1話 受難
目覚めると、そこは薄暗かった。
身体中がどうにも気怠い。
この感覚は、キャンプに行き河原にテントを張って寝た後を思い出させる。
「どこだここ?サッパリ覚えがねえ。」
目覚めたのは小石や岩肌の見えた洞穴のような場所だが、俺は普段からそんな場所で寝る趣味や生活をしているわけではない。
身の周りに俺の持ち物らしきものは見当たらない。
ふと目をやると、遠くに光がある。ひとまずそこまで行くか。
歩きながら、持ち物を確認してみる。
といっても、調べる場所は服のポケットとウエストポーチしか無いのだが。
上着のポケットにはティッシュとミントガムが入っていた。地味に嬉しい。
ズボンのポケット…これは、トリガーか?
「うぅっ」
頭痛がする。
そうだ、トリガー。俺達は近界遠征に行っていたんだ。
でも、俺は何でこんな所に?みんなはどうしたんだ?
考えながら歩いていたからか、すぐに目的の光に辿り着いた。
そこはポッカリと大きな穴の空いた天井から光が射している場所で、外の様子がわかる。
どうやら森の中のようだ。
近くに生えている木の根をよじ登り、外に出てみる。
……目の前に小さいが、トリオン兵らしきナニかがいた。
「うおっ!」
急いで身を隠そうと思ったが遅かった、すぐに距離を詰められる。
「クソッ!とりゃっ!」
思い切り蹴りつけると、トリオン兵は遠くまですっ飛んでいった。バスケットボールほどのサイズで蹴りやすかったのが幸いした。
だが、直後に自分でもなにをやってるんだと思う。
ポケットにあるトリガーを握り、いつ他のトリオン兵が現れてもいいように身構える。
今ので確実に俺の存在は発見された。アイツは蹴り飛ばせるくらいだから偵察用だろう。ならば応援を呼ぶはず。
さあ、来るなら来いよ。
しかし、いつになっても何も誰も現れない。警戒を解く。
落ち着いて、事態を考えてみる。
まず、ここはどこだ?なんだって俺は森の下にある洞窟で寝てた?
それに、みんなは?遠征はどうなった?
いや、これはすぐに解決する。
遠征出発前に作戦会議などで何度も言われていた。
もし、不慮の事故や戦闘の敗北、何かしらの理由で隊からはぐれた時、状況にもよるが基本的には30時間の捜索で見つからなければ、捜索を打ち切り予定の行程を進行する。
俺の捜索が始まって何時間たったかわからないが、トリガーを起動すれば現在地が遠征艇に発信され、通信もできるはずだ。
さて、そうと決まれば早速トリガー起動だ。
俺の身体がトリオン体に換装される。……換装完了。
ひとまず通信をしてみるか…は?嘘だろ?NO SIGNAL?
どういうことだ、まさか、最悪のパターン=置いてけぼりってやつか?
通信がダメ…どうする、取り敢えず思い出さねば、何があったのか。
その時、遠くで大きな音がした。
今さら来たか、トリオン兵め。音がした方に身体を向ける。
森の奥からやってくるトリオン兵は…3匹か?跳ねながら不規則な軌道でやってくる。
両手にスコーピオンを出し、臨戦態勢となる。
約10メートルまで近づきその全貌が見える。6本足の虎のようなトリオン兵の上に、人が乗っていた。それが×3。
「チッ!トリガー使い3人相手かよ!」
さて…どうしたものか。敵トリガー使いは槍持ちが2人に長剣が1人だが、トリガーの形状と能力は合っていないこともザラにある。
穂先や刃筋からビームが出かねない。
移動用なのか、虎型トリオン兵から3人とも降りる。
すると、槍2人が並んで真っ直ぐに突っ込んできた。
「うおおおおお」「ぜりゃああああ」
雄叫びをあげ、槍を前に構えながら距離を詰めてくる。
俺は足の裏からスコーピオンをバネ状に出し…突撃する2人の真上に跳んだ。
「甘いわ!」「ふんっ!」
2人が頭上の俺に向かい槍を突き立てる。逃げ場はない。
しかし、あくまで計算通り、空中なら的を絞らせることができる。
俺は右手のスコーピオンを平たく伸ばした形状にし、2人の槍に巻きつけ花束のようにして、まとめて食い止める。
「なにっ!」「!!」
右手のスコーピオンで槍を捕縛したまま、着地と同時に、左手のスコーピオンを二股に分け、2人の頸を貫いた。
これであと1人、
「危ねっ!」
その時、最後の1人の剣が俺の胴を真っ二つにしようと横に薙ぎ払われた。
身体を曲げて避けるが、追撃が迫る。
スコーピオンを元の形状に戻しながら敵の剣線をスレスレで避け続ける。
太刀筋が的確に急所を狙うが、一撃がコンパクトに収まっているため隙がない。
クソッ耳に掠った!
