今回からはファンタビキャラが出動します。投稿時、私も思わずワクワクしてしまいました。
そういえば投稿時間なのですが、今のところは9時、15時、21時の1日3回となっているのですが、忙しくなってくるとそれが厳しくなり、朝・夜の2回もしくは夜だけになってしまう事が多々あると思います。投稿できない日が出てきてしまう事も否定できません。申し訳ない気持ちでいっぱいです。が、そんな時でも気長にお待ちいただけると嬉しいです(*^▽^*)
それでは、第7話をどうぞ!
ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたちは時間のにループよって、永遠に平和な時を過ごしていた。いや、過ごすはずだった…。しかし、マドレーヌとベスがこどもたちに会って五日目から、初めてその平和な状態が途絶えてしまった。
その日、ベスとマドレーヌはいつものように、朝起きてすぐ屋敷にやってきた。そこでは、ミス・ペレグリンがせわしなく働いていた。二階のエマの部屋に行くと、そこでは何やらいたずらっぽく笑うオリーヴとクレアがいた。エマは腕を組み、手から炎を出している。
「どうしたの?」
ベスが言うと、エマは初めて二人が来たことに気づき、歓声を上げて駆け寄った。
「よく来てくれたわね!」とエマ。
「二人が」
エマがオリーヴとクレアを指すと、手から出した炎の勢いも激しくなる。
「屋敷を抜け出してループを出ようって言うのよ。二人はしょっちゅうループから抜け出して街へ遊びに行ってるの。街には悪人もうろついていて、二人がどんな目に合うかもわからない。それをミス・ペレグリンも知っていて、厳しく注意してるのに。まったく!」
エマが脅すように二人に炎を向けるが、二人はくすくす笑って作戦会議中だ。
「ピキューリアである限り、ここから出てはいけないのよ!ループが壊れて直す時だけって、〝鳥〟に言われてるの。私だって、たまには抜け出すこともあるけど…二人はしょっちゅうなの!」
「だって、退屈だもの、エマ。ね、クレア?」
「そうなの!ここにいるだけじゃ、つまらないわ」
オリーヴとクレアが口々に言う。不満げな口調だ。
「じゃあ、行ってきまーす!エマ、告げ口しないでね!」
「なにかお土産を持ち帰るわね」
二人の少女は楽しそうに笑いながら部屋を出ていった。
「ミス・ペレグリンが忙しそうにしている時に、庭に行くふりをして出ていくのよ。私だって告げ口は嫌いだけど、二人は幼いから分別がつかなくて危ないの。だから、〝鳥〟に言わなきゃダメなのよ」
エマがため息をついた。
「まあ、しょうがないわ。二人とも、庭に来て!」
エマは呪縛を解くように手をたたき、庭に行こうと誘った。そこではこどもたちが待っていて、暇をつぶすようにしてみんなで遊んでいる。
「ブロンウィン、あの二人ったら、また街へ行ったのよ」
エマがブロンウィンに近づいた。
「危ないじゃん!」
ブロンウィンが腹立ちまぎれに石を投げ飛ばす。その石はトピアリーに突っ込んで穴を開け、フィオナが悲鳴をあげた。
「君が注意しろよ!知ってたんだろ?」
イーノックが命を吹き込んだガイコツの兵隊を動かし、エマのほうに歩かせながら言った。
「仕方ないでしょ。何度注意しても聞かないんだもの。だいたい、その変なガイコツ、どっかにやってよ!」
自分の足を木の棒でつつくガイコツを見て、エマが苛立つ。こどもたちは口々にみんなを責め始めた。ベスとマドレーヌはせっかく遊びに来たのに誰からも相手にされず、二人で芝生にしゃがんで言い合いを見ているしかなかった。
幸い、喧嘩は十五分で終わった。ジェイコブが「二人が帰ってきたらみんなで注意しよう。エマひとりで言うよりもその方が効果的だと思う」といい提案をしたので、みんな納得し、二人が帰ってくるまで待とうということになったのだ。そこで、みんなは広間で様々な会話をしていたが、一時間経っても二人は帰ってこない。
