やはり俺の現実逃避はまちがっている。 作:ソロ
あれから数週間が経った。
いまだ、第一層すら攻略できていない。
……100ヶ月って何年だっけ?
小町も、もうお嫁さんにいってしまう頃だろうか。
いや、おにいちゃんは許さないよ。
まだ見ぬ誰かに、可愛いマイシスターは渡さんぞ。
「エイト、さらに目を鋭くしてどうした?」
隣に座っているオーガスが話しかけてきた。
俺の目は腐っているってよく言われてきたが、こいつは素でそう言う。
なんだかむず痒い気持ちだ。
「いや、ちょっと、妹の将来を、だな。」
「ほー。良いお兄さんを持って幸せだろうな。」
お義兄さん呼ぶなし。
でもこいつになら、任せても……。
いや、ダメだ。
俺はここまでの1ヶ月を思い出す。
***
はじまりの街を出て、次の村に着いたときはすでに夜だった。
このゲームでは、レベルが存在する。
レベルが高いほど、HPが0になる危険性は低くなることは自明である。チュートリアルなしで、いきなりデスゲームとはひどいものだ。
俺がはじまりの街を観光していたせいですね。
たぶんドラ〇エのスライム相当のイノシシを狩り続けて、レベルを徹夜で上げた。オーガスのお人好しが功を奏したのか、依頼クエストで武器を得た。村に訪れる《元βテスター》を真似して、試行錯誤して生きてきた。
専業主夫志望の俺がよく頑張ったものである。
***
今は、第一層ボス攻略会議なのだが、
イガグリ頭のおっさんがβテスターに難癖をつけ始めたところから、聞いていなかった。
それにネトゲ用語が多くて、いまいち分からない。
「会議についてだけど、今パーティー決めだな。」
なん…だと…
班決めにはトラウマしかないぞ。
「委員長だったし、よくクラスの問題児と組まされていたな…」
やだ、オーガスってば、苦労人。
先生にいい子として、さぞ使われていたのだろう。
「お前らも、2人か?」
話しかけてきたのは黒髪の中学生で、同級生だろうか。
向こうには赤いフード付きローブで顔を隠した少女がいる。
「…そうだぞ。」
「もう俺たち4人しか残ってなさそうだなー。」
他のパーティー決まっちゃったの?
嘘だろ、なんてコミュ力だ。
今日初対面なプレイヤー同士も多いだろうに。
パーティーを結成する。
名前を確認すると、キリトとアスナか。
4人集まったとはいえ、会話は、なかった。
まさかボッチ4人が揃っちゃった?
***
キリトからスイッチだったり、POTの説明だったりを聞いた。
おそらく、《元βテスター》なのだろう。
これからも頼りにしよう。
しかし、連携に関しては不安しかないんだよな。
オーガスの戦い方はいのちだいじに、で
アスナの戦い方はガンガンいこうぜ、で
俺の戦い方はみんながんばれ、だ。
洗練された戦い方のキリトの足を引っ張る気しかしない。
ボス部屋が開かれた。
***
俺たちの4人班の役目は、
ボスの取り巻きである《ルインコボルト……なんとかの退治だ。
コボルトは甲冑を身に着けており、斧を持っている。
装備が中ボス並みなんだけど、茅場ァ!
