今まで投稿した8話を読み直し、順調にここまで続いている事に感謝している穂月碧です。
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それでは、第9話をどうぞ!
その日から二日間、こどもたちとマドレーヌたち、そしてニュート、ティナ、クイニー、ジェイコブ・コワルスキーは、戦いに備えて計画を練った。ある日、ミラードがループの外を偵察しに行くと、信じたくないニュースが飛び込んできた。
「闇の魔法使いが、ワイトやホローガストを味方につけたらしい!」
みんなが大広間で紙を広げ、計画を書き込んでいる時だ。ミラードが駆け込んできて、切羽詰まった声で叫んだ。
「まさか!」とクイニー。
「そんなことが…本当にあるのか!?」
イーノックが目を丸くする。
「残念だ、本当に。でも、嘘じゃない。俺は確かにこの目で見た。ニュート、ブロンドの髪で邪悪な目つきの魔法使いを知ってるか?そいつがワイトたちと一緒にいたんだ。名前は…グラード?いや、ゲラルドかな?」とミラード。ティナが息を呑んだ。
「ゲラート・グリンデルバルドが…ワイトと組んだ?」
ニュートが信じられないというふうに首を振りながら言う。マドレーヌとベスはもう我慢できない。
「ワイトって?」
二人は叫ぶように聞いた。
「もう先延ばしにできませんね。ワイトは昔、私たちの仲間でした。しかし、ループでの暮らしに満足できなくなった反逆者たちは、インブリンを使った大規模な実験を行いました。彼らは愚かにも、神になろうとしたのです。不老不死の力を持つ神になろうと…」
ミス・ペレグリンの声は低く険しい。
「彼らは愚かな実験の報いを受けました。そして、彼らのなりの果ては…恐ろしい怪物です。何本もの強靭な舌と触手を持つ怪物。彼らはそんな化け物になってしまいました。しかし彼らは、その怪物ホローガストから抜け出す方法を見つけ出しました。かつての仲間であるピキューリアを餌にすることで、人間の姿に戻るのです。ホローガストの進化系が、ワイトという生き物です」
この話をすでに知っているこどもたちは平然としているが、ベスとマドレーヌは両手で顔をおおった。
「だから、怪物はピキューリアを狙っているんですね!」とベス。
「その通りです、ミス・トッカ!そして、その怪物はあろうことか、誰の目にも触れません。影は見えますが、全く分からないのです。ホローガストを見ることができるのは、この中でジェイコブだけです」
すると、ジェイコブ・コワルスキーが「なんで俺なんだ?」と素っ頓狂な声を上げた。みんなはくすくす笑う。ミス・ペレグリンも笑いながら「ごめんなさい、紛らわしいですね!ミスター・ポートマンのことです」と説明した。
「ジェイコブが二人って紛らわしいから、何か呼び分ける方法はないかしら?」
クレアが言った。
「ジェイコブのことをあだ名でジェイクって呼ぶのは?」とオリーヴ。すかさずホレースが「どっちのジェイコブだ?」と聞いた。
「あたしたちのジェイコブはジェイク。それで、人間さんのジェイコブは普通に呼ぶの」
オリーヴが言う。
「分かりやすいですね、ミス・エレファンタ」とミス・ペレグリンが言ったので、そう呼び分けることになった。
「どこまで話したか…ああ、ジェイクの能力のことでした。ジェイクの亡き祖父、エイブラハム・ポートマンも、かつてホローガストを見る能力を持っていました。それを受け継いだジェイクは、私たちにとって大切な存在です。戦いでは、彼がホローガストを見る役目になります」
