マオサの行きつけの料理店に連れていってもらう。
「ここだよ。」
店の外観は、デカデカとした看板に店名と思われる記号が書かれており、大通りにあっても目立っていた。
「へいらっしゃい!空いてるとこ座って!」
店内に入ると店主と思われるイカツイ大男が席を促す。
客の入りはぼちぼちといったほどで、席は半分ほどが空いていた。
マオサと俺が席に着くと、円筒型トリオン兵…家庭用トリオンボットがコップに入った水を2つと紙切れを1枚テーブルに置いた。
「今日は何にしようかな〜。カマガオンイなんかがいいかな。ミライ君はどうする?と言ってもどんな食べ物かわからないか。」
「ああ、名前だけ聞いてもサッパリだ。マオサと同じものでいい。」
マオサは店内の壁に貼られてある短冊のような紙を見ながら悩んでいるようだった。あれがメニューなら店自体に文化的な差は無いな、少し安心だ。
マオサがトリオンボットに紙を返す。何か書いている様子は無かったが、いくつかの穴が空いているのが見えた。
その紙が店主まで届けられると、店主が、
「カマガオンイ2つね!少々お待ちを!」
と、こちらに大きな声で言った。あの穴が空いているだけの紙で注文できるのか。ビンゴカードみたいなものだろうか?アナログだが良いものだなと思った。
「マオサ、さっき言ってたが、お前元々地上の整備士だったんだろ?見るからにこの地下都市はお前に似合わない雰囲気だが、なんでこんな所に住んでいるんだ?」
マオサの見た目は、殴られて顔が腫れているが、落ち着いた感じがある。小柄で童顔な印象だが、俺より少し年上だろう。完全に偏見だが、この街じゃ良いカモにされていそうだ。
「似合わない、か。まあ、そう思っても不思議じゃないよね。僕は3年前、さっき話したマールスの強襲揚陸艇を整備していたんだけど、その時の整備がマールスの奴らの気に触ったみたいで、クビにされたのさ。その時ついでに3ヶ月ほど牢に入れられていたら王都での市民権も無くなっていてね。他の街まで行くお金もないし、仕方なくこの地下都市に住んでいるのさ。」
「俺にはすごい理不尽な処分に思えるんだが、この国じゃ普通なのか?」
「う〜ん確かに、もし本当のことなら理不尽な方ではあるね。だけど、本当のところは処分は軽いくらいだ。実は整備の不満があるというのは、僕があえて不十分な整備にしておいて、そっちに気をとられるようにしておいたんだ。僕は奴らの揚陸艇の保管室に小型のトリオンボットを仕向けて、予備として保管されてたコイツを盗んでいたのさ。」
そういうと、マオサは上着の内ポケットから長方形の板をチラっと俺に見せた。
「そいつはなんだ?」
「マールスの戦闘用トリガーさ。」
「ははっ。さっきの発言は訂正するよ。お前もこの街の住人と同じだったんだな。」
「ああそうさ。人を見た目で判断しちゃいけないよミライ君。」
この地下都市でも、トリガーを使っている奴は見なかった。おそらく、この国では一般人がトリガーを使うことか持つことは禁止されているんだろう。その方が治安も保たれる…この街は知らんが。
話していると店員トリオンボットがお盆に載せて料理を持ってきた。
俺とマオサで1つずつ受け取ると、注文紙をテーブルに置いてトリオンボットはどこかへ行った。
「いただきます。」
平たい皿に盛られた"カマなんちゃら"という料理は、赤い雑穀米のようなものに揚げ物と思しきものがゴロッと3つ乗っていて、さらに上からホワイトソースのような液体がかかっている。湯気が立ち上り温かい料理なんだなとわかる。湯気に乗って香辛料の香ばしい匂いがして思わず腹の虫が鳴った。この雑穀が赤いのは、唐辛子のような香辛料で味付けされているのだろうか?
