やはり俺の現実逃避はまちがっている。 作:ソロ
また、挿入投稿で間話2を入れました。
PTSD
心的外傷後ストレス障害というものを私は患っている。
『銃』が怖い。
夢にまで出てくる《あの顔》が怖い。
―――過去が怖かった。
何度もカウンセリングを受け、何度も同情の言葉をかけられた。
それでも、、、
3月半ば、高校入学より早めに千葉に引っ越した私はやり直そうと決意する。
時間があったというよりは、’あの場所’から’遠く離れた場所’だということが大きかっただろう。
自分で、克服することを始めた。部屋で『銃』の画像を見たり、落ち着いた雰囲気の図書館で『銃』の本を見たり、闇雲に動いた。
世間一般からするととても危険な行為だっただろうが、それでも高校入学という転換点で、道を変えたかった。
「銃、好きなんですか?」
完治とは至らなかったが、銃の写真なら耐えられるようになった頃、新川君に声をかけられる。
今では《あの事件》を彼は知っているが、当時は銃が好きだと思いこまれて熱弁された。
《あの銃》を見てしまったこともあって平静を保ちながら話の中で、《別世界》の話だけは聞き逃さなかった。
***
彼との出会いはずっと忘れることはないだろう。
《シノン》が生まれた瞬間を。
私は過去と対峙するために、VRMMO《ガンゲイル・オンライン》にログインする。
たくさんの人が生き交い、傭兵や軍人の格好をしている。
そして持っている『銃』と舐めるような視線に、恐怖を抱いた。
GGOには女性プレイヤーは珍しいこともあったし、詩乃と違ってシノンは華奢で美少女だ。
しゃがみ込み震える私は誰かに抱えられて、路地裏へと連れていかれる。
『心』に大丈夫だ って聞こえてきて、不思議と悲鳴を上げることはなかった。
降り積もった雪がゆっくり溶けるような温もり。
「ログイン早々、ナンパされるとは不幸だな。」
黒い忍装束と仮面で、どこかGGOに合わない見た目もあって、なんだか拍子抜けした。
「えっと、ありがとうございます。」
「ん。じゃ。」
すぐさま立ち去ろうとする彼の背中はなんだか弱々しくて、霧のように消えてしまいそうで。なぜだか放っておけなくて。
「ねぇ、この世界のこと教えてくれない?」
自然と出た言葉。
いつもと違う声色、いつもと違う自分を感じた。
それから、たくさんの冒険をしてきた。
不器用な優しさで、
《世界》を教えてくれた。
震える私の手を包みこんで一緒に銃を持ってくれた。
私に合う戦い方を見つけてくれた。
あれこれ言いながらも側にいてくれた。
《あの事件》のことはまだ伝えていない。
それでも私の恐怖を感じ取ってくれた。
何も言わずに優しさをくれた。
それはきっと、私が求めてきたモノで、、、
***
荒涼とした荒野で私は愛銃を構え直す。
PGM-ウルティマラティオ・ヘカートⅡ、全長138cmの対物狙撃銃だ。
最高レベルの危険度のダンジョンを彼と一緒に攻略したときから、
彼の強さが最も垣間見えたときから、
彼に近づきたいと思ったときから、
この銃と共に生きている。
この銃に《心》を感じている。
この《世界》では、対モンスター戦闘(PvE)より、対人戦闘(PvP)が盛んだ。
都市以外は無制限PKであるため、待ち伏せ・遭遇戦などで対人戦闘が起こる。
計30人のバトルロイヤルが本戦に行われる大会、BoBの良い訓練になる。
この緊張感が私を強くするだろう。
来た。
へカートⅡのスコープを覗きながら、心の中でそう思う。PvEをした帰りであるだろうスコードロンが街に向かっている。
そして、待ち伏せをしているダイン率いるスコードロンもすでにいる。今回は大会の有力候補であるダインの戦力確認と、ダインとの戦闘を目的としている。
街に向かうスコードロンは計7人。待ち伏せしているスコードロンは計6人。人数差はあるものの、奇襲をかければ結果は分からないだろう。
引き金に指を沿えると、着弾予測円が発生する。