だが、いつまでも避け続ける俺ではない。
間一髪で剣を避け続ける俺に業を煮やした敵が、大きく真正面に斬りつけてくる。
身体を捻り、上手く剣の横に立つように躱すと、俺は枝分かれさせたスコーピオンの切っ先を身体の側面いっぱいに展開し、勢いよく敵に向かい刺突した。
敵が後ろに跳んで避けるが、逃がさん。
右足先をスコーピオンで捉える。不意に後ろへの跳躍を止められた敵は、ガクンと反動で前に戻される。
脚にスコーピオンの刃を沿わせ、前蹴りの要領で相手の身体を股から八文字に斬り裂いた。
変身の解けた3人のトリガー使いを近くの木にツタで縛り付けておく。
もっとロープとかがあればいいが、ここは森の中、ある物を使うしかない。
「さて、アンタらはどこのどいつで、ここはどこだ?」
「それはこちらのセリフだ。貴様こそ、どこの誰だ。貴様の武装はこの国の物ではないな。すると他国の兵なわけだが、偵察のラッドに見つかった上に何も偽装しないトリガー反応を寄越してきた。しかも何するわけでもなくノーマルトリガー使いが王都にほど近い森に佇んでいるときたわけだ。こちらは異常事態発生中だよ。さあ、貴様は何者だ。」
真ん中の剣使いだった奴が答える。
俺は素直にごもっともと思ったが、コイツらを相手にした以上、俺の現状回復に助力は期待できない。さてどうするか。
「俺は…そうだな…通りすがりのトリガー使い?…じゃダメだよな。実は母国から追放されたんだよ…他の罪人と一緒に、テキトーな国に向けて放り捨てられたのさ。武装は直前に兵士からパクった。」
一瞬で考えたにしては良い嘘じゃないか?
……いや、大人の兵士からしたら雑な冗談か。
「はあ…追放された罪人ね…ま、なんでもいいさ。」
「おい、なーにを1人で落ち着いてるんだオッサン。俺の質問にも答えろ。ここはどこで、アンタらは誰だ。」
「はっはっは、オッサンか。まだ25なんだがな。ここは王都にほど近いカスコの森で、俺の名前はボウゴだよ。」
「おいパッパラ頭、俺はそんなことを聞いてんじゃねえ。ここはなんて名前の近界で、てめぇらの所属している組織は何かって聞いたんだ。」
流石にイラっときたのでスコーピオンの刃を首元に添えながら言う。
しかし、相変わらず余裕のある口調で剣使いは言った。
「お、悪いがタイムアップだ。よく耳を澄ませてみな。」
「はあ?」
刃物突きつけられて冗談言うとかトチ狂ってんのかコイツ。だがその時、俺の耳には微かに地鳴りが聞こえた。
音の方角を見る。すると、確かバンダーとかいう、ビームを出すトリオン兵が横並びになり壁を作ってこちらに向かってきていた。その数は10を超えている。見えないが、トリガー使いもいるだろう。
コイツ!あのふざけた問答は応援が来るまでの時間稼ぎだったか!
俺は取り敢えず真反対に駆け出した。
背後から「頑張って逃げろよ〜少年。」とあのオッサンの声が聞こえた。
うるせえ黙ってろ。
幸いにも森の木々は巨体であるバンダーの進行には向かないようだった。しかし、あのトリオン兵は移動砲台でも言うべき運用方法だったはずだ、全力で逃げるが居場所が割れないよう身を低くして走る。
あのオッサントリガー使いはここが王都近くの森と言っていた。ならば、援軍が来た方角が手厚い防備がある王都と考えるのが普通だろう。
王都とやらがどんな場所かわからんが、森よりは情報があるはずだ。
俺は壁を成すバンダーの側面を大回りし、王都に向かうことにした。
「取り敢えずやるしかないか…トリガー解除!」
トリガーを起動したままだと位置情報を相手に知られ続ける。生身で移動するしかなかった。
バンダー達は突然トリガー反応が消えたからか、その大きな鎌首をキョロキョロさせ始める。すると、バンダーの側面が開き始め、何かを放出しだした。
「なんだ…?ミサイルの類じゃなさそうだな。」
必死に考える。今の状況、味方の支援なしに独りであの戦力を相手にするのは無謀だ。
「まさか…最初の小さいトリオン兵?大量にバラまいて索敵させる気か!」
もしそうなら大変だ。見つかればバンダーからの砲撃を受けるが、トリオン体に換装すれば位置を知られる。
まずい、どんどん不利になっている。
走り続けていると、地面にポッカリと穴が空いている場所を見つけた。先ほど俺が這い上がってきた場所からは離れている。別の穴だろうか。
最初に目覚めた地下洞窟と同じ洞窟なら、ある程度は追っ手を撒けるのでは。
穴を覗くと、地面までの高さは3メートルほどだった。問題ない。俺は再び洞窟に飛び込んだ。
お読みいただきありがとうございます。
私は文学や二次創作小説の投稿など色々とズブの素人なので、基本的に痛々しい脳内妄想の黒歴史が垂れ流されてるものと思ってください。
今後もこの話を続けていけるように頑張りたいと思っております。