やはり俺の現実逃避はまちがっている。   作:ソロ

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第10話 旅は続く

央都《アルン》は石づくりをしている都市だった。

そして、9つ全ての種族のプレイヤーが行き交っていた。

 

真上にどこまでも続く《世界樹》を見上げた。

 

「あそこに、手がかりがあるんですね。」

「囚われのお姫様もそこにいるらしいな。」

その人が、ミカヅキさんとお兄ちゃんの友達の1人なのだろう。

 

SAOからの未生還者300人のための旅は終わりに近づいている。

私とミカヅキさんの旅も…

 

世界樹の根元にはゲートがあり、ここから《世界樹》の内部に入っていく。

中では守護騎士が何百人も現れるとのこと。

どの種族も、いまだ達成できていない。

 

不安になっていたわたしの手を握ってくれた。

「だいじょうぶ。俺がいる。」

「それに、俺たちには仲間がいる。」

 

ゲートの前には、9つすべての種族が20人ほど集まっていた。

その纏う雰囲気がこの人たちは歴戦の戦士だって教えてくれた。

 

わたしから1度離れて、みんなの前に行く。

黒いコートを着た人と、お兄ちゃんと、ミカヅキさんが並んで門の前に立つ。

3人の纏う雰囲気はまさに英雄だった。

 

 

「攻略に参加してくれて、本当にありがとう!」

黒いコートを着た人がまずは頭を下げる。

 

「残された300人のために、俺たちは再び揃った。」

仮面をつけたお兄ちゃんがそう言った。

 

 

「勇ましくも死んでいった同胞たちのためにも、俺たちはやり遂げなければならない。」

「厳しい戦いになるけど、みんなの力なら切り抜けられる。」

「――『解放』のために!」

ミカヅキさんの、

その力強い叫びにSAOプレイヤーたちは一斉に応えた。

 

さらに、

9つ全ての種族のALOトッププレイヤーが加勢に駆け付ける。

能力上昇の魔法をかけていく。

1つの種族では全ては揃わない。

《マギア》、《クイック》、《シャープネス》、《プロテクション》

 

さいごの戦いが始まる。

 

 

***

翅を開き、9色の妖精たちは飛ぶ。

それぞれの武器を構える。

 

守護騎士も《両手剣》や《弓》を構える。

 

最初で最後の攻略であって、SAOプレイヤーは飛行にまだ慣れていなくて、連携は見込めない。

つまり、ガンガンいこうぜ。

俺たちが個性を全力で発揮し合う最善手。

短期決戦で、勇者を前に進ませる。

 

 

俺の隣をマチは飛びながら、呪文を唱える。

 

闇属性魔法《ナイトメアスフィア》

透き通った球状の力場を発生させる。

ダメージは低いが、範囲が広く、付属効果として移動力低下を与える。

 

俺はその力場が消えた瞬間に、翅に力を込めて『加速』する。

 

この《世界》では光り輝くことはないが、身体が経験で動く。

 

両手剣ソードスキル範囲技《サイクロン》

剣を構えて一回転し、水平に斬撃を与える。

 

動きの鈍った守護騎士を数体斬る。

マチが追いつき、また2人で飛ぶ。

言葉を交わさなくても、その顔を見なくても、なんとなく分かる。

75層ボス攻略で見た2人の戦いのように、俺たちも《リンク》する。

弓を引き絞る姿が見えたが俺は止まらない。

 

闇属性魔法《ブレインバイス》

足元に瞳を模した魔法陣が発生し、立ち上る黒い光の柱が包む。

ダメージは低いが、付属効果として遠距離攻撃の命中率ダウンを与える。

 

 

遠距離攻撃をする相手を、相棒は次々と狩っている。

二刀流となったキリトが俺たちに追いついてきた。

 

守護騎士が集まり、最後の壁を作り始める。

 

俺は剣に『心』を込める。

 

この《世界》で、発動できた。

 

両手剣ソードスキル最上位技《レイ・ブランディッシュ》

上段から振り下ろすと巨大な衝撃波を発し、道を切り開く。

 

 

守護騎士は壁を修復し始める。

 

だから、マチはすべてのMPを使いきる。

補助魔法《インフィニティフォース》

仲間1人の全能力を15秒だけ底上げする付与魔法。

 

 

キリトは2本の剣を突きだし突進する。

流星が最後の壁を貫いていった。

 

 

後衛のリーダーであるシルフの領主は叫ぶ。

「全員反転、後退!」

 

俺たちは、勝った。

 

 

 

***

 

まだこの《世界》が終わるまで時間があるみたい。

央都《アルン》の街をミカヅキさんと歩く。

 

「お別れですね。」

「…そうだな。」

 

わたしにとっては、とても長く感じられたけど、

彼の2年間に比べたら、とても短い旅だったんだろうな。

 

この《世界》が終われば、わたしも彼も《現実》に戻っていくんだ。

彼との関係は、この《世界》が終わっても続いてくれるのかな。

 

