やはり俺の現実逃避はまちがっている。   作:ソロ

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第16話 心に詩を

夕暮れの下、荷物を持って校門まで向かう。

すでに待っているという『アホ毛の目立つ男子』を見つける。

 

一度だけのデートとはいえ、いきなりの人生初デートだ。

こういうとき何を言えばいいのか分からない。

 

「で、デートに、私なんかをお誘いいただきありがとうございます。不束者ですが、よろしくお願いします。」

 

「…えっと、デート? 確かに話をしたいとは言ったが。」

 

彼の顔を見ると、知っている顔だった。

以前、遠藤たちから助けてくれた人だ。

知らない人ではないことに少し安心感を覚える。

「あ、あなたでしたか。」

 

「こっちでは自己紹介がまだだったな。比企谷八幡、《エイト》だ。」

 

「エイトなの?」

私は目を見開く。

デートの相手が彼だということに本当に驚きを覚える。

なんだか心がポカポカした。

 

「と、とりあえず場所を変えるか。」

視線を私と合わせないようにする彼に連れられて、家の隣で、以前2人で話した公園まで行く。

 

 

 

***

少しずつ暗くなっていく公園で、俺たちはベンチに隣り合って座る。

 

あいつら本当に何を言ってくれたんだ。

誤解を解くのにかなりの時間を要した。

「えっと、本当にすまん。」

 

「べ、別にデートしたかったわけじゃなかったからいいわよ。……あ、いえ、比企谷さんのせいじゃないですので。」

口調が混じり合っている。

余裕のない状態になっているようで、不安そうな表情だ。

 

もしかしたら俺に幻滅されてしまうのではないかと考えている。

詩乃の弱さとシノンの強さという矛盾に悩まされ続けていたことには気づいていた。

気づいていて、彼女の胸の奥に近づけなかった。

 

俺は今日ようやく踏み出す覚悟をしたんだろうが。

彼女の気持ちから、もう逃避しないって。

一度深呼吸して、気合いを入れ直す。

 

「何も変わらねぇよ。詩乃もシノンも、お前だろう。」

彼女は目を見開く。

 

「VRMMOっていうゲームはプレイヤーとキャラクターは一体だと思う。仮想世界で成長した分、きっとリアルでも成長してるぞ。これ豆知識な。ソースは俺。」

 

俺の言い方が面白かったこともあるのだろう、張りつめていたものが少しは緩んだようだ。

「そうね。そうだといいわね。」

 

 

本題に入り始める。

「今日は、お前を止めたくて、話に来た。デスガンはマジで危険だ。」

 

「なぜか教えて、エイト。」

憤りを感じながらも、理由を聞いてくる。

 

「あいつ、いやあいつらは元SAOプレイヤーだ。《殺人》に快楽を覚える集団なんだ。BoBにそいつらが出る。……そして、銃で撃たれると同時に、現実のプレイヤーを殺す可能性が高い。」

 

「それでも、比企谷さんは参加するんですよね?」

恐怖を感じながらも、尋ねてくる。

 

「けじめをつけないといけないからな。……俺もその集団に属していた。どうだ幻滅したか?」

 

「大丈夫。私はあなたを恐れない。」

彼女の声で俺の震えが止まる。拒絶されることには慣れているはずなのに、彼女に拒絶されるだけは嫌だった。

 

「……根拠はないだろう?」

 

「勘よ。」

凛としていて、優しい笑顔を向けてくれる。

 

そうだよな、シノンに俺は救われたんだったな。

―――俺は未来が怖かった。

だから、詩乃は俺が救いたい。

 

 

 

「その、お前とちゃんと向き合うことから逃げていてすまん。」

 

「ううん。私もあなたのことを知ろうとしなかったわ。ずっと苦しんでいたのね。……もっとあなたと話せばよかったわ。」

言葉、か。

 

「……言ったからわかるっていうのは傲慢なんだよ。言った本人の自己満足、言われた奴の思い上がり。いろいろあって、話せば必ず理解し合えるってわけじゃない。だから、言葉が欲しいんじゃないんだ。」

 

「だけど、言わなかったらずっと分からないままだわ……」

 

