暇つぶし程度にどうぞ。
依頼書もとい実習の内容に一通り目を通した一行は、取り敢えず依頼者の元へ行ってみることにした。
順番的に期間が最も短いと思われる『工場見学』から行ってみる事にした。
手配魔獣は戦術リンクを成功させる為の準備も必要と判断した結果、最後に取っておく。
先ずは他の依頼を片付ける事によって互いの呼吸を合わせる事が良いとの委員長の判断だ。
さて工場見学と言っても、ここパルマの町には工場は多く在る。
もう一度確認してみると、目的地は町の南側の郊外にある一際古びた感じのする工場だった。
「ここ、ですか?」
「なんというか…」
「ぶっちゃけ寂れてるね」
少し風化が目立つ建物の壁を見てフィーが本音を漏らした。
「君達は…」
工場を見上げていると、一人の男性が出ていた。
作業着を着た中年男性でどこか疲れた表情をしている。
「私達はトールズ士官学院の者です」
「…あぁ、話は聞いてるよ。私はここの工場長を務めているキリーだ。最も今ここは私一人しかいないんだけどね」
「えっと……それは、どういう?」
エマは戸惑いがちに聞いてみた。
「いや聞くまでもないでしょ?察してやんなよ」
アリハは首を振ってエマを制した。
「この工場見なよ。どう見ても」
「それは分かってます!もっとオブラートにですね」
そこで工場長キリーはバツが悪そうに笑う。
「ハハ、いやお恥ずかしい…、察しのとおりだよ。もうすぐこの工場は無くなってしまうんだ」
「領邦軍による土地の接収、ですか?」
「ああ、3月程前の事だ…。一方的にこの土地を接収すると言って…」
もともとこの工場はパルムで一、二位を争うほどの工場だったらしい。
そしてこの工場はある魔獣と共生する工場。
紡績に利用出来る糸を吐く特殊な魔獣。その生息地だった。
中型犬ほどの蜘蛛の魔獣で幸いな事に人は襲わずに性格は温厚。
紡績にこれほど適した魔獣はいない。
そしてこの魔獣は繁殖の際、極上の糸を紡ぐのだ。
普段、魔獣が餌にしている空属性のセピス。
その金色の輝きを放つ美しい糸は今年になって工場で発見、工場の人々の試行錯誤のすえ養殖される事になったものだった。
無論だがパルムはこの魔獣に注目した。そして我先にと魔獣『土蜘蛛』を求めた。
しかしどういう訳か、土蜘蛛はパルムの町、そして周辺も含めてこの土地にしか巣を作っていなかった。
いや確かに姿は確認されているが、この土地で巣を作りかなりの規模の『群れ』はこの工場地下の魔獣の巣のみだったのだ。
この旨い話に食いつかない貴族は居ない。
「それで?抗議は?」
「勿論したさ!しかし今度は露骨な嫌がらせが始まって…」
「この有り様か…」
有りもしない噂やミラで雇われた猟兵の妨害。
情況証拠なら確実に黒。しかし明確な証拠はない。
ここで強く出れば領邦軍との対立は表面化する。
社会的な地位で平民は貴族には勝てない。
「…どうしようもない」
「…くっ、これだから貴族は…」
マキアスは忌々しそうに眼鏡を上げる。
一瞬だけユーシスを睨む。そして目が合った。
「何が言いたい?」
「ちょ、ちょっと二人共!」
再び火花を散らす二人に委員長が割って入る。
ガサリ、そんな音にアリハとフィーが同時に反応した。
視線の先には工場長キリーの背後、肩にいつの間にか現れた大蜘蛛の姿。
大蜘蛛はキリーに飛びかかる瞬間だった。
「…くっ」
「待った!」
フィーが咄嗟にガンソードを向けるがアリハによって制される。
「あ、危ない!」
「え…?あ、皆さん待って下さい!コイツは違うんです!」
背後の魔獣に気づいたキリーは魔獣を庇うように弁解する。
ゲジゲジとしたグロテスクな大蜘蛛は話にあった『土蜘蛛』だった。
何でも最近は仕事もなく工場内でただ時間だけが過ぎていく。
そんな毎日を続ける中で戯れに『餌』として差し出したセピス。
土蜘蛛はたいそう喜びキリーに懐いてくる様になったという。
キリーと土蜘蛛は友人になったのだ。
「まさか…魔獣が人に懐くなんて…」
「ぶっちゃけ有り得ないよね」
「初めは気持ち悪いと感じていたんですが、今となっては味のある顔だと…可愛いでしょ?」
土蜘蛛の頭を撫でながら空のセピスを与えるキリー。
「ノーコメントで」
Ⅶ組はとても同感できなかった。
「そうだ君達。士官学院の生徒という事はそこそこ戦えるんだろ?」
「まぁ…私は自信がありませんが、みんな頼りになりますよ?」
キリーの問いかけにエマは躊躇いがちに皆の顔を見渡した。
各々が武器を構えてみせる。
「これなら頼りになりそうだな」
「何をさせる気だ?」
キリーは土蜘蛛を抱き上げると前に突き出す。
女子であるエマは思わず顔をしかめて後ずさった。
「この子の…セリーヌの餌を捕ってきてくれないか?」
セリーヌ…、土蜘蛛の名前だろうか?