ミス・ペレグリンが言った。
「そして、ワイトと普通の人間たちとを見分けるポイントがあります。それは目。不思議なことに、ワイトには瞳孔がありません。白い目をしているのです」
ミス・ペレグリンの表情はかたい。
「闇の魔法使いたちが彼らを味方につけたとなると、格段に恐ろしさが増します」
ティナが言う。こどもたちは恐怖に怯えて騒ぎ出す。
「ミスター・ナリングズ、もう一度、ループの外を偵察してきてもらえますか?」
「了解です」
ミラードの足音が遠ざかり、彼が部屋から出て行ったことを告げた。
少しして戻ってきたミラードは、息を切らしていた。
「ミス・ペレグリン、大変です!ワイトが石塚を見つけてしまいました!ここに入ってくるかも」とミラードが言う。大広間は騒然となった。ミス・ペレグリンはスプーンで陶器をコツコツとたたき、こどもたちを静めた。
「皆さん、今すぐ支度をしなさい。ここは安全ではありません。最低限、必要な荷物をバッグに詰め、持ってくること。十分後に集合です」
みんな慌てて立ち上がり、それぞれの寝室へと走っていく。マドレーヌはティナと顔を見合わせ、二人の部屋に行く。
ティナは杖を振り、素早く荷物をリュックに詰めた。マドレーヌはリュックを背負い、魔法の力ですぐにゴタゴタを整理したティナと共に下の階へ降りていった。
「ああ、これでミス・ブルームとミスター・スキャマンダー以外はそろいましたね」とミス・ペレグリンが言った。エマとニュートは十分後になっても来ない。マドレーヌは心配になり、エマの部屋をのぞきにいった。
部屋の中では、エマとニュートが並んで座っていた。エマは手からまばゆい炎の玉を出し、転がして遊んでいる。ただならぬ空気を感じ、マドレーヌはドアの陰に隠れて中の会話に耳をそばだてた。マドレーヌは盗み聞きが嫌いだったが、あれだけ嫌悪感を募らせていた二人が親密そうにしているのを見て、目を離せなくなってしまったのだ。罪悪感はあるが、今回ばかりは自分の意思に従った。
「ニュート」
エマが言った。
「あんなに無愛想で、ごめんなさい」
その謝罪に、ニュートは驚いて「いや、僕こそ」と言った。
「本当は、あなたと仲良くしたかったの」
「うん、僕も」
二人は目を合わせた。
「あなたはワイトじゃないって、一目見て分かった。あなたほど誠実さが溢れている人はいないわ」
エマは言いながら顔を赤らめた。
「君だって。美しいし、優しいって分かっていた!つっけんどんなのは、好意の裏返し。そう、ティナが言っていたから」
ニュートが笑いながらエマを見る。エマは何かを思い出すような表情を浮かべた。
「あなたを疑っていてごめんなさい」
エマがささやき、ニュートに近づいた。ニュートは戸惑ったようにエマから離れる。彼女は傷ついたように顔をそむけた。
「別に、嫌だってわけじゃないんだけど…」
ニュートがエマの気を察して言った。
「でも、君は僕より年下だから、あんまり馴れ馴れしくするのはちょっと…」
ニュートは正論だと思われることを言ったが、実は違うのだ。
「私は八十七歳。あなたよりも年上であるのは確かよ」
エマの言葉に、ニュートは目を見張って驚愕した。
「君たちは…少年少女じゃないの?」
「前に言ったでしょ。ループにいる限りは老けないの」
