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それでは、第4話をどうぞ!
シンプルな白いワンピース姿の少女は、素手で火の玉を抱えている。彼女は近づいてきた。一歩一歩、こちらに向かってくる。距離が縮まるにつれて、少女の顔がはっきりと見えた。
かわいい顔立ちだが、不安と怒りの入り交じったような表情を見せている。少女は火の玉を器用に操り、引き伸ばすように手を動かす。炎の縄になった。そして、マドレーヌに近づくと、両手をマドレーヌの腰まわりに回した。なんと、マドレーヌは炎の縄に囲まれてしまったのだ!
女の子は何度もマドレーヌのまわりを回り、手をかざして丸い炎の壁を作った。マドレーヌは包囲され、その場から動けなくなる。金縛りにあったように足がすくみ、恐怖がじわじわとマドレーヌを蝕む。
「炎に溶かされたくなければ、その場から動かないで」
女の子が低い声で言った。同じように包囲されたベスの顔も恐怖で青ざめている。
やがて、女の子は二人が完全に動けないことを確認し、身を翻して行ってしまった。
少しして戻ってきた少女は、何人ものこどもたちを従えて歩いてきた。少女たちと少年たちは普通の子たちに見える。その中の一人の少年が前に進み出て、「エマ、彼女たちを自由にしてあげたら?」と炎を出す女の子に言ってくれた。エマと呼ばれた炎を出す少女はしかめっ面で「はいはい。でも彼女たちが逃走したら、ジェイコブ、あなたも責任を負うのよ」と言いつつも、二人を自由にしてくれた。エマという名前がわずかにひっかかるが…。
「ありがとう」
マドレーヌが男の子に言うと、その少年が「僕はジェイコブ・ポートマン。彼女はエマ・ブルーム」と教えた。
「あなたが…!?」
マドレーヌとベスが叫ぶ。少女はつまらなそうに炎を両手で転がしていたが、「そうよ。私がエマ・ブルーム」と言った。
「私たちに手紙をくれたのもあなたですよね?」
ベスが言う。
「ええ」とエマ。
「あなたは私の祖母と親しかったんですか?あのブレスレットは本物ですか?それに…」
マドレーヌはつっかえた。言いたいことがたくさんありすぎるのだ。
「〝鳥〟に会わせてからじゃなきゃダメ」
エマは意味深に言った。
「エマは怒りっぽいんだ。僕が彼女に初めてあった時、彼女に殺されかかったしね」とおどけるジェイコブ。
「ちょっと、やめてよ、ジェイコブ。あの時のことは忘れて!」
エマは恥ずかしそうに言った。そして一変し、「ほら、行くわよ。オリーヴ、この子の手をつかんでおいて。フィオナ、あなたはこの子の手をつかんで」とそれぞれに言った。マドレーヌの手を小さな少女が取り、おとなしそうなお下げ髪の子がベスの手を取る。奇妙な集団とともに、マドレーヌとベスは歩き出した。
一行はエマの厳しい監視のもと、青空の下に飛び出した。マドレーヌの手を取っている少女はすぐに手を離し、「あたし、オリーヴ。あなたは?」と聞いてきた。かわいらしい小さな女の子だ。短い赤毛をもつ、小柄で人懐こい雰囲気の少女。
「マドレーヌ・ウェントワース」
マドレーヌはオリーヴを見た。オリーヴはにっこり笑い、「あたしは空中浮揚できるの」と言った。マドレーヌは聞き間違いだと思い、「空中浮揚って聞こえた気がしたけれど、気のせい?」と言った。するとオリーヴはくすくす笑い、「もう、マドレーヌったら!聞き間違いなわけない!」と言った。
「あなたたちは普通の人じゃないの?」
マドレーヌは夢を見ているような不思議な気持ちになった。
「もちろん、普通じゃないよ。ピキューリアだもの!マドレーヌもそうでしょ?」とオリーヴ。ピキューリアというのは何だろう?
