やはり俺の現実逃避はまちがっている。 作:ソロ
俺はあいつがずっと気に入らなかった。
俺と同じ幹部であることが気に入らなかった。
依頼派なんてものを作ることが気に入らなかった。
殺しの数が多い俺より、濃い殺気を放つことが気に入らなかった。
リーダーに気に入られているところが気に入らなかった。
俺より強いことが気に入らなかった。
いつもいつも、俺の邪魔をすることが気に入らなかった。
「俺は、お前が、嫌いだ。」
「奇遇だな。俺も嫌いだよ。」
荒廃した都市で俺たちは向き合う。
この《世界》で『剣』を構える。
サバイバルナイフと、エストック。
どちらも、最高レベルの同じ金属で作られたものだ。
「「It’s show time.」」
鋭い突きをパリィする。
一太刀を受けるだけでずっと強くなっていることがわかる。
一度離れた奴は、ロマン武器とも呼ばれる警棒を取り出す。
「二刀流か。」
きっと監獄エリアで、《世界》の最期まで練習していたのだろう。
強さを求めてあがいた先に、得た答え。
2本の『剣』の猛攻を1本のサバイバルナイフで受ける。
もちろん、明らかに押されているのは俺だろう。
しかし、成長したのはお前だけじゃねぇよ。
俺の投げた回転するものに意識を一瞬奪われる。
過去の俺の《ミスディレクション》なら対応されただろう。
「『手裏剣』、だと!」
SAOにおいて、許される遠距離攻撃スキルの1つ。
俺がいつか得るユニークスキルだったものだ。
そのソードスキルを使うことはできないし経験もないのだが、自分で編み出した。
図書館に通ってその技が書かれた本を読みこんだ、GGOでも作製して練習してきた。
メニューを開き、円形の盾を取り出し、遠く離れた位置からの狙撃をはじく。
これが今の俺の全力全開。
「さあ、第二ラウンドだ。」
「くそ、オレに倒され、あの女が殺されるのを見ていろ。」
協力者がいたとしても、お前は独りなんだな。
スナイパーとも繋がりはなく、常に孤高。
孤高であることを強さだと思っている。
そう思っていた時期が俺にもあった。
だが、
現実で待っていてくれていたあいつらがいる。
変わらない笑顔をくれる妹がいる。
背中を任せられる相棒がいる。
『生きろ』ってずっと言ってくれるお節介がいる。
そして、俺を心から愛してくれる女性がいる。
SAOで多くのトッププレイヤーが持っていたシステム外スキル《超感覚》。
第六感とも言えるけど、気配を感じるという『勘』だ。
彼女は俺たち以上に高度なスキルを身につけている。
スナイパーをビルの壁ごとを撃ち抜く。
(あとは任せたわ。)
「勝利の女神が付いてるんだ。俺が負けるかよ。」
逃げ場を防ぐように投げた複数の手裏剣に、ザザは逃げ場をなくす。
後退を選ぶことは不利となるから、予想通りまっすぐ向かってくる。
その姿が、ずっと遅く視えるようになる。
それはスロー再生のようで。
しかし、急にザザは『加速』し始めて、等速となる。
俺の全てを、籠める。
今までで、最高の突きは、『霧』のように、当たらない。
曲刀の基本単発技《リーバー》
肩に担いだのち、真上から振り下ろされる。
―――月のように、『剣』は温かく輝いていた。
きっと、これが、俺とお前の差か。
「お前とも肩を並べて戦うifが……ないか。お前のこと嫌いだし。だが良い『剣技』だったぞ。」
ああ、悔しい。
俺もお前のことが……
***
私はエイトの元へ駆けつける。
仮面を外し、空を見上げる彼の’左隣’に腰掛ける。
私の右手をちゃんと握ってくれた。
中継されているので、私たちにしか聞こえない声で話し始める。
「お疲れ様。」
「ああ、まじで疲れた。」
「余裕そうだけど?」
「嫌いなやつとあれだけ会話したんだぞ。労わってくれ。」
けれども不快な顔ではなく、なんだかスッキリしたような顔だった。
「キリトはリタイアしていったぞ。先にログアウトするみたいだ。」