「普段は三十分以内に帰ってくるのに。一気に老けちゃうから」とブロンウィン。
さすがにエマが心配し、「ループの入口に行ってくる」と駆け出していった。二人がいないことにミス・ペレグリンも気づき、「何かなければいいのですが…。こういう事になるからこそ、二人には厳しく注意しているのに、まったく!!」と、いらいらして言った。
「ベス、私たちもエマのところに行かない?彼女ひとりだと、何かあったら危ないでしょ?」
マドレーヌは騒然となっている中、小声でベスに言った。ベスがうなずき、「ミス・ペレグリン。私たち、エマと一緒に二人を待ちます」と言った。それから二人は急いでエマのところに向かった。
エマはループの入口の石垣にもたれて立っていた。二人が走り寄るとエマは笑顔になり「来てくれたのね!」と迎えた。三人で石垣の上に乗る。
「二人とも遅いわ。〝鳥〟は気づいた?」と、エマが声のトーンを落として聞く。
「うん、気づいてた。それよりも二人はどうしたのかな?」
ベスが思案を巡らせる。
「あっ!戻ってきた」
エマが声を上げた。背の低い二人が寄り添ってトンネルを歩いてくる。両手に紙袋をさげ、楽しげに話を交わしている。その時マドレーヌは、クレアとオリーヴの後ろにある影をはっきりと見た。
「ベス、エマ、二人の後ろに誰かいる!」
マドレーヌは不安になり、二人にそう言った。ベスが暗いトンネルに目を凝らし「本当だ!」とささやく。
「オリーヴとクレアを尾行してきたんだわ。きっとワイトよ。〝鳥〟に伝えなくちゃ!早く!」
エマがいらいらとマドレーヌの服のすそを引っ張る。
「ワイトって?」
ベスがここぞとばかりに聞いたが、「そんなこと気にしてる時間なんかないわよ!」とエマに一蹴されてしまった。
「まずはいまいましいワイトを縛るわ。ベスとマドレーヌは見張ってて!逃げないように。私は〝鳥〟に伝えてくるから!」
エマが危険を顧みずにそう言ったのと同時に、オリーヴとクレアがトンネルから出てきた。少し距離を空けて近づいてくる四人の影が見える。
と、エマがふところからロープを取り出してトンネルの出口に駆け寄り、驚いた四人の侵入者に飛びついた。マドレーヌとベスも駆け寄る。クレアとオリーヴは呆然としている。
「縛って!早く!」
抵抗する四人を押さえつけ、炎で脅しながらエマが言った。二人はロープを受け取った。二人は自分たちが縛る侵入者を見て少し申し訳なく思ったが、ベスは金髪の女性を、マドレーヌは黒髪の女性を縛る。マドレーヌは自分が縛った女性を見た。全く動じていない。エマは力の強い太っちょの男性を苦労して縛った。
ロープがほどけない状態になっていることを確認したエマが、侵入者を見下ろす。
すると、女性ふたりと男性一人が、手に持っていた棒を振った。なんと、ロープがほどけてしまったのだ!彼ら三人は立ち上がり、正面からマドレーヌたちを見すえた。
「どうして!?」
エマが叫び、残っている男一人を唸りながら持ち上げて「私はこの人を連れてミス・ペレグリンに伝えてくるから、こいつらを見張ってて!」と言い残して行ってしまった。エマはクレアとオリーヴも引っ張っていった。
マドレーヌとベスは三人の不法侵入者たちと残されてしまい、どうすれば良いのか分からないまま立っていた。ベスが「逃げないでください」と恐る恐る言うと、金髪の女性が「逃げるわけがないでしょう?」と意味ありげに言った。沈黙が続く。
ようやくミス・ペレグリンがやってきた。後ろに男性を引きずっているエマを従えている。
ミス・ペレグリンはエマに男性のロープをとくように命じ、エマは太った男性のロープをといてやった。それからミス・ペレグリンは慎重に口を開き、四人に、なぜ来たのか、名前はなんというかと尋ねた。すると、ロープをほどいた男性が「僕たち、あなたたちを助けに来たんです」と説明した。
