「大丈夫ですか?」
女の子は再度確認するように繰り返す。その顔はどこか不安げに見えた。
「ああ、大丈夫だ」
上体を起こし、続けるように言う。
「えっと、きみは……」
「あっ、はい! 隣の席の
「……相沢?」
相沢澪。そんな名前の女子など記憶にない。まだ一ヶ月しか経っていないとはいえ、このクラス全員の顔と名前くらいは一致している。少なくとも、金髪の女子などこのクラスどころか入学式にさえいなかったはずだ。だというのに、隣の席だと? そんなはずはない。それに――
「隣の席は確か空席だったはず……」
「えっとですね。私生まれつき身体が弱いんですっ。だから今日が初登校でしてっ」
相沢と名乗る目の前の女の子は両手をバタバタと振り回しながら(>_<)←こんな顔をしている。
「だからお話するのは初めてです!」
彼女の身長は明らかに小さく、見た目も相応に幼い。きっとそのせいもあって身体が弱いのだろう。
「そうだったのか。悪いな、無神経なこと言って」
「いいんですっ。そんなことより! さっきあの変わった髪型の男の子に白上って呼ばれてたよね。下の名前はなんていうの?」
「陸。白上陸だ」
「じゃあ
「――ッ」
彼女が笑顔で差し伸べた手をみて一瞬、驚いてしまった。
光輝がクラス内を支配するようになってからクラスメイトと握手をする機会なんてなかった。
――いいのだろうか。柄にもなくそんなことを思ってしまった。
彼女の目を見る。その目はとても透き通っていた。
彼女の顔を見る。その顔は深く考えてそうでなにも考えていないように見える。
最後に、彼女を見る。彼女から漂う雰囲気はなぜかとても心地よく張りつめていた緊張の糸をほどいてくれる。
気付けば、彼女の手を取っていた。
「よろしくお願いしますっ」
「……ああ! よろしくな!」
太陽のような満面の笑みの彼女につられ自然と笑顔になる。
不思議な女の子だな。それが彼女への素直な感想だった。
「ところでさ、」
言いかけたところで、教室の扉を叩きつけるように開けながらこのクラスの担任が教室へと入ってくる。
「お前ら、席に着けー!!」
朝聞いた声の中で一番大きな声。俺の声なんか比べ物にならない。
何度も聞いたやる気を削ぐのに特化したような声。この声を聞くだけで気がめいるというものだ。
「では陸君。また後で!」
「あっ、待ってくれ! 俺はきみのことなんて呼べばいい?」
「うーん……相沢でも澪でも、陸君の呼びやすい方でいいですよ!」
少し考えるように足を止めた彼女が、先ほどよりも更に眩しい笑顔と共に振り返る。
その笑顔に、たじろいでしまった。まだ十年と少ししか生きていないがこんなにも綺麗に、純粋に輝く笑顔は見たことがなかったからだ。
「……綺麗だ」
「? なにか言いました?」
「え、あっ、いやっ! なんでもない! じゃあ相沢って呼ぶから!」
その声は聞くまでもなく裏返り、こんな声出せたのかと我ながら感心し笑ってしまうようなものだったであろう。
しかし、彼女はその微笑みを崩さなかった。それは嘲笑のようなものではなく、純粋に、ただ純粋に仲良くなれることが嬉しい――そんな笑みだった。
「はい!」
そう言い残し、頭から伸びるアホ毛を揺らしながら彼女は自分の席へと戻っていく。……まあ自分の席といってもすぐ隣なのだが。
「はあー……」
数えるのも馬鹿らしくなってきたため息をつき椅子に寄りかかると、空いた窓から再び春風が肌を撫でる。先程は妙に気持ち悪く思えたそれが今は特別に思える。いつもは灰色に見えたはずの景色が、今日は様々な色彩を伴って見える。
相沢澪。彼女との出会いのせいだろうか?
「しかして退屈な学校生活が終わり、新しいなにかが始まる」
なぜかはわからないが、そんな期待のような予感が俺の中にあった。
序章のようなものはこれで終わりです!
澪ちゃんかわいいやったー成分を多めに提供したいですね……。
ネット小説よろしく、1500~3000くらいを目安に(細かく区切ることになるとは思いますが)投稿できたらいいなあと思っております!
ところで、文中に(>_<)←このような顔文字を入れる表現、僕は『りゅうおうのおしごと!』というライトノベルで初めて目にしたのですが現代のライトノベルの表現が変化しているんだなあと、なんとなくそんなことを思い使わせていただいた夏の夜。
9/1 文を追加しました