見た目でも十分美味しそうだ、さあ食べようと思ったが、食器が見慣れないものだ。バターナイフの真ん中に穴が空いているというべきか、それとも二又のフォークの先端がくっついて繋がっているというべきか。いずれにしても不可思議な形状の食器が皿と一緒に運ばれていた。
マオサを見ると、揚げ物は突き刺して食べ、雑穀はスプーンのように掬って食べていた。見よう見まねで使ってみるしかない。
食器で揚げ物を刺し口へと運ぶ。カブリ、と齧り付くとカラッと揚がった衣に酸味のあるソースが絡みつき、柔らかい肉とともに程よくほぐれる。中からは旨味たっぷりの汁が出てくる。肉汁かと思ったが、それにしてはあっさりしていて、くどくない。咀嚼すると、それが肉ではなく豆腐のような、野菜か穀類で出来たものだと分かる。衣のザクザクとした食感と豆腐のような歯触りの良さが口の中でソースによってまとめられ、ハーモニーとはまさにこの事だなと感じていた。
とても美味い。ソースの酸味と衣のザクザクが口を飽きさせない。
赤い雑穀米のようなものを食べてみる。予想通り、香辛料はこちらから香っていた。モチモチとした餅米のような食感でありながら、時折、粒感のある穀物が口内で主張する。味は唐辛子に似てピリリとしたシンプルな辛さだ。ソースがかかった部分を食べると、辛味に酸味が合わさり麻辣な印象なのだが、これだけで食べるには味が単純すぎるように思える。やはり、この揚げ物と穀類はセットで食べた方が美味しそうだ。
揚げ物を一口サイズに分け、穀類と一緒に掬い口に入れる。ああ、やっぱりこれが正解だ。
ザクザクふわふわの揚げ物を穀類のモチ感が繋げ、旨味の汁と香辛料の辛味が相乗効果を生む。素晴らしい、互いが互いの味を邪魔しないベストマッチな料理に仕上がっている。
「そんなに美味しいかい?」
マオサがそう聞いてくる。俺はそんなに美味しそうに食べていたのだろうか。まあ、料理と言えるマトモな食事なんて何日何時間ぶりかわからないんだから、仕方のないことだ。
「ご馳走様でした。」
俺は一足先に食べ終え、満足して余韻に浸っていると、マオサの方から俺に質問してきた。
「ミライ君はこの後、王都を目指すのかい?」
「ああ、そのつもりだけど。」
「王都へは、この地下都市全体のど真ん中にある建物で上がれるよ。ただ、その近辺はこの街を仕切ってるニーネって悪党の本拠地でもある。奴らは王都からの払い下げ品を売り捌いたり、奴隷屋の元締めで金儲けしているんだが、地上への昇降機がある唯一の建物に高額な交通料を課している。逆に言えば金さえ払えば誰でも通れるんだが、奴隷が2人は買えるほどの金額だ、正攻法では行けないよ。」
「安心してくれ。そんなことだろうとは予想してたし、正攻法で行く気なんてサラサラ無い。こっそり隠れて上がるかトリガーを使って全員倒して上がるかのどちらかだ。」
「それならついでに教えるけど、ニーネの奴らは戦闘用トリガーを使う奴もいるよ。あいつらは軍でお古になった戦闘用トリガーを買い取って武装しているんだ。」
「そんなもん平気さ。俺はここの正規兵っぽいやつも既に3人倒してる。ゴロツキくらいに遅れはとらねーよ。」
「それは頼もしい、僕も連れて行ってくれないか?」
「は?マジで言ってんのか?」
「まあ道案内くらいに思ってくれよ。僕はこの機会が無ければもう上には上がれない気すらしているんだ。」
「まあいいけどよ…。」
そこまで地上に上がりたいのだろうか。正直なところ足手まといはゴメンだが、道案内が必要なのも確かだった。
話がひと段落したところでマオサも食事を終え、店を出ることにした。
相変わらずの喧騒が満ちる大通りを、マオサの家に向かい歩く。さらっと俺も向かっているが、そのまま泊めてもらえないだろうか。洞窟で目覚めてトリガー使いに見つかってから、もう丸一日以上は寝ていない。
大通りを抜け路地の方を歩いている時、ちょっと眠気で意識が飛びかけていたのか、俺は横から飛び出してきた何かを避けられなかった。
ドンッとぶつかられ、尻餅をつく。ぶつかってきた相手も同じように尻餅をつき倒れていた。奴隷だろうか、身体に薄く長い布を巻いただけの薄着で、手首と足首には金具を付けている女だった。
「イッテテ…おい!コノヤロウ!どこ見て歩いてやがんだウスノロ!」
女はこちらをキッと睨み付けてそう吐き捨てると、すぐに立ち上がって走り去って行った。
すると、女が来た方から声がする。
「おお〜い誰か!そこの雌奴隷を捕まえてくれ!逃げ出しやがったんだ!」
中年のしっかりした身なりの男と、痩せ細った男の奴隷が女を追ってこちらに来ていた。
面倒はゴメンだし、今は眠気がすごい。
だが、こういう時にカッコつけなければ男が廃ると俺のカンは告げていた。
ちょうど近くにあった角材のような棒をズボンのベルトループに差して刀のように固定すると、走ってくる2人の男達に思い切りラリアットをかまして地面に転がす。
「うげっ!な、何をするこのクソガキ!」
「悪いなオッサン、助けるならテメーみたいな中年より女の子だ。」
すると、中年の男の腰の鞘に収まっていた鉈のような刃物を細身の男の奴隷が抜く。俺は拾った角材を抜いて構えるが、細身の奴隷は鉈を思い切り振りかぶると、目の前の俺ではなく走る女に向けて投擲した。
「危ない!避けろ!」
女に向かってそう叫ぶと、女が気づきこちらを振り返った。だが、タイミングが悪い。飛んでいった鉈はちょうど女の目の前にまで迫り、今にも頭をカチ割るかと思われた。しかし、
「てぇい!」
女は気合いを叫ぶと、なんと飛んできた鉈を
お読みいただきありがとうございます。
ほとんど料理回になってしまいました。食べ物を食べる描写というのはどうやっても主観的なので、テレビの食レポなどは凄いと今回で実感しました。
ここから先もオリジナル設定全開で話は進んでいきます。面白い話が書けるように頑張りたいと思っておりますので、よろしくお願いします。