、バベルクランブルと流れるようにプロレス技を繋ぐ。
EQUIP
【WEAPON】無し
【ARMOR】レザーガード
【SHOES】レザーシューズ
【ACCESSORIES】無し
アリオリハヴェリ・イマソガーリ
1年Ⅳ組【セクシーコマンドー部(仮)】
並な容姿を気にしている一年生。
いつも面白いことを探しているが面倒くさいことは苦手。
大地の拳聖
転生特典による才能(レベル補正による獲得EXPの減少なし+EXP100倍)によって最年少で理に至った達人。その拳は大地を砕き蹴りは海を割る。
character NOTEより。
チートだけどマッタリ行きます。
そして時に激しく関わるかもしれません。