「うーん、私は普通の人間だと思う…多分。それよりも、あなたの能力を見せてもらえない?」
マドレーヌはうずうずしていた。
オリーヴはまた笑って「〝鳥〟に会ってから!」と言った。そのとき、エマがまたやってきて「オリーヴったら何してるのよ!もういいわ、ミラードのところにでも行ってて。私がこの子を見張るから」と言った。オリーヴは「えーっ、分かったよ」とつまらなそうに石を蹴り、前に行ってしまった。
「あなたが私の祖母の親友だったというのは、本当?」
マドレーヌは聞いたが、エマはいらついたように舌打ちすると「後でって言ったでしょ。自分勝手な人」とぶつぶつ言った。マドレーヌは機嫌を損ねてはいけないと思い、「ごめんなさい」とすぐに謝った。エマは答えずにマドレーヌの手をつかみ、「ほら、ぐずぐずしてないで」と引っ張った。マドレーヌはおとなしくついていく。この情緒不安定な怒りっぽい女の子がエマ・ブルームだなんて信じられない。だが、もうどんなことでも受け入れてやるという気持ちで、気付くと前にあった大きく立派な屋敷を見た。
「さっき君がたどり着いた孤児院だ」
いつの間にか隣にはジェイコブがいて、そう説明してくれた。マドレーヌはこの優しそうな少年なら説明してくれそうな気がして、「あの、後でいいけれど、事情を説明してくれませんか?」と聞いてみた。ジェイコブは笑いながら「うん」と言ってくれた。
ジェイコブに導かれ、マドレーヌは屋敷の扉の前に来た。お下げ髪の少女がドアを開けてくれ、マドレーヌ、お下げ髪の少女、ベス、ジェイコブが最初に中に入る。後ろからは怖い顔をしたエマが来た。後ろから、ぞろぞろとこどもたちも入ってくる。
「靴についた泥を落として」
エマに言われ、マドレーヌとベスは泥をきれいに払い落とした。エマはマドレーヌとベスを残し、こどもたちを連れて行ってしまった。「〝鳥〟に伝えてくるから、おとなしくしてて」と言い残して…。
ベスはこどもたちの姿が廊下から消えるのを見計らって「何が起こっているのか、説明してくれない?」と言った。マドレーヌは首を横に振り「私も分からないわ」と言った。そのとき、空中で声がした。
「透明人間にご用心」
おもしろがっているようだ。二人は飛び上がった。
「だれ?」とマドレーヌ。
「俺はミラード・ナリングズ。いわゆる透明人間だ。この特殊極まりない能力を利用して、様々な悪事を働いている」
ミラードが言った。
「よろしく」
二人は挨拶した。手から炎を出す女の子に、空中浮揚少女に、透明人間。ほかにはどんな能力を持つこどもたちがいるのだろう?
「夢を見ているみたい」
ベスが言った。と、足音がして、エマが戻ってきたことを告げた。彼女は怒ったような顔で「ほら、来て。〝鳥〟があなたたちに会うって」と言い、「ミラード、あなたは私と一緒に来て」と空中をつかむ動作をして、ミラードの肘(だいたいそのあたりだろう)をつかんで連行していった。
「私たちは…一体どうすれば?」と、二人は顔を見合わせる。すると、もうすっかり慣れてしまった甲高い鳴き声がして、マドレーヌの肩にずっしりと重みがきた。ハヤブサだ。
「こんなところにまで来たの!?」
ベスが声を上げる。マドレーヌも肩に乗っているハヤブサを見、信じられないような気持ちになっている。
すると、向こう側から小さな少女が駆けてきた。金髪の巻き毛をもつお人形のような少女だ。
「ミス・ペレグリン、私の腕に止まって」
その女の子は腕をつき出し、そこにハヤブサを止まらせた。ハヤブサは威厳を示すように鳴き始める。女の子とハヤブサは物陰に隠れてしまい、見えなくなった。ベスは不可解な表情でマドレーヌを見、マドレーヌも見返す。