エマが怒り出し、前に進み出て「どうせあなたたちはワイトに決まってる!」と炎を放った。女性二人が悲鳴を上げて後退する。
「ミス・ブルーム、おやめなさい!」
ミス・ペレグリンに注意され、エマはしぶしぶ引き下がる。
「僕たちは魔法使いです。近年では、魔法使い以外にも特殊能力を持つ人の存在が明らかになり、問題になっている。あなたたちのようなピキューリアです」と彼は説明を続けた。周囲の空気が重くなり、エマが息を呑んだ。ミス・ペレグリンは静かに話を聞いている。
「米魔法省、マクーザでは、あなたたちを保護する運動が積極的に行われ、反逆者をなだめ、説得しています。しかし、闇の魔法使いたちは…あなたたちの存在を消そうと企んでいる。それを知らせるために来ました」
そう黒髪の女性も言い、四人はそれぞれ名乗った。最初に説明したブルーのコートを着た男性はニュート・スキャマンダー。彼はずば抜けて格好いい男性で、手入れしていないような洋服や髪型もさまになる。黒髪の真面目そうな女性はポーペンティナ・ゴールドスタインで、顔立ちが整っていてきれいだ。魅惑的な金髪の美女はクイニー・ゴールドスタイン。彼女は人を惹きつける。そしてただひとりの普通の人間、ジェイコブ・コワルスキーは太っていて人が良さそうだが、彼を怒らせたら大変なことになりそうだ!
「あなたたちはワイトじゃないの?」
エマは信じられないというふうに尋ねる。
「私たちは魔法使いです。ワイトとも敵対します」
ポーペンティナ・ゴールドスタインが言った。
「魔法使いなんですか?本当に?」
マドレーヌは幼い頃から魔法使いが大好きで憧れていた。魔法使いが登場する本も大好きだ。ニュート・スキャマンダーがうなずいて杖を振り、こう言った。
「インセンディオ!」
すると、彼の杖先から炎が飛び出した。
「何それ!私の能力なんて役に立たないわけ!?」
エマが驚愕し、怒りを抑えようともしていない。
「杖を使えるんですね!」
マドレーヌは夢を見ている気分だった。ケインホルムに来てからは驚くことばかりだ。奇妙なこどもたちに出会い、有り得ない存在のはずだった魔法使いと友達になるチャンスまで近寄ってきたのだ!
「私たちを気遣いここまで来てくださって、本当にありがとうございます。せっかくですから泊まっていってください」
ミス・ペレグリンが言った。
「お邪魔になりませんか?」とクイニー・ゴールドスタインが言う。
「ええ、良ければお泊まりください。何日でも。ですが、何かあった時には、こどもたちを守っていただきたいのですが?いいですか?」
ミス・ペレグリンの瞳は鋭く、相手が誠実かどうか見極めているようだ。
「約束します」
ニュート・スキャマンダーが力強く言い、ミス・ペレグリンが厳格にうなずいた。どうやら彼らはミス・ペレグリンのお眼鏡に叶ったようだ。
「ミス・ウェントワース?」
マドレーヌは突然ミス・ペレグリンに呼ばれて飛び上がった。
「はい!」
「こちらの…ポーペンティナ・ゴールドスタインさまと、クイニー・ゴールドスタインさまを空き部屋のどこかに案内して差し上げてください。ミス・ブラントリーにベッドを運んでもらいますから」
マドレーヌはミス・ペレグリンにうなずいた。見知らぬ侵入者を案内するとなると緊張するが、勇気を振り絞って「こちらに来てくださいますか?」と二人の女性に言った。二人はついてきた。マドレーヌは屋敷の二階に上がり、物珍しげに二人の女性を見るこどもたちの間をかき分けて、空き部屋の一つに着いた。
「こちらへ」
マドレーヌは二人を先に部屋に入れ、興味津々のこどもたちに小さく手を振り、扉を閉めた。気まずい沈黙が流れる。
「先ほども紹介したけれど」
クイニー・ゴールドスタインが沈黙を破った。
「私はクイニー・ゴールドスタインよ!こちらは姉のポーペンティナ、通称ティナ」
「よろしくお願いします」
ティナ・ゴールドスタインが言った。
