第2話の投稿後UAを見てみると、一気に増えていて驚きました!これもひとえに皆さまのおかげです。ありがとうございます^_^
魔法×特殊能力という好みの分かれる物語ですが、多くの方にお楽しみいただければ何よりです。
それでは、第3話をどうぞ!
その晩、マドレーヌは奇妙な物音で目を覚ました。コツコツと床をたたくような音だ。不気味に思い、起き上がってみると、ドレッサーの台に大きなコートがかかっていた。やけに分厚いコートだ。しかも、動いている。腕を通す部分がはためいている!マドレーヌはスリッパをつっかけてそっと立ち上がり、もっとよく見ようと近づいた。恐る恐るドレッサーの台の前で立ち止まると、その物体——大きな鳥——と目が合った。マドレーヌは思わず叫びそうになったが、なんとか堪え、口を覆ってよろよろと後ずさった。
鳥は鋭い目をマドレーヌに向け、注意深く見つめている。マドレーヌも見つめ返した。すると、鳥が静かにはばたき、飛んでいきそうになった。マドレーヌは思わず小さな声で「行かないで!」と頼んだ。相手は生き物なのだが、とっさに口に出したのだ。そのとき、鳥はありえないことをした。まるで言葉が通じたかのように、マドレーヌのところまで戻ってくると、羽に挟んでいた薄い紙を床に落としたのだ。そして、鳥の右側の羽がベスのベッドのほうに動いた。
「えっ?」
マドレーヌは驚き、そう聞いた。すると鳥はマドレーヌのベッドの隣にある机に止まり、もう一度同じ動作をした。間違いなくベスのベッドを指している。
「ベスを起こせばいいですか?」
マドレーヌは声をひそめて聞いた。鳥は嘴をカチカチと小さく鳴らした。マドレーヌはそれを「その通り」という意味だと捉え、眠っているベスに近づいてかがみ込み、「ベス、起きて」と呼びかけた。肩を二、三回たたくと、ベスは目覚め、不機嫌に「なに?」と言った。マドレーヌは素直なベスがびっくりして大声を出す可能性があると思い、「いい?ベス、あなたの左側を見て。そこを見て驚くでしょうけれど、絶対に騒がないでね?隣の部屋で寝ているお母さん達が驚いちゃうから」と釘を刺した。ベスは神妙な顔つきで「うん」とささやき、そっと左側を見た。そして、声を抑えつつ「えーっ!?」と驚きを表現した。
「ペレグリンだ!私、初めて見た!」とベス。
「なに?」とマドレーヌは聞き返した。
「ペレグリン・ファルコン…ハヤブサだよ!なぜこんなところにハヤブサが!?」
驚くベスを残し、マドレーヌはドレッサーの台の下に落ちた紙を拾いに行った。ほのかな明かりの下にかざして読む。
「今すぐ、前に指定した場所に来ること。親が心配すると考える必要はない」
エマ・ブルームの筆跡に違いない。マドレーヌはぞくっとして、ベスと二人で身を寄せ合った。ベスもその内容を読む。
「これを届けてくださってありがとうございます。今すぐ支度して向かいます」
ベスがハヤブサに言った。ハヤブサはマドレーヌが静かに開いた窓から飛び立ち、完全な闇に紛れてしまった。
「大変なことになった。彼女は、こんなことを言ってるけど、絶対、お母さん達は心配するよね」とベスが言う。
マドレーヌも彼女に同感だ。母たちが起きて、マドレーヌたちがいないと分かったら、警察沙汰になってしまう。それだけは避けたい。
「ハヤブサに『今すぐ支度して向かいます』って言っちゃったから、行かなきゃだめだよね」
ベスは自分の言った言葉を悔やんでいる。マドレーヌは「ベスが伝えちゃった相手はハヤブサで、人間じゃないでしょ?言葉が通じるなんて…」と言いかけたが、言葉を呑み込んで考えた。
「あっ、でも、言葉が通じたかのような動きをしていた…」
マドレーヌは言い直す。
「ね、マドレーヌ、あのハヤブサの持ってきた紙に書いてあった内容に従えば、もしかしたら謎を解くきっかけになるかもしれないよ!『心配すると考える必要はない』って書いてあるしね!」
ベスが言った。マドレーヌは考えた。あの謎に包まれたハヤブサの謎を解きたい。
「夜に二人だけって、危なくない?」
マドレーヌはそう言った。まだ来たばかりのケインホルムで、何かあったら怖い。
二人は顔を見合わせて押し黙る。しばらくして沈黙を破ったベスは「じゃあ、明日の朝十時に行ってみようか。もうすぐ夜が明けちゃう!眠い…」とあくびをした。マドレーヌはうなずき、それぞれのベッドに戻ろうとする。
そのとき、聞き違いようのないはばたきが聞こえたかと思うと、ハヤブサがマドレーヌの肩に止まった。その重みによろける。
「ど、どこから入ってきたんですか?」
