「予想外だわ」
「おかげでいろんなもの失ったよ。もうお嫁に行けない・・・・」
「あなた男でしょうに」
「うぇ!?」
開会式が終わり一つ目の種目の準備の為慌ただしく動き回る生徒や教師を眺めながら巧人は失意のあまりに色々と吹っ切ったようにネタへと走る。それを軽く驚愕しながらほむらも同様に席に座りながら、しかし顔はいつものポーカーフェイスのままだ。
「ま、取引成立だ。これからは俺のプランに沿ってもらう」
「仕方ないわね。で、私はどうすればいいのかしら」
「簡単さ」
そういって今日の予定の書かれたプリントを出す。種目が時刻別に書かれ、それに沿えるようにしてクラスが記されており、その裏にはクラス専用の紙となっており種目に出る名前が書かれている。その中の男女混合二人三脚の項目を指差す。
「これにさやかと出ろ」
「マジで言ってるの?」
「マジ。つかなんでそんなに嫌いなんだよ」
「・・・嫌いというわけではないわ。ムカつくだけよ」
それを嫌いというのではなかろうか。巧人はほむらの視線の先にいるさやかを見る。緊張した面持ちでいるところをまどかと仁美が来て励ましているのが見える。そこには――――上条恭介の姿も。種目に参加はできないがこうして普通の生徒に混じって参加することは可能なくらいには体調も回復しているようだ。なるほど、これでアノ内容とは後で腹パンしてやるしかあるまいと心に誓う。
「…ただ」
「ただ?」
「羨ましい・・・・って、言うのかしらね。私はあそこまでまっすぐに生きることはできない」
「・・・・感傷的になるたァらしくないな。けど、ちょっと得した」
「あら。からかうのはいつものことでしょ?」
ほむらの皮肉に首を振る。顔を向け、二カッと笑う。
「おまえ、今の方が“人間らしい”」
「“なら、私は今人間なのかしらね”」
「・・・・どうだかな」
◆
プログラムも順調に進み、いよいよ午前最後の種目である男女混合の二人三脚・・・・なのだが、司会がコールする前に、なにやらキーンという音がスピーカーから聞こえてきた。
《あーあー、マイクテス、マイクテス。俺マイクです》
「何をやってんのよ彼奴は・・・・」
心底呆れるさやか。ネタの為には努力を惜しまないというのが三崎巧人という少年だとは周知のことだがまさかここまでやるとは思はなかった。こいつやっぱりバカではなくアホだと彼のランクをマイナス方面の彼方へと放り投げる。
《突然ですが、選手の交代をお知らせします。男女混合二人三脚第4走鹿目まどか&美樹さやかペアを、暁美ほむら&美樹さやかに変更します》
当然、ざわつきが出る。それを見て聞いてニヤリと悪魔のような笑いを浮かべて得意気にケラケラと笑うその姿はまさに悪魔のようだ。ある意味魔女より性質が悪い。こんな奴が魔法使いだとは記憶の中から綺麗さっぱり抹消したいがそうもできないことが非常にもどかしい。ネタに走るというよりはもはや暴走、暴虐の類に片足を突っ込みつつある友人Aをジト目で見る。もはや手におえんと降参しつつもその行き着く末を見届けてやろうとため息をつく。
さて、ここで気になるのは此奴がこんなことをした理由だ。いくらネタに人生を捧げるようなアホでもここまではしない。ということは、なにか理由がある。
それも、メチャクチャくだらない理由が。まあ、何はともあれこんな理不尽に屈するほどツッコミ担当の美樹さやかではない。たとえペアの相手が嫌いな奴だとしても想い人の前で負けるわけにはいかないと気合を入れる。
「・・・・よろしく」
何時の間にかまどかと入れ替わるようにしてほむらが自分の隣に来ていた。フン、とそっぽを向く。その態度に相変わらずなんの反応も見せないところをチラリとみてムカッとする。相変わらず美貌だけは認めざるをえないがそれ以外は絶対に認めないと意地を張る。それを後ろの方から見てまどかと二人ため息をつく。犬猿の仲とは昔の人たちはうまい言葉をつくったものだとマミから来た念話に応える。
『どう?二人の様子は』
『相変わらずッスね。まったくあの二人は・・・・まあ強制的にこんな状況に追い込んだからにはコレが好転してくれることを祈るしかないでしょうな』
『ところで巧人君』
『はい、なんでしょう?』
『後でお説教コースね』
「解せぬ」
◆
《さァ、始まりました二年生によるくんずほぐれつの男女混合二人三脚!実況は私、志筑仁美と》
《えっと・・・・先ほど告白されましたが僕にホモォな趣味はありません。上条恭介、解説をやらされます。とりあえずネタに走るのはやめない?》
《ネタに走ると競技の走るをかけたギャグですね上条君!おもしろいですわ、もっと聞かせてください!》
《巧人、あとでOHANASIしようか》
「勝手にフラれた上に怒り買っただとぅ!?」
