第三話『生徒会』
セクシーコマンドー部の設立から三日が過ぎた。
早朝4時。アリハは爽やかな朝日によって目を覚ました。
大きく伸びをすると、手早く身支度を整えて寮を後にする。
アリハはまだ誰も居ない校庭を歩き、グラウンドまで移動する。
辺りに人影も気配もない。
アリハは上着を木の枝に掛けると、袖をまくり上げた。
「すぅ……、呼ォォッ!!!」
アリハは息吹によって新鮮な酸素を取り入れる。
そして自身の動作を一つ一つ丁寧に確認しながら技を繰り出す。
正拳、肘打ち、手刀、前蹴り、回し蹴り。
勿論目の前に敵がいると想定することも忘れない。
何時もお馬鹿なこの男。
しかし武術に賭ける気持ちは本物で、鍛錬は欠かしたことはない。
というのは嘘で、単純に武術が面白いだけだ。
「やっぱりチートだよな…、この転生特典にして正解だったわ」
アリハは約1時間ほどの時間を掛けて一通り技を繰り出すと汗を拭った。
前世では有り得ない身体能力。
思った通りに自分の肉体を動かせる感動は他の何物にも勝る。
イメージ通りに自分の身体が動く。
それは凄まじいほどの快感と爽快感をアリハに齎していた。
しかも鍛えれば鍛えた分だけ上達する。その実感が凄まじいほどに。
アリハが武術にのめり込むのも無理はないだろう。
アリオリハヴェリ・イマソガーリは一日足りとも鍛錬を怠った事は無いのだ。
4月18日、放課後-
授業が終わり、アリハは何時もどおりにギムナジウムへと訪れた。
フリーデル達は既に集まっており、相変わらずドンヨリとした空気を纏っていた。
パトリックは初日以来来ることはなくなった。
所謂、幽霊部員というやつだった。
何でも四大名門のハイアームズ侯爵家の男子として、セクシーコマンドーなる部活動など断じて参加する訳にはいかないのだとか。
人間プライドが絡むと碌な事がないと言うのに…、これはアリハの言葉。
そして今日もセクシーコマンドー部は活動を開始する。
フリーデル元部長は、もう諦めた様な暗い表情で付け髭を装着している。
「失礼します」
そこへやって来た一人の男子生徒。
真紅の制服に身を包んだその姿は今年発足された特科クラス«Ⅶ»組の生徒の証だ。
リィン・シュヴァルツァー。凛々しい顔立ちの好青年だ。
「おや?また新入部員か?」
ロギンスが額に肉と書かれた顔でリィンを見る。
その憂いを帯びた表情にリィンの表情が固まった。
な、なんだこの人は?額に何か書いてある。
アレは東方の文字、確か『漢字』とかいう…。
しかし何故こんな事を?
だが、それよりもリィンが此処に来たのには目的があった。
すぐに思考を切り替える。
「いえ。俺は新入部員では有りません」
「じゃあ見学か?」
「あ…、アリハ…」
「よう、旧校舎での一件以来だな」
「そうだな。それよりも」
「あん?」
「この状況を説明してくれないか?」
「状況?見ての通り部活動だけど?」
「ここはフェンシング部の筈だけど…」
「ああ、ちょっと前まではな。今は我がセクシーコマンドー部だ」
「生徒会に申請、許可は?」
「いいや」
「アリハ。俺が此処に来たのはその生徒会からの依頼というか手伝いで来たんだ」
「ほ、本当にっ!!!?」
リィンの言葉に真っ先に反応したのはフェンシング部元部長フリーデルだった。
髭面のままリィンに詰め寄る。
期待に満ちた美少女の髭面はかなりシュールだった。
思わずたじろくリィンだが、直ぐに気を取り直してアリハに向き直った。
「生徒会の決定をそのまま伝えるぞ。アリオリハヴェリ・イマソガーリ。即刻活動を中止し練武館をフェンシング部に返却後、生徒会室へ出頭せよ。もしこれに背いた場合、一週間の停学処分とする」
正に自業自得だった。
トワ会長は断固とした姿勢でアリハの処分を決定していたのだった。
それも無理からぬ事だろう。
部活動を半強制的に妨害終結させるばかりか貴族子女に在るまじき醜態を強要。
そして帝国士官学院の品位を損なう部活動。
最早弁明の余地など与える必要は無いだろう。
しかしトワ会長。学院が誇るマスコット。萌えキャラ。
この決定はかなりの温情といえるだろう。
