毎日毎日同じような日が続いている。
一ヶ月そこらの通い慣れない通学路を通り、既に見飽きた景色を横目に変りもしない校門を抜け寂れた校舎へと入る。靴を履き替え、上りにくいくせに手すりもない階段を上り教室という閉鎖された牢獄へと向かう。
道中廊下ですれ違った生徒の顔を見ると、その目は皆これでもかと濁っていた。それは同級生に限らず、この高校の生徒全員に言えることであった。
それもそのはずで、入学前のオープンキャンパスでは「生徒の自由意思を尊重し、伸び伸びとした学校生活を保証します」なんて言っていたくせに、蓋を開けてみればそんなものはなく、学校側が求め理想とする架空の『優秀な生徒像』を造りあげる機械工場のような場所だったからだ。
教師たちはそんな学校側の方針に従ってかどいつもこいつもがその理想を当たり前のように押し付けてくる。
入学した当初はそんな教師に歯向かう者もいたが、教師たちは決まって二の句には「内申点がどうなってもいいのか」と言うものだから一ヶ月も経ってしまえば教師に従順なロボット生徒のできあがり、というわけだ。
なんともまあよくできた工場だ――なんて、我ながら皮肉げに感心してしまう。
そんな学校生活の結果として、どいつもこいつも入学した当初は輝いていたであろうその目に光を未だに宿す者などいなかった。
しかし、俺は違う。
中学時代の半分を犠牲に勉強しなんとか入ったこの高校。
周りがどうかは知らないが、学校方針が気に食わない、そんな理由でこの学校生活を諦め、自由をなくし決められたロボットのように過ごすなんてことは俺には到底できなかった。
教室という名の牢獄の前に辿り着いた俺はその戸に手をかけ、中学時代から続けている朝の日課をするべく一呼吸する。
「おはよう!」
声と同時、戸を大きく、そして勢いよく開ける。
それが俺――
俺の声が未だ反響する教室を見渡すと、朝のホームルームさえ始まっていないのに教科書とノートを広げ睨めっこをしている生徒、文学小説らしきものを読む生徒、小難しい数式を使い友人と話す生徒。
様々な生徒がいるが共通して言えることは、誰一人として俺のことなど見もしないということ。そして残念ながら、これはこのクラスの見慣れた光景の一つでもあった。
「……はあ」
俺が見向きもされないのは、俺のことが見えていないとかそんなファンタジーな理由などでは決してない。
みんな、友達関係よりも勉強を、成績を、内申点を優先している。なんてことはない。俺にとってはそんなつまらない理由である。まあ、決してそれだけではないのだが。
「だとしても、進学校ってのはこんなもんなのかね……」
独り小言をつき教室の
「はあ……」
空いた窓から夏に移り始めたせいか妙に生暖かく気持ち悪い春風が肌を撫でる。去年の今頃に感じた風はこんなにも気持ち悪いものだっただろうか。
再度ため息をつく。すると、
「やあ、白上。相も変わらず毎日毎日そんなバカみたいに挨拶なんかしてさぁ。誰もお前なんか相手にしないってまだわからないわけぇ? 少しは周りの迷惑ってものを考えたらどうなんだ?」
そんな好意のかけらもない言葉とともに、おかっぱ頭の男子生徒に絡まれる。
「そういうお前も、毎日俺に似たようなこと言ってるだろ、光輝」
「――ちっ、僕を名前で呼ぶなって言ってるだろ。不快だ」
「そういうなって光輝。みんな勉強ばかりしてて退屈なんだよ」
俺の言葉を聞いた瞬間、おかっぱ頭の生徒は口角を上げる。
「……なに。お前、まだ気づいてないんだ?」
「気づいてないって、何のことだ?」
おかっぱ頭の生徒は更に口角を上げ、
「いやぁ? 別にぃ? わからないならいいのさ。アハハハ! バカだバカだとは思ってたけどここまでバカだったとはね!」
俺の挨拶なんか目でもないくらいの高笑いをあげ、去っていく。
「……はあ」
県外にあるこんな高校にわざわざ入学するとは酔狂なやつもいたものだ。入学当初、俺と同じようにそう思う生徒は多数いたようで話しかけられたりもしていた。しかし、光輝の高飛車すぎる性格と金田財閥という看板によって彼に気軽に話しかける生徒はいなくなり、今ではこのクラスの支配者といってもいい位置にいる。
「……はあ」
その事実を再確認し、今日何度目かもわからないため息をつく。
俺がクラスメイトから見向きもされない理由は勉強のためだけではない。裏で光輝が大きく関わっている。彼の態度を見てそう気づかない者はいないだろう。
だが、あえて気づかないふりをする。ご機嫌取りというわけではないが、こうすることで光輝は気を良くする。ならば気を悪くさせるよりかはましだろう。
「って、これがご機嫌取りじゃなくてなんだっつーの」
椅子の背に全体重を任せ、天井と睨めっこを始める。そうすることで幾分か気をまぎらわせたかった。
「あのっ!」
そんな折、視界の端に見慣れない金色の物体が写る。
その塊は俺を上から覗き込み、言葉を続ける。
「大丈夫、ですか?」
金色の物体に見えたそれは、金色の髪から一房、アホ毛を生やした女の子だった。