やはり俺の現実逃避はまちがっている。 作:ソロ
央都《アルン》は石づくりをしている都市だった。
そして、9つ全ての種族のプレイヤーが行き交っていた。
真上にどこまでも続く《世界樹》を見上げた。
「あそこに、手がかりがあるんですね。」
「囚われのお姫様もそこにいるらしいな。」
その人が、ミカヅキさんとお兄ちゃんの友達の1人なのだろう。
SAOからの未生還者300人のための旅は終わりに近づいている。
私とミカヅキさんの旅も…
世界樹の根元にはゲートがあり、ここから《世界樹》の内部に入っていく。
中では守護騎士が何百人も現れるとのこと。
どの種族も、いまだ達成できていない。
不安になっていたわたしの手を握ってくれた。
「だいじょうぶ。俺がいる。」
「それに、俺たちには仲間がいる。」
ゲートの前には、9つすべての種族が20人ほど集まっていた。
その纏う雰囲気がこの人たちは歴戦の戦士だって教えてくれた。
わたしから1度離れて、みんなの前に行く。
黒いコートを着た人と、お兄ちゃんと、ミカヅキさんが並んで門の前に立つ。
3人の纏う雰囲気はまさに英雄だった。
「攻略に参加してくれて、本当にありがとう!」
黒いコートを着た人がまずは頭を下げる。
「残された300人のために、俺たちは再び揃った。」
仮面をつけたお兄ちゃんがそう言った。
「勇ましくも死んでいった同胞たちのためにも、俺たちはやり遂げなければならない。」
「厳しい戦いになるけど、みんなの力なら切り抜けられる。」
「――『解放』のために!」
ミカヅキさんの、
その力強い叫びにSAOプレイヤーたちは一斉に応えた。
さらに、
9つ全ての種族のALOトッププレイヤーが加勢に駆け付ける。
能力上昇の魔法をかけていく。
1つの種族では全ては揃わない。
《マギア》、《クイック》、《シャープネス》、《プロテクション》
さいごの戦いが始まる。
***
翅を開き、9色の妖精たちは飛ぶ。
それぞれの武器を構える。
守護騎士も《両手剣》や《弓》を構える。
最初で最後の攻略であって、SAOプレイヤーは飛行にまだ慣れていなくて、連携は見込めない。
つまり、ガンガンいこうぜ。
俺たちが個性を全力で発揮し合う最善手。
短期決戦で、勇者を前に進ませる。
俺の隣をマチは飛びながら、呪文を唱える。
闇属性魔法《ナイトメアスフィア》
透き通った球状の力場を発生させる。
ダメージは低いが、範囲が広く、付属効果として移動力低下を与える。
俺はその力場が消えた瞬間に、翅に力を込めて『加速』する。
この《世界》では光り輝くことはないが、身体が経験で動く。
両手剣ソードスキル範囲技《サイクロン》
剣を構えて一回転し、水平に斬撃を与える。
動きの鈍った守護騎士を数体斬る。
マチが追いつき、また2人で飛ぶ。
言葉を交わさなくても、その顔を見なくても、なんとなく分かる。
75層ボス攻略で見た2人の戦いのように、俺たちも《リンク》する。
弓を引き絞る姿が見えたが俺は止まらない。
闇属性魔法《ブレインバイス》
足元に瞳を模した魔法陣が発生し、立ち上る黒い光の柱が包む。
ダメージは低いが、付属効果として遠距離攻撃の命中率ダウンを与える。
遠距離攻撃をする相手を、相棒は次々と狩っている。
二刀流となったキリトが俺たちに追いついてきた。
守護騎士が集まり、最後の壁を作り始める。
俺は剣に『心』を込める。
この《世界》で、発動できた。
両手剣ソードスキル最上位技《レイ・ブランディッシュ》
上段から振り下ろすと巨大な衝撃波を発し、道を切り開く。
守護騎士は壁を修復し始める。
だから、マチはすべてのMPを使いきる。
補助魔法《インフィニティフォース》
仲間1人の全能力を15秒だけ底上げする付与魔法。
キリトは2本の剣を突きだし突進する。
流星が最後の壁を貫いていった。
後衛のリーダーであるシルフの領主は叫ぶ。
「全員反転、後退!」
俺たちは、勝った。
***
まだこの《世界》が終わるまで時間があるみたい。
央都《アルン》の街をミカヅキさんと歩く。
「お別れですね。」
「…そうだな。」
わたしにとっては、とても長く感じられたけど、
彼の2年間に比べたら、とても短い旅だったんだろうな。
この《世界》が終われば、わたしも彼も《現実》に戻っていくんだ。
彼との関係は、この《世界》が終わっても続いてくれるのかな。
