「――――ってなわけよ」
「どういうわけなのかしら?」
「え、マミさんいまのでわからなかったんですか?」
「むしろわかったおまえがすげー」
「愛だよ」
「愛かぁ・・・・不合格!」
「コンチクショー!」
ダン、とテーブルを握りこぶしで叩くとその上にあるティーカップが揺れた。淵から中身の液体が溢れるかというところで波は穏やかなものに変わる。現在、巴マミの住むマンションに女3、男1、そして奇妙な人語を介する珍獣1匹と座っている。二等辺三角形のクリアテーブルにはおもてなしのケーキと紅茶があり彼女の出来のよさがうかがえる。
・・・・いや、大したものはなにもないといいながらちゃっかりケーキが出てくるあたりきっとこんなこともあろうかと思って準備していたのかもしれない。友人を招き入れてお茶会。キャッキャうふふな絵図を期待しながらせっせとケーキつくりにニヤニヤしながら精を出す先輩の姿が妄想に浮かび若干引き気味な視線をマミに送る。
「今何かものすごく失礼なこと考えなかった?」
「イイエネニモ」
「話が進まないんだけど」
「こいつは失敬。んじゃ、どこから話そうか・・・・そうだなぁ、あれは3年前のことだった」
「そんな前から?」
「んや。契約したのはちょうど巴先輩とこいつ等が出逢った時ぐらい」
「じゃあなんで言ったのよ・・・・」
「気分?」
「「「わけがわからないよ」」」
まどかと巧人を除く三つの声が綺麗にハモったことに「おお~」と拍手するボケ二人。一向に話が進まないと呆れと苛立ちのこもったため息をつくマミにようやく巧人が本筋を話し始める。
「出逢いはホント偶然さ。俺もまどか同様ソイツの声が聞こえた。けど面倒だから無視してたんだ」
「巧人はそういうところ酷いよね」
「黙れ淫獣。――――で、無視してたけど途中でまどかとモブがいないことに気が付いた」
「アタシモブ!?ってか、それまで全然気が付かなかったアンタの無神経さがすごいわ」
「・・・・二人を探して彷徨っていたところ白い粉まみれになってる暁美と遭遇。ヒャッフォイコスプレ黒髪美少女だぜヒャッハー!って思ってたら魔女の結界に遭遇。人生ハードモードに切り替わったと思ったら魔女と暁美がドンパチやり始めて、暁美が負傷。そこで俺がこの白いデ●モンに出てきたような奴と契約して魔女を撃退したってわけ。気が付いたら暁美はどっかに消えてて二人を見つけた時にはなにやら剣幕な雰囲気だったしお寿司」
こいつは真面目にはなすという所業ができんのかと心底呆れるさやかだが、ここで一つ矛盾があることに気が付く。この話には、現実の状況と食い違っている箇所が一つだけあるのだ。
「ちょい待ち。あたしらと合流した時にはもう契約してたってことだよね?」
「ああ」
「それに、転校生に遭遇した直後に結界に巻き込まれた。ってことは、“ここにいるQB”と“巧人が契約したQB”って、いったい・・・・」
ゾッとする・・・・そんな感覚が背中を駆ける。全員の目がカーペットの上でケーキを貪るQBに向けられた。
「・・・・さて、そこんとこどうよ?QBやい」
「…僕らはなにも一匹だけじゃない。複数の躯体が存在しているのさ」
「え…それってどういうこと?」
「言葉そのままの意味だよ。僕らは一つの躯体に一つの意識というわけではなく、統合する一つの意識からなるものなんだ」
「要するに、今こうして話している内容はほかの“QB”も知っている、と?」
「その通り。僕らはあくまでもこの躰は人間に接触するためとグリーフシード回収のものだけにすぎないからね」
「な~んだ、ってことは私別に無視してもよかったんだね。なんか損した気分」
あからさまにやってらんないと言わんばかりにため息をつくまどか。此奴本当に容赦ないなと友人にツッコミを心中でいれつつ話を戻す。
