やはり俺の現実逃避はまちがっている。   作:ソロ

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第11話 詩乃とシノン

現実に帰還して、時はあっという間に過ぎた。

4月から、SAOから帰還した中高生向けの臨時校に通っている。

今は6月にはいったばかりである。

 

高2相当であるとはいえ、俺の知識は中2で止まっていた。

居候な家庭教師である《未来の義弟》による勉強漬けの毎日のおかげで、俺の成績は飛躍的に上昇した。

 

それに、合格ラインギリギリだった小町も、安心安全に総武高に合格できた。

……代償として大切な妹の心が盗まれた。

相棒として認めたいが、義兄としては認められないというジレンマに俺は陥っていた。

 

相棒である伊月は、実家より臨時校が近いこともあって居候を続けている。

 

「いや、まだ小町は渡さんぞ。認めていないぞ。」

 

「比企谷、いきなりどうした? ところで、なぜ私は結婚できないか考えてくれ。」

 

2年間あっても、まだ結婚してないのかよ。

中学時代の恩師であり、奉仕部の顧問でもあった、平塚先生はこの学校に勤務している。

 

「この学校で職場恋愛してみたらいいんじゃないですか?」

 

「ふむ。しかし、この学校は定年退職したような教師が多くてな。まあ、若い女教師も必要だからと私は呼ばれたわけだが。」

 

あ、はい、そうですか。

誇らしげな顔をする教師に対して、心の中で呟く。

 

「そういえば君には、進路相談をできなかったよな。なにか決まったか?」

 

昔の俺って専業主夫って伝えてたよなぁ。

 

「小説家、ですかね。」

 

 

 

 

***

放課後となり、俺はすぐに家に向かった。

相棒は、小町を迎えに行った。

兄離れって、儚いものだ……

 

駅から自転車に乗り換えた俺は、アパートの多い住宅街を通りがかる。

東京までバイクで通うことは諦めている。

朝方は交通量が多すぎる。

 

「嫌、あなたにお金を貸す気はない。」

 

顔の横で髪を結わえていて、短めの黒髪の、1人の女の子を俺は見た。

水色の髪の、1人の女の子の姿が重なった。

 

 

***

私は東北のほうから千葉に出てきて、1人暮らしを始めた。

2月半ばにあった受験にも無事合格して4月から総武高校に通っている。

 

もともと、中学卒業後に働くか専門学校に行くつもりだったけど、祖父母にはいい学校に行けって言われた。

できるだけ、早く、『あの場所』から離れたかったから都合がよかった。

 

総武高校は悪い学校ではないけれど、都心に近い私立高校ということもあるのだろうか、不良が一定数存在する。髪を染めている人も多い。

 

地味で根暗な私は目をつけられたわけだ。

そして、『あの事件』すら噂になり始めた最悪な状況だ。

やはり私は過去に囚われ続ける。

 

たった1人だけできた友人は、どう思っているのだろうか。

軽蔑するだろうか、同情するだろうか。

 

 

学校帰りにいつも通りスーパーに寄ろうとしたところを絡まれた。

カラオケでお金使い切ったからと言って、電車代に1万円を要求されたのだ。

 

 

「嫌、あなたにお金を貸す気はない。」

 

「手前ェ、ナメてんじゃねぇぞ。」

 

女の子は3人の不良JKに囲まれる。

 

「……もう行くから、そこをどいて。」

 

その態度に応えるかのように、リーダーらしき不良JKは不敵に笑う。

…タバコは未成年ダメだろ。

不良JKは、右手で拳銃を模す。

…ガンドか?

 

「ばぁん。」

たった一言が付け加えられる。

 

女の子は震え始める。

 

「兄貴がさぁ、モデルガン何個か持ってるんだよなぁ。今度、学校で見せてやろうか。お前好きだろ、ピストル。」

 

しゃがみこみ、女の子は身体を抱くように縮こまってしまう。

そして、その言葉に首を振っている。

 

 

俺は自然と拳を握っていたことに驚く。

自分の怒りを久しぶりに感じた。

 

気配を元に戻し、女の子に近づく。

「お前ら、その辺でやめとけ。」

 

「あぁ、なんだ、ヒーロー気取りか?」

俺の方へ振り向いて、悪態をつかれる。

 

