―――――あなたは何者?
見てわかるだろ?同類さ――――
希望を振りまくのが魔法少女なら。絶望をまき散らすのが魔女。表と裏、光と闇の反存在同士である者たちが同じ空間に共存することはありえないのが世界のルールであり、絶対的に覆ることのない現実。
では、その者達はどうなるのか。
人を喰らい、絶望を振りまく魔女がいるように。人を護り、希望を紡ぐのが魔法少女ならばそれは互いに殺し合う。その存在をかけて行われるのは互いの命を懸けた壮絶なる戦いであり、そこに入り込むものなら力なきものは命を落とす。一瞬の気の緩みが全てを奪い去っていくのだ。
見滝原中学二年美樹さやか。好きなものは食べること、おしゃれ、友達とワイワイ賑やかに過ごすこと。どこにでもいる普通の女の子が魔女に、ましてや使い魔に立ち向かえるはずもなく。肩に乗る白い生き物と共に逃げ回るのみ。
「きゃああああああああ!?」
病院の壁に突き刺さっていたグリーフシードを発見、自分たちではどうにもならないため今まどかにはマミを呼びに行ってもらっている。羽化寸前のグリーフシードを放ってはおけないとカッコつけて残ったはイイがまどかが離れて間もなく黒く濁った卵が割れ、そこから奇抜な空間が日常と非日常の境界線を破壊し異空間へと引きずり込んだ。護身用に持っていた金属バットもなんの意味もなさないままひしゃげ、もう逃げるしかさやかがその命を繋ぎ止める術はなかった。
「さやか、早く僕と契約を!」
「そんな余裕ないっしょ!大体、なんでよりにもよって病院なんかに刺さってんのよあの卵はぁぁぁぁ!」
足の衰えが来ても尚走る。息も上がり、だんだんともつれてきた。正直、今にでも座り込みたい気分で一杯だ。でもそれをやればそれこそ命がない。こうして逃げることしかできないことに歯がゆさを感じながらも、さやかは言うことを聞かなくなってきた足を殴りつけ動かす。
走る
走る
ただ、走る
そうやって、どれくらいたっただろうか。いつの間にか気が付けば自分の命を狙っていた使い魔達は消え、辺りを見渡せば先ほどよりも広い空間へと出ていた。ようやく足が止められたことに膝からくずれるようにその場にヘタレ込むと荒い息をあるかどうかも分からない天井を見上げ年頃の女の子らしからぬ声をあげて倒れる。
「し、深度・・・・」
「ここは入口付近だよ?」
「ちがう!・・・・だ~、一生分のスリルと体力使った気がする・・・・当分絶叫系はノーサンキューだ・・・・」
ぜえぜえと咳き込みながら徐々に息を整えていく。そこでようやく思考がまともに回り始め、先ほど聞いた入口付近という発言に安堵する。ここまでくれば、さすがの使い魔達も追ってはこないようだ。
「このままだと危ない。さやか、ここはやっぱり僕とk――――」
「その必要はない」
突然聞こえた自分とキュウべぇ以外の声に一人と一匹を振り向く。銀色の上下は見滝原の男子制服。そしてなんとも言えないこのドヤ顔は数時間前まで見ていた友人のものだ。褐色の髪に黒の瞳が此方を見ていた。
「何故なら!この!スーパーヒーロー!三崎巧人様がいるのだからな!ぬはーっはっはっは!」
一番頼りないのが来たことにさやかは頭を抱える。なんでよりにもよってこのエアーブレイカ―がいるのか激しく問いただしたいところだが、心細い今はちょうどいい。こいつで走り込んだ憂さ晴らしでもしようかと立ち上がり手始めに手近にあったチョコスティックを引き抜いて高笑いを浮かべる巧人の頭向けて振り下ろす。ポッキン、となんともいい音を奏でて折れたチョコスティックを投げ捨て地べたをごろごろと悶絶しながら転がる巧人を見下ろす――――というよりは見下す。うん、ちょっとスッキリした。
「ありゃがとうございます、ご褒美です!」
「キモっ!?」
「わけがわからないよ」
◇
「で、なんであんたがここにいるわけ?」
「いや~なんだか呼ばれた気がしてね。助けを呼ぶ声が聞こえればいつでもどこでも颯爽と駆けつけ・・・・すみません、マジ勘弁してください、ごめんなさい、謝るからそれヤメテ、マジ痛いから」
振り上げられたチョコスティックを降ろしため息をつく。もうこの際こいつがいることはどうでもいいやと救援を待つことに。契約してもいいがあいにくと願いがまだ決まっていないこともあってどうすることもできずに二人と一匹はその場に座る。入口付近ってことは必ずここを通るはずだと巧人がやってきたことから推測をたててマミとまどかを待つ。
さて、ここで重要になってくるのはそれまでどうやってやりすごすかだ。入口付近だからとはいえ、使い魔がまた襲ってこないという保証はどこにもない。結界から出るには魔女を倒すほかないのであれば自分たちは完全に敵の腹の中にいると言っても過言ではない。あとは消化されるのを待つだけなど、まっぴらごめんだが。
しかし、打つ手はない。逃げる隠れるかの二択。待っていようにもいつになるかもわからない。それ以前に、自分にはどうしてもここを離れられない理由がある。
