人の為に何かをするというのは実に愚かなことだ。これは現代においてのデフォというべきものであり、正直者が損をするのはもはや周知の事。それでもやろうとする者は変わり者、酷くて愚か者として扱われるのがこの世界の認識だ。
ここに、とある少女がいる。彼女はごく普通の中学生でどこにでもいる少女だった。ある日、彼女は非現実と出会う。ファンタジーとはかけ離れた、だが彼女は怯えるその瞳に映る背中に鮮やかな希望を見出してしまう。知らなければ幸せだったかもしれない、知らない方が普通でいられたかもしれない。でも少女は思ってしまった。
“自分もあんな風になりたい”と。
後にしる真実は死よりも残酷なもので。希望を抱いた分だけ他の何かを呪わずにはいられない運命と向き合いながらも彼女は繰り返す。何度も何度も同じ世界、同じ時間を。それは彼女が自ら選び取った道であり選択である。だからこそ彼女は立ち止まるわけにはいかなかった。たとえどんな絶望を目の当たりにしても。たとえどんな犠牲を払おうとも。
たとえ、自分という存在が擦り切れて消えたとしても。
胸に抱くのはたった一つの交わした約束。それを忘れぬよう目を閉じ確かめながら彼女は歩き続ける。押し寄せる闇を振り払いながら、出口のない迷路を。
◇
それは、本当に偶然の出来事だった。ちょっとした入れ違いで遭遇した少女はなんとも哀しい瞳を宿し自分を映していた。身に纏うは魔法の衣服、腕に宿しは時の羅針盤。黒の髪が風に揺れ、端正な顔立ちが苦痛に歪む。額から赤い液体を流し、迂闊だったと自らの失態を嘆く。
「だ、大丈夫!?」
自分を案じてくれる少年に手をあげてこちらに来るなという意思表示をする。普通とは違う空間の中で歪んだ笑い声が響くのを聞きながら少女は膝に手をついて起き上がる。見据える目は目の前で嘲笑う異形の者を睨むと羅針盤から銃を抜く。構えるそれは酷く不格好で似合わないのは彼女が少女だということ。年頃の女の子のしていいような顔ではない。それを見た少年の心はざわついていた。すんだ水面に小石を投げ込んだように広がる波紋は少年の中に眠るものを静かに呼び覚ましていく。
これが夢であるなら覚めてほしい。でも五感が知らせる通りこれは現実だ、いくら願ってもこの状況は変わることはない。自分も、この少女も。
狂った時は彼女の思考を乱す。普段ならこの程度のこと造作もないはずなのにこの展開はあまりにも予想外すぎた。
「でも、やらくちゃいけない理由が私にはある・・・・!」
銃でダメなら更なる火力を。彼女の力の影響を受けたミサイルランチャーが火を噴く。これもまたひどく不格好で似合わない。辺りが一瞬明るく照らされ、光が消えた数秒後、また光がさく裂する。笑い声が止み、一拍おいて少女の躰が宙を舞った。感じるよりも早く躰が動き、華奢な躰を受け止めて倒れる。心配してくれる彼女に大丈夫と伝え、逃げようと促す。でも、それをさせまいと周囲を人形たちに囲まれて等々死期が近いと感じる。全身の汗腺という汗腺が活発に働き背中をイヤな汗が伝う。絶望的という言葉がこれ以上にわかりやすく感じられたのはテストで赤点のオンパレードを見た時以来だ。
命の危機、がけっぷち。頼りになる少女は怪我をしてとても戦える状況じゃない。銃なんて扱えるわけがないし、この子を連れて逃げることもできない。何もできない、何も意味がない。
でも
「だからどうしたよ・・・・こんな、わけのわからない事に巻き込まれて、何も、知らないまま、死ねるかァ!」
鉄パイプを手に異形の物たちに立ち向かっていく少年。無謀だとは少女の叫びだ。でもそんなことは知ったことかと異形の怪物を殴って殴って殴りまくる。やがて折れた鉄パイプを投げつけて尻をつく。
「絶望なんて知るか、生きてる限りなんでもできる。死ぬのは生きることを諦めた時だ・・・・!」
それも無駄に終わる。いくら足掻いてもこの状況は覆らないことを少女は知っているからこそ言う。逃げろと。そもそも逃げ場なんてないだろと返されるとなにも言えずに言葉を探す。この少年はただ巻き込まれただけの何の関係もない普通の人間だ。自分のように魔法を使えるわけではない。つい数時間前までは普通の日常を送っていた少年に何もできるわけがない。