「私たちはあなたよりも年上だけれど、気を遣わずに接してくれたら嬉しいわ!敬語も使わないでくれたらいいわ!」
クイニー・ゴールドスタインが微笑んだ。彼女は本当に美しい。魅惑的だ。
マドレーヌが返事をする前に、クイニーは「まだ信用していないのね?」と少し悲しそうに言った。マドレーヌは驚いた。
「そんなにびっくりしないで!最初の質問はイエスよ。次の質問は…ノーね」
マドレーヌはまたまた驚いた。
「クイニーは開心術士。人の心が読めるの」
ティナがこともなげに言った。
「だから、私の考えていることが分かったんですね!」
マドレーヌは「ピキューリアのことを知っていたんですか?」「あなたたちもピキューリアの能力を持つのですか?」と聞きたかったのだ。
「あなたのお名前は?…マドレーヌ・ウェントワースさんね。よろしく、マドレーヌ」
クイニーはマドレーヌが答える間もなく挨拶した。マドレーヌはまた呆然として「よろしくお願いします」と答えた。
「あなたたちのことを教えてもらえませんか?」
マドレーヌはまだ、この展開についていけていないのだ。
「私は米魔法省、マクーザの闇祓いなの」とティナ。すかさずクイニーが「闇の魔法使いを探し出して捕まえるの」とマドレーヌの疑問を汲み取ってくれる。
「ある男性によって、私の人生は狂わされてしまった。その人のせいで、私は魔法界の秩序を脅かす事件に巻き込まれ、危うく死にかけるところだった。それがニュート・スキャマンダーよ」
ティナは笑いながら言った。
「彼は要注意人物。一目見て、何かあると感じた。私はまだ、闇祓いの勘を失っていなかったのよ。私はその頃、自分の実力が認められずに、闇祓いから降格させられていた。魔法使いと魔女の糾弾および根絶を目的としている団体がある。その団体のリーダーが開いた狂信的な集会でちょっとした騒ぎを起こしちゃって、クビになった。だから、また闇祓いになるためなら、どんな危険も厭わない。そこで私は、怪しげなニュート・スキャマンダーを追跡し始めた」
「彼は何の変哲もなさそうなトランクの中に魔法動物を隠し、違法でありながらもニューヨークに持ち込んだ。私は彼をマクーザに連行した。しかし、ピッカリー議長が」
ティナはその時を思い出し、ため息をついた。
「私を追い出した」
「それから間もなく、パーシバル・グレイブス長官が私たちのもとを訪れたの。それから色々あって…」
全てを話すのは無理だと言わんばかりに肩をすくめる。
「ジェイコブ・コワルスキーが、よく似たニュートのトランクを間違えて持っていってしまったことから、事件が起こった。私はその途中、危うく死刑になるところだった…」
ティナの表情が暗くなる。
「その時、ニュートは敵対しているにもかかわらず、私を助けてくれた。その時から、私たちは少しずつお互いを尊敬し、信頼していった」
ティナが笑みを浮かべ、話を続ける。
「魔法動物を捕獲した一部始終は飛ばすわね。オブスキュラスの話も」
マドレーヌはどんな話なのか聞きたかったが、黙って続きを促した。
「グレイブス長官の本当の姿は、あのお尋ね者の闇の魔法使い、ゲラード・グリンデルバルドだった。彼は牢屋に収容されたけれど、先日逃亡し、行方をくらましたの。私はニュート、クイニーと協力して、グリンデルバルドを追っているわ」
ティナの話が終わると、今度はクイニーが話し始めた。
「魔法使いは、ノー・マジ-非魔法族と関係を持ってはいけないの。ジェイコブは忘却の雨を浴びて記憶を失った…はずだったわ。でも、違ったの!私たちがグリンデルバルドを追跡している途中、ジェイコブの開いたパン屋の近くを通った。そして、ジェイコブと再会した!彼はなんと、私たちのことを覚えていたの!旅で起きた悪いこと以外、全て覚えていた」
クイニーは満面の笑みで言った。
「先ほども言った通り、私たちはあなたたちピキューリアに警告するために来たの。あなたたちが一人一人死んでしまうのを黙って見ているわけにはいかないでしょう?」