マドレーヌは驚き、つっかえながら聞いた。ハヤブサはマドレーヌを羽でつつき、もう片方の羽をドアに向けた。
「ドアから?」とベス。ハヤブサはまたドアのほうを見た。
「あっ!ごめんなさい!今すぐ行きます、今すぐ!」とベスが焦った。だが、ハヤブサは羽を上下させて「違う」というような動作を見せ、何度もその動作を繰り返す。マドレーヌはぴんときた。
「あなたが古い戦時中の孤児院の近くに連れて行ってくれるんですか?」
マドレーヌの言葉に、尊大な目つきのハヤブサは羽をバタバタやり、急かすようにつついてきた。
「分かりました」
マドレーヌとベスが答える。そして、すぐに支度し始めた。
パジャマの上に厚手のコートを重ね着し、マフラーを首に巻き付ける。安全のため、ポケットに携帯電話を入れておく。靴を履き替え、準備完了だ。
「連れて行ってくれますか?」
マドレーヌが頼むと、ハヤブサは正面の扉ではなく、ドレッサーの台に回った。そして、鋭い嘴を器用に扱い、隠し扉を開いた!外側からは分からないよう、周囲になじませて作ってあるようだ。
「うわー!」とベス。ハヤブサは二人の背中をつついてしゃがませ、先導して入っていった。マドレーヌはベスの顔を見た。ベスの顔にはきらきらとした興奮がはっきり出ている。一人ずつ、小さな隠し扉の中に入った。ふたりが中に入ったのを確認し、ハヤブサが扉を閉めた。
中は暗いトンネルのようだ。そこをきつい態勢で通り抜けると、青空があらわれた!
最初は夢だと思った。ついさっきまで夜の暗闇に閉ざされていた世界が、一変して朝を迎えるなんて!
「なんで朝!?」と叫んだベスはハヤブサを見たが、鳥は「そんなことは後で」とでも言いたげに嘴を鳴らし、ゆっくりと飛んでいく。二人は顔を見合わせてついていった。
美しい青空の下で、大勢の人々が活動している。先ほどまでは確かに凍えてしまう寒さだったのに、真夏の蒸し暑さが空をけだるげに覆っている。二人は顔を見合わせ、ひとまずマフラーで汗をぬぐった。
二人とハヤブサは、なるべく目立たないような道を通った。ハヤブサが先導して裏道を教えてくれるのだ。
街を抜けると、急な坂道が立ちはだかった。ハヤブサは空を飛ぶのであっという間だが、二人はこの泥だらけの急斜面をどう切り抜けようかと考えなくてはならない。
「もういい!気にしないで行く!」
ベスはそう叫ぶと、走って道を駆け上がった。マドレーヌも笑いながらそのようにした。たちまちスニーカーが泥まみれになり、体が沈んでいく。先に上についたベスが引き上げてくれた。二人とも息を切らしている。
「ハァ、ハァ、ハァ…じゃあ、行こうか」
ベスがそう言うと、ハヤブサはまた先へ進んだ。
と、目の前に大きな建物があらわれた。崩れ落ちた廃墟は怪物のようで、蔓が不気味に巻きついているせいで屋根が傾いている。
「ねえ、ハヤブサさん、古い孤児院ってどこですか?案内してくれますか?」
ベスが言うとハヤブサは舞い上がり、建物の割れ目のある柱にとまった。嘴をカチカチと鳴らす。
「もしかして、ここ!?」
マドレーヌが尋ねる。
ハヤブサは甲高く鳴き、たちまち翼を広げて飛び去ってしまった。
「入る?」とベス。
「入る気がしない…」
「そうだよね…」
二人は目を合わせてうつむく。化け物屋敷のようなこの建物に入るなんてまっぴらだ。
「でも、入ってみようよ!せっかくハヤブサが連れてきてくれたんだもん」
ベスは好奇心旺盛なのだ。
「え!」
マドレーヌは正直言って入りたくない。それに、この不思議な世界から出たくてたまらない。
「ほら、行ってみようよ!謎を解こう!」
ベスはマドレーヌの手を取り、引っ張るようにしてつれていく。マドレーヌは抵抗する気力が失せ、そのままついていった。
ドアが見当たらないので、窓の割れ目から入った。薄暗く、どこから化け物が出てくるかわからないほどだ。二人はぴったりとお互いに寄り添って歩いた。
「あっ」
ベスが先を指さした。マドレーヌが目をやると、ちらっと明るい光が見えた。ゆらめいている。
「誰かいる!」
ベスが走り出すと、光が動いた。いや、光ではない。火だ。その火のおかげで、マドレーヌたちは隠れていたらしい女の子を見ることができた。
第3話、いかがでしたか?
今回は、真夜中に訪問者(訪問鳥?)、異世界への誘いという内容でした。
ベスが「ペレグリン」と言っていますので、このハヤブサの正体は皆さんお分かりの事でしょう。
登場人物にさりげなく明かされたのではどうしようもありません。私もまだまだだなぁ…
今回は物語の進展が遅めでしたが、次話からは大きく展開が動きますのでお楽しみに!
それでは第4話でお会いしましょう!