「ありがとう。マチがいてくれて、俺はまた立ち上がれた。」
「いえいえ、わたしもお兄ちゃんの《生きた》世界を、少しは知れてよかったです。」
「俺さ、もうVRMMOはやらないって決めてたんだ。両親を泣かせちゃったしな。まだあの《世界》が終わってないって知って、さいごにこの《世界》にやってきた。」
ミカヅキさんはつよくて優しい人で、そして傷ついていく人なんだ。
お兄ちゃんのように誰かを助けるために、自分を犠牲にする。
「SAOやALOはどうでしたか?」
わたしは聞いてみる。
「俺はあの《世界》が好きだったよ。もちろん、悲しいことや苦しいことがたくさんあった。でも、俺は2度目の青春でも《生きた》実感を得ることができた。」
お兄ちゃんと同じようなことを言う。
ミカヅキさんはお兄ちゃんに似ていて、でもお兄ちゃんじゃない。
「ALOは、そうだな……まだまだ物足りなかったな。もっと冒険したかった。」
兜の下で笑みを浮かべてくれる。
そのときは、一緒に連れていってほしいって、わたしはまだ言えなかった。
「なら、また来てくださいね。ALOに!」
涙をこらえて、精いっぱいの笑顔を見せた。
この《世界》では、泣かないって決めていた。
***
300人の生還・ALO事件の首謀者逮捕というニュースが朝から報道されっぱなしだ。
彼と出会ったALOはしばらくログインができないようで、寂しかった。
わたしはその報道を聞きながらリビングで受験勉強をする。
お兄ちゃんは自分の部屋で小説を書いているようだった。
チャイムの音が聞こえたので、わたしは玄関に向かい、ドアを開ける。
短めの黒髪で、優しそうな同い年くらいの人だった。
「今日から、居候するって、聞いてない?」
その声を聞いて、泣き虫なわたしは、涙を流した。
不思議と、泣き虫なわたしが今は嫌いじゃなかった。
***
漆黒の夜空をわたしは翅を広げ飛んでいた。
受験の合格発表が出たその日、わたしはこの《世界》に戻ってきた。
この《世界》なら、わたしはずっと笑顔でいられるから。
伊月さんはわたしが帰ってきたとき、いなくなっていた。
元々、家庭教師ということでの、居候だったからね。
だれよりも喜びを伝えたい人が、離れていった。
家族水入らずにしてくれた優しさが、とても痛かったな。
この世界で流したことはないのに、決めていたのに、涙が止まらない。
彼がいないことが寂しい。
剣を打ち合う音が聞こえた。
そして、彼と出会った街に勢いよく落ちる人影。
お兄ちゃんは夜空を去っていった。
わたしは、彼のもとへゆっくり降り立つ。
水で溢れ幻想的な噴水の前で、彼は立ち上がることはなかった。
大きく体を広げて横たわっていて、スッキリとした気持ちになっているようだ。
「迷いのあるお前には負けないって言われた。いやーボコボコだ。」
「ごめん、離れて君を傷つけた。小町に想いを告げたら嫌われるかもって不安になって…」
「どうして、その、ミカヅキさんは兜を被り続けるんですか?」
「……狂気を浮かべて戦っていた頃があったからかな。」
ミカヅキさんも普通の男の子で、孤独が怖いんだ。
人から嫌われることを極度に恐怖し、常に明るい笑顔を見せる。
わたしが、彼の兜を脱がせる。
水色だけど、《現実》の面影があった。
「伊月さんは弱虫ですね。でも泣き虫な小町はそういう伊月さんが大好きなの!」
小町は涙を流しながら、満面の笑みを見せる
「小町は、ほんとうに感情が豊かだよな。そんな小町の表情をずっと見ていたい。俺も大好きだ。」
目の前の小町を抱えて、地面を蹴り、翅に力を籠め、『加速』する。
味わったことのない限界を超えるような『加速』だった。
俺の出せる全速力で飛ぶ。
ものすごいスピードで風を感じる。
とても温かくて、『心』を感じた。
「来るぞ。」
その言葉にわたしは彼と同じ方向を向く。
それは、城。
「浮遊城アインクラッド。俺たちが《生きた》《世界》だ。」
いろんな妖精が、その《世界》に向かっている。
城の光に照らされ、見つめ合う。
「わたしも、一緒に連れていってくれますか?」
「俺と、《生きて》ほしい。」
彼の隣で、わたしは心の底から勇気を得る。
彼女の隣で、俺は心の底から勇気を得る。
心の底から笑顔になれる。
誰よりも近くで笑顔を見ていたい。
幸せになってほしくて、幸せを感じたい。