そう言ったティナの目は輝き、正義に燃えている。
「ありがとうございます!」
マドレーヌは感激した。
「あの、一つ頼みがあるんですが…?」
マドレーヌは魔法使いと出会ったからには、魔法を見ておきたかった。
「いいわ」
クイニーが心を読み、杖を軽く振った。すると、ごちゃごちゃだった空き部屋がひとりでに整頓されていく。マドレーヌは感動して涙が出そうなほどだった。
その時、大きな足音が聞こえてきた。二秒後、戸口にはブロンウィンが立っていた。
「ベッドが入らないよ!こうしちゃえ!」
ブロンウィンが壁を蹴ると、壁が崩れ落ちてしまった。クイニーとティナが悲鳴を上げる。
ブロンウィンは足でベッドを押し、部屋の中央まで飛ばした。それから、もう一人分のベッドを押し入れる。
「ありがとう」
クイニーが引きつった笑顔でお礼を述べた。ティナは目を見開いている。ブロンウィンはうなずき、「マドレーヌ、〝鳥〟が呼んでる。下に来て」と言った。マドレーヌはティナとクイニーに一礼し、ブロンウィンと共に一階に降りる。
階段の下ではミス・ペレグリンを中心に円をつくり、こどもたちが集まっていた。
「ミス・ブラントリー、ありがとう。さて…」
ミス・ペレグリンが咳払いする。
「これから、訪問客の世話係を任命します。世話係は担当のお客様と同室で寝泊まりし、お世話をすること」
「ミス・ペレグリン、あの人たちを信用しているんですか?あの人たちは不法侵入者ですよ!」
エマが怒る。ミス・ペレグリンは人差し指を立ててエマを黙らせ、また口を開いた。
「ニュート・スキャマンダーさんの世話係は、ミス・ブルーム」
エマが抗議して炎を出したが、ミス・ペレグリンは完璧に無視した。エマが怒るのも無理はない。あんなに格好良い男性と二人きりで寝泊まりしなくてはならないなんて、信じられない!
「クイニー・ゴールドスタインさんの世話係は、ミス・トッカ」
隣でベスが息を呑んだ。
「そして、ポーペンティナ・ゴールドスタインさんの世話係は…ミス・ウェントワース」
マドレーヌは驚いた。みんなが自分を見ている。
「よろしくお願いします」と、ミス・ペレグリンは素っ気なく言った。そして、マドレーヌとベスに「来たばかりで悪いのですが、あなたたちにならできます。それと、ミス・ブルームにはいい薬だわ」と笑い、パイプをふかしながら歩いていった。
と、マドレーヌたちの前を駆け抜ける人影がいた。マドレーヌの予想通りエマだ。
「ミス・ペレグリン!なんで私が?なんであんな人の世話係?」
エマが興奮していくにつれ、炎の勢いが増す。ミス・ペレグリンは顔色ひとつ変えずに「あなたにはいい薬です、ミス・ブルーム。一生懸命やってみなさい。それと、お客様に対する口の聞き方について、明日たっぷり聞かせてもらいましょう」と言った。エマは不満そうにうなったが、何も言わずに向きを変え「マドレーヌ、ベス、行こう」と誘った。
「それでいいのですよ、ミス・ブルーム。あなたにならできます」
ミス・ペレグリンは笑いを隠さずに言った。エマはため息をつき、マドレーヌとベスを急かしながら二階に上がった。
「〝鳥〟ってひどい人だわ、まったく!あんな男の世話係に指名するなんて!」
エマは相変わらず怒っているが、マドレーヌとベスはニヤッと笑い、彼女を残してそれぞれの担当の部屋に入っていった。マドレーヌはブロンウィンに壊されて崩れ落ちたドアをまたぐ。
「こんにちは…えーっと…あなたの世話係に…なりました…あの、ミス・ペレグリンに頼まれて…」
ろれつが回らない。顔がほてる。ティナがマドレーヌを見つめている。
「わざわざありがとう。よろしく」
ティナはクールに言い、さっきブロンウィンが崩した壁を見た。面倒くさそうに杖を軽く振るティナ。壁が元通りになり、ドアもきちんとくっついた。
「それ、すごいですね!」
