投稿時間についてですが、今日からしばらくの間は、1日2回もしくは1回の投稿となります。時間帯は先日言った通り、2回の場合は9時と21時、1回の場合は21時となります。申し訳ありません。ご理解とご協力をよろしくお願いします。
今回は題名の通り戦いの幕開けとなります。人数では圧倒的に劣っているマドレーヌ達はこの戦争に勝つ事が出来るのか…
それでは、第12話をどうぞ!
風が強く吹きつけた時、マドレーヌの足がかたい地についた。
「なんだ?」「誰だ?」「どうしたんだ?」と敵軍がざわめく声が響いている。マドレーヌは目を開き、目の前にいる大勢の敵に対峙した。マドレーヌの想像以上に大人数で、ループの前の坂までを覆い尽くすほどの人数だ。もっとも、坂はずいぶんと長い。
間髪入れずに、ニュートとクイニーが呆気に取られている敵軍に呪詛を浴びせた。マドレーヌは恐怖を再び感じる前に何かしなくてはと思い、辺りを見回した。今や完全な戦士と化したエマが手から炎を放ち、ベスは魔法使いが浴びせてくる強力な呪文を必死に防いでいる。空中に浮かんだオリーヴは上から赤いからしを振りまき、敵軍が顔を覆ってしゃがみこむのを満足げに見ている。敵軍は主に二つのグループに分かれているようだった。一つ目のグループは、骸骨のような仮面で顔を隠し、闇に紛れる黒いローブを身につけている魔法使いたち。彼らが振る杖からは恐ろしい呪文が飛び出している。もう一つは…マドレーヌは身震いした。瞳孔がない敵のグループだった。それがワイトだ。そのグループには女性もちらほら混じり、主に男性はナイフを、女性は槍や盾を構えている。
「行くわよ!」
エマの大声で我に返り、マドレーヌは彼女を見た。その声が合図になり、ブロンウィン、エマ、フィオナが飛び出す。
「悪いなダンナぁぁぁぁぁ〜!!!!!」と奇声を上げるブロンウィンは、重たい岩をいくつも抱え、敵軍に突進していく。しかし闇の魔法使いたちが一斉に杖を振り、ブロンウィンの手からは岩が吹き飛んでしまった。
「インカーセラス!縛れ!」
一人の魔法使いが低い声で呪文を唱えた。閃光がブロンウィンに向かって飛んでいくが、彼女は気づいていない…。
「そうはさせない!」
マドレーヌの隣にいたベスが疾風のごとく走り出たかと思うと、ブロンウィンの前に割り込んで手をかざした。閃光が屈折し、呪文を唱えた張本人である魔法使いが自らの魔法にやられ、頑丈なロープに縛られた。
「かたじけない」
ブロンウィンがかしこまって言うと、ベスは「ブロンウィンったら、何時代の人なの?」と言いつつも嬉しそうに笑った。そして、また無数の呪詛を跳ね返す作業に没頭した。
ニュートは三人の魔法使いを相手に接戦を繰り広げ、クイニーは華麗に敵の足元をすくって倒している。マドレーヌはぼーっとしていたが、「マドレーヌ!」という誰かの声で自分の目の前の状況に意識を戻した。勝ち誇った顔の魔法使いが放った閃光が飛んでくる。マドレーヌは慌てて瞬間移動し、その魔法使いの背後に姿を現した。魔法使いが呆気に取られている隙に、その魔法使いの背中を勢いよく押す。彼は倒れ込み、彼の前にいるワイトにもぶつかると、将棋倒しになった。
「やるじゃない!」
エマが笑い声を上げると、倒れ込んだ魔法使いやワイトたちに火を近づけて怯えさせた。
ループに侵入しようとしている敵軍を防ごうと、ニュートとクイニー、フィオナ、オリーヴが必死に戦っている。ベスはループに浴びせられている破壊の呪文を防ごうと四苦八苦し、ブロンウィンは相変わらず重たい岩を投げている。エマは灼熱の炎をワイトに突きつけ、火傷させていた。マドレーヌは自分の仲間の活躍を目の当たりにし、誇らしく思っていた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ!」
マドレーヌが一人でにっこりしていると、誰かの叫び声が空気を切り裂いた。ハッと我に返り、慌てて声のする方に目を向ける。と、さっきまで岩を投げていた勇敢なブロンウィンが目を見張り、気が触れたかのように大声を上げていた。
「ブロンウィン!」
マドレーヌはしゃがみ込んでいるブロンウィンに駆け寄った。
「どうしたの?」と聞くと、ブロンウィンは「オリーヴが…」とささやいた。
マドレーヌはオリーヴの姿を探したが、見当たらない。代わりに氷のように冷たい笑い声が聞こえてきて、そちらに目をやった。
オリーヴが血を流して倒れていた。彼女の腕や足からは赤い血が流れ出、血溜まりを作っている。ダンブルドアが魔法をかけた、オリーヴの意思通りに動き、彼女を空中につなぎ止めているはずの金色のロープは、ずたずたに切り裂かれ投げ捨てられていた。オリーヴは今や無能に等しい。能力が弱まり、浮遊という特性を失ってしまったのだ!
