ワールドトリガー偽典   作:プルタルコス

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3話 潜入

目の前に現れた都市に、俺は圧倒されていた。

都市と言っても、三門市のような現代的で整然としたものではない。

一言で言うならスラムかファベーラだろうか。こんなアングラな雰囲気が漂う都市が王都なら、この国の王はゴッド・ファーザーだろうな。

俺はトリオン兵やトリガー使いに立ち向かうのとは違う恐怖や不安を抱いていた。なにせ、ここではトリガーは使えない、つまり今の俺はただの小僧にすぎないということだ。

ひとまず大通りを進んで街を散策してみる。ここなら身を隠さなくても、そもそも国の正規兵はいなさそうだから平気だろう。

今歩いている大通りには子供や普通そうな人もいるし、活気に満ちていてどことなく楽しげな雰囲気がある。が、チラッと路地の方を見ると、明らかに堅気じゃ無さそうなヤツらばかりだ。

通りの端には物乞いのような年寄りや、何かを狙っているような、目つきの鋭い子供達がいる。

この通りはマーケットのように、両サイドに露天商や屋台が出ている。売っている物は、全て推察だが、食べ物、アクセサリー、工芸品、日用品、服などのようだ。さっきの路地を見た感じだと、イリーガルな物はそちらに行けば調達できそうでもある。

それにしても本当に大きな街だ。2、3階建が多いが、10階ほどの大きさのある建物もある。さらに大きな建物は天まで伸びるようだ、と思ったが、事実天まで伸びていた。この街は天井があるのか。夜の街のような明るさで気がつかなかったが、上を見上げると空ではなく岩盤のようなゴツゴツとした岩肌が見えていた。いくつかの一際大きい建物は天井の岩盤に到達しており、まるで巨大な柱のようだ。

つまり、ここは地下都市ということか。

街にあるものは基本的に見たことのないものばかりだ。建物の形も、売られている日用品や食べ物も、俺が人生で見てきたものとは世界観が違う。いや、ここは近界なんだから当たり前か。

そんなことを考えながら歩いていると、道の先で大きな歓声が聞こえた。人だかりとなっている建物があるが、何か催し物でもやっているのだろうか。

つま先立ちをして人垣の先を見ると、建物は通りに面してステージがあり、何かのショーをしているように見えた。司会者であろう胡散臭いヒゲ男がステージ上で大きな声を張り上げ何かを喋り、隣にはやたら薄着の女性がいる。

「さあさ皆々の衆!お次は上物だよ!辺境の農村で畑仕事をしていた女だ!よ〜く見やがれ美しい見た目をしているだろう!まだ連れてきたばかりで健康状態も万全さ! 下働きにも性奴隷にも好きなようにしてやんな!こいつは4000からだ!さあ買いてえやつは!」

「6000!」

「8500!」

「9000出すぞ!」

熱狂した人々は次々に値段を吊り上げる。

……どうやら奴隷競売のようだ。当たり前だが奴隷売買なんぞ初めて見た。というかここには奴隷制度があるのか、しかも、大通りでこんな大っぴらに行っているということは、風習なのだろう。

()()の女性は三首に金具を付けられ、金具から伸びた鎖が後ろで一つに繋がっている。首のものは特に何かの装置のように見えるが、奴隷ならばやはり命令を聞かないと首が刎ねられる仕組みでもあるのだろうか。

奴隷小屋を後にして先に進む。

少し進むと、街の様子が少し変わっていることに気づいた。先ほどまでは露天商が多かったが、今歩いている道は建物が店舗となっているようだ。といっても、やはり何屋なのかはわからないものが多いが。

それだけではない、通りを歩く人々の感じも、さっきまでは物乞いがいたり服装も何となくボロボロな服や裸足が多かったが、今はある程度ちゃんとした服やサンダルのような履物を履いている。

ほんの少しだが、こちらは治安が良くなっているのだろうか?