「そうだな。言わなくてもわかるっていうのは幻想だと、俺も思っていた。でも、存在するんだよ。」

 

和人と明日奈とユイちゃん、小町と伊月。

固い繋がりで、俺がずっと欲しかったモノ。

そして彼女も……

 

「完全に理解したいという自己満足をお互いに押しつけ合うことができて、その傲慢さを許容できる関係性。『心』と『心』がいつも通じ合うような繋がり。持論だけど、それこそが『本物』だ。」

 

「『本物』……」

隣にいる彼女は胸を両手を当て、すっきりしたような顔をする。

きっと、求めてきたモノが何だったのか分かったのだろう。

 

 

俺は彼女とちゃんと向き合う。

孤高であることは強い、PoHは本当に強かった。

守るべきものは弱点にもなるだろう。でも守るためにつよさを使えるやつを俺は知っている。

『本物』を俺も見つけたい。

『心』の力を俺も感じたい。

 

「誰もが過去に囚われている。どんなに先に進んだつもりでも、ふと見上げればありし日のできごとが星の光の如く、降り注いでくる。笑い飛ばすことも消し去ることもできず、ただずっと心の片隅に持ち続け、ふとした瞬間に蘇る。」

夜空を見上げながら呟くように、(うた)を伝える。

一際輝く月も、満天の星空も、周りに隠された星も、とにかく綺麗だった。

 

 

「俺に教えてくれ。『過去』じゃなくて、詩乃の『心』を。」

 

俺が知りたいのは《過去の事件》の内容じゃない。同情の言葉は彼女は求めていない。

俺が知りたいのは『心』だ。隠してきた苦しみと悲しみを俺に全部見せてほしい。

 

 

俺にしか聞こえないくらいの声で、彼女は話し始める。

「あのね。物心つく前にお父さんが交通事故に遭ったみたいで、お母さんが軽い精神障がいになったの。私は自然とお母さんを守りたいって思うようになった。11歳のころ、お母さんと一緒に行った郵便局に強盗が入ってきて。なんだか様子がおかしくて、お母さんがカウンターに突き飛ばされて、『黒星』を、銃を取り出して……」

 

当時のことを鮮明に思い出しているのだろう。

震えながらも、あがいて、伝えてくれる。

 

「お母さんを守らなきゃって思ったのだけ覚えてる。気づいたらその銃を持ってて撃っていた。殺した人の顔が怖くて、お母さんの目も怖くて……」

そして彼女は『銃』が怖くなった。

そして彼女は守ることから逃げてきた。

 

「こわいよ。でも、おびえたまま生きるのはもういやだよ…」

数え切れないほどのカウンセリングを受けてきた。

同情の言葉を貰ってきた。

―――それでも、今、彼女は苦しんでいる。

 

 

だから、

「ありがとうな。」

たった一言、それだけだ。教えてくれたことへの感謝。

そして彼女の利き手を優しく握る。それはたぶん銃を持った手だ。

 

 

誰しも孤独を感じるとき、一番の自分の理解者を求める。俺は家に帰れば妹がいたから、ボッチでいることはそこまで苦ではなかった。

別に俺でなくてもいいんだろう。それでも、俺が彼女の隣を渡したくなかった。

 

「これからも、ずっと側にいる。」

「うん、うん、ありがとう…」

 

 

初めてGGOにログインしたときは本当に怖かった。仮想世界とはいえ、『銃』を見ることは怖かった。

エイトと出会って《世界》を教えてくれて、手を握ってくれたときから、(詩乃とシノン)はやっと進み始めた。

ずっとシノンを側で支えてくれる。ずっと詩乃を側で守っていてくれる。

 

言葉じゃなくて、

彼の『心』の温もりが私の氷を溶かす。

 

「怯え、悩み、苦しんで、考えて、あがいて、……それでも進み続けることこそ、俺のつよさだ。」

私に伝えるだけじゃなくて、自分自身が確かめるように、彼はつぶやいた。

 

『心』を表に出したような強い『意志』は私に勇気をくれる。

シノンが強くて、私がつよくなれたのも彼がいたおかげなのかしらね。

 

胸の奥がポカポカする。

ああ、好きになるって、こういうことなんだ。

 

 

 

 

 

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