「ありがとう。マチがいてくれて、俺はまた立ち上がれた。」

「いえいえ、わたしもお兄ちゃんの《生きた》世界を、少しは知れてよかったです。」

 

 

「俺さ、もうVRMMOはやらないって決めてたんだ。両親を泣かせちゃったしな。まだあの《世界》が終わってないって知って、さいごにこの《世界》にやってきた。」

ミカヅキさんはつよくて優しい人で、そして傷ついていく人なんだ。

お兄ちゃんのように誰かを助けるために、自分を犠牲にする。

 

 

「SAOやALOはどうでしたか?」

わたしは聞いてみる。

 

「俺はあの《世界》が好きだったよ。もちろん、悲しいことや苦しいことがたくさんあった。でも、俺は2度目の青春でも《生きた》実感を得ることができた。」

お兄ちゃんと同じようなことを言う。

ミカヅキさんはお兄ちゃんに似ていて、でもお兄ちゃんじゃない。

 

「ALOは、そうだな……まだまだ物足りなかったな。もっと冒険したかった。」

兜の下で笑みを浮かべてくれる。

 

そのときは、一緒に連れていってほしいって、わたしはまだ言えなかった。

 

「なら、また来てくださいね。ALOに!」

 

涙をこらえて、精いっぱいの笑顔を見せた。

この《世界》では、泣かないって決めていた。

 

 

 

***

 

 

300人の生還・ALO事件の首謀者逮捕というニュースが朝から報道されっぱなしだ。

彼と出会ったALOはしばらくログインができないようで、寂しかった。

 

わたしはその報道を聞きながらリビングで受験勉強をする。

お兄ちゃんは自分の部屋で小説を書いているようだった。

 

チャイムの音が聞こえたので、わたしは玄関に向かい、ドアを開ける。

短めの黒髪で、優しそうな同い年くらいの人だった。

 

「今日から、居候するって、聞いてない?」

その声を聞いて、泣き虫なわたしは、涙を流した。

不思議と、泣き虫なわたしが今は嫌いじゃなかった。

 

 

 

 

 

***

漆黒の夜空をわたしは翅を広げ飛んでいた。

 

受験の合格発表が出たその日、わたしはこの《世界》に戻ってきた。

この《世界》なら、わたしはずっと笑顔でいられるから。

 

伊月さんはわたしが帰ってきたとき、いなくなっていた。

元々、家庭教師ということでの、居候だったからね。

 

だれよりも喜びを伝えたい人が、離れていった。

家族水入らずにしてくれた優しさが、とても痛かったな。

この世界で流したことはないのに、決めていたのに、涙が止まらない。

彼がいないことが寂しい。

 

 

剣を打ち合う音が聞こえた。

そして、彼と出会った街に勢いよく落ちる人影。

 

お兄ちゃんは夜空を去っていった。

わたしは、彼のもとへゆっくり降り立つ。

 

水で溢れ幻想的な噴水の前で、彼は立ち上がることはなかった。

大きく体を広げて横たわっていて、スッキリとした気持ちになっているようだ。

「迷いのあるお前には負けないって言われた。いやーボコボコだ。」

「ごめん、離れて君を傷つけた。小町に想いを告げたら嫌われるかもって不安になって…」

 

「どうして、その、ミカヅキさんは兜を被り続けるんですか?」

「……狂気を浮かべて戦っていた頃があったからかな。」

 

ミカヅキさんも普通の男の子で、孤独が怖いんだ。

人から嫌われることを極度に恐怖し、常に明るい笑顔を見せる。

 

わたしが、彼の兜を脱がせる。

水色だけど、《現実》の面影があった。

「伊月さんは弱虫ですね。でも泣き虫な小町はそういう伊月さんが大好きなの!」

 

小町は涙を流しながら、満面の笑みを見せる

「小町は、ほんとうに感情が豊かだよな。そんな小町の表情をずっと見ていたい。俺も大好きだ。」

 

 

目の前の小町を抱えて、地面を蹴り、翅に力を籠め、『加速』する。

味わったことのない限界を超えるような『加速』だった。

俺の出せる全速力で飛ぶ。

 

 

ものすごいスピードで風を感じる。

とても温かくて、『心』を感じた。

「来るぞ。」

その言葉にわたしは彼と同じ方向を向く。

 

 

それは、城。

「浮遊城アインクラッド。俺たちが《生きた》《世界》だ。」

 

いろんな妖精が、その《世界》に向かっている。

 

城の光に照らされ、見つめ合う。

「わたしも、一緒に連れていってくれますか?」

「俺と、《生きて》ほしい。」

 

彼の隣で、わたしは心の底から勇気を得る。

彼女の隣で、俺は心の底から勇気を得る。

 

心の底から笑顔になれる。

誰よりも近くで笑顔を見ていたい。

幸せになってほしくて、幸せを感じたい。

 

 

 

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