俺は盾で斧を受け止め、上にはじく。
「スイッチ」
背後のオーガスから声がかかる。
「おう。」
俺が後ろに下がると同時に、オーガスが踏み込む。
片手剣ソードスキル《ホリゾンタル》は、取り巻きコボルトの弱点である喉を横に斬る。
コボルトはガラスのように砕け散った。
「数が多くなってきたな。」
「…そうだな。」
おそらくボスである大型コボルトのHPが減ってきているからだろう。
本隊は大仕事をしているのに、俺たちは雑魚狩りか。
……最高だな。
安全だし、経験値も稼げる。経験値うまいです。
アスナはどこか不機嫌だったな。雪ノ下みたいに負けず嫌いだったりして。
「だ、だめだ、下がれ!!全力で後ろに跳べッ!」
キリトの叫び声が聞こえたので、焦って後ろに跳んだ。
ボスからはかなり離れているし、安全だろう。
周囲を見渡す。
ボスの一撃を受けてしまっただろう者が倒れている。
ボスが、刀を持っている。
「《刀》なんて、見たことないぞ。」
俺から声が漏れた。
巨体に似合わない動きで、3連撃のソードスキル。
リーダーであるディアベルのHPが、尽きた
俺は、その剣技を見ていることしかできなかった。
混乱が起きる。
リーダーの喪失に、《死》に動揺を隠せないのだ。
人が、死んだんだぞ。
……ここは一旦退くべき、だ。
キリトとアスナと、そしてオーガスが飛び出す。
片手剣使いの2人のどちらかが、ボスの刀をはじき返す。
細剣使いであるアスナと、もう1人がダメージを与える。
彼らの剣技を、俺たちは見ていることしかできなかった。
何人か助太刀にいったが、
俺はまだ立ち止まっていた。
なんでみんな怖くないんだ。
この《世界》での死は・・・
だから、
俺は、
《ヘイトチェンジ》
ボスの取り巻きを引き付ける。
1人で取り巻きコボルト数体を相手にする。
俺はあいつらの手助けはまだできないから、
あいつらの邪魔をさせないようにする。
「…俺は『生きる』んだよ。」
《現実》で、
剣道なんてしたことはない。
剣なんて握ったことなんてない。
喧嘩なんてしたことがない。
それでも、今まで通り、あがいてみせる。
右手で握る曲刀《アニールサーベル》に力を込める。
迫りくる斧を盾ではじき、曲刀ソードスキル《リーバー》で喉を突く。
これの繰り返しだ。
ミスれば死ぬという条件付きなんだが。
死と隣合わせの時間は、とてつもなく長く感じた。
ようやく、か。
ボスの消滅とともに、残った取り巻きも消える。
歓喜の中、俺はゆっくり座り込んだ。
***
「おつかれ。ありがとうな。」
オーガスが話しかけてくる。
「…いや、まじで疲れたわ。ボーナスもらえるだろ、これ。」
俺たちのパーティーはあんなに働いたんだ。
それなのに、ボスの経験値は分配だってか。
この世界は残酷なんだ・・・
「ラストアタックボーナスは、キリトだったぞ。」
「…そうか。」
とどめを刺したやつがもらえるボーナスアイテムだ。もしデスゲームでなければ、取り合いになること間違いないだろう。
ともかく、これで第100層への希望が見えた。俺たちがやってきたことは全部無駄じゃなかった。クリアへの道筋が見えたことで、より多くのプレイヤーが前線に立つだろう。
・・・俺の負担も減ることだろう。
「――なんでだよ!」
1人の男が叫ぶ。
その声は広い空間に響いた。
「なんで、ディアベルさんを見殺しにしたんだ!!」
そいつの隣には泣いているやつもいる。
「見殺し…?」
視線を向けられたキリトは聞き返す。
「そうだろ!だってアンタは、ボスの使う技を知ってたじゃないか。アンタが最初からあの情報を伝えてれば、ディアベルさんは死なずに済んだんだ。」
ボスを倒した英雄であるキリトは、疑念を抱かれる。
確かにHPの少なくなったボスが武器を変える情報はあった。しかし、その武器が《刀》だった。第1層で《刀》を俺は見たことがない。つまり、対処や的確な指示ができたキリトは、《元βテスター》であることになる。
ちなみにオーガスは、微妙な転生特典のおかげだ。もっとチートでいいと思う。
最悪な状況は、キリトが《茅場の仲間》とされること。
だから、今ここですべきことは・・・
2つの解決方法が俺の中に浮かんだ。
***
俺は注目を受けているキリトに近づく。
「キリトさすがだったな。ベータテスト時代から変わらない剣技だった。」
「くそ!武器を変えてくるなんて。茅場ァ!」
俺は、拳を握って悔しがる演技をする。
ディアベルの《死》による憤りを、キリトに向けることはまちがっている。
「茅場のやつ・・・」「許せねぇ!」「よくもディアベルさんを!」「茅場ァ!」
オーガスが笑顔で言う。
「元βテスターは、やっぱり俺たちの先導者だな!」
「これからも頼むぜ、先輩方!」
βテスターは俺たち非βテスターを見捨てたという声がある。ヘイトを茅場に集めた状況で、その悪いイメージを少しは払拭できただろう。
たしかに、
‘俺’が、βテスターよりも優れている存在だと言って、ヘイトを集める解決方法もあった。
でも、修学旅行で言われたあいつらの想いが俺を躊躇させた。文化祭のときのように、誰かのために俺がヘイトを集めるのはまちがっていた。
「キリト先輩すごかったです!」「あの2連撃、俺も使いてぇ。」
「盾の使い方上手いですね!」「影の功労者ですよ、まじで!」
俺は、第2層に向かって逃げ出した
・・・やはり俺はボッチ生活がいい。
「茅場ァ!」
でつながる絆。