エマがやさしく言い、ニュートの肩にもたれた。ニュートは振り払わなかった。二人の顔が近づくにつれ、マドレーヌの体がかっと熱くなる。その時、オリーヴが後ろから足をしのばせてきて、二人に駆け寄った。足音を立て、大げさなほど声を張り上げる。
「エマ!ニュート!ミス・ペレグリンが呼んでいるよ!」
オリーヴの声にはっとし、二人は弾かれたようにぱっと離れた。
「ふうん、いちゃいちゃしてたのね」
オリーヴがいたずらっぽく笑う。エマは顔を赤らめ「うるさい!」と言った。ニュートは苦笑しているが、エマが自然に振る舞いつつもニュートの右手を握ると、かすかに顔を赤らめた。
「来て!ミス・ペレグリンもみんなも待ってるんだから!」
オリーヴが大股でドアに歩み寄り、隠れていたマドレーヌを引っ張り出す。オリーヴは乱暴にニュートをぎゅっと抱きしめ、彼がリュックを背負っていることを確認してから、下に引っ張っていく。マドレーヌは真っ赤になっているエマと並んで降りた。
ミス・ペレグリンは急かすように両手を打ち鳴らし「そろいましたね。では、作戦会議に移ります」と早口で言った。
「まずは、戦いに必要な武器を探しに行かなければなりません!そこで、遠征チームを結成します。そうですね…四、五人程度で組みましょう。誰か、行く人?」
ミス・ペレグリンが呼びかける。
マドレーヌは手を挙げた。エマ、ニュート、ベス、ジェイク、ティナ、クイニー、そしてイーノックも手を挙げている。
「ジェイク、君はここにいたほうがいいと思う。ホローガストが見えるのは君だけだ。このループにホローガストたちが侵入してきた場合、頼りは君しかいない」とヒュー。
「私は行く!私が行かないと、武器を防弾にできないでしょ?」
ベスは行く気満々だ。しかし、フィオナが首を振る。
「ベスはここにいたほうがいいよ!ループの外でいちいち能力を授けていると、その時間がもったいないと思わない?」
確かにそうだ。ベスは納得し「そうだね、じゃあ、ここで待ってるね」と言った。
「魔法使いの方々が二人、ピキューリアが二人でどう?」
マドレーヌは提案してみた。嬉しいことに、みんな賛成してくれる。
「私が行けば役に立てるわ。機会さえあれば、グリンデルバルトを倒したい」
ティナが言った。
「僕も行く。魔法生物たちを利用できる」とニュート。みんなは一斉に「魔法生物!?」と叫んでいた。
「言ってなかったかな?僕はイギリス人の魔法生物学者だ。かわいらしいものから危険なものまで、ありとあらゆる魔法生物ービーストを育てている。この変哲もなさそうなトランクの中で、絶滅寸前のビーストを保護しているんだ。ビーストたちの特性を活かせば、戦いに有利な方向に導ける。ピンチに陥った時も、ビーストに一肌脱いでもらえる」
ニュートがトランクを持ち上げて見せ、自分の計画を説明する。マドレーヌは前にティナがマドレーヌに話していたことを思い出していた。ちらっとティナを見る。彼女はショートボブの髪とすらっとした背が印象的で、とても美しい。それにクールだ。意外と情熱的でもある。視線を感じたのか、ティナがこちらを見、マドレーヌに微笑みかけてくれた。
「私も行きたい!いざとなれば、私がみんなを連れて逃げられる!姿を消し、また現す能力を持つもの!」
マドレーヌは冒険に加わりたいあまり、思わず立ち上がってそう言った。少しでもみんなの役に立ちたい。祖母のように勇敢なピキューリアになりたい!