少しして戻ってきた少女は、もうハヤブサを連れていなかった。代わりに背の高い女性が一緒にいる。女性は手袋をはめた右手を差し出し、マドレーヌに握手を求めた。
「アルマ・ペレグリン院長です。初めまして、ミス・ウェントワース」
マドレーヌは女性の手を取った。アルマ・ペレグリン院長は黒いカラスのようなコートを身にまとい、羽のようなショールを巻き付けている。深い青緑で統一された衣装は、まるで夜空を飛ぶ鳥のようだ。彫りの深い顔立ちをしている。
「お目にかかれて光栄です。マドレーヌ・ウェントワースです」
マドレーヌはそう言って軽く腰を曲げた。
「初めまして、ミス・トッカ」
院長はベスの手を取った。ベスは興奮を隠しきれない様子で、院長をじろじろと見回している。無理もない。
「さて、あなたがたは今、私の保護を受けているわけではありませんので…ミス・ペレグリンと呼んで頂けますか?」
院長-ミス・ペレグリンがそう言った。
「分かりました、ミス・ペレグリン」と二人はすぐに答える。
「あなたはハヤブサなんですか?」
ベスの唐突な質問に、ミス・ペレグリンはたじろぐことなく微笑みをたたえ「その通り」と答えた。
「お二人とも、こちらへ」
ミス・ペレグリンが手招きし、二人は空っぽの食堂に足を踏み入れた。金色の豪華な丸テーブルをふかふかの椅子が囲んでいる。どこもかしこも美しい目を奪われる屋敷だ。
隅にあったイスに座ると、二人の前にミス・ペレグリンが大きな肘掛け椅子を引っ張ってき、そこに腰を下ろした。
「あなたがたからも質問があるとは思いますが、最初に私の話を聞いてくださいね。私はインブリンといって、特殊能力を持ちます。インブリンというのは鳥に変身する人間を指します。そして、インブリンはループを作り、そこに奇妙な能力を持つ人々——ピキューリアを住まわせ、かくまい、保護します」
ミス・ペレグリンは静かにこう語った。
「インブリンは鳥に変身する能力を持ち、時間を操る能力も持つのです。私の作ったループでは、ある一日を永遠に繰り返して生活しています。こどもたちは外見上は歳をとることはありません。ここにいれば安全ですし、悪人たちは一歩も近寄れません。ここは楽園なのです」
するとベスが「どの日を繰り返しているんですか?」と質問した。ミス・ペレグリンは笑って「ミス・トッカ、質問は後でにしてくださいと言ったでしょう!まあ、あなたが気にするのも分からなくはありません。1940年、9月3日を繰り返しています」と答えた。
「なぜ、その日を繰り返しているんですか?」
「ミス・トッカ、その日は何の日だと思いますか?ここ、孤児院に爆弾が落とされ、崩壊した日です。その日を永遠に繰り返し、私達は生きています。死ぬ直前に防ぎ、時間を戻し、また朝になるのです」
ベスの問いに答えたミス・ペレグリンは大真面目だ。マドレーヌは自分が蒼ざめていくのが分かった。そうか、そうなのか。ループに入る前のここは、崩壊した化け物のような建物だった。それは、表向きは爆弾で壊されたからだ!戦争中、敵の手が狂い、誤ってこの孤児院に爆弾が落ちてしまったからだ!恐ろしい秘密が一つ明らかになった。
「ミス・ウェントワース、心配はいりません。私達は生きていますから」
ミス・ペレグリンが言った。マドレーヌは震えながらうなずいた。
「これだけは覚えておいてください。あなたがたがこのループに入れたことは、決して偶然ではありません。あなたがたは特殊な能力を持つのです。ここでの生活を楽しみつつ、自分の能力を見つけなさい」
ミス・ペレグリンは笑いかけ、鋭い目を細めた。
「あの、ミス・ペレグリン?」
マドレーヌはもう我慢できず、質問をしようと試みた。
「私たちは——私とベスは、特殊な能力を持つんですか?」
「ええ」と、彼女は大真面目に言った。