一行はまた顔をしかめる。エマの顔が若干引き攣っているのは気のせいか?
「餌というと…セピス?」
「ああ、本来ならこの地下で勝手に喰ってるんだが、最近は餌を求めて良く地上に顔を出すんだよ」
魔獣が死ねば死骸からセプチウムの欠片を残す為、そう簡単にセプチウムが枯渇する事は無いだろうけど、何か有ったのかもしれない。
キリーはセリーヌの餌をⅦ組に頼むのだった。
「パルム街道を出て北に進んだ高原にズフィーラって大型の鳥型魔獣がいるんだが…、そいつが巣にセプチウムの結晶を良く溜め込んでるんだよ」
鳥のくせに木の上などに巣を作らずに、ふてぶてしく地面に堂々と巣を作っているらしい。
「もしよかったら…でいいんだが」
魔獣の為に危険な魔獣の巣に。
士官学院生とはいえ、そこまで頼むのは気が引けるのだろう。
キリーは躊躇いがちに目を伏せた。
「もうすぐコイツとも別れなきゃいけない…せめて…」
「どうします?皆さん…」
「面倒くさいけど…皆がいいなら、いいよ」
「これも実習の内だ。貴族の横暴は許せんが…」
「これは風の導きだろう」
「…いいだろう。戦術リンクを試すには調度良い実験台だ」
皆の意見は一致した。
「おお、行ってくれるか!ありがとう!」
「どこまで出来るかわかりませんが…」
魔獣ズフィーラの巣を目指すことになった。
B班は町で準備を整えると街道へと出た。
魔獣を避ける導力灯が立ち並ぶ。
街道から逸れた土手や草原にはチラホラ野生の魔獣の姿が見える。
時折行く手を阻む魔獣を撃退しつつ目的地を目指す。
「確か手配魔獣もいたな…」
「そだね。ついでに片付けよう」
アリハの思い出したような呟きにフィーが提案する。
「そうですね。リンクも試したいですし…」
「誰かさん達は未だに出来てないしな」
マキアスとユーシスがキッと睨んでくるがアリハは口笛を吹いて視線を流した。
(それにしても魔獣はいるけど宝箱は落ちてないんだな)
「あ、危ない……って…」
アリハは当たり前の事を思いつつ茂みから飛び出してきた羊型の魔獣に裏拳を叩き込む。
その手には手甲が装着しており鈍い光を放っている。
魔獣の中には素手で触れたくない相手もいるのだ。
その為、用意した手甲だった。
「ああ大丈夫だって」
「やるね」
目の前の魔獣を仕留めたフィーがアリハを賞賛する。
「フィーもね」
「…ん」
お互いにハイタッチ!
この二人、現在リンクしてたりする。
メンバーは交互に戦術リンクを繋いで連携を取り合っていた。
(やた!フィーちゃんとハイタッチ!テンション上がるなぁ)
女子との交流に感動しながらアリハは魔獣の落としたセピスを回収する。
ゲームじゃないので勿論宝箱の方は落とさない。
宝箱なしのドロップアイテム無し。これって攻略厳しくね?と内心思う。
「そろそろだな」
マキアスが地図を見ながら言った。
道は二手に分かれており、街道を離れた舗装されていない獣道の先には高原が見える。
街道沿いに進めば手配魔獣が、高原に向かえばズフィーラの巣が在る。
「どっちからにする?」
「頼まれた以上、キリーさんの依頼を優先したいが…」
同じ平民の頼みという事も有りマキアスはキリーの依頼を先に済ませたいと意見をいう。
「ふん、少しは効率を考えろ」
「なんだと」
「地図を見る限り手配魔獣の方が近い。それにここは人的被害を出す手配魔獣を先に片付けるべきだろう?」
ユーシスの正論にマキアスがグッと悔しそうに下唇を噛んだ。
そしてマキアスの反論を聞かずに進み始める。
「あ、待ってください!」
そんな訳で手配魔獣の討伐を優先する事になった。
襲ってくる魔獣を蹴散らしながら進んだ先に目標を発見。
頑強な装甲に覆われた巨大なサイの魔獣『ライノサイダー』だ。
幸い死者は出ていないが何人もの人間が重症を負わされ農地にも被害を出しているらしい。
ライノサイダーは悠々と地を踏みしめている。
「あれか…」
「手強そうです…皆さん準備はいいですか?」
「ああ」
「任せてもらおう」
「了解(ヤー)」
「(コクリ)」
「では、行きますっ!」
魔獣も此方に気づいたようだ。
唸り声を上げて警戒を露わにする。
その威圧感は他の魔獣を圧倒していた。
フィーが戦技『クリアランス』で牽制する。
並みの相手なら圧倒できる銃撃の嵐は、頑強な装甲によって防がれてしまう。
小雨を受ける傘の様に。
しかし足留めと目眩ましにはなったようだ。
「ヒュッ」
フィーが魔獣の死角に回りこむように走る。
