やはり俺の現実逃避はまちがっている。   作:ソロ

15 / 42
回想から始まります。
また、挿入投稿で間話2を入れました。


第12話 エイトという名は

PTSD

心的外傷後ストレス障害というものを私は患っている。

 

『銃』が怖い。

夢にまで出てくる《あの顔》が怖い。

―――過去が怖かった。

 

何度もカウンセリングを受け、何度も同情の言葉をかけられた。

それでも、、、

 

3月半ば、高校入学より早めに千葉に引っ越した私はやり直そうと決意する。

時間があったというよりは、’あの場所’から’遠く離れた場所’だということが大きかっただろう。

 

自分で、克服することを始めた。部屋で『銃』の画像を見たり、落ち着いた雰囲気の図書館で『銃』の本を見たり、闇雲に動いた。

世間一般からするととても危険な行為だっただろうが、それでも高校入学という転換点で、道を変えたかった。

 

「銃、好きなんですか?」

完治とは至らなかったが、銃の写真なら耐えられるようになった頃、新川君に声をかけられる。

今では《あの事件》を彼は知っているが、当時は銃が好きだと思いこまれて熱弁された。

《あの銃》を見てしまったこともあって平静を保ちながら話の中で、《別世界》の話だけは聞き逃さなかった。

 

 

***

彼との出会いはずっと忘れることはないだろう。

《シノン》が生まれた瞬間を。

 

私は過去と対峙するために、VRMMO《ガンゲイル・オンライン》にログインする。

たくさんの人が生き交い、傭兵や軍人の格好をしている。

そして持っている『銃』と舐めるような視線に、恐怖を抱いた。

GGOには女性プレイヤーは珍しいこともあったし、詩乃と違ってシノンは華奢で美少女だ。

 

しゃがみ込み震える私は誰かに抱えられて、路地裏へと連れていかれる。

『心』に大丈夫だ って聞こえてきて、不思議と悲鳴を上げることはなかった。

降り積もった雪がゆっくり溶けるような温もり。

 

 

 

「ログイン早々、ナンパされるとは不幸だな。」

黒い忍装束と仮面で、どこかGGOに合わない見た目もあって、なんだか拍子抜けした。

 

「えっと、ありがとうございます。」

 

「ん。じゃ。」

すぐさま立ち去ろうとする彼の背中はなんだか弱々しくて、霧のように消えてしまいそうで。なぜだか放っておけなくて。

 

「ねぇ、この世界のこと教えてくれない?」

自然と出た言葉。

いつもと違う声色、いつもと違う自分を感じた。

 

 

それから、たくさんの冒険をしてきた。

不器用な優しさで、

《世界》を教えてくれた。

震える私の手を包みこんで一緒に銃を持ってくれた。

私に合う戦い方を見つけてくれた。

あれこれ言いながらも側にいてくれた。

 

《あの事件》のことはまだ伝えていない。

それでも私の恐怖を感じ取ってくれた。

何も言わずに優しさをくれた。

 

それはきっと、私が求めてきたモノで、、、

 

 

***

荒涼とした荒野で私は愛銃を構え直す。

PGM-ウルティマラティオ・ヘカートⅡ、全長138cmの対物狙撃銃だ。

 

最高レベルの危険度のダンジョンを彼と一緒に攻略したときから、

彼の強さが最も垣間見えたときから、

彼に近づきたいと思ったときから、

この銃と共に生きている。

この銃に《心》を感じている。

 

 

この《世界》では、対モンスター戦闘(PvE)より、対人戦闘(PvP)が盛んだ。

都市以外は無制限PKであるため、待ち伏せ・遭遇戦などで対人戦闘が起こる。

計30人のバトルロイヤルが本戦に行われる大会、BoBの良い訓練になる。

この緊張感が私を強くするだろう。

 

 

来た。

へカートⅡのスコープを覗きながら、心の中でそう思う。PvEをした帰りであるだろうスコードロンが街に向かっている。

 

そして、待ち伏せをしているダイン率いるスコードロンもすでにいる。今回は大会の有力候補であるダインの戦力確認と、ダインとの戦闘を目的としている。

 

街に向かうスコードロンは計7人。待ち伏せしているスコードロンは計6人。人数差はあるものの、奇襲をかければ結果は分からないだろう。

 

引き金に指を沿えると、着弾予測円が発生する。

その円内のどこかに銃弾が飛ぶというアシスト機能だ。

心臓の鼓動と同期して、その円は拡縮する。

 