そう何もできない。だからこそ、何かができるのだ。それに興味を示したのは、悪魔かはたまた神の使いか。目の前に現れたのは白い、マスコットのようなぬいぐるみのような、兎と猫を掛け合わせたような生き物が彼の足もとに現れた。その生き物はこういう。
「僕と契約してみるかい?」
甘く、そしてひどく魅力的な声と言葉。まるで誘うかのようなその一言に少女は血相を変えて逃げなさい、ソイツの声に耳をかしてはダメと狂ったように叫ぶ。
「きみは実に異端な存在だ。その力ならこの状況を打破できるどころかもっと強大なものをも覆すことができるかもしれない」
知ったことかと話を続ける。化け物どもが静かなことが些か気にはなるものの、少年は目の前のマスコットの言葉にニヤリと笑う。
「さあ、君の願いを言うといい。でも一つだけ言っておくよ?僕はきみの願いをなんでも一つ叶えてあげる。その代り、きみには戦うことを背負ってもらう事になる」
「・・・・なあ白いの。ヒーローって知ってるか?」
「情報としてはね。僕にはさっぱり理解できないけど。それがどうかしたのかい?」
「こういう時、ヒーローってのは絶対に諦めないんだ。そして最後には大逆転。絶望も希望に変える・・・・俺の願いは――――」
轟音をたてて煙が上がる。巨大な腕が振り下ろされて地面が抉れたことであたりを煙が包んだのだ。そこにあった命は一瞬にして消え去り、中身を失った器である肉体が体液をぶちまけて四肢を散らしている・・・・それを見るのは何度目だと少女は苦虫をかみしめたような顔でそれを確認する。
突如、光が瞬いた。煙を放たれた矢のように飛び出し敵の、魔女の腕を切り落とす。水風船を割ったように血のような黒い液体がボトボトと滝のように流れる光景は先ほどまで死んだと思っていた少年が作り出したものだ。黒いローブに腕に輝くオレンジ色の宝石、手に携えた弓は剣のように鋭利な光の刃を備えており少女は記憶の中にいる“彼女”とその背中を重ねた。
「・・・・そいうえば、名前は?」
訊かれた言葉に返す。
「暁美ほむら」
「暁美、か。・・・・なら暁美。そこで見ててくれ。俺がきみの、最後の希望だ」
これが、暁美ほむらと少年三崎巧人の出逢いと始まりの物語だった。
◆
朝日が差し込む爽やかな朝にけたましい電子音が鳴る。布団の中から安眠を妨げるその主を暗中模索で手を伸ばして探りスイッチを押す。それを布団の中に引きずりこんで寝ぼけ眼のまま針がさしている場所を見て顔を青ざめる。
「なんでこんな時間なの!?」
飛び起きて制服に着替える。鞄の中身は昨日のうちに整理しておいたことが幸いしまだ時間はある。今から超特急で済ませればなんとか間に合うかもしれない、そうと決まればまずは身なりを整えなければと脱ぎ捨てたパジャマを畳むのを忘れててんやわんやする。
ふと、枕元の棚に並ぶぬいぐるみに違和感を覚えた。1、2、3・・・・・多い。明らかに一つ見たことのない子がいるのに気が付いた時には軽く恐怖を覚えた。
「おはよう、まど・・・・どうして捨てるのかな?僕はただ君の」
「普通自分のでないぬいぐるみがあったら怖いです。喋ったのならなおさら。どこの子?どうやってこの部屋に入ったの?」
「単純だよ。きみはよく窓を開けて寝る癖がある。最近は気温も高い時もあるし春にしては温かい陽気の時が多いしね。だから理由は単純明快、窓から入った・・・・その手のハサミはなんだい?」
「ストーカーを懲らしめる武器だよ。名前は暗黒滅砕聖光神器ハサミ。ありとあらゆる邪を払うとされている伝説の武器なんだ。価格は税込み350円、近所の文房具店にて販売中だよ」
「随分と身近な伝説の武器だね。でもどうしてかな。僕はきみの思考がさっぱり理解できないよ」
人の下着姿を除く輩に応える義理はないと一括するまどか。このピンク髪の少女は一体どこで人生を踏み外したのかと軽く興味を惹かれるがそれもすぐに消え失せる。
「とりあえずここから出してくれるかな?とっても狭いうえになんかヘンな臭いもする」
「女の子の事情により却下します」