「・・・・なあさやか」
「なによ。ちょっと考え事してるんだから・・・・って、なにやってんのよあんたは!?」
大きなケーキを食ってる。しかもかなりうまそうだ。キュウべぇも一緒になって食べている。というか、食べられたのかそれ。
「腹が減ってはなんとやら、まずは落ち着けよ。な?」
そう言ってケーキを一切れ此方によこす巧人。受け取って匂いを嗅ぐと甘いいい香りが鼻を抜けてお腹の虫を刺激する。それを聞いて赤面する自分をみてしてやったりと笑う巧人。こいつ、帰ったら絶対に仕返ししてやると固く近いケーキを一口。
・・・・うん、おいしい。魔女の結界の産物だからもっと毒々しいものかと思ったけど案外普通のケーキだったことに軽く驚くと巧人が何か気づいたように顔をあげた。
「どうしたの?」
「聞こえる・・・・あっちだ!」
走り出す巧人。その方向はまさに今自分が逃げてきた方角に彼は全速力で駆けて行った。突拍子もない行動に焦るさやかはキュウべぇを連れて行くのも忘れてあとを追いかける。
というか・・・・
(あいつ、こんな足速かったっけ・・・・!?)
運動能力にはいささか自信がある。クラスの男子にだって負けないし、張り合うことだってできる。走力ともなれば一番の得意分野でもあるしなにより陸上部からのスカウトを受けたことだってあるくらいだ。自惚れではない。さやかも自分の足の速さと体力の程は理解していた・・・・・つもりだった。
(ていうか、なんか周りがヤバい雰囲気なんですけど!?)
すっかり使い魔に囲まれている。獲物が戻ってきたことに歓喜し、使い魔達は意気揚々と自分の背後に迫ってくる。後ろを振り向かずとも、気配でわかる命の危機。でも、今度はそれを振り切れるだけの体力はない。
よって、疲労の残る足はもつれてこける。正面から派手にすっころび、うつ伏せになってしまう。ヤバい、とすぐさま立ち上がろうとするもこけたことが原因で足を痛めてしまいうまく立ち上がることができない。
口を開けた使い魔が、目の前に迫る。命の危機を覚悟したさやかに、「そぉい!」という声が響いた。
真横からとび蹴りを入れた巧人だ。ごろごろと派手に転がって壁に激突し動かなくなる使い魔を他の使い魔が心配そうに寄り集まる姿を見てからまたもやドヤ顔で「コレをダイナミックキックと名付けよう」と技名を考えている巧人を茫然と見る。
「おい、大丈夫か?」
その笑顔が、不覚にもかっこいいと思ってしまったことに心底嫌悪して差し出された手を握る。今のうちに逃げようと言うが、あいにくと怪我をして動けない。それを見て巧人が取った行動は、
「ほい」
おんぶだ。
「・・・・こういう場合、お姫様だっことかがベタだと思うんだけど」
「背負った方が走りやすい。前に抱えてるとバランスとれないし、背中のほうがゲフンゲフン」
下心丸見え、最低、変態、女の敵とののしりながらも結局のところそれに従ってしまう自分が情けないと思う。巧人が立ち上がったことで少し感じる揺れと背中から伝わる温かさが、皮肉にも安心してしまった。
「さ、とっとと逝くぞ」
「さすがはエアーブレイカ―。空気読めない」
「うるしぇ。つべこべ言わずにあらほらっさっさだ」
◇
「なにがあらほらさっさよ!魔女の真ん前まで着ちゃったじゃない!」
「これはヨソウガイデス」
逃げて逃げて最終的にたどり着いたのはなんと魔女のいる部屋の真ん前。合流したキュウべぇによればそういうことらしい。つまり、ここより先にはこの空間を作り出した張本人がいる。手に汗握る、震える。それを背中越しに感じた巧人は、
「おじゃましまーす!」
扉を蹴り飛ばした。
「何やってんのあんたは!?バカなの!?ねぇバカなの!?」
「違う!」
「じゃあなによ!」
「アホだ!」
「此奴を一瞬でもかっこいいかもとか思った自分を殴り飛ばしたいいいいいいい!」
背中で悶絶するさやかをガン無視して歩き回る巧人。傍若無人というべきか、猪突猛進というべきか、とにかくこの少年、すべてにおいて狂っていると思う。こんなんと友達やってるからまどかもあんな歪んだ性格になったのではないかと昔の優しくかわいかった頃のまどかを懐かしむと同時にあの頃はもう戻らないのねと涙をながす。いったいどこで自分は友人関係を間違えたのかと過去を振り返るも見つからないことに諦めをつけて大人しく背中にもたれかかる。
にしても、この部屋に入ってから魔女の気配・・・・というか、行動がない。ことに軽く違和感を持つ。ここは結界の最深部なのだから魔女がいないというのはまずないはず。なのに何もないということは、もうすでにマミが到着していて駆除したのだろうか。でも、だとしたら自分たちは今頃こんな歪な場所にはいないとさやかは思考する。
何かがおかしい。そう思ってふと天井を仰ぐと。暗く、先の見えない天井の向こうになにかが見えるのがわかる。それは黒い・・・・・卵!?