マドレーヌは心から言った。ティナは厳格そうな顔を緩めて少し微笑み、「そう?ところで、あなたの能力はなに?」と聞いてきた。マドレーヌはまた顔を赤らめた。
「ごめんなさい…私、実はケインホルムに来たばかりなんです。ここに来てからまだあまり経っていなくて…自分の能力が見つかっていません」
マドレーヌがもじもじしながら言うと、ティナは軽くうなずき「そのうちに見つかるわ。さあ、ご飯にしましょうか?」と言った。マドレーヌは慌てて「えーっと、夕食は大広間で…」と言ったが、ティナは「私とクイニーで作るわ。皆さんを呼んできて」と頼んだ。そこでマドレーヌは、ミス・ペレグリンに怒られそうだと思いつつ(「お客様に料理を作らせるなんて!」と怒るミス・ペレグリンの顔が浮かぶ)、隣の部屋をのぞきにいった。そこには楽しげに話すクイニーとベスがいる。
「マドレーヌ!」
ベスが駆け寄ってきた。
「ベス、あの…ゴールドスタインさんが…」
マドレーヌはまたまた顔を赤らめた。
「ゴールドスタインさんが、夕食を作ってくださるそうで…みんなを呼んできて、とおっしゃったの」
ベスがうなずいた。
「クイニー?私、マドレーヌと一緒にみんなを呼んでくるね」
ベスが気軽に呼びかけると、クイニーが顔を上げ「分かったわ。私はティナと一緒に皆さんを待っているわね」と笑顔で答える。二人はもう仲良くなっているようだ。マドレーヌは羨ましくてしかたがなかった。
「行こう、マドレーヌ?」
「うん」
二人はこどもたちを全員呼んできた。ジェイコブ・コワルスキーとニュート・スキャマンダーはよく手入れされた屋敷の庭を眺めていたので、マドレーヌたちは少しそっとしておいた。最後にミス・ペレグリンを呼び出すと、彼女は驚いたが怒りはせず「せっかくなので見物しに…」と物珍しげについてきた。ぞろぞろとみんなでティナとマドレーヌの部屋に入ると、中には退屈そうなティナと、楽しげに鼻歌を歌っているクイニーがいる。
「やっと来たわね」とティナ。クイニーは姉の腕に手をかけながら「さあ、始めましょう!」と笑顔で立ち上がった。二人は並んで立ち、杖を振った。
ティナの杖に呼び寄せられるように、お皿がふわふわと扉から浮かんで入ってきた。こどもたちとマドレーヌたちは歓声を上げる。
クイニーが楽しげに杖を振ると、たくさんのタオルがドアから入ってきた。いや、それはタオルではない。生地だった。
色とりどりのカラフルなフルーツが、浮かんでいる生地にくるまれていく。全てが鮮やかで、強烈で、美しい別世界を作り出している。色彩がぼやけ、目の前のことしか頭に入らない。空中での調理を目にするなんて、数時間前は思いも寄らなかったことだ。夢のような世界が、ここにある。
材料たちは意思があるかのように動き、クイニーの杖の動きに従い、クレープのようなものを作り上げた。それも、いくつも。
ティナは大きな長テーブルを大広間から呼び寄せた。それがゆっくりと着地するのと同時に、皿やフォークやナイフ、紙ナプキンが宙をさまよい、テーブルにたどり着く。たくさんの白い皿の上にはクレープのような食べ物が浮かび、クイニーが杖を下に動かすと同時に皿にのった。いつの間にか浮いていたローソクがともり、テーブルが穏やかな明かりに満ちる。クイニーの作る料理の品数は増えていき、肉のパイづつみなどの手の込んだ料理もいとも簡単に作っていく。
クイニーは心から楽しそうに微笑みながら、出来上がった料理に優しい視線を向けた。手を伸ばしたくなるほどの匂いに誘惑されながら、こどもたちは歓喜する。オリーヴは動物のように鼻をひくひくさせ、エマは目を閉じて匂いを感じている。マドレーヌはこんなに食べたくなるのは初めてだと思った。
「さあ、座って!」
クイニーがにっこりして言うと、みんなは我先にと椅子に駆け寄る。普段は冷静沈着なミス・ペレグリンまでもが、いい席を取ろうと焦っている!