「そうでなければ、ループには入れませんから」
ミス・ペレグリンが答え終わると同時に、ベスがマドレーヌも聞きたかったことを質問した。
「私たち、お母さん達のいるホテルに戻らなくちゃ!だって、心配しますよね?」
ミス・ペレグリンは笑いを隠せない様子で「大丈夫です。お母さまたちには、私からの手紙を届けておきました。ミス・ウェントワースは祖母の謎を見つけ、おばあさまの親友も見つけたという内容です。お母さまは私のことをよくご存知ですから、きっと承知してくださることでしょう」と答えた。
「えっ?お母さん、ミス・ペレグリンのことを知っているんですか?」
ベスが素っ頓狂な声で言った。
「あなたのお母さまは、残念ながら知りません。しかし、ミス・ウェントワース、あなたのお母さまはよくご存知ですよ。あなたのおばあさまが亡くなってから、何度かお会いしました。きっと今回のことにも、私が絡んでいると知っていたはず」
ミス・ペレグリンが説明した。そして手を打ち鳴らし「さあ、遊んでいらっしゃい!ただし、自分の能力探しを忘れずにね」と言った。二人は顔を見合わせて笑い合い、部屋から飛び出した。
部屋の外には、驚いたことにエマが立っていた。
「来て。話があるの」
エマはマドレーヌの腕を引っ張りながら、ベスに「悪いんだけど、先に中庭に出ていてくれる?私たちもすぐ行くから、遊んでいていいよ」と言った。申し訳なく感じたマドレーヌが「ベス、ごめんね…すぐ行くね」と謝った。まだ未知の世界で、よく知っているのはお互いだけ。そんな中で知り合って間もない子どもたちと遊んでいて、と自分が言われたら、さぞかし不安に思うだろう。マドレーヌは他人の気持ちを考えて行動できると言う長所を持っているので、そう思ったのだ。
マドレーヌの謝罪を聞き、ベスは驚いたように目を見張ると「ううん!マドレーヌ、謝るなんて!私、先に遊んでるね!」と明るく言った。
「ごめんね」と気まずそうなエマ。彼女に笑顔を向けてから、ベスは三つ編み少女、フィオナと連れ立って庭に出た。マドレーヌはエマに連れていかれ、ある部屋の前で立ち止まった。
「私の部屋よ。来て」
エマがドアを開けてくれ、マドレーヌは彼女の部屋にお邪魔することにした。シンプルな部屋で、きちんと整頓されている。ベッドの隣にあるデスクの上にはステンドグラスのランプが置かれ、壁には二人の少女が花畑の真ん中で手を取り合い、にこやかに楽しんでいる様子の絵画がかかっている。
「座って」
エマはベッドの隣にある椅子をすすめた。マドレーヌが座ると、彼女はベッドにちょこんと腰掛け、話し出した。
第4話、いかがでしたか?
今回は、マドレーヌ&ベスのエマ・ブルーム達との出会い、ミス・ペレグリンからの説明という内容でした。
第5話ではいよいよエマとマドレーヌの会話です。一体どんな事実が明らかになるのか…。マドレーヌとベスが屋敷に連れて来られた理由も気になるところです。
そして、今回からピキューリアの子どもたちが登場しました。彼らとの友情はこの先重要になってきます。それぞれが特殊能力を持っているので、戦いの際はそれを生かす事でしょう。
そういえば、原作と映画ではエマとオリーヴの能力が入れ替わっていますよね。原作ではエマが炎を操る能力、オリーヴが空中浮遊能力となっていましたが、映画では逆でした。私は原作の能力の方が好きです。エマの性格が反映されているような気がします。そういう訳で、このSSも原作の方の能力となっています。
あと、エマは私のお気に入りキャラでもあります。短気で怒りっぽいけれど、情に熱い優しい性格のエマ。魅力的です。
…思わず長々と語ってしまいました^^;
それでは第5話でお会いしましょう!