「でも、アタシ等の前にいる“QB”はアンタだけだし・・・・うまく言えないけど、そういうのってそんな理屈とかじゃ言い表せないんだよいくら複数いるからって、目の前で死なれたら後味悪いし・・・・ね、まどか?」
「え、さやかちゃんがなんかヒロインみたいなこと言ってる。たっくんどうしよう」
「これは重傷だな・・・・さやか、悩みがあるなら言えよ?俺達友達じゃないか!」
「じゃあ今すぐおまえら殴らせろ」
またしても露骨な態度でイヤな顔したのでとりあえず近くにいた巧人だけでも殴っておく。少しスッキリしたところで咳払いを一つ。
「まあ、過程はどうであれ、だいたいのことは納得できたわ。・・・・でも、そうか。アタシも使ってみたいなぁ。こう、マミさんみたいにカッコよく――――」
「やめとけ」
先ほどとは打って変わった、低いトーンで倒れたままの巧人が言い、喋りながら起き上がる。その瞳は今までにないくらいに――――悲しい目をしていた。
「魔法少女なんてそんな生易しいもんじゃない。やってることは生きるか死ぬかの戦いだ。実際、あのまま俺が間に合わなかったら巴先輩は頭からガブリンチョだったしな。おまえらも見ただろ?あれが魔法少女の宿命だよ。願いを叶えた代償、その重さと意味・・・・はき違えてもらっちゃ困る」
「わ、わかってるよ・・・・」
「いいや、わかってないな。うまい話には必ず裏があるように、此奴の言ってることも信用ならない。ましてやなんでも一つ願いを叶えたとして、此奴にメリットがあるか?もし契約した魔法少女が魔女と戦わなかったらどうする。それこそ本末転倒だ。“魔女を殲滅するのが目的なら”そうしてもらわないとこまるのは此奴らだ。だが、仮にそうでなかった場合・・・・・どうなると思う?」
「・・・・ど、どういうこと・・・・?」
マミが先ほどの余裕な表情とは違い怪訝そうな顔で問う。それにニヤリと口角をあげて巧人は言う。
「つまりだ。此奴にとって、“魔法少女が魔女と戦わなくても自分たちにメリットがある環境”が成立しているからこそ此奴は必要以上に契約を迫る。さっきから一言二言目には契約って言ってるのはそれがあるからだ。“契約してくれないと困るのは此奴らだからな”。だとすれば、暁美のとってたっていう行動も何らかの理由があるとみてもいい。むしろその方が納得がいく」
巧人の言葉に静まり返る室内。流れるの沈黙と疑惑の視線。その全ての元凶を作り出した巧人はニヤリと笑い、QBの赤い瞳は感情なく彼を映している。
「・・・・・なーんて、推理ものの読みすぎかな?」
「じょ、冗談かよ・・・・脅かさないでよもう」
「けど、どうだろうな。少なくとも俺はそう思ってる。あくまでも俺一個人の考えだがな。巴先輩を別に脅かそうってわけじゃない」
「ちょ、なんでそこで私なの?」
「だってさっきからずっと手、震えてるし」
「、!?」
「・・・・大丈夫ッスよ。なんせこの俺がいるんスから」
まるで赤子をあやすように優しい声のトーンで言いながら手を握る。ビックリして巧人を見ると、その顔はとても穏やかで―――――鼻の下が全開に伸びていた。
「ソイヤ!」
「うわらば!?」
「どさくさに紛れて何やってんのあんたは!?」
「お、俺はただ巴先輩を励まそうと・・・・」
「どこがだ!完全に下心会っただろ今!胸に目がいってたのが何よりもの証拠だ!」
「なんと!?なぜわかった!?」
「あ、え、まどかも!?」
こいつら、どうしようもないなと思う反面、ちょっと気が楽になったマミは笑いながらまたしてもコントをやる三人を見る。
「まあ、先輩。俺達、多分だけど利用しつされつな関係だと思いますよ?・・・・けど、心配ご無用ッス。絶対、そんなことさせませんから・・・・」
「・・・・そう、なら、そういうことにしておいてあげるわ」
「ウス。これからよろしくッス。先輩」
「こちらこそ。後輩君」
魔法少女、巴マミ。魔法使い、三崎巧人。
先輩と後輩であり――――友達。
この二人は、そういう関係だ。そして現状――――QBも。