そんなオリーヴを囲んでいるのは、二、三人の魔法使いたちだ。そのうち一人は冷たく光るブロンドの髪で、鋭い瞳は冷酷な光を放っている。マドレーヌはこの男性が闇の魔法使いの長、ゲラード・グリンデルバルドだと悟った。彼は不敵な笑みを浮かべ、青白い光を放った。
「キャァァァァァァァァァァ!」
オリーヴの悲痛な泣き声が夜闇を切り裂く。グリンデルバルドの呪文が鞭のようにオリーヴの細い体に巻きついている。オリーヴは身悶えして苦しがった。マドレーヌは我慢できず、思わず姿を消していた。
オリーヴの隣に姿を現すと、隣にはニュートがいた。同時に瞬間移動していたのだ。
「マドレーヌ、僕がグリンデルバルドと戦う。君はオリーヴを連れてループに戻れ!」
ニュートが彼らしくない大声を出して怒鳴った。その間にも、オリーヴの体がグリンデルバルドの呪文というナイフで刻まれているのだ。そうする他ない。
「マドレーヌ、急げ!」
ニュートはそう言い、グリンデルバルドと一騎打ちし始めた。マドレーヌはオリーヴを抱き抱え、虫の息になりかけている彼女とともに移動した。
マドレーヌたちが姿を現したループは大混乱で、入り込んだ敵と待ち構えていた味方で衝突していた。マドレーヌはその中でも平和な物置付近にいた。オリーヴの怪我はひどい。意識を失っているほどだ。誰か魔法使いを探さなくては。
「マドレーヌ?」
その声に振り向くとティナがいた。
マドレーヌはティナに飛びついた。苦しむ仲間を目の当たりにし、勇気が挫けた。ティナはやさしく受け止めてくれたが、すぐに「オリーヴね?」と杖を上げた。
オリーヴは見る見るうちに回復していった。薄桃色の閃光が彼女の血を拭い、エメラルドグリーンの閃光はオリーヴの傷をふさぐ。ティナは「オリーヴ、大丈夫よ」と母親のような口調で励まし、オリーヴは意識を取り戻した。
「…ティナ?マドレーヌ!」
オリーヴがマドレーヌの腕の中で、きょとんとした瞳で言った。
「…あっ!」
オリーヴが小さく悲鳴を上げた。今どこにいるのか、そして何故ここにいるのかに気づいたのだろう。彼女の痩せこけた頬が恐怖で青ざめる。マドレーヌはオリーヴの頬を自分の手で包んだ。ティナは何錠か薬を出し、オリーヴに飲ませている。
「うぇーっ、気持ち悪い!」
オリーヴが吐きそうな声を出した。ティナはオリーヴの背中をぽんぽんと軽くたたき、オリーヴが六つの錠剤を一気に飲み干してしかめっ面するのを見守っている。
「オリーヴ、リュックサックは?」
マドレーヌがはたと気づいて聞いた。マドレーヌたちは皆、食料や衣服などがぎっしり詰まったリュックサックを背負っているはずなのに、オリーヴはそれを持っていない。
「分からない…置いてきちゃったかも」
オリーヴがけろりとして言った。ティナは慌てて「水を飲まなきゃ!さあ…」と自分のリュックをかき回していたが、物置の中に敵が何人か潜入してきてしまった。
「ゴールドスタインだな?」
激しい嫌悪のこもった視線をティナに向けているのは、他ならぬグリンデルバルドだ!