「そいつのこと教えてやろうか?」

 

「お前らに興味はない。失せろ。」

俺は殺気を籠める。

あの《世界》で身に着いてしまった俺の強さ。

 

「ヒッ! チッ、今日のところは勘弁してやる。」

リーダーである不良JKが背を向けると、取り巻きも追いかけて行った。

 

危機は去ったが、

女の子は呼吸を整えている最中だった。

 

俺は背後からの視線を警戒していた。

 

 

***

 

助けてくれたのは、白いワイシャツに黒いパーカーを羽織った男子だった。

顔立ちは良いが、なんというか特徴的な目をしている。

どこか思い詰めたような目をしているけど、悪い人ではないと思う。

 

総武高では見たことはない、上級生なのだろうか。

 

「えっと、本当にありがとうございました。飲み物まで買ってくれて。」

「ん。」

 

公園のベンチに隣り合って座り、非常に甘いコーヒーに口をつける。

その甘さと彼との距離感が、今の私には心地よかった。

 

無言のまま、噴水を見つめる。

「えっと、聞かないんですか? なんで絡まれていたとか…」

 

「じゃあ、遠慮なく。マッ缶好き?」

 

先ほどのこととは関係ない質問に、思考が一瞬止まる。

 

「えっと、苦手ではないです。」

 

「フッ、そうか。」

 

私の答えに、嬉しそうで誇らしげな顔をされる。

こんなことで喜んでくれたようで、少し笑みがこぼれた。

 

彼は私の方を向いてきた。

男の人に視線を向けられることは苦手なはずだけど、なんだか嫌ではなかった。

「そう言えば、総武高の1年なんだな。妹や知り合いも通ってるんだけど。」

 

「へぇ、そうなんですか。あなたも総武高ですか?」

 

「いや、東京の、たぶん私立に通ってる。」

あれ、国立か?都立か? と頭を捻っている。

彼自身分かっていないのかもしれない。

 

「まあ、いいか。家まで送ってやるよ。ここで置いて帰ったら妹に怒られるかもしれない。」

 

「えっと、ありがとうございます。」

頼りになるのかならないのか分かりづらい人。

 

 

 

家まで送ってくれたあと、彼は帰っていった。

そういえば、名前聞きそびれたな。

この近くに住んでいるとも言っていたから、また出会える機会があるかもしれない。

 

私はドアを開け、慎重に部屋に入る。

何度か遠藤にはこの部屋に押しかけられたことがあった。

 

私はドサッとベッドに横たわった。

アミュスフィアが視界に入る。

1人暮らしを始めた頃の3月に、知り合いの男子から紹介されたゲームGGO。

 

PTSDを克服するために、私は向き合い、戦っている。

今では《シノン》の名は、スナイパーとして《世界》で有名となった。

 

でも、

シノンは、《ヘカートⅡ》というアンチマテリアルライフルを自在に操る。

詩乃は、モデルガンすら持つことができない。

 

現実の私は、ほんとうに強くなれたのだろうか。

彼に、近づけたのだろうか。

 

 

「リンク・スタート」

弱弱しい声で呟いた。

 

***

 

高層ビルが立ち並ぶ都市に、シノンはいた。

どこか薄暗い空で、金属で囲まれた《世界》だ。

たくさんの屈強な傭兵や軍人が行き交いしている。

 

私はミラーガラスに近づき、私の姿を見る。

どことなく私に面影があるが、髪や目は水色。

小柄で華奢で、よく男性プレイヤーから不快な視線を受ける。

 

それでも、

この《世界》に生きるシノンは、銃を見ても発作は起きないし、詩乃よりつよい。

 

 

あいつの気配がしたため、路地裏に入る。

髑髏を模した仮面をつけ、黒い忍装束を着ている。

 

「こんにちは、エイト。」

 

「…なんでバレる?」

 

「勘よ。」

 

《アサシン》と呼ばれている人。

気配を消すことに長けていて逃げ足の速い、トッププレイヤーである。

 

「いや、あれがあれで、今日俺忙しいんだ。」

 

「はいはい。行くわよ先輩。」

 

逃げるべく背を向けた彼の襟首を引っ張る。

 

どこか情けない彼だけど、本当に強い。

 

 

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