生徒会に従えばまだ停学処分は免れるのだから。
「やった!やったわ!有難う!助かったわ!これで部を再開できるわ!」
フリーデルは諸手を上げて喜び、他の部員も遂に開放されると喜んでいる。
「な、なんて薄情なっ!部長のピンチなんだぞ君達ぃっ!!!」
「部長?誰のこと?」
「アリハ、お前何を言ってんだ?此処の部長は初めからフリーデル部長じゃないか」
「くっ、くそう…」
「アリハ…、もう良いじゃねぇか」
「アラン…」
「本当はお前、もうとっくに飽きちまってるんだろう?」
「……やっぱりバレたか」
「何年お前と幼馴染やってると思ってんだ」
「……えっと」
「悪いな、そういう訳だ。生徒会長にはそういう事で…」
「待て」
そう言って立ち去ろうとしたアリハをリィンが捕まえる。
「俺は生徒会室に来いって言ったんだが…」
「…ちっ、バレたか…、分かったよ。お上に逆らっても碌な事ないからなぁ」
「お上って…、まぁいいか」
そんな訳でリィンは生徒会からの依頼を成功させてAPを稼ぎ、アリハはというと…。
「もう!こんなことしたらダメだからね!」
「…スイマセンでした」
生徒会長に怒られていた。
「教官たちに話が行く前に解決出来たからよかったけど、ヘタしたら退学だったかもしれないんだよ!聞いてるのっ!?」
「……」
「やけに素直だな」
アレだけの騒ぎを引き起こしたアリハの態度にリィンは首を傾げる。
これまでの経緯をアリハの破天荒ぶりを知ったリィンは、アリハが簡単に引き下がるとは思えなかったからだ。
一方のアリハは珍しく凄まじい罪悪感に襲われていた。
何時もなら何処吹く風の如く飄々と受け流していただろう。
しかしトワ・ハーシェル会長マジパねぇ…。
小動物のような愛らしさとカリスマ性。
彼女に叱られると自分が本気で悪いのだと思えてくる。
アリハにしてみれば初めてのやりにくい相手だった。
「兎に角、程々にしなきゃダメなんだからね!私達はまだ学生なんだから節度を守って…」
延々と続くトワ会長の可愛らしい説教に萌えながらも肩を落としてしまうアリハは少し快感を覚えていた。
そして拷問とご褒美が同居したような、そんな説教が終わり…。
「申し訳有りませんでした。トワ会長…」
「うん、分かればいいんだよ。迷惑をかけたフェンシング部の皆にもちゃんと謝ろうね」
アリハは萌え死にそうになるのを抑えながら頭を下げた。
「ああ、それから…、さっきは教官たちの耳には入ってないって言ったけど、サラ教官だけは知ってるから」
「…えっ」
「これ。サラ教官から」
トワ会長は封筒を手渡してきた。
開けてみると、用紙が一枚と列車のチケットが一枚。
「そして…これって…」
「これは『ARCUS』だね」
以前手渡された戦術オーブメントだった。
ご丁寧にマスタークオーツも装着済みだった。
アリハは面倒くさそうに『ARCUS』を懐に仕舞うと書類に目を滑らせた。
「えっと何々…、以下のもの一名…えっ!?」
「どうしたのかな?」
「て、停学一週間の処分を言い渡す。一年Ⅳ組、アリオリハヴェリ・イマソガーリ。尚、停学期間は次の場所へ向かう事。行き先は…『パルム』。何処だよ」
「知らないの?帝国南部に在る紡績で有名な所だよ。そのチケットで行けって事だと思うよ」
「そ、そうか…えっと出発は明後日の始発か…面倒くさいな」
「これも自業自得なんだから確りね」
「はい」
こうしてアリハは結局一週間の停学処分を受け、急遽紡績の町パルムへと向かうことになった。
サラの意図かは分からないが、学生である自分に教官に逆らう選択肢はない。
面倒くさいことは嫌いだが、拒否すれば余計に面倒になりそうだ。
それにセクシーコマンドー部にはちょうど飽きたところだし、此処はパルムへの旅が面白いことである事を期待しよう。
アリハは直ぐにポジティブに思考を切り替えると、もう一度トワ会長に一礼して生徒会室を後にするのだった。
そして時間は瞬く間に過ぎ、紡績の町パルムへ出発する日がやって来たのだった。
続く?
次回から特別実習です。
リィンとは逆の班に加わります。
マキアスとユーシスの仲を余計に引っ掻き回しそうですねw