こんなプレッシャー、こんな不安、こんな恐怖、そして距離1500m、なんてことはない。

アノトキニ、クラベレバ。

 

円の拡縮するスピードが遅くなる、いや、私の思考が一瞬だけ『加速』しているといえるだろうか。

最大まで縮小したとき、引き金を引く。

 

雷鳴にも似た咆哮とともに、1人のプレイヤーを打ちぬいた。対人銃よりはるかに威力の高い一撃は、全開のHPを吹き飛ばした。

軽機関銃が地面に落ちるとともに、2つのスコードロンで混乱が生じる。

 

愛銃の反動に動じず、

自然とボルトハンドルを引き、巨大な薬莢が排出される。次弾が装填され、ダインに照準を合わせ、引き金を引く。

第二射、成功。

 

私は薬莢を排出しながら、その場を離れる。

こちらの位置がすでにバレている可能性が高いからだ。

 

予定していた射撃地点であるビルに着き、スコープで様子を確認する。

残されたそれぞれの5人が争いを始めている。

 

しかし、マントの大男がこちらにゆっくりと近づいていて、目線を向けている。

1mを越える巨大な重機関銃を構えているのを見て、私はビルの上の階へと猛然と駆ける。

 

私の愛銃に匹敵するレア度を誇る銃を持つということは、トッププレイヤーである証拠だ。

その歴戦の戦士を、私は殺す。

勝って、強くなる。

 

下の階からこちらに向かって、何百発も打たれている音がする。

 

それでも、私は足を止めない。

 

ボロボロのビル5階に大きく穴が開いているのが目に入る。

上から銃を構えた瞬間に、何十本もの赤い光が私を貫く。

 

弾道予測線、そこに弾が飛んでくる。

 

思考も作戦も、読まれていた。

だけど、私はあがいてでも、生きる!

 

窓枠から飛び降りる。

私の左足に弾が当たり、脚は吹き飛ぶ。

 

それでも、

歴戦の戦士の真上から、一発の弾丸を撃ち込んだ。

重機関銃だけが、地面に残った。

 

 

浮遊感が急に消える。

片足を失った私は受け止められたようだ。

 

「おもっ…」

無言でビンタをお見舞いした。

 

 

 

***

ヒト気のない、裏路地の店のカウンターで私はコーヒーを飲み、休憩をしている。

静かな雰囲気で落ち着いた店だ。

 

隣には、奢りのカップラーメンを食べる人もいる。

相変わらずムードというものをぶち壊していく人だ。

食べるときくらい仮面外しなさいよ。

 

「…助かったわ。片足失って街に戻ることはできなかっただろうし。」

 

助け方や失言はともかく、お礼を言っておく。

まさかお姫様抱っこをされるとは思わなかった。

 

「ああ、大事な体だもんな。」

ラーメンを食べる箸を止め、こちらを向かないまま呟くように返事をする。

 

こいつは無自覚にそういうこと言う!

 

「…そうね。大会前に装備を失うわけにもいかないわ。」

フィールドでHPを失った際、所持しているアイテムの一部をドロップしてしまう。

女として防具を落とすわけにはいかないし、愛銃を落とすわけにもいかないのだ。

 

先ほどの戦いではスコードロンへ集中していたため、存在を忘れるほど、彼の気配はなかった。

大会でいつ後ろから刺されるか分からない。

 

「そういえば、エイトって、BoB出場するのよね?」

 

「しないぞ。」

 

「ハァ!?」

驚きのあまり立ち上がり、全身を彼の方に顔を向ける。

 

「いや、だって目立つじゃん、あれ。」

たしかに大会の本戦は中継される。

理由が、情けない。

 

「エイトが出たら、2位になれると思うけど?」

 

「1位って言ってくれないのかよ、この後輩は。」

 

「だって、私が先輩に勝って優勝するからよ。」

 

「ああ、そうかい。俺に勝ったことないけどな。」

 

仮面で隠されていても分かるニヤリとした顔だ。

確かにこの《世界》で彼は一度も敗けたことがない。

 

こいつ、やっぱりムカつく。

でも、話していて、どこか楽しい。

 

「出なさい。」

 

「は、はひっ。」

 

彼は本当に強いけど、情けない人だ。

 

いつも調子を狂わされるけど、

私はこの時間が嫌いじゃない。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。