「私は必ず参加する!炎を出して敵をやっつけられるよ」
エマがアピールする。
「決まりですね。ミス・ブルーム、ミス・ウェントワース、ミスター・スキャマンダー、ミス・ゴールドスタインの四人です。あなたたちには、戦いで必要な武器を探しに行ってもらいます。銃、槍、その他もろもろ…戦いで使えるものならなんでも、持って帰ってくること。分かりましたか?」
ミス・ペレグリンがてきぱきと指図する。みんなが集まってきて、遠征チームの健闘を祈ってくれた。一刻を争う緊急事態だ。さっそく出発することになった。
「待って」
マドレーヌは、外に出ようとする三人を引き止めた。
「外にはワイトたちやホローガスト、闇の魔法使いたちがいる。私がみんなを連れて、どこかに現れるのはどう?」
「私たち魔法使いも、あなたと同じように姿現し・姿くらましできるわ」
ティナが腕を組む。
「二人ずつに分かれよう」
エマが言う。
「会えなくなったらどうするの?もし、どちらかが捕まったら?」とティナ。結局、マドレーヌがみんなを連れて、 街の薬屋の近くに現れることになった。
外は蒸し暑く静かだった。マドレーヌたちは大急ぎで武器を探す。ティナが路地で「アクシオ!」と唱えると、立派な黒光りする銃がいくつも飛んできた。ティナがキャッチして微笑む。
「アクシオ!」
ニュートも唱える。と、平たい鉄の板が風を切って飛んできた。ニュートはその重みによろめきながら「盾も必要だと思ったから」と言った。二人は呪文を唱えて武器を集めてくれ、数分後にはたくさんの武器が集まった。
「これでいいわね!さあ、ループに戻りま…」
エマは言いかけたが、不意に黙った。マドレーヌがわけを聞こうとすると、「静かに!」と小声で注意される。マドレーヌは、はっとして口をつぐんだ。四人は路地の中心でしゃがみこみ、物音一つ立てない。
ヒュー、ヒューと風の音が異常なほどはっきりと聞こえてきた。マドレーヌは息を呑み、空を見上げる。黒雲が空を覆いつくし、雨が降り出した。四人はびしょ濡れになりながらも、まだ注意深くしゃがんだままだった。マドレーヌは、エマたちが何を監視しているのかさっぱり分からなかった。だが、エマの普通ではない不安げな表情を見ると、文句なんて言えなかった。
「あっ」
マドレーヌは思わず声を上げ、エマに睨まれた。
「だから言ったでしょ。何があっても叫ばないで。あいつの気を引くだけよ」
エマが小さな声で言い、マドレーヌの服の裾をつかんだ。
マドレーヌが見たのは、大きな影だった。太いロープのようなものが何本も垂れているように見える。
「ホローガストだ」
ニュートが目を見張り、影をじっと見つめて言った。そのホローガストという生き物はロープのような舌をちらちらと動かしていたが、臭いを嗅ぎつけたようだ。一目散にこちらに動いてくる影が見える!
「逃げろ!」
ニュートが声を張り上げる。マドレーヌたちは素早く立ち上がり、恐怖に苛まれながらも走って逃げた。祖母のような無残な最期を迎えたくない、という一心で疾走した。エマも同じ思いらしく、マドレーヌの手をしっかりと握って走った。
周りの音は聞こえない。ただ、ホローガストの獲物を捕らえる前の喜びの唸りが、耳元で響いている。それから逃れようと、四人は必死で逃げて走る。
マドレーヌは恐怖で涙を流しているエマに引っ張られるようにして走った。雷鳴がとどろき、空が光る。
「死ぬ気で走って逃げて!ループに駆け込むのよ!」
エマが喘ぎながら言った。それと同時に、ティナとニュートが突然立ち止まった。杖を構えている。
「何してるのよ!」
エマが二人を突き飛ばそうとしたが、二人はてこでも動かない。じっと前方を見ている。
