やはり俺の現実逃避はまちがっている。   作:ソロ

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第14話 私が求めてきたモノ

私は《SBCブロッケン総督府》に着き、予選エントリーボタンを押す。

名前や住所を打ち込み参加を確定させる。これは上位入賞者への賞品を贈ってくれるために必要なものだ。

 

 

入り口からエイトが長い黒髪の女の子と一緒に入ってくるのに気づいた。

エイトは気配を消しているようだが、勘で分かる。

 

「エイト、予選のブロックはどこ? 私はEなんだけど。」

 

「昨日申請したからDだぞ。ところで、怒ってる?」

私が言っておかなければ参加する気はなかったのだろう。

 

「……怒ってないわよ。あの女の子だれ?」

 

「やっぱり不機嫌じゃねぇか。というかあいつ男だぞ?」

 

私は端末を操作している人に、目を急いで向ける。

小柄で華奢で、後ろ姿は完全に女の子だ。

振り向いてこちらを向いて、顔をよく見ると、たぶん、男の娘。

 

そういえば総武高でも男の娘を1人見かけたような気がした。

「……行くわよ。」

 

「いや、なになかったことにしてんの?」

 

エレベーターに乗り込むと、素早い動きで2人とも乗ってくる。

舌打ちが漏れそうになった。

 

「え、えっと、キリトだ。エイトのお知り合い?」

 

「私はシノン。彼の後輩っていうところかしら。」

 

「……そうだな。」

 

さっきのミスはなかったことにしてくれたらしい。

地下に降りた私は、機嫌よく女子更衣室に向かった。

 

 

 

***

BoB開催ギリギリにログインしてきたキリトの買い物まで付き合っていたら、ギリギリの到着になってしまった。

 

男の娘という紛らわしい姿は写真に撮って、明日奈とユイちゃんに送ることとする。

GGOやBoBの説明を事前に読んでこないようなキリトにルールを説明する気もないので、案内板へGoサインを出した。

 

俺は壁にもたれながらステルスヒッキーをする。

しかし隣にシノンがすでにいる。

 

彼女がいつの間にか隣にいることには、もう慣れてしまった。

 

「決勝までくるのよ。試合中に変なミスしないでね。」

 

「…お前も来いよ。」

 

「当然よ。予選落ちなんかしたら引退するわ。」

 

「それは、嫌だな。お前と会えなくなるじゃねぇか。」

シノンの顔を見る前に視界が光に包まれた。

 

 

 

転送された空間で、俺はメニューを開き、武器を取り出す。

漆黒のハンドガン《HGBST3時雨》を腰のホルスターに入れる。

シノンが愛銃を手に入れた冒険で手に入れたものだ。

後ろ腰には曲刀より少し短いくらいのサバイバルナイフを差している。

 

俺はこの《世界》で誰よりも、つよくなる。

そうすれば、矛盾だらけの青春を変えることができるだろうから。

そうすれば、俺も『本物』を求めることができるようになるかもしれないから。

 

 

 

気づけば、黄昏の空の中、草原にいた。

隠れる場所は岩程度で、俺にとっては相性の悪いステ―ジが当たってしまう。

 

1mを越える巨大な重機関銃を構えているのを見て、見覚えのある大男に向かって駆けだす。

 

数十の弾道予測線が俺を貫き、視界が真っ赤に染まる。

右斜め前へ最低限の動きで予測線から外れると、大男は’撃つ前に’身体を捻り方向を変える。

 

だが、もう遅い。

迷った時点で、ゲームオーバーだ。

 

力強く踏み込んで、『加速』する。

ホルスターから抜いた愛銃での3点バーストは、頭を打ち抜いた。

 

 

 

***

決勝戦までも無事終わり、

控室に戻ってくると、知っているやつが友達に絡んでいるのが見えたので、声をかける。

 

「よう、調子はどうだ?」

 

「…それは、皮肉か、裏切り者。」

赤眼のやつが振り向き、そう答えた。

 

それがSAOでのラフィン・コフィン討伐戦のことを指すのなら、皮肉をあえて言ってやる。

「牢獄の生活はどうだった?」

 

 

一瞬無言になったところを見ると、

「…まあ、いい。お前は、いつか、殺す。……それにまだ終わっていない。」

かなり恨まれているな。

でも、復讐の対象が俺だけなら、問題はない。

 

 

「キリト、あんま気にすんなよ。」

 

「分かってる。けど、俺は、殺した2人の顔や名前を一度として思い出したことがない。無理やりに、忘れようとしていた。」

 

