ワールドトリガー偽典   作:プルタルコス

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2話 漂流

洞窟の中は、数時間前に目覚めた場所より暗かった。地面や小岩の輪郭が朧げに見える程度だ。

この洞窟がどこまで繋がっているかわからないが、幸いにも王都と目される方角にはまだまだ空間が広がっていた。

ジョギングほどのペースで追っ手から逃げ王都を目指しながら、俺は考えをまとめることにした。

まず、俺の状況だ。さっきから生身で走って逃げているが、別に身体に痛む箇所はない、頭痛も無くなっていた。

では何故あんなところで眠っていたのか。まだハッキリとは思い出せないが、確か、戦闘があったんだ。

遠征艇の留守番係として近辺を哨戒していた時に、レーダーの端に未識別のトリオン反応があった。俺は1番近かったのと、単に留守番でヒマを持て余していたため1人で真っ先に向かった。

そこではトリガーやトリオン兵を用いた戦闘中だった。今思うと、あの時の片方の勢力が着ていた服装はさっきのトリガー使い達と似ていた。おそらくこの国の軍勢だったんだろう。

これはエライことになってるな、俺じゃ判断できかねる。そう思って遠征艇へ引き返そうとした時、何のだかわからないが爆発を受けて吹っ飛ばされて…それから……。

「ダメだ、そこから思い出せねえな。」

推測だが、そこで変身が解けて、戦闘の余波であの洞窟まで転がり落ちて気を失っていたんだろう。

もしかしたら鏡で見たら怪我をした痕でもあるかもしれない。

身体は現状動けているから問題無いとして、肝心なのは遠征本隊だ。いったい、俺は何時間気を失っていた。今更だがとても腹が減っているし、さっきの戦闘中もこちらへの通信などは無かった。

もしかしなくても相当な時間が経っているだろう。現在のボーダー設定時刻は見ることが出来るが、気を失う前が何時だか覚えていない。

いや、日にちなら覚えている…なんてこった、2日は経ってやがる。

……マジか。これは…ちょっと…どうしよう…つまり、最低でも48時間経っているということは、予め遠征の出発前に決めていた行方不明時の捜索時間…30時間は余裕で過ぎているな。

要するに…俺は…置いて行かれたのか。

……マジか。

……クソッ。

…………足を止めるな!俺!

ショックを受けていたって置いて行かれたって、今現在トリオン兵に追われている状況は変わらないだろ!

両手で顔を叩いて自分に喝を入れ、再び走り始める。そうだ、何にしても、今は安全を確保しなければ。

この洞窟も、現在トリオン兵達が地上しか捜索していなくたって、いつかは見つかる。なにせ、遠いがそこかしこに地上と繋がる穴が空いているからだ。洞窟内の視野が確保できるほどに微妙に明るいのは、穴から地上の光が漏れて入っているからだろう。

取り敢えず腹が減った。上着のポケットにミントガムが入っていたはずだが、さすがに腹の足しにはならない。

身に付けている物のうち、ウエストポーチの中身はまだ確認していなかったことを思いだす。さて、何か良いものはないか。

……おっ、支給品のエナジーバーがある。こいつは有難い。

俺の嫌いなレーズンと穀物のエナジーバーだが、文句は言っていられない。食べ物はこれで良いとして、水分が無いな。倒れている間に何も摂取していないんだから水分はかなり必須だ。というか、ジョギングペースとはいえ、さっきから走っているのに汗をかいていない。

まずいな、完全に脱水症状だ。追われているとはいえ、脱水症状で倒れたら元も子もない。上が森だったんだからそこら辺に水でも無いか?そう思い、一瞬止まって耳を澄ましてみる。

……近くでゴポゴポという音が聞こえる。ゴポゴポ?

音源に向かうと、微かに光を反射する水面が見えた。そこには浴槽ほどのサイズの池があった。どうやら湧き水らしい。

俺の中では森の小川が穴から落ちているイメージの水源を探していたが、真水ならいいんだ真水なら。

さて、これ飲めるのか?暗くてよく見えないが、あまり汚くはなさそうだ。意を決して口に含む。

……ゴクン。しまった、味見してヤバそうなら吐き出すつもりが、普通に飲んじまった。

まあ、変な味もしなかったしノドごしも良いし…何よりもう一口飲んだんだから、気にせず飲むか。

ウエストポーチからエナジーバーを出し、包装を剥がして食べる。口の中の水分が全部持っていかれるが、空きっ腹には待ちきれない食料だ、思わず焦って飲み込んで喉に詰まらせた。

池の水を手ですくってゴクゴク飲む。美味い。ああ、久しぶりだからか水もエナジーバーもめちゃくちゃ美味いな。

 

さて、食料も水分も摂ったし、先に進むか。

グズグズしてはいられない、こうしている今も、トリオン兵が俺を捜しているはずだ。俺は再び走り始めた。

それにしても、この先どうしようか。遠征本隊には多分置いて行かれた。今頃は、次の近界に行っていることだろう。遠征は近くを通る近界を辿っていくはずだから、なんとかしてこの近界を脱出しても追いつくことは不可能だ。

ならば、俺の目指す先は元の世界、三門市ボーダー本部だ。遠征と同じやり方、つまり今のこの近界から近くを通った別の近界に何とかして移動し、それを繰り返して元の世界まで戻る。

そのためには近界間を移動できる手段が必要だ。ここからは俺の予測だが、遠征艇のように大きな物でなくても、個人乗りの小型艇みたいなものを近界民達は持っているのではないか?