遅れて他のメンバーが武器を構えて走りだす。
強大な魔獣に正面から挑むのは無謀。魔獣の側面に走る。
後方でエマがARCUSを起動させる。
「よし!委員長の導力魔法発動と同時に仕掛けるぞっ!」
皆が了承しようとした時だった。
ライノサイダーの巨体がブレて吹き飛んだ。
「リンクでの連携も………はっ?」
それは誰の声だったのか。
唖然とする声を上げたのは一人ではなかった。
危険を避けて魔獣の死角に向かうメンバーを無視するように正面から突っ込んだのが一人だけいたのだ。
アリハは縮地法によって一瞬で約800リジュ程の距離を詰めるとライノサイダーの顎を突き上げた。
凄まじい踏み込みが生み出す運動エネルギーによってライノサイダーの牙は巨体とともに吹き飛ぶ。
鈍い音と共にライノサイダーは空高く舞い上がり地面に激突。勢いは止まらずにゴロゴロと転がっていき、その先に在る岩を砕いて漸く止まった。
――――沈黙
B班は唖然とするばかりだ。
フィーは何かジト目でアリハを見ている。
「これは…凄まじいな」
B班の風さんことガイウスが動かなくなったライノサイダーの死を確認する。
ライノサイダーの装甲は砕け、そこからは内臓が飛び出し夥しい出血が血の海を作っていた。
そしてキラキラと煌くセプチウムの欠片。
「君は一体…?」
マキアスが震えた声で問いかける。
「何をしたのか…全く見えませんでした」
「唯のアッパーカットだけど」
何でもない事のように言うアリハには返り血一つ付いていなかった。
全員が沈黙するしか無かった。
「さ、さぁ!気を取り直して」
沈黙に耐え切れなくなったアリハは強引に先に進もうとする。
「待ってください!」
エマの言葉に皆が注目する。
「どうした委員長」
「いえ、その…次はズフィーラの巣に向かうわけですが…その」
「成る程、次の戦闘は我らB班だけでという訳だな」
察しの良いガイウスが委員長の意思を代弁する。
「遺憾だが。どうやらコイツは俺達とはレベルが違うらしい」
ユーシスも納得する。
「だからⅦ組への参加を拒否したのか?」
「だったら士官学院に来てないって。そんな大した理由じゃないよ」
まさか美形ぞろいのクラスに一人だけ普通の容姿の自分が入るのが嫌だったとは言えないアリハは適当に言葉を濁した。
「…そう、色々あるんだね」
その態度にフィーは思わず深読みしてしまったようだ。
「それならフィーも戦闘には参加しないほうが良いと思うぞ」
アリハは話を変えようとフィーの戦闘力にツッコミを入れる。
「え?」
「だってB班の中ならフィーも一線を画すほどだろ?力をセーブしてるし」
「何だって!?」
「…ふむ、そうなのか?」
フィーは少し考えてから肯定するように頷いた。
「気づいてたんだ」
「まぁ、武道家だしな…気を探れば…不味かったか?」
「ううん、別に隠してたわけじゃないし…いいよ」
ただ面倒くさいだけ。フィーはそう締めくくった。
「俺とフィーを除いた四人だとバランス取れてるし、訓練には最適だと思うぞ」
「そうですね。それじゃあ二人はバックアップをおねがいしますね」
「分かった」
「それじゃあキリーさんの依頼を片付けるぞ」
Ⅶ組Bは班は来た道を引き返すのだった。
ズフィーヤはカラスの性質に似ている。
光物には目がなく魔獣の餌であるセプチウムの欠片を喰わずに集める。
目的地に到着したB班は直ぐに巣を発見した。
キラキラと光る何かが巣の隙間から覗き随分と目立つ。
「どうやら留守のようだな」
近づいて見ると各属性のセピスが散乱しており、最奥にはバスケットバール程の大きさの卵があった。そして更にその奥。
「まさか卵よりも優先順位が上なのか?」
卵が置いてる所よりも深く敷き詰められた枯れ木や落ち葉に守られるように置かれた金色の結晶があった。
「しめしめ…折角だから卵も頂いておこう」
オムレツにするか卵かけごはんにするか、それとも…迷うなぁ。
アリハは嬉しそうに魔獣の卵を回収していく。
「アハハ…」
委員長が乾いた笑いを漏らす。
「緊張して損した。せっかく高めていた集中力が無駄になったな」
マキアスが構えていた銃を下ろしながら溜息を付いた。
「集中?怖気づいたの間違いだろう?」
「なんだと?」
二人は互いに胸ぐらを掴み合い火花を散らす。
「長居するわけにもいかないな。フィー」
「…ん」
フィーは目的のセプチウムを手に入れる。
「じゃあ町に戻るか」
「どうでもいいけど武器を下ろすには早いんじゃないか?」
「…来た」
シギャアアアッ!!!