あの討伐戦で、キリトは人を斬った。

俺が討伐隊を手引きしたとはいえ、対人スキルはラフコフのほうが上であった。その混戦の最中、双方に死者が出た。

キリトはまだ過去を克服できていなかったのだろう。

 

「アスナとユイに、この《世界》に来ている理由、ちゃんと話してこい。 お前の見つけた『本物』に。」

 

ログアウトしていく彼は、仕事帰りで疲れて家に戻っていく父親のように見えた。

 

 

 

俺たちの様子を見ていたシノンが話しかけてくる。

「キリトもエイトも、決勝戦勝ったのね。」

 

「ああ。」

 

「ねぇ、キリトは何に怯えているの?」

 

「過去だ。」

 

俺の答えに、陰りが見える。

黒髪の女の子の姿が重なる。

 

「デスガンって知ってるか?」

 

「ええ。噂になってるわね。」

 

「この大会で、死人が出るかもしれない。」

 

シノンは目を見開く。

俺の真剣な雰囲気から、それが現実での死を表すと感じ取ったのだろう。

 

黒髪の女の子は恐怖し、シノンは凛としている。

恐怖と勇気を持った目を向けてくる。

 

「それでも、逃げたくない。」

 

「そうか。」

 

そんな彼女が眩しくて、……

俺はメニューを開き、ログアウトしようとする。

 

「最後に聞かせて。エイトは何か怖いものある?デスガンや死は怖い?」

 

「俺は、俺自身が怖い。」

 

人の考えを読み取るのが得意だ。

人の感情が分かるようになった。

 

それでも、

俺は、俺のことが分からなくなった。

 

 

 

 

***

 

日曜日。

それは大好きなプ〇キュアから始まり、仮面○イダーに続き、スー〇ー戦隊シリーズに終わるという至福のニチアサが存在する。

 

ソファに身体を預けながら、いつも通り視聴し終わった。

 

相棒も俺の趣味を理解してくれる同志であることは、実に感動的だな。

 

「お兄ちゃん、今日こそ聞かせてもらいます。」

 

「…どうした?」

 

朝ごはんの片づけが済んだ小町が、俺と伊月の間に座ってくる。

ちょっと君たち、密着しすぎじゃないの?

 

「好きな人できた?」

 

「……なんのことだ?」

 

「たしかに、急に推しのプ〇キュアできたよな。あの水色の髪の娘だったっけ。」

 

「それってウンディーネの娘なのかな。出会っちゃった?」

 

相棒の聡いところは、今は好きじゃないよ。

小町はALOを出会い系サイトみたいに言うんじゃありません。

 

「いや、それは小町に似ていたからだ。あ、今の八幡的にポイント高い。」

 

小町は、うーんうーんと唸りながらウンディーネの知り合いを頭の中で検索しているようだ。

お兄ちゃんのことを全く信頼してくれないな。

 

「あー、ちょっと出かけるな。」

 

悪手だぞインドア派。という伊月からの個別ラインが来た。

 

 

 

***

 

心地よい春風の中、ブランコを軽く揺する。

「はぁ…」

 

「朝田さん、何かあった?」

 

「え?ああ、ちょっと考えごとをね。」

 

「…それって《アサシン》のこと?」

 

そうだ。

昨夜、彼が言い残したことが気にかかっている。

 

「ねぇ、新川君はなにか怖いものある?」

 

「な、何を言ってるのかな。え、えーと、今はシノンが負けるのが怖いなー」

何かを隠すように笑って誤魔化される。

 

「…そう。」

 

あんなに強い彼が、自分が怖いとはどういうことなのだろう。

 

 

「なんだか、心配で。その、ぼ、僕にできることがあったら、何でもしてあげたいんだ。退会はモニタ越しの応援しかできないけど、他にもできること、あったらって……」

新川君の気持ちは普通に嬉しい。

 

でも、どこか気持ちの照準がずれている気がした。シノンだけを応援してくれるようだった。

 

 

たった1人の友達が、笑いかけてくれるほうが何倍も嬉しかった。

不器用な彼が、何でもしてくれるって言ってくれた方が……

 

「大丈夫。今はまだ、そういう気にはなれない。私の力で強くならないといけないから。」

 

「えっと、じゃあ、朝田さんが、自分の強さを確信できたら、その時は、僕と…」

 

「ごめん。BoBが終わるまでは、そういうのは待って。」

 

「そう…」

寂しそうに俯く彼を置いて、街に向かった。

 

――私が…私が、欲しいのは…

 

 

 

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