ボーダーのオリジナルメンバーの先輩達や大人達は、ボーダーができるより前から近界に行っていたそうだし、近界民同士で戦争をしている事があるのも知っている。ならば、近界民が持っている近界間の移動手段はボーダーより発達していてもおかしくはない。

よし、方針は決まった。王都に行って、近界間移動手段を探す。王都というくらいだ、きっと国の中心地だろう。そこでなら、良いものが見つかるはずだ。

……我ながら、笑いたくなるほどに御都合主義で楽観的で滑稽な計画だが、今は希望的な事を考えていなければどうにかなりそうだ。

それにしても、今どれだけ進んだのだろうか。トリオン兵は追ってこないし、かなりの距離を移動したはずだ。そろそろ洞窟の天井から差す明かりから外の様子を伺ってみるか。

……ん?なんだ、明かりが差していない。暗闇に目が慣れて気がつかなかったが、もう随分前から天井に穴が空いていない……?ここはもう舗装されているのか?それとも、悪いパターンだが、段々と洞窟は地下へと下っていたのか?……判断はつかない。

これは…マズったか?あの時焦って洞窟に逃げ込んだが、失敗だったかもしれない。王都だと思う方角もテキトーだったし。

いや…杞憂かもしれない。地面を強く踏みつけてみる、すると、返ってくる感触が異常に硬かった。足元の砂を払ってみると、すぐに金属の床が現れた。これは……?

明かりが欲しいが、手持ちの物に光源になるものなんて…いや、試すだけ試してみるか、ムリだろうけど。

俺は足元の石を、手当たり次第、いや足当たり次第に蹴ってみる。少し重い石を蹴った時、微かに火花の散るのが見えた。よし、良いものがあった。

少し重い石を片手で拾い上げると、もう片方の手で上着のポケットからティッシュを取り出し、金属の床付近に添えておく。そして、石を思い切り床に打ち付けると、カチン!という音とともに大きな火花が散った。

よし、ティッシュに引火した!

「あっちぃ!熱々!うおりゃ!」

熱くて遠くに放り投げる。すると、その辺りだけ若干明るくなる。上手くいった!即座に次のティッシュを取り出し、燃えるティッシュに駆け寄って火を継ぎ、また投げた。

二回繰り返したところで、気づく。思っていたより天井が低い、ジャンプすれば手が届きそうだ。それに、金属の床の上に砂が消えていた。もう洞窟ではないな、室内と言っていいだろう。

 

室内と判れば、暗闇でも足場は安心だ。取り敢えず真っ直ぐ歩いて奥に進む。

室内…なら、もうここは王都か?砂があったくらいだから随分と使われていない場所のようだが…おお?かなり遠いが、向こうに光があるな。

長らく暗闇にいるせいか、光が見えただけで妙な安心感があった。

光の方に向かって走る。走る。走る。

しかしどれだけ走っても、光が近づいた気がしない。諦めて歩いて向かうか。

あの光は、扉の光か、そのまま外に出る光か、いずれにしても外部と通じる光だと思いたい。もし外に出たとして、その後はどうしようか。ここが王都の地下だとして、外が王都なんだとしたら、上手く身を隠す方法を考えなければ。敵地のど真ん中で見つかったらお終いだ。それに、当たり前だがトリガーを使うわけにはいかない。そんな状況で近界間移動をする手段を発見して実行するのか、これは時間がかかりそうだ……。

しばらく歩くと、光の正体がわかった、出口だ。

洞窟から続いた長い道の終点、そこは外に通じていた。いきなり開けた場所に出るようだ、壁に沿ってなるべく身を隠して進もう。

さて…出口の外は今のところ誰も通過していないが、ここと同じように使われていないのか?

ゆっくりと、外の様子を伺う。

しばらくは何も無い空間が広がるが、光を放つのはその先だ。

そこには、燦々と建物の光が輝き、人々の喧騒に包まれた大都市があった。




お読みいただきありがとうございます。
第2話にしていきなりの失速、他の趣味で書いておられる方やプロの作家さんの凄さを痛感しました。
今回は繋ぎの話となっております、次回はちゃんと話が動きます。
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