 

治安が少し良さそうなので、路地に入ってみることにした。大通りを外れ、比較的人目につきやすいと思われる通りに入る。大通りより薄暗いが、店はあり人も少しいた。

だが、治安が良さそうというのは俺の思い違いだったようだ。

「オラッ!これに懲りたら次はちゃんとした物を持ってくるんだな!」

スキンヘッドの男が、襟を掴み上げたまま男の顔面を殴りつけ、そのまま道端に放ると何処かへ行ってしまった。

俺は少し悩んだが、殴られていた男に近寄り、声をかけてみた。

「おい、お前大丈夫か。強烈なのもらってたように見えたが。」

殴られた男の顔面の怪我は酷いものだった。どう見ても鼻が折れている。

「うぅっ…へ、平気さ、ありがとう。こうなるとわかってここに来ていたからね。まあちょっと思っていたより痛いけど……。」

殴られた男は立ち上がろうとするが、すぐに膝から崩れてしまう。

「平気、では無さそうだな、肩貸してやるよ。」

「ああ、ありがとう。親切ついでに、そのまま僕の家まで補助してくれないか。そんなに遠くないから。」

了解だ、と言い男に肩を貸すと、男は自分の家までの道を説明し始めた。

15分ほど歩くと、全体的に古そうだが扉だけは真新しい建物に着いた。

「さあウチはここだ、どうぞ入って入って。」

男はその時にはもう自力で歩けていて、扉を開けて家に招いてくれた。やはりというかなんと言うか、土足のまま家に入ると、間取り的に玄関は無くいきなり居間のような部屋だった。

「ふうっ、疲れた。君もテキトーに座ってくれ。」

男は部屋に入ってすぐ、近くにあった木製の椅子に座ると、同じく近くにあるテーブルの上にあったリモコンのような物を操作した。すると、奥の部屋の方から高さ1メートルほどの円筒型のトリオン兵がテトテトと歩いて現れた。

「わあっ!」

俺は民家に入って気が抜けていたのか、思わず大きな声を出してしまった。すぐにポケットの中のトリガーを握り、身構える。

「ど、どうしたんだ突然大きな声を出して。余所者だとは見てわかったが、君の故郷では家庭用トリオンボットは無かったのか?」

男はそう言いつつ、小型トリオン兵からコップのようなものを受け取り、口に含む。

「家庭用トリオンボットだって?なんだそりゃ。悪いが、お前の言うとおり俺の地元には無いシロモノだな。トリオン兵とは違うのか?」

「本当に無い所から来たのか…驚きだな。トリオン兵とは…まあ兄弟のようなものだ。根本的にはトリオンで動いてトリオンで出来ていて、使用者が予め設定した命令に従って動く物だから、同じといえば同じ物だが、見て分かるように用途が全然違う。家庭用トリオンボットは色んな家事手伝いをしてくれる便利なヤツさ。」

男はそう言うと、リモコンで操作して俺の方にもコップを渡した。

中には液体が入っている、水では無さそうだな。

「その飲み物はドネモレだよ。モレっていう果物の絞り汁を少し甘くしたものさ。毒なんか入れて無いから安心して。」

俺はよほど怪訝な顔をしていたのだろうか、そんなことを男に言われた。

部屋の隅に丸椅子があったのでそこに腰を下ろし、ドネモレとやらを飲んでみると、説明し難い味だった。ポン酢にハチミツを混ぜて水で薄めたらこんな風になるのではと思ったが、確かめようがない。

「いや〜わざわざここまで肩を貸してくれてありがとう。何かお礼をさせてくれないか。君は余所から来たから、大したことじゃないと思うかもしれないが、この街で5分も10分も伸びていたら持ち物なんて全部盗られて、酷い時なんか奴隷屋に売られちゃうからね。ハハハ。」

男は気軽に言うが、それはかなりのピンチだったのではないだろうか。まあ、俺はそのお礼目的でこの男を助けたわけだから、悪い状況なだけ俺には良い状況だ。

「まだ名乗っていなかったね。僕はマオサ、この街でトリガー技術士をしているんだ。さっきのは…以前修理をしたあの男の家庭用トリオンボットの調子がまた悪くなったそうで、きちんと直しやがれって殴られていたんだ。修理する前にもう寿命だから買い換えろって言っておいたんだがね。」