理不尽だ、そう呟いて仕方なく列がすすんだ方向に自分とまどかも進む。ちなみになぜ仁美がこんなことをしているかというと本来ならば足りているはずの人数が恭介の欠席によりあふれがあるからであるのと。「こっちの方がなんだか面白そうだから」という仁美のフリーダムかつ私欲の為の強行手段にでたからである。こいつもこいつでいよいよ手におえないとさやかは自分たちの出番が来る為バトンパスを待つ。
「・・・・一つ、聞いてもいいかしら」
「なに?」
「私のこと、そんなに嫌いかしら」
「いきなりド直球かい」とはさやか「こういう聞き方しか“覚えていないの”」とはほむらだ。バトンが渡る。次は自分たちだ。
「まあ、なんつーの?あたしもよくわかんないんだよね素直なところ。でもさ、こう生理的に無理っつーかなんつーか」
「・・・・そう」
「――――あ、でも」
バトンが、渡った。そして走り出す。
「これ、冗談1割本気9割だから」
「・・・・あとで殴り殺すわよ?」
「それは大変だ、ッ!」
スタートは結んである方の足から。しかしそれは決められていたものではない。二人が自然と、ごく当たり前に踏み出した足だった。
《あら、喧嘩しないんですの?面白みがないですわね…でも、さやかさんの勇姿が見られるだけでも至高ですわ!》
《ねえ、普通に実況しようよ》
《きゃー、かわいらしいですわ!さやかさんのポニー、そして暁美さんのポニー、どっちも美しい!ビューティフォーですわー!》
《僕もう帰っていいかな・・・・?》
1、2、3・・・・それは、まさに疾風のごとく。ごぼう抜きで一気にトップへと躍り出るさやかとほむらペア。ガリガリと精神を削られていく恭介と走ってもいないのにランナーズハイになっている仁美など知ったこっちゃないと言わんばかりに走る、走る、ただ走る。その先には、まどかと巧人がいる。このペアがアンカーだ。
――――しかし。現実はそう、うまくはいかなかった。
足が、もつれる。結んでいたリボンがちぎれ、突然解放された足が勢いについていけずに宙を蹴って躰が浮かぶ。黒髪が目の前にあるのを見てそれが自分だということに気が付くまでに1秒もかからなかった。眼前に迫る地面。この体勢だと顔面からか・・・・きっと痛いだろうな、無様だろうな。そう思った、その時。目の前を白い布が被った。そして次にきた鈍い衝撃。痛みという感覚はないが、たしかに倒れたという事実だけは確認できる。
一体、なにが起きたと言うのか。恐る恐るさやかは顔が顔をあげると、そこには痛みに顔を歪めるほむらの姿があった。それが一番の衝撃で驚く。自分を庇う理由が彼女にはないからだ。だからこそその衝撃は大きかった。
「どうして・・・・?」
「・・・・今私達はペアなのよ。相棒を助けるのは当たり前でしょ?」
相棒――――決してほむらから聞くことはない言葉だ。それが、今彼女の口から出たことに驚愕する。
「なにボーっとしているの?まだレースは終わってないわ。バトン、繋ぐわよ。“二人で”」
此方に顔は見せない。でも、その向こうにいるまどかと巧人の顔を見ただけで彼女がどんな顔をしているのか、この言葉を言うだけでどれだけの恥じらいを味わってきているのかを理解してさやかは口角をあげる。
――――してやったり。
そんな巧人とまどかの笑顔とサムズアップを見て全てを悟ったさやかは小さく笑う。
ハメられた、と。
ほむらが髪を束ねていたリボンをほどき足に結ぶ。
「行くよ、“ほむら”」
「今度は転ばないでもらいたいわね。“さやか”」
「粘着質だ、っね!」
《・・・・解説の上条君。これはどうしましょうか》
《ん~…ルール上、結んでいたリボンが切れた場合は失格となります。ですが“二人の足を結ぶリボンは切れていません”ので問題ないですね》
クサい。そう思いながらイイ展開だとニヤリとまどかと二人して笑い、バトンを受け取る。
「ここまで盛り上がったら・・・・ね?まどかさんよ」
「そうだね。たっくんや」
「負けられないなァ!/負けられないねェ!」
「やだ、イケメン」
「珍しいわね。あなたがボケるなんて」
「たまには・・・・ね」
走る二人を見てそう、呟いた。
◆
「で、見事一位取っちゃいました」
「やっちゃったってニュアンスで言わない。・・・・けど、まあ今回はそれが上手い方向に転んでくれたから良しとしましょう」
「ってことはお説教コースは――――」
「もちろんあるわよ。美樹さんと暁美さんに怪我させたんだから追加一時間ね」
「ウゾダドンドコドーン!」
「ボケても無駄よ」
「ウェ!?」
愕然とする巧人を見て笑うさやか。「ざまァwwww」となるのは当然のことであり、その横でほむらも笑う。それにハッとなってまた笑った。
――――なんだ、まだ笑えるんだ。私。
「・・・・ありがとう」
その呟きは、誰にも届くことはなかった。
青春の一ページってやつですなぁ