「巧人、あれ!あれぇ!」
ぐいぐいと髪の毛を引かれて「抜ける、抜ける!」と悶えながら上を見上げる。そこには、黒卵がまるでゆりかごのようなものに乗せられて降りてきていた。
「あれって、魔女の卵なのかな?」
「たぶんね。どうやらまだ完全には羽化しきれていなかったみたいだ。逃げるなら今のうちだよ」
「・・・・逃げるって、どこにだよ?」
もう周りには使い魔の包囲網が敷かれていた。主人を護ろうと仇名す者に対し彼らは一切の容赦はしないだろう。キラリ、と握った包丁と口から見える牙が光る。今度こそ万事休すかと思った直後、一発の銃声が鳴り響いて使い魔を一体。もう一体と射抜いていく。
「間に合ったみたいね」
「マミさん!」
「救世主キタコレ!」
華麗に舞って目の前に降り立つは魔法少女巴マミ。この町を守護し、人の為に戦う正義の味方。魔女に対抗できる唯一無二の存在。そして――――希望。その希望がやってきたことにさやかは歓喜の声をあげた。
「遅くなってごめんねさやかちゃん。きっと巧人君とキャッキャうふふいてるだろうと思ってあえて遅れたんだけど大成功だね!」
「犯人はお前かあああああああああ!」
・・・・・って、なんで巧人がここにいることを知ってる?沸いた疑問に、まどかが答える。
「巧人君てば、最初ほむらちゃんといたんだけどさやかちゃんが病院で泣き叫んで醜く這いつくばって助けを請うてるよって言ったら一目散に助けに走ったんだよ?今ならフラグを建てられるって。で、どう?建った?」
「残念ながらおんぶイベントしか」
「それは残念だったね。あ、なら代わりに私がフラグ立たせてあげてもいいよ?」
「まどか小さいし。色々と」
「それはとっても解せないなって思うんだ」
色々と木端微塵に台無しである。この二人はこんな時んでも平常運転とか異常にもほどがあると軽く嘆きやっぱり私の友人たちはどこか間違っていると思う。
「・・・・なんだかわからないけど、三人は隠れてて。一気に片づけちゃうから!」
それは、さながら踊るような、舞うような。次々に展開されていくマスケット銃による演舞に見入るさやかとまどか。これが魔法少女。絶望を砕き、希望を守る存在。あっという間に使い魔を一層。その後出てきた魔女にも臆することなく冷静に、だけど魅せるかのように撃ち抜く。あっけなく退治された魔女はリボンによりつるし上げられ、上空で膨らむ。次に起こるのは爆発の光だと誰もが思った、その直後。
出てきたのはまるで蛇のような、頭に羽の生えた魔女の姿だった。先ほどまでの愛くるしい、かわいらしいぬいぐるみ姿とは打って変わって口を開けて迫るその姿は化け物と呼ぶにふさわしいだろう。
勝ちを確信したマミは当然、そのことに反応することなどできるはずもなく。何が起こったかわからずに首から喰われて絶命する・・・・・はずだった。
突如、魔女の額にオレンジ色の矢が突き刺さる。それに苦しみ悶える魔女を、今度はオレンジ色の人影が蹴り飛ばした。壁に激突し崩れる魔女。こんな芸当ができるのは魔法少女だけだとマミはようやくまともに働き始めた思考を働かせその人物を見ようと目線を動かす。
しかしそこにいたのは魔法“少女”ではなく。オレンジ色のコートにズボン、ツバのない帽子を被り褐色の外跳ねの髪をのぞかせる少年だったことに気が付くまで約5秒。
「あ、あなた何者・・・・?」
「見てわかるだろ?――――同類さ」
口角を釣り上げて笑むその顔は、三崎巧人だった。
「通りすがりの魔法使いだ。覚えておいて損はないよ?先輩」