やはり俺の現実逃避はまちがっている。   作:ソロ

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第17話 決闘の続き

安心していつも通りの戦い方ができている。

すでに3人のプレイヤーを狙撃できた。

影ながら私を守ってくれる人が、ちゃんと側にいるから。

 

BoB開始から40分以上過ぎている。

大会会場である《ISLラグナロク》は孤島であり、砂漠や都市など多様なフィールドに分かれている。

15分に一度《サテライトスキャン》が行われ、各プレイヤーの位置が表示される。

 

今は一度場所を変えた後、高台から愛銃を構えている。

森林と山岳の間に流れる川にかかった鉄橋を2人のプレイヤーが通るだろう。

 

アサルトライフルを持つ《ダイン》だ。橋で待ち構えて戦うつもりなのか、武器を構える。

 

そして、もう1人はショットガンを持つ《ペイルライダー》。

エイトの読みが正しければ、STR型で強い彼は『標的』。

 

2人の戦闘が始まるが、勝負はあっさりつく。

《軽業》スキルを用いたアクロバティックな動きにダインは全く対応できず、至近距離で撃たれてHPがゼロとなる。

 

勝利の余韻に浸っている《ペイルライダー》は音のない狙撃を受け、倒れる。

電磁スタン弾。麻痺させる特殊弾で、一般的には対人では使用されないもの。

 

私は深呼吸して、気合いを入れ直す。

 

倒れている彼に、急に姿を見せた黒マントのプレイヤーが近づく。

持っているのは《アキュラシ―・インターナショナルL115A3》。

サプレッサーが標準装備となっている狙撃銃だ。

 

ハンドガンを、『あの銃』を構え始める。

 

心臓が鳴り響く。

 

 

 

―――大丈夫だ、俺がいる。

『心』に響く声で弾道予測円が動きがゆっくりとなって。

轟音を響かせて、撃つ。

 

しかし、バックステップでギリギリに躱されてしまい、プレイヤースキルの高さを感じてしまう。

殺気を読み取っただけで弾道予測線のない一撃に反応したのだろう。

 

私は銃を構え直す。

《ペイルライダー》は、エイトが倒してくれたようだ。

ハンドガンを右手に持っている。

 

 

「よう、俺の、勝ち、だな。」

仮面の下で、皮肉を込めて俺は言ってやる。口調を真似るところがポイントだ。

 

現実の《ペイルライダー》の側に協力者がいるだろうが、無駄に様式美を追求するやつらだから、殺すことはないだろう。

快楽殺人派はそういう集団だった。殺しの手口を編み出し、過程を大切にする。

 

スモークグレネードが森林の方から飛んできたのを見て、シノンのところまで後退する。

 

 

「逃げたの?」

白い煙で包まれる場で、黒マントは《索敵》できないようだ。

《索敵》スキルに加えて、システム外スキル《超感覚》も持つエイトに聞いてみる。

 

「ああ、森林まで一直線にダッシュしていたな。」

 

犠牲者を増やさないために追うべきだろうが、深追いは危険だ。

今回の戦いで、もう1人協力者がBoBに参加していることが分かった。

しかし、デスガンのメイン銃が判明したことは大きな収穫だろう。

 

作戦としては、敵の《標的》を削ったあとに、開けたフィールドでの決闘に持ち込むことだ。そのためにキリトとは別行動をしている。

デスガンの真骨頂は近接戦闘のため、私はサポートに徹することにしている。

 

 

 

***

ALOのイグドラシルシティにある家。

そこは仮の住まいであって、家族3人ともアインクラッド22層の解放を待ち望んでいることだろう。

 

アスナとその娘のユイ以外に、リズベット、シリカ、リーファ、そしてクラインがいる。

キリトとエイトのBoBの中継を観戦するためである。

 

「キリト君、まだ暴れてますね…。」

1つのスクリーンに映し出され続ける男の娘に対して、リーファがつぶやく。

 

スター〇ォーズのような剣で、五右衛門のように銃の弾を弾く姿に、アスナとユイはテンション上がりっぱなしである。

開始早々、まるで狙ってくださいと言わんばかりに障害物の少ない草原を駆け始めた彼は10人をすでに斬っている。

 

 

 

「うわっ、こいつもすごいわね。なんというかアクロバティック。」

リズベットが《ペイルライダー》に対して関心を示すと、全員が注目する。

 

大差で勝利したとはいえ、プラズマを発する弾で撃たれて、倒れてしまう。

そして彼に近づく黒マントのプレイヤー。

 

その殺気を纏った『赤い眼』が画面外に映り、シリカやリーファは小さく悲鳴をあげる。

 

さらに狙撃を勢いよく避けたプレイヤースキルを見て、クラインが立ち上がる。

アスナも何かを思い出そうとする仕草をする。

きっと、SAO生還者で、おそらく……

 

「クラインさん、誰だか分かります?」

アスナがクラインに尋ねる。

 

