やはり俺の現実逃避はまちがっている。   作:ソロ

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第15話 探しに行くのはきっと

曇り空で暑さが和らいでいるとはいえ、湿度が高く過ごしづらい。

いつもよりゆっくり歩いていた。

 

商店街のスーパーに向かう途中、元気な声で呼び止められる。

「やっほー、詩乃ちゃん!」

 

「あ、こんにちは。」

 

友達の小町ちゃんに会えて、なんだかホッとした気分になる。

 

しかし、気になるのは彼女に引っ張って連れてこられたような男性だ。

困ったような笑顔で、優しそうな人。おそらく居候と言っていた人だろう。

 

「ああ!紹介しないとね。この人がわたしの彼氏さんの伊月さんだよ。」

 

「月村伊月です。詩乃さんだよね?よく小町から話を聞いてる。」

 

「はい、そうです。朝田詩乃って言います。」

 

私も自己紹介を普通に返す。

 

 

「もう、伊月さんも詩乃ちゃんも堅いよ。そだ。新しくできたカフェ一緒に行かない?」

 

「えっと、邪魔しちゃ悪いんじゃ?」

 

「いいのいいの。詩乃ちゃんなら大歓迎。」

月村さんも頷いてくれているので同行することにする。

 

 

が、

落ち着いている雰囲気の店で、なんだか甘く感じるブラックコーヒーを飲む。

見ているこっちのほうが恥ずかしくなってくる。

間接キスも食べさせ合いも、やりたい放題だ。

 

満足したのか私に視線を向けてくる。

「ところで詩乃ちゃん、何か悩みあったの? 会う前に元気なかったよ。」

 

「…ちょっと考え事をしてたのよ。」

 

「なにか相談したいことある?」

年上のお兄さんみたいな雰囲気を持つ月村さんが尋ねてくる。

細い腕にはある程度の筋肉がついていて、鍛えているのが分かる。

 

強いけど弱い人だと言っていたことを思い出す。

その矛盾を聞いてみたくなった。

 

「月村さんは、なにか怖いものがありますか?」

 

「孤独だな。」

迷うことなく、彼はそう答えた。

 

もっと詳しく聞きたいという様子に気づいたのだろう、話してくれる。

彼は窓の向こうの空を見て、寂しい表情をはじめて見せる。

「どう言えばいいのか。俺は一度、たくさんの大事な人たちから離れたことがある。ずっと遠くなところへの引っ越しみたいなものと思ってくれていい。何も言わずに彼らを残したままだ。」

 

「その、もう、会えないんですか? 電話とか…」

 

「死んだわけじゃないんだけどね。もう無理だろうな。……ともかく、今では小町に握ってもらわないと『風船』みたいにどこかへ飛んで行ってしまいそうで、怖いな。」

 

頭を撫でられる小町さんも、そして撫でる彼も、笑顔になっていた。

そんな2人の関係は眩しかった。

 

 

「えっと、知り合いが、自分自身が怖いって言っているんですけど、どう思いますか?」

 

突拍子のない質問だ。

それでも、誰かに答えを教えてほしかった。

彼の考えが、知りたかった。

 

「予想はつくけど、本人からちゃんと聞いてみてほしいな。俺と違って孤独に慣れすぎているのかもな。……もう1人じゃないのにな。」

 

月村さんは、彼のことを知っているのだろうか。

彼からちゃんと聞く、か。

 

彼のことを私は知らないままだった。

 

 

 

***

散歩に出かけた俺は平塚先生に連行された。

ラーメン好きな先生は、ラーメン好きな俺を車に乗せてよく連れていく。

ラーメン好きな彼氏を早く見つけてくれよ。

 

「あの醬油ラーメン美味かったな。だが比企谷は豚骨派だったか?」

 

「昔はそうでしたけど、醬油ラーメンも今はまあまあ好きですよ。」

醬油なし醬油ラーメンはまだ認められないが、いつかは、また食べてみたい。

 

 

「そうか。」

その嬉しそうな横顔は大人っぽくてかっこいい。

 

平塚先生は真剣な顔をする。

「お前は変わってしまったな。いい意味でも、そして悪い意味でも。」

 

SAOで、俺は本当に強くなった。

《生きる》ことに執念を持っているとも言っていい。時間があれば筋トレまでするようになった。

 

しかし、

この平和な世界がどこか落ち着かない。結局、俺はなんだかんだラフコフの一員なんだろう。GGOでエイトは戦い続けている。

 

だから、

強さがいつか大切な人を傷つけるかもしれないと思ってしまう。

相棒やキリトのように、強さで誰かを守ることができるのだろうか。

 

 

「比企谷、人は傷つけないなんてことはできないんだ。人間存在するだけで無自覚に誰かを傷つけるものさ。関われば傷つけるし、関わらないようにしてもそのことが傷つけるかもしれない…」