「逃げて!マドレーヌ!」
ティナが叫ぶより早く、マドレーヌは姿を消した。遠ざかっていくループの中、ティナのオリーヴを抱いて瞬間移動する姿がおぼろげに見えた。ティナの背中にグリンデルバルドの強烈な閃光が打ち付けられるのを、マドレーヌは見た。
心の中で、エマのところ、と願った。マドレーヌはエマに会いたかった。やさしいけれど怒りっぽいエマを見たかった。
はたしてエマはそこにいた。耳をつんざく騒音の真っ只中で、エマはマドレーヌの手を握った。エマのブルーの瞳がきらめいている。その目には涙が光っていた。
「マドレーヌ、どこに行っていたの?心配したんだからね!」
エマが言った。マドレーヌはエマの耳に顔を寄せて「オリーヴよ。ティナの応急処置で最悪の事態は免れたわ」とささやいた。エマはうなずき、マドレーヌの手を引いて走り出した。
「ループはどう?」とエマ。敵軍がどれだけループに入り込んだのか知りたいのだ。
「ごめんなさい、私は物置にいたから。でも、グリンデルバルドがいたわ」
そう言うと、エマがさっと青ざめた。
「グリンデルバルド…?」
「…そう」
「これ以上侵入させてはダメよ!一人でも多く倒すの!」
エマが決意を固め、マドレーヌの手を離した。エマの温もりが離れていく。マドレーヌはふと寂しさを感じたが、気を取り直した。自分にできることをしなくてはならない。
「…マドレーヌ、フィオナ、クイニー!誰か!」
エマの声が戦場と化したループ前に響き渡り、マドレーヌは飛び上がった。数十秒前に別れたばかりのエマの姿を必死で探し、息を呑んだ。
ループ内から戻ってきたグリンデルバルドが、エマに呪いを浴びせていた。エマは右に左にと交わしているが、随分辛そうだ…。
エマのかけ声に、フィオナとクイニーが彼女のもとへ駆け寄った。マドレーヌも迷わず参戦する。四対一の戦いが始まった。
エマがグリンデルバルドの隙をついて炎を放つが、呆気なくかわされた。マドレーヌは姿をくらまして彼の後ろに移動し、背後から突き飛ばそうとしたが、だめだった。クイニーの閃光とグリンデルバルドの閃光が衝突し、楕円型の光を反射している。恐ろしくも神々しい。
グリンデルバルドはクイニーの閃光を地面に投げ捨て、新たな閃光で襲った。強烈な藍色の閃光がクイニーの髪を激しくなびかせる。クイニーは歯を食いしばり、必死に持ちこたえている。
フィオナが前に進み出ると、手に持っていた蔓の種を投げた。グリンデルバルドの足元に落ちるが、彼はこんなものは屁だという顔で笑っている。一瞬後、グリンデルバルドが甲高い悲鳴を上げた。
蔓がグリンデルバルドの体に巻きつき始めたのである。フィオナは顔を歪ませ、必死の思いで蔓を仕掛けている。グリンデルバルドが身動きを取れなくなった時、フィオナが「逃げるよ!」と大声を出した。
四人は全力疾走した。闇の魔法使いから浴びせられる閃光を何とかかわし、不意に前に立ちふさがるワイトの刃物の切っ先をかわし、とにかく走った。クイニーは途中途中で振り向き、「プロテゴ!守れ!」と呪文を唱えて閃光を屈折させてくれた。時には「リクタスセンプラ!笑い続けよ!」や「アグアメンティ!水よ!」と言って時間を稼いだ。四人は走り、走り、走った。
それから何分が経っただろうか。
マドレーヌは走る足を止めずに後ろを振り返った。敵軍はついてきていない。次に前を向き直り、エマを見た。そして、彼女の向かおうとしている場所が分かると蒼ざめた。
自分たちの目の前には海岸が待ち受けていたのだ。もしも今、敵軍に攻められれば…。前方からも、左右からも挟まれてしまう。つまり、逃げ道はない!それに…。
「海で何するの!?」
後ろでティナが叫んだ。オリーヴを誰かにあずけて戻ってきたのだ。ティナは本来内軍だが、もうそんな区別をつける暇もなかった。はたしてマドレーヌは最もな意見だと思った。敵に追われたら海岸のほうに逃げるという案を出したのはクイニーで、エマとブロンウィンは二人で作戦を立てたらしい。
ブロンウィンが近づいてきてマドレーヌとティナを引き寄せると「エマとわたしの言う通りにしてて。そうしてくれなきゃ困るから」とささやいた。そこで、二人はおとなしくついていった。後ろにいるクイニーは意識を集中させているように見える。
浜辺についた。
エマとブロンウィンがうなずき合い、クイニーが「私たちが立てた作戦は…」と説明を始めたその時、「マドレーヌ!クイニー!ブロンウィン!エマ!誰か助けて〜!」という大声がクイニーの説明をさえぎった。四人が大慌てで振り向くと、全力疾走してくるベスの姿があった。必死な面持ちで、今にも泣き出しそうな顔をしている。
第12話、いかがでしたか?
今の所、マドレーヌ達は善戦しています。大きな被害はありませんが、唯一オリーヴがゲラート・グリンデルバルドの魔の手にかかり、危うい所で一命を取り留めました。
海を利用した作戦を実行しようと企むクイニー、ブロンウィン、エマ。果たしてその作戦とはどんなものなのか。そして、全力疾走してきたベスが伝えたいことは…?
それでは第13話でお会いしましょう!