「いただきます!」
みんなが座ると、エマが真っ先に声を上げた。
「エマ、いつも私に注意するくせに!『ミス・ペレグリンがいただきますって言ってからよ!』って言うくせに!」
オリーヴが笑いながらエマをこづく。すると男の人の笑い声がして、ニュート・スキャマンダーとジェイコブ・コワルスキーが入ってきたことを告げた。
エマは笑ったニュートを睨んだが、マドレーヌはエマが微かに耳元を赤らめたのを見逃さなかった。ニュートはとても格好いい。鼻筋の通った顔立ちで、背も高い。エマの好みに違いないが、そんなことを彼女に言った日には、本気で怒られるだろう!
ニュートとジェイコブも席につき、みんなで挨拶してから食べ始める。
「うわー!!おいしーい!すごーい!」
真っ先に声を上げたオリーヴが言う。エマは真面目な表情だが、口いっぱいに肉のパイづつみを頬張っている。マドレーヌはクレープのようなものに手を伸ばしたが、クイニーが「それはシュトルーデルっていうの。デザートよ」と言ったので後で食べることにした。クイニーの魔法で作った手料理は頬が落ちるほど美味しく、みんなお腹いっぱいになるまで食べ続ける。待望のデザート、シュトルーデルは、一口食べた途端に口の中に甘みが広がった。生地の甘みとフルーツの甘酸っぱさがほどよく溶け込んでいるのだ。
「美味しい!」
マドレーヌは思わず言った。クイニーが嬉しそうに微笑む。
「ありがとう!ジェイコブの大好物なのよ」
「そうなの!私も大好き!」
マドレーヌは敬語を使わずに言ってみる。
「嬉しいわ」
そう言ったクイニーは明るく笑った。マドレーヌも笑い返す。
「さあ、お片付けしましょう!皆さん!」
ミス・ペレグリンが立ち上がり、パンパンと手をたたく。しかし、クイニーも立ち上がり「ミス・ペレグリン、大丈夫ですよ!私たちで片付けますから」と言った。
「私たちなら、家事を楽にする呪文を数多く熟知しています。すぐに終わりますから、少し待っていてください」とティナ。ミス・ペレグリンはしぶしぶうなずき、先に下に降りて行った。マドレーヌたちも続く。クイニーとティナは自分たちが歩く後ろに、食器を浮かんでついてこさせ、奇妙な軍隊のようだ。
マドレーヌはティナと一緒の寝室に戻り、ひとりで考えごとをした。ティナはクールだ。それに大人だ。子供ではない。冷静て厳格なティナは、明るく快活なクイニーとは違う。マドレーヌはぐったりとうなだれた。だが、ティナにはティナなりの優しさがあるだろう。それは、同室で過ごしてからわかることだ。そして、先ほどの正義に燃えていたティナの瞳が忘れられない。過去の事を話してくれた時に浮かべていた優しい笑顔も…。
マドレーヌはティナについてをあれこれ考えるのはやめにし、今度は戦いが起こるかもしれないということについて考え始める。
ニュートたちがここに来たのは、警告のためだった。ピキューリアが追われているなんて、思ったこともない!もしも自分が祖母のようなピキューリアならば、自分も追われる運命になる。もしもそうなったら?マドレーヌは考える。
そうなったら——。頭の中で声がした。こどもたちと一緒に逃げ延び、戦わなければならない。
しかし、マドレーヌとベスがケインホルムにいてもいいのは、あと一週間だけだ。一週間で全てにかたをつけられるか?色々なことを知った今、マドレーヌはこのままこどもたちと離れるなんて考えられなかった。ここにはエマがいる。きれいで面白い魅力的なエマも、みんなと同じように追われるはずだ…。マドレーヌはこどもたちの顔を一人ずつ思い浮かべ、いつも優しくしてくれたみんなを残して帰ると仮定してみた。そしてすぐに、そのばかげた考えを振り払った。