流れていく夜の街並みを見ながら先生の話を聞く。

 

俺はずっと誰かを傷つけてしまうのだろうか。

そして、逃げることで、傷つけてしまっているのだろうか。

 

「けれど、どうでもいい相手なら傷つけたことにすら気づかない。必要なのは自覚だ。大切に思うからこそ、傷つけてしまったと感じるんだ。」

 

言葉を一度区切り、続ける。

「誰かを大切に思うということは、その人を傷つける覚悟をすることだよ。」

 

「考えてもがき苦しみ、あがいて悩め。――――そうでなくては、『本物』じゃない。」

 

覚悟、か。

大切な人を俺は守りたい。

大切な人を救いたい。

 

俺の想いから、逃げたくない。

 

求めてきたモノを探しに行くのはきっと、今なんだ

 

 

 

***

次の日曜日のBoBまで、日常は続く。

今日も学校はいつも通りで、私の周りも変わることはない。

 

《あの事件》の噂が広まっていることはまだないようだ。

それに、遠藤たちから最近絡まれなくなった。

 

 

放課後、私は比企谷さんに特別棟へ連れてこられている。

部活についてきてって言われただけで、詳しい説明もなかった。

 

「こんにちはーっ!」

戸を開け、元気よく1つの教室に入っていく。

 

「小町さん。入るときにはノックを、とお願いしていたわよね。」

 

「あはは、すみません。」

いたって普通の教室に長机がポツンとあって、女子の先輩2人が座っている。

 

直接会話したことはないけれど、1人は雪ノ下雪乃さんだろう。国際教養科の2年生で、成績優秀者だと噂で聞いたことがある。

腰まで届く黒い髪で、見惚れるような美人だった。

もう1人は、ピンクにも見えるような派手な髪だけれど、優しそうな美少女だ。

とても、大きい。

 

「やっはろー、2年の由比ヶ浜結衣だよ。」

 

「あなたが朝田さんね。2年の雪ノ下雪乃よ。はじめまして」

 

「あ、はい、1年の朝田詩乃って言います。はじめまして」

動揺と緊張を抑えながら、軽い会釈とともに自己紹介を交える。

 

 

「今から、紅茶入れるわね。人の容器だけどごめんなさいね。」

美しい所作で、淹れられた紅茶を受け取る。

 

パンダのキャラクターの絵が描いている湯呑みだった。

「わ、美味しい。」

思わず、声が漏れてしまう。

 

「ふふ、ありがとう。」

 

「分かるよ~しののん。ゆきのん、お代わり!」

しののんって私のこと…?

 

 

「ところで、比企谷さん、ここって何の部活動?」

 

「え、言ったことなかったっけ。」

長机に両肘を置いて携帯を操作していた彼女はこちらへ顔を向けて、そう言った。

てへっと笑いながら、ぺろっと舌を出す仕草をする。

 

 

額に手を当てて呆れている様子の雪ノ下先輩が、なにかを思いついたような顔をする。

「そうね。ではゲームをしましょう。」

 

「ゲーム、ですか?」

 

「そう。ここが何部か当てるゲーム。さて、ここは何部でしょう?」

どこか嬉しそうな顔で、クイズを出される。

 

教室の中を見渡し、手掛かりを探す。

「部員は他には?」

 

「今は、この3人ね。あの2人は部員と言っていいのかしらね。」

それって部として存続できるのかしら。

 

生活感がある教室だから、ここで活動をしているのだろう。

「その、文芸部でしょうか?」

 

「ふふっ、その心は?」

 

「人数が少ないですし、この部室で活動しているようでしたので。比企谷さんは携帯を見てますけど。」

月村さんと連絡をしているのだろうか、顔が緩んでいる。

 

「はずれ。この3人の中で、本を読むのは私くらいかしらね。」

 

「そうだねぇ、普段は部室にいるけど、いろんなところで活動してるかなー。」

由比ヶ浜先輩がヒントをくれる。

 

「ボランティアに関することですか?」

 

「近いわ。……途上国にはODAを、ホームレスには炊き出しを、モテない男子には女子との会話を。困っている人に救いの手を差し伸べる。それがこの部の活動よ。」

 

「ようこそ、奉仕部へ!」

 

 

「な、なるほど…。それで何のために?」

 

「今日のところは依頼に協力してもらいたいんだー。」

なんだかニヤニヤしている比企谷さんが答えてくれる。

私にできることってあるのかな。

 

 

「そうね。自称モテない男と、'一度'デートをしてあげてほしいの。」

 

「ヒッキーによろしくねー。」

 

なんだか、寒気を感じる笑顔を2人から向けられる。

 

 

ポカーンとしてしまっていることに気づいて、自分を取り戻すように頭を振る。

 

「えっと、冗談ですよね…。」

 

「私、冗談って嫌いだから。」

 

続けて、有無を言うことのできない笑顔を向けられた。

 

 

 

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