「名前までは…分からない。でもこれだけは言える。あいつは元ラフコフのプレイヤーだ、それも幹部クラス。」

その言葉にリズベットとシリカの顔がこわばる。

 

「あの、ラフコフって?」

リーファは説明を求める。彼女はSAO生還者ではないのだ。

 

「ラフコフってのは、SAO唯一のレッドギルドだ。殺人に快楽を覚えるやつらの集団だ。」

SAOでの死は、現実での死を意味する。

そのことを知っているリーファも恐怖を覚える。

 

「まあ、全員ってわけじゃない。依頼派っていう、いわゆる殺し屋もいたんだが…」

 

「エイト君、大丈夫なのかな。」

キリトではなく、エイトの名を出したアスナに注目が集まる。

 

 

言いづらそうなアスナに代わってクラインが苦い顔をして話す。

「エイトは、ラフコフの幹部で、依頼派のリーダーだったんだ。」

 

「……エイト君はスパイみたいなものだよ。最後はラフコフ壊滅に協力してくれたし。」

アスナが付け加えると、みんなはホッとしたような顔をする。

 

しかし、このBoBに何かが起きていることを知ったこともあり、場の空気が引き締まる。

 

 

 

1週間前、キリト君が私とユイちゃんに縋りついて泣いたのを思い出した。

『過去』と、そして『未来』と、彼らは戦っている。

 

 

今、私にできることは、ユイちゃんと一緒に祈ることだけだ。

 

 

***

初めの草原とは反対にある田園地帯まで、俺は来ていた。

都市廃墟から少し離れたところだ。

 

サテライトスキャンで位置が動かなくなった奴に、誘い出されたとも言って良いだろう。

 

体に突き刺さる赤い線へ飛んできた弾を剣で斬り落とす。

姿を見せたのは迷彩服に身を包み、アサルトライフルを持つプレイヤー。

 

「よう、相変わらず不意打ちか、クラディール。」

「うるせぇよ、《黒の剣士》」

 

血盟騎士団に属しながらも、ラフィン・コフィンの一員だった奴だ。

SAOにおいて、飲み物に麻痺毒を仕込まれ、こいつには殺されかけた。

 

そのときはエイトとオーガスに助けられたわけで、

「俺に加えて、エイトにも復讐しにきたのか?」

 

「……ああ、お前もあいつも俺が殺してやるよぉ!」

その言葉を皮切りにアサルトライフルを構え、撃ち始める。

 

 

遠く離れた場所から殺気を感じ、斬るのではなくその場から急いで離れる。

 

ッ! 狙撃されたのか!

 

恐らく都市のビルから撃たれたのだろう。

銃弾を斬れるとはいえ、遠くからの狙撃にも対応しなければならず、2人に集中しなければならない。

せめて、もう1本『剣』があれば…

 

 

考える間にも銃弾を撃ち続けるという猛攻は止まってはくれない。

開始から全力で戦ってきたこともあって疲労もあるため、思うように近づけない。

 

「どうしたどうした!さっさと死ねぇ! あの女も、お前の後を追わせてやるよぉ!」

 

アスナを殺す? 俺の大切な女性(ひと)を…

 

頭に血が昇っていくのを感じる。

『心』が黒く染まるような……

 

(キリト君、がんばって)

(パパ、がんばって)

 

俺の怒りが2人の声で静まる。

側にいないはずなのに、『心』の中に声が響く。

 

 

俺に2方向からの狙撃が向かってくるのが、視える。

 

俺はホルスターから銃を素早く引き抜き、背後からの実弾を撃ち落とす。それはまるで《リニアー》のようなスピードだった。

同時に、前方からの実弾には剣で対応できていた。

 

二刀流のときとは違う、2つの思考が並立してできているような不思議な感覚だ。

 

 

「2人とも、技を借りるぞ。」

思い出すのは、SAOで前衛として活躍した2人の友人。

 

地面を勢いよく蹴りつけ『加速』し、クラディールにまっすぐに向かう。

 

「血迷ったかぁ!」

嗤いながら、銃の引き金を引く。

 

さらに遅く見えた銃弾を斬り、同時に左手の銃で右肩に弾道予測線を見せる。

 

バックステップで躱そうとするクラディールは視線を右に向けていて、俺は左に潜り込むようにすれ違う。

クラディールからは、俺の姿が消えたように見えただろう。

 

 

「ちくしょう……さすがだぜ。」

笑いながら、彼にはDEADタグがつく。

悔しそうだけど、満足したような顔だった。

 

あの頃も、殺意より嫉妬が先に感じられた。

強くなりたくてあがいた結果、誤った道を彼は選んでしまったのではないか。俺に勝つことで強さを証明できると思ったのではないか。

 

 

剣を背中の鞘に収めるようにしていることに気づく。

やはりSAOでの癖が染みついているな。

 

死闘ではなく、決闘(デュエル)をした後のような気分だった。

 

 

「また戦おう。」

いまだ意識のある彼に伝える。

 

 

次は、まっすぐな『剣』を交えたい。

 

 

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