マドレーヌが悩んでいると、隣に人が座った気配がした。顔を上げるとティナがいる。
「どうしたの?」
ティナは低い声で聞いた。その声には心配と同情がこもっている。マドレーヌは鼻の奥がツーンとして、涙がこぼれ落ちるのを感じ取った。かすれた涙声で話し出す。
「私の祖母はピキューリアでした…私がここに入れたのは、ピキューリアだからです。でも、私は能力をまだ見つけていません。それに、あと一週間で帰らなくちゃいけないんです…。学校に行かなくちゃ…。でも、ここにはエマたちがいて、いずれ危険な目にあってしまう…それを放っておくなんて…私にはできない」
マドレーヌは激しく泣いた。迷い、苦しみ、ティナの無言の優しさを感じながら泣いた。ティナはマドレーヌに手を伸ばし、肩に手を置いてくれた。泣き止むと、マドレーヌは慌てて謝った。
「ごめんなさい」
ティナは笑って首を振る。
「いいのよ」
「私、どうすればいいのか分からなくて…」
すると、ティナが真面目な顔つきになった。
「もう少しここに泊まるんでしょう?ミス・ペレグリンやこどもたちにも相談してみたら?私はピキューリアじゃないから、あまり助言できないけれど、何かあればいつでも力になるわ」とティナが言う。
「とても心強いです!ありがとう!」
マドレーヌは気分が少し楽になり、笑顔でそう言うことができた。
ティナはマドレーヌの肩に置いた手を離さなかった。マドレーヌはその重みを心地よく感じ、二人ともしばらく無言だった。やがて、クイニーが部屋に遊びにきた。マドレーヌを見ると、少し悲しそうに口を開いた。
「マドレーヌは、ティナのことでも悩んでいたのね」
ティナが息を呑んだ。マドレーヌはパニックになった。
「ちょっと!」
マドレーヌはクイニーに目線を送るが、届かない。ティナはマドレーヌをまっすぐに見つめている。居心地が悪くてたまらない。
「でも今は、ティナと同室になれたことを嬉しく思っているのね!」
クイニーがティナに笑いかけると、ティナもその言葉を信用したように晴れ晴れと笑う。マドレーヌは胸をなで下ろした。確かに今は、ティナと同室で良かったと思っている。クイニーはウインクし、部屋を出ていった。
「ごめんなさい…」
マドレーヌはさすがに気まずくなり、まともにティナの顔を見ずに謝った。ティナは「いいえ」と肩をすくめ、「同室になれてよかったわ」と言った。マドレーヌもうなずく。窓の外を見ると、美しい茜色に染まった空がどこまでも続いていた。
今回はオリーヴとクレアの無断外出、ニュート・スキャマンダー 、ティナ・ゴールドスタイン、クイニー・ゴールドスタイン、ジェイコブ・コワルスキーとの出会いと彼らからの警告、世話係に任命されたエマとベスとマドレーヌ、ゴールドスタイン姉妹の回想、楽しい夕食、そしてマドレーヌを慰めるティナという盛り沢山な内容でお送りしました。前回があまりにも短かったので、せめてものお詫びです。いかがでしたか?
ファンタビのキャラクターは皆魅力的ですが、個人的に一番好きなのはティナです。地に足のついた現実的な性格で正義感が強く、真面目で努力家なティナ。外見も飾り気がなく綺麗ですし、闇祓いなだけあって魔法の腕も一流。ちなみに今日、8月19日はティナのお誕生日です!おめでとうティナ!
ニュートとティナをはじめとする魔法使い達(ジェイコブも含む)は、今年公開される続編ではどのような活躍を見せてくれるのでしょうか?新キャラも登場しますし、今から待ちきれませんね!
ここまでお読みいただきありがとうございました。それでは第8話でお会いしましょう!