その円内のどこかに銃弾が飛ぶというアシスト機能だ。
心臓の鼓動と同期して、その円は拡縮する。
こんなプレッシャー、こんな不安、こんな恐怖、そして距離1500m、なんてことはない。
アノトキニ、クラベレバ。
円の拡縮するスピードが遅くなる、いや、私の思考が一瞬だけ『加速』しているといえるだろうか。
最大まで縮小したとき、引き金を引く。
雷鳴にも似た咆哮とともに、1人のプレイヤーを打ちぬいた。対人銃よりはるかに威力の高い一撃は、全開のHPを吹き飛ばした。
軽機関銃が地面に落ちるとともに、2つのスコードロンで混乱が生じる。
愛銃の反動に動じず、
自然とボルトハンドルを引き、巨大な薬莢が排出される。次弾が装填され、ダインに照準を合わせ、引き金を引く。
第二射、成功。
私は薬莢を排出しながら、その場を離れる。
こちらの位置がすでにバレている可能性が高いからだ。
予定していた射撃地点であるビルに着き、スコープで様子を確認する。
残されたそれぞれの5人が争いを始めている。
しかし、マントの大男がこちらにゆっくりと近づいていて、目線を向けている。
1mを越える巨大な重機関銃を構えているのを見て、私はビルの上の階へと猛然と駆ける。
私の愛銃に匹敵するレア度を誇る銃を持つということは、トッププレイヤーである証拠だ。
その歴戦の戦士を、私は殺す。
勝って、強くなる。
下の階からこちらに向かって、何百発も打たれている音がする。
それでも、私は足を止めない。
ボロボロのビル5階に大きく穴が開いているのが目に入る。
上から銃を構えた瞬間に、何十本もの赤い光が私を貫く。
弾道予測線、そこに弾が飛んでくる。
思考も作戦も、読まれていた。
だけど、私はあがいてでも、生きる!
窓枠から飛び降りる。
私の左足に弾が当たり、脚は吹き飛ぶ。
それでも、
歴戦の戦士の真上から、一発の弾丸を撃ち込んだ。
重機関銃だけが、地面に残った。
浮遊感が急に消える。
片足を失った私は受け止められたようだ。
「おもっ…」
無言でビンタをお見舞いした。
***
ヒト気のない、裏路地の店のカウンターで私はコーヒーを飲み、休憩をしている。
静かな雰囲気で落ち着いた店だ。
隣には、奢りのカップラーメンを食べる人もいる。
相変わらずムードというものをぶち壊していく人だ。
食べるときくらい仮面外しなさいよ。
「…助かったわ。片足失って街に戻ることはできなかっただろうし。」
助け方や失言はともかく、お礼を言っておく。
まさかお姫様抱っこをされるとは思わなかった。
「ああ、大事な体だもんな。」
ラーメンを食べる箸を止め、こちらを向かないまま呟くように返事をする。
こいつは無自覚にそういうこと言う!
「…そうね。大会前に装備を失うわけにもいかないわ。」
フィールドでHPを失った際、所持しているアイテムの一部をドロップしてしまう。
女として防具を落とすわけにはいかないし、愛銃を落とすわけにもいかないのだ。
先ほどの戦いではスコードロンへ集中していたため、存在を忘れるほど、彼の気配はなかった。
大会でいつ後ろから刺されるか分からない。
「そういえば、エイトって、BoB出場するのよね?」
「しないぞ。」
「ハァ!?」
驚きのあまり立ち上がり、全身を彼の方に顔を向ける。
「いや、だって目立つじゃん、あれ。」
たしかに大会の本戦は中継される。
理由が、情けない。
「エイトが出たら、2位になれると思うけど?」
「1位って言ってくれないのかよ、この後輩は。」
「だって、私が先輩に勝って優勝するからよ。」
「ああ、そうかい。俺に勝ったことないけどな。」
仮面で隠されていても分かるニヤリとした顔だ。
確かにこの《世界》で彼は一度も敗けたことがない。
こいつ、やっぱりムカつく。
でも、話していて、どこか楽しい。
「出なさい。」
「は、はひっ。」
彼は本当に強いけど、情けない人だ。
いつも調子を狂わされるけど、
私はこの時間が嫌いじゃない。