解せない。白い物体キュウべぇは理解できない年頃の女子の思考を考えても仕方ないとため息をつき仕方ないので自力で出ることにしてゴミ箱の淵に前足をかけて器用に飛び出す。
「次は殺虫剤かい?あいにくと僕は昆虫じゃないんだ」
「やってみないとわからないよ。友達がね、やらないウチから諦めてたらなにをやっても身にならなくなるからまずはチャレンジしてみることだって言ってたの」
「それは三崎巧人の言葉かい?」
「たっくん天才なんだよ?とってもいいことを教えてくれる」
「僕はきみらのその関係が酷く心配だよ」
ま、感情なんてないんだけどね。言葉にしないでキュウべぇはルビーのような赤いつぶらな瞳をまどかに向ける。三崎巧人、つい最近契約した珍しい存在。目の前であたふたと先ほどまでスタイリッシュ漫才をしていた少女と同等、もしくはそれ以上の特質な存在に興味を惹かれている。彼もそうとうぶっ飛んでいると印象にあるがこの少女もすっかり彼に毒されてきた―――――いや、言い方をかえよう。影響を受けてきたと言いかえよう。
とにかく、出逢った時よりもかなり変質してきているのは確かだ。
「さて、今日も一日頑張ろう!」
「今までの流れをなかったことにしようとするなんて」
「驚いた?」
「かなりね」
◆
「いやぁ~今日も晴天だね」
「さやかさん、今日は曇りですわ」
「いやぁ~今日もまどかはかわいいねぇ」
「さやか、まだまどか来てない」
沈黙。これ以上ボケても広がらない会話に諦めをつけて深くため息をつく。
「今日は定期テスト、それが終われば体育祭。ホントイベント盛り沢山な学校なのはいいことなんだけでさぁ、テストのない世の中ってないものかね」
「それ教育って言葉を全否定したきがするのは俺だけか?」
「偶然ですね巧人さん。私もです」
「まどかまだかな・・・・」
現実逃避を続ける友人美樹さやかを哀れに思いながらもう一人の友人鹿目まどかを待つ。先ほどのメールでは今起きたという内容だったことから察するにきっと遅刻ギリギリなんだろうなと軽く覚悟を決めつつまどかを待つ。
そういえばと、さやか。
「熱烈なアプローチだが相手を間違えてるぞさやか」
「るさい。あんたいつの間に指輪なんて買ったのよ。彼女か?女か?相手は誰だ?まどかか?それともあべし」
脳天に叩き込まれたチョップと言うなの手刀の直撃を受けて悶絶するさやか。相変わらず身内に容赦ないなと面白いのでとめない仁美も結構容赦ないと思う。
「ごめん遅れたぁ」
「遅いぞまどか。今まさにさやかが欲望のあまり俺に襲い掛かってきたじゃないか」
「人聞きのわるい事言わない!それからまどかもそんな目で見ないで、傷つくから!」
「でもそれが?」
「気持ちい・・・・って何言わせんのよあんたらは!?」
耳まで真っ赤にして半ば怒鳴り散らすさやかに爆笑するまどかと巧人。この二人絶対に後で復讐してやると心に誓いながら時計を見る。
ヤバいと一言つぶやいたのは4人のうち誰か。皆弾かれたように駆けだす。運動嫌いで苦手なまどかは当然最後尾にいる。それを尻目に見て速度を落とす巧人は隣に並び肩を払う。
「ゴミでもついてた?」
「ああ。白い背後霊みたいなのが」
「それは大変だね。あとで教会か神社に言ってお祈りしないと」
「それがいい」
巧人に落とされた白い背後霊ことキュウべぇはタイルに顔面から綺麗に着地してその意識を遠ざかるまどかから背後の木から感じる気配に向ける。
「・・・・えっと、あなたも苦労するのね」
「わかってくれるかい?暁美ほむら」
「そうね。軽く同情するわ」
「きみのせいで僕がストーカー扱いされた。どうしてくれるんだ」
「自業自得でしょ」
なにも言えないで黙るキュウべえ。これ以上の会話は無駄だと判断したのだろう。相変わらず判断力だけは認めざるを得ないのがどうしてもイヤだとほむらも歩き出す。
さて、この時間軸はいったいなんなんだろうか。まどかの性格の変異もそうだが一番の奇天烈はあの三崎巧人という存在だ。男でありながらキュウべぇと契約した少年。今まで見たこともないケースにほむらは警戒と同時に興味も抱く。
見極めよう。この世界の時間の行く末を。もはや自分には、それしかできないのだから
さやかはドM、まどかはドSだと思うんです
キマシタワー・・・・建たないか