ホローガストのちらつく舌の影が見え、忌々しい怪物が動きを止めた。その時、ニュートとティナが杖を振った。
二人の杖先からは、ネトネトした赤い液体が飛び出した。それは地面につくる影の上にのびる。その液体がからまり、もつれ、怪物の姿形が見えてきた。
「天才!」
エマが顔を輝かせて叫ぶ。そう、二人は怪物がこちらを狙い、動きを止める瞬間を待っていたのだ。怪物の姿は見えないが、粘つく液体が怪物を覆ってしまえば、姿が見えるようになる。その液体は接着剤のようで、怪物の姿を見えるようにするだけでなく、ホローガストの動きを遅くさせるのだ!マドレーヌはニュートとティナの賢さに感動した。
「行くわよ!」
ティナが興奮した笑顔を浮かべ、マドレーヌを引っ張った。四人とも走り出す。だんだん調子を取り戻してきたお腹の空いた怪物から逃げようと、今度こそ死ぬ気で走る。
「あ!」
怪物が今どこかと振り返り、マドレーヌは声を上げた。怪物は影しか見えない。しかも空が暗いので、影もうっすらとしか見えないのだ。
「あなたたちったら、バカだったわ!雨の降りしきる中であんなことをしたって、無駄のはずでしょ!」
エマが絶望の叫びを上げ、二人を責めた。
「エマ、そんなことはない。インパービアス!防水・防火せよ!」
杖を構えたニュートが叫んだ。またしてもベタベタの液体がホローガストを襲い、その液が防水・防火される。それと同時に、エマが怪物に向かって銃を連射した。だが、怪物に当たるはずの弾が弾かれた。エマは残念そうにうなる。
「ニュート、なにしてるの?あなたのばかげた呪文のせいで、弾が当たらなくなったのよ!防水・防火したせいで!」
怒りを抑えられなくなったティナが怒鳴る。
「あ!そうだ!ごめん、本当に」
ニュートが自分の過ちに気づき、目を伏せた。
「とにかく逃げないと!言い争っている時間はない!」
マドレーヌも声を張り上げた。三人は勢いづけ、うなずきながら走り出す。四人はループを目指し、急な坂をかけのぼった。ニュートの呪文は確かにばかげてはいるが、そのおかげで怪物の姿がくっきりと見える。と、思わずドロドロの急斜面に足を滑らし、マドレーヌは怪物の足元まで滑り落ちてしまった。怪物の触手がすぐそこまで迫る。マドレーヌは全身の震えを感じながらも、覚悟して目を閉じた。怪物の鼻息がマドレーヌにかかる。熱い鼻息が髪の毛を巻き上げ、マドレーヌは思わず「助けて!」と叫んだ。その大声で怪物が逆上する…。
「マドレーヌ!」
エマの叫び声が聞こえ、彼女がマドレーヌを引っ張り立たせた。エマの片手には炎。それが怪物を恐れさせたのだ!マドレーヌは心からエマに感謝した。
目の前を閃光が横切り、ニュートが自分自身のかけた呪文を解除した。間髪入れずに、ティナがホローガストを攻撃!怪物の雄叫びが聞こえる。
「早く!」
エマはマドレーヌの腕を強く引っ張り、素早く坂をのぼっていく。マドレーヌは彼女の踏んだところを必死で覚え、ぬかるんだ地面をかけのぼる。今度は滑らないように気を付けながら。
また稲妻が光り、マドレーヌは怪物が迫っていることを悟った。振り返るのにも勇気がいるほどの近さ。四人は大木の下に集まった。
「あの怪物を倒すのは無理だわ」とティナ。
「みんなを呼んでこようよ」とエマが言う。だが、怪物の息が吹きかかり、四人はまた逃げ始めた。マドレーヌの心を恐ろしさが蝕み、息がつまる。ニュートがまた呪文をかけ直し、怪物の影が見えた。坂を勢いづけてのぼってくるホローガスト。舌で地面をかき分け、猛スピードで迫る。マドレーヌはここから逃げる方法を考えた。簡単なことだ!マドレーヌの能力を使い、ここで姿を消し、ループに現れればいいのだ!