さっきからカルチャーショックというか、新しい情報が多すぎて頭が追いつかない。なんにせよ、こちらも名乗るべきか…素性はどう言おうか。

「俺の名前はミライ。カシマ・ミライだ。余所者余所者と言っていたが、正解だよ。俺はある国の遠征部隊だったが、運悪くはぐれちまった。お礼をしてくれるって言ったな。なら率直なことを聞くが、お前、トリガー技術者だってんなら国と国を渡れる移動艇を作れねえか?」

ダメ元で素性も話して本題を聞いてみる。マオサが作れるのなら最高だが、情報でも持っていれば良い方だ。

「なるほど、それは災難だな…申し訳ないけど、僕じゃ移動艇は作れない。そもそも、専門が違うんだ。僕の専門はもっと家庭用レベルだよ。」

「そうか、いや、実はお前が作れるとはサッパリ思ってなかった。それなら何か情報はないか?何処にあるとか誰なら作れるとか。」

「さらっと傷つくこと言うね君。まあいいや、置いてある場所なら分かるよ。地上にある国王軍本部基地の内部に移動艇の発着所があって、そこで6日に一度、宗主国との間の定期便がある。こちら側には基本的に移動艇は置いていなくて、定期便のタイミングでなら宗主国が持っている移動艇がこちらの国に丸一日置かれることになるから、国内で移動艇が存在するとしたら、それしかないね。」

国王軍本部基地に…ソウシュ国、それに定期便ね。何からツッコミいれたらいいんだ?

「ソウシュ国ってのは何だ?」

「宗主国っていうのは、僕らの国に過剰圧力をかけてる国で、昔戦争に負けてこの国は宗主国マールスの属国になったんだ。」

属国…この国もさっきの奴隷と同じ立場ってことか。

「そうか、じゃあ俺の目標はその宗主国様の持っている移動艇をパクって別の国…マールスってとこ以外の国に移動することだな。」

「う〜ん…それは、ちょっとムリだと思うよ。君が思っている移動艇がどの程度のサイズかはわからないけど、マールスの移動艇…正確には強襲揚陸艇は、だいたいバムスターの10倍ほどのサイズだ。積載可能人数は100人で、トリオン兵や他の物資もたくさん積める。そもそも個人乗りの

操縦席(コックピット)じゃなくて作戦室みたいな操舵室(ブリッジ)だったはずだから、1人では動かせない。盗んで使うのは現実的じゃないと思う。」

「マオサ、お前やたら詳しいな。トリガー技術者とはいえ、家庭用が専門じゃなかったのか?」

「はは…実は僕、昔はその強襲揚陸艇の発着所で整備士をしていてね。家庭用が専門だけど、強襲揚陸艇も専門といえば専門だよ。他国に移動するために重要な部分は上司の管轄だったから、詳しいことは知らないんだ。」

どうやら思っていた以上の規模の軍事力がありそうだ。しかし、それはそれで良いことも聞いた。

「その強襲揚陸艇とやら、たくさんの物資を積めるってお前さっき言ってたな。なら、その積まれる荷物に潜入することはできるか?」

「積載貨物に便乗するってことかい?なるほど…移動するだけなら…うん、紛れ込んでも気付かれないと思う。マールスの連中は積荷の確認まではしない。大きめの箱にでも入って、この国の搬入係だけなんとかすれば向こうの国には渡れるはずだよ。」

やはりな、俺の目的は他の国に渡ることなんだ、別に盗まなくたっていい。よし、その方法で行こう。

「お、もうこんな時間か。僕はそろそろ夕飯を食べに行くつもりなんだけど、ミライ君も一緒にどうだい?奢らせてくれよ。」

「おおっ!本当か⁉︎実はここ数日マトモな物を食べていなくてな。奢ってくれるなら是非お供させてもらうぜ。」

腹が減って思わずがっついてしまった。まあ細かいことは気にせず、ご相伴に預かろう。

 

 




お読みいただきありがとうございます。
この話でオリジナル設定バンバン出ましたが、私はまだ原作と離れすぎない内容だと思って書いているので、温かい目で見ていただきたいです。
下手な文章で異世界を表現しようとしているので、意味がわからない描写があるかと思いますが、細かいところはご想像にお任せします。
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