「どうして?」
「嫁と娘に会いたくなったんじゃねぇの。知らんけど。」
「……そうなのね。」
荒廃した『世界』で2人きりの夜空を見上げる。
仮想世界の夜空は本当に綺麗だった、彼の隣で見る空は『偽物』なんかじゃなかった。
「ねぇ、このままずっと一緒にいて、いい?」
「え、えっと、リアルでも会えるし、このままというわけには…」
それもそうね。この光景を中継されるのは趣味じゃない。
メニューを開き、あるものを取り出す。
「え、これってグレネードじゃ…」
GGOでの、エイトの無敗伝説も終わりを告げる。
彼に抱きつき、耳にそっと告げる。
「ありがとう。大好き。」
詩乃とシノンの2人の声が、俺には聞こえた。
彼女だけには敗けっぱなしだ。
***
俺は目をゆっくりと開け、顔が熱いことに気づく。
「お兄ちゃん、良いことでもあった?」
ベッドの上で悶えているのを、妹にミラレタ。
とてもとてもニヤニヤしておられる。
しかし、
なんだか騒がしいことに気づいて、リビングに降りる。
頬が腫れていて、チェーンでグルグル巻きに拘束されていて横たわっている男子が叫び続けている。
片耳を塞ぎながら伊月がおそらく警察に電話をかけている。
とても迷惑そうな顔をしておられる。
「アサダサンはどこだぁ!アサダサァン!」
ちょうどその朝田さんが降りてくることに気づいて、指差して聞いてみる。
「知り合い?」
「新川君?」
どうやら知り合いのようだ。
詩乃は目を見開いて驚き、倒れそうになるところを小町に支えられる。
「ああ!アサダサン!よかった!すぐに君を守ってあげるから!」
「夜中なのにうるせぇよ。生憎だがそれは俺の特等席だ。」
イラっとしてしまい、ついキリトみたいなセリフが口に出る。
「ねぇ、こたえてよ。アサダサン。助けてって僕に…」
「……なんで、ラフコフに協力したの?」
詩乃はおそるおそる尋ねる。
「さすがだね、アサダサン。そうだよ。僕がもう1人のデスガンさ。ショウイチ兄さんがこんな面白いことに誘ってくれたんだ。」
彼はザザの弟みたいだな。
持ち物であろうものが机に置かれている。
注射器に見えるようなもの、折りたたみ式ナイフ、携帯と財布、そして一枚の紙だ。
紙を開いてみると、模擬試験の結果だ。
医学部志望のやつが受けるような、難易度が高いもので、まあ悲惨なものだった。
「見るなぁ! くそ、親や学校のやつらと同じで本当にムカつくやつだ。現実なんて本当に下らない。僕はGGOで最強になればそれで良かったのに、邪魔するやつらばかりだし!ゼクシードの屑はAGI型最強なんて嘘を言うし、エイトの屑は僕を差し置いてAGI型で最強だし。…畜生…畜生。」
「…もう現実なんてどうでもいいよ。アサダサン、僕と一緒にどこかへ行こう。君のことが好きなんだ。《あの事件》のことを君から聞いたときは嬉しかったなぁ。ハンドガンで人を殺す女の子なんてアサダサンくらいだよ。その力は、本物だよ。」
「いや、偽物だろ。詩乃のつよさはそこじゃない。」
長々と喋っていたことに対して、またつい口を開いてしまった。
俺が言葉を遮ったことが気に食わなかったのか、叫び始める。
「お前ムカつくんだよぉ!どうせ人を殺す度胸もない癖に…………」
全力の殺気をこいつだけに浴びせて、そろそろ黙らせておく。
すまん、あとで床を掃除しておく。
「私もシノンもあなたのことが嫌いよ。 だから、もう、私たちに関わらないで…」
小町に支えられていた彼女は、自分の足で凛として立ち上がる。
彼女が述べたのは、決別。
俺の《ザザ》への嫌いと、彼女の《新川》への嫌いは同じだった。
俺のザザへの『嫌い』を問うならば、どうだろうな。
「……現実逃避なら、1人でやってろ。」
俺が《新川》を嫌いなのは確かだった。
もう叫ぶことはなく、ブツブツ何かを言いながら警察に連れていかれた。