「私につかまって。私がみんなを連れてループに姿を現す」
マドレーヌは恐怖から今すぐ逃げたかったあまり、深く考えずにそう提案した。しかし、エマは否定的な声をもらした。
「それじゃあ、怪物が外をうろつきっぱなしになるわよ!怪物はワイトたちや闇の魔法使いたちのところに戻って、私たちの居場所を吐くかも。ループに簡単に入る方法を探しているはずだから、怪物に命令して追跡させるかもしれないよ」
エマの意見には一理ある。
「じゃあ…今、僕たちがホローガストを倒さないといけない」とニュート。
「みんなを呼んできましょう!そのほうがずっと強くなるわ」
ティナはいらいらし、足踏みしながら言う。
「怪物はここにいるんだ、ティナ!倒さないと!」
「あら、失敗したらどうするの?ニュート・スキャマンダー、あなたは私たちを皆殺しにするつもり!?」
ニュートとティナが言い争いを始めてしまった。
「二手に分れればいいでしょ!」と、エマが大声で仲介に入った。ティナとニュートは顔を見合わせ、「確かに…」とつぶやく。
「私が残るわ!私なら、炎で怪物を倒せる!戦えるもの!みんなは先に逃げて!」
エマが手から炎を出した。脈打つ炎は武器になる。
「君に死んでほしくないんだ!僕が残る!魔法を使えばすぐに倒せる」
ニュートは怪物に炎を飛ばそうとするエマを抑えた。
「言い争っている時間が無駄よ!」とティナ。
「僕たちはできる限り早くホローガストを倒し、ループに戻るようにする!君たちは先にループに戻り、ベスと協力して武器を防弾にするんだ!」
ニュートが言い、自分の持っている武器をマドレーヌに手渡すと、エマと二人で怪物に向かっていった。マドレーヌとティナは顔を見合わせた。
「そうする他ないわ!行きましょう。私が姿くらましするわね」
ティナが言った。マドレーヌはティナにつかまる。その途端、物音が消え去った。怪物の唸り声も、荒れ狂う嵐の音も、エマとニュートの声も聞こえない。代わりに聞こえてきたのは、こどもたちの声だった。
「戻ってきた!マドレーヌとティナが戻ってきた!」
クレアの声がした。マドレーヌとティナは大広間の真ん中に姿を現し、床に足をついた。ふらふらするマドレーヌをクレアとオリーヴが支えてくれ、倒れ込んだティナをクイニーとジェイコブが助け起こす。まもなくミス・ペレグリンの靴音が近づいてきた。
「何が起こったのですか?ミス・ウェントワース、大丈夫ですか?大丈夫ではなさそうですが」
ミス・ペレグリンがマドレーヌの両肩を支えた。マドレーヌは気持ち悪くなり、胸を抑えながら「ホローガストに追われていたんです」と言った。こどもたちが一斉に息を呑む。
「ミス・ブルームとミスター・スキャマンダーは?どうしたのです?」
「まさか、怪物の餌食になった?」
そう言ったイーノックを、ミス・ペレグリンが鋭い目で睨んだ。
「ミスター・オコナー!何を言うのですか?縁起でもないことを言わないように!」
「二人は残って戦っています」
クイニーがマドレーヌとティナの心を読んで言った。開心術は時に非常に役に立つ。マドレーヌは気分が悪く、今は話したくなかったので嬉しかった。
「こうするしかなかったんです。ティナとマドレーヌは二人に『ベスと協力して武器を防弾にして』と頼まれて戻ってきたのです」とクイニー。
「分かりました。ありがとう、ミス・クイニー・ゴールドスタイン。さあ、始めなくては!ミス・トッカはどこ?」
ミス・ペレグリンの言葉に、ベスが急いで駆けてくる。ベスはマドレーヌを見つけ「おかえり!お疲れ様」と声をかけてくれた。
「ミス・トッカ!ミス・ウェントワースとミス・ポーペンティナ・ゴールドスタインから武器を受け取ってください!」
「私とクイニーも手伝います」
ティナが申し出た。
「ありがとう。三人は武器に能力を授けましょう。その間、私たちは計画を練っていますから」とミス・ペレグリン。ティナとクイニーは武器を宙に浮かせて運んでいく。背後でドアが閉まった。
「ミスター・ナリングズ、いつもあなたにこの役目を任せて申し訳ないのですが、今すぐにループの外を見てきてもらえますか?」
ミス・ペレグリンに頼まれ、ミラードは「俺の出番です!」と自慢げな口調で引き受け、大広間から出ていった。
第9話、いかがでしたか?
今回は、闇の魔法使い以外の悪の権化、ワイトとホローガストの存在が明らかになりました。遠征チームの4人はさっそくホローガストに遭遇、何とか逃げ切ることに成功しました。
ちなみにエマとニュートは現段階でかなりいい雰囲気になっています。物語が進むにつれてお互いを知り、不器用ながらも歩み寄ろうとする初々しい2人を優しく見守っていただけると嬉しいです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。それでは第10話でお会いしましょう!