上空から怒りの声が響く。
自分の巣を散々荒らされて怒り狂う大鳥が帰還した。
「やば」
その大きさ、凶暴性は手配魔獣に匹敵するだろう。
完全に奇襲攻撃だ。
突撃してきた巨体を躱すべく散開したメンバーは分断されてしまう。
マキアスとユーシス、ガイウスとエマ。
不味いことに四人は魔獣とは目と鼻の先。攻撃範囲内だ。
そして逸早く反応したアリハとフィーは安全圏に脱出していた。
「こうなったらやるしかない!行くぞ!」
「ボクに指図をするな!」
戦闘内容は散々なものだった。
マキアスの射線にユーシスが入り互いに攻撃を阻害し合い、ガイウスのフォローも意固地になった二人には届かず、エマの導力魔法を放つ為の時間稼ぎすらも上手くいかない。
そこに見るに見かねたフィーの閃光弾による援護がチャンスを引き寄せた。
鳥目のためアッサリと視界を奪われたズフィーヤは、四人の集中攻撃によって絶命した。
しかし被害は少なくなかった。
幸い大怪我には至らなかったがB班は傷つき肩で息をしている。
「……くっ、君というやつは…協力する気がないのか!?」
「それは此方のセリフだ!」
感情を爆発させたマキアスにユーシスは冷たい視線を向けて怒気を飛ばす。
「こうなったらどちらが上か白黒つけ…ぐっ」
「望む所だ…がっ」
仲良く同時に倒れる二人。
「……取り敢えず気絶させてみたけど」
アリハがバツの悪そうな顔で皆の顔を見渡した。
「誰が町まで運ぶんですか?」
委員長が冷ややかな視線をぶつけてくる。
「ボクが運びます。すいませんでした」
アリハは器用に両肩に二人を担ぐと歩き出した。
町の入口前で二人が目を覚ます。
「長旅と魔獣との戦いで疲れてたんだよ」と誤魔化すアリハと頭痛を訴えて首を傾げる二人。
その様子を呆れた顔で見る他のメンバー。
なんというかB班の実習はグダグダだった。
街に戻ったメンバーはその足でキリーの元に向かった。
「…人集り?様子が変だな」
工場には人だかりが出来ており、不穏な空気が流れていた。
青い制服の軍人が5人、キリーと何かを話している。
「急いだほうが良いな」
「えぇ」
B班は人垣を別けてキリーの元へ急ぐのだった。
続く?
アリオリハヴェリ
LV138
【HP】65520/65520
【EP】0/0
【CP】200/200
【STR】2137
【DEF】3593
【ATS】525
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【SPD】190
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【MOV】20
【RNG】1
ATTACK Rank
【斬】S【突】S【射】S【剛】S
CRAFT
【C】気合
補助:自己 STR+50% DEF+50% SPD+50%
【C】気合防御
補助:自己 一度だけ完全物理防御と完全魔法防御
【C】ナイアガラバスター
攻撃:威力A+ 単体 駆動解除 遅延+70%
【C】練気拳
攻撃:威力A 円LL 地点指定 吸引 気絶50%
【C】タイガーブレイク
攻撃:威力SS 単体 即死50% 遅延50% 駆動解除50%
【S】龍神烈火拳
攻撃:威力SSS 単体
竜の闘気を纏っての怒涛の連続攻撃。止めの回し蹴りと同時に竜気を解き放つ。
【S】DSC
攻撃:威力SSS+ 単体
スライディング、スープレクス、ジャイアントスウィング、バベルクランブルと流れるようにプロレス技を繋ぐ。
EQUIP
【WEAPON】魔獣皮の手甲
【ARMOR】レザーガード
【SHOES】レザーシューズ
【ACCESSORIES】無し
B班の実習を考えるのに時間がかかりました。
土蜘蛛の名前が黒猫と同じ。
名前を考えるのが面倒だったので…。