やはり俺の現実逃避はまちがっている。   作:ソロ

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第21話 共に探しに行くモノ

 

7月に入り、夏休みを待ち望むというところ。

事件にも巻き込まれたし、元々1人暮らしが心配だったこともあるのだろう、詩乃の保護者も居候を許可してくれた。クラスメイトである小町の存在も大きかっただろう。

 

彼女は戸惑いつつも、新生活を楽しんでいるようだ。小町の部屋ではなく、俺の部屋に住んでいるので、俺の方も戸惑うことが多い。

 

 

サイゼデートの帰りに、ゲーム屋の前に立った。

「そういや、ALOはどうする?」

マチやミカヅキ、キリトやアスナにリーファ、知り合いのSAO生還者はそこに集まっている。いわゆるキリトの元に集ういつメンである。

 

「やるわ。」

すぐにそう告げられる。迷いのない声だった。

 

「しかしGGOと何もかも違うぞ?」

妖精の世界だし、飛べるし、銃はないし。ステ―タスよりはプレイヤースキルが重視される世界だ。

また、PvP推奨とはいえ、キリトを中心に集まるメンバーは、対モンスター戦闘(PvE)をよく行っている。やはりプレイヤーを斬るのは慣れないメンバーが多いのだ。

 

「いいわよ。そこにもう1人のエイトもいるんでしょう?」

 

「お、おう、ありがとう?」

彼女の言葉と微笑みに、しどろもどろの返事になってしまう。

 

「それに、SAOを私も見てみたいし。執筆も手伝うわ。」

 

 

その言葉には、こみ上げてくるものがあった。

 

《SAO記録全集 続》。それは新生SAOについて書いている最中のものである。

ちなみに前作に関してはまだ出版していない。SAOに憎しみを持つものも多いため、もう少しほとぼりが冷めてからにしようと考えている。

 

たとえそれが偽善だとしても、俺たちの《生きた》証が彼らへの手向けになると思うから。

 

 

 

***

俺の、……俺たちの部屋まで戻ってくると、ベッドに隣り合って腰掛ける。

 

はじめは2段ベッドに買い替えようとしたのだが、詩乃が泣きそうになったのでやめた。床に布団を敷いて寝ようかと思ったら、詩乃が泣き始めたのでやめた。

 

夜は煩悩と戦い、理性を保つ日々だ とだけ言っておこう。詩乃は幸せそうな顔ですぐにスヤスヤ眠り始めるんだが…。

 

「ねぇ、私に合うのはなんだと思う?」

 

それはかつてGGOでシノンが聞いてきたことと同じものだった。あのときは、彼女の集中力と《超感覚》から、スナイパーの素質を見出したんだったな。

 

「遠距離というと、《魔法》か《弓》だな。ただ、詠唱があるからなぁ。」

 

《魔法》はどうしても支援職や後衛職であって、隠密性にかける。

 

「なら《弓》ね。弓を引く動作にはシステムアシストもあるでしょうし。」

 

俺は頷き、攻略サイトを開く。

弓に関しては、機動力のあるシルフでショートボウを使うか、腕力と耐久力に秀でるノームでヘビーバリスタの砲台になるのが一般的であるらしい。

 

しかし、俺が最もシノンに適するものを考えられるのなら、

 

「ロングボウで、ケットシ―かな。」

 

「その、猫耳好きなの?」

 

「ち、ちがわい! ……視力と俊敏な動きができるからだ。」

 

恥ずかしがるのではなく、興味津々な様子の詩乃に動揺してしまう。いや、でも、確かにシノンの猫耳姿は見てみたい気がする。

 

「ふーん。」

 

うわぁ、すごい笑顔だ。基本的に俺の考えや心など彼女に見透かされている。それが求めてきたモノであって、喜びを感じるまである。

 

「じゃあ、先に行ってスタンバっておくぞ?」

 

ちょうど良くアインクラッドはケットシー領の上にあるって《MMOトゥデイ》に書いてある。あれれ、スプリガンである俺って斬られないのだろうか。

 

俺はベッドに横たわり、アミュスフィアを被る。

 

「うん。よろしくね。」

 

「リンク・スタート」

 

俺の側にすり寄ってくるのが視界に入った。そして、彼女の願いが伝わってきた。

 

2度目だから、上手くなくても勘弁してくれよ。

 

 

 

***

海に浮かぶ小島に石造りの街である。

尖っている大きな塔があり、黄色い翅と獣耳を持つ妖精が空を飛んでいる。

 

まさか自分がファンタジー世界に来るなんて、思いもしなかったわ。

 

水に映る自分の姿を確認すると、ヤマネコを思わせる耳と尻尾の生えたシノンがいた。これがこの《世界》の私なのね。

 

ある方向を向いて両腕を広げる。黒い影が向かってくるのが見えて、笑みがこぼれる。掬い上げられるように浮遊感を感じると、彼の背中に腕を回し抱きつきて、目を閉じて風と温もりを楽しむ。

 

 

まるで壊れやすいモノを扱うように大切に、地にゆっくりと降ろされる。

 

そこは、はじまりの街。彼がかつて決意した場所に似ている場所。

 

「ありがとう。」

 

「ど、どういたしまして。」

顔のほてりを冷ましながら、彼に微笑みかける。すると、耳が少しだけ長くて、逆立った黒髪で、顔に面影がある彼はキョドる。

 

 

「ねぇ、この世界のこと教えてくれない?」

 

あのときと同じ、自然と出た言葉。

 

 

***

 

猫耳シノン、通称シノにゃんに動揺を隠せないまま説明を始める。

 

「じゃ、じゃあ、まず随意飛行からだな。ちょっと後ろ向いてくれ。」

 

もちろん初心者向けの補助コントローラーで飛ぶ者もいる。しかし両手で弓を使う以上、その技術は必須なのだ。

 

「あんっ!」

 

両手の人差し指を伸ばし、肩甲骨の少し上に触れると色っぽい声を出してくれる。透明な黄色い翅が現れる。

 

「あー、随意飛行はイメージして飛ぶんじゃなくて、なんというかここから仮想の骨と筋肉を動かす感じだ。」

 

「ん~!」

 

翅の根元をなぞると色っぽい声にまた俺の理性が飛びそうになる。感情を表すかのように水色の尻尾がブンブン振られている。

 

 

力を入れ始めたため、ぴくぴく翅が動き、やがて振動し始めてくる。

 

「飛べ、シノン!」

 

背中を押し上げると、真上へと妖精が羽ばたく。

 

 

すると、短時間でマスターしたのか、空を舞い始める。

 

いや、もう天使だね。マイエンジェルだわ。などと考えていると、シノンはおもむろにメニューを開き、弓を取り出す。

 

夜空のような紺色で、星のような金色の意匠がある。100mほど離れた青猪に向かって矢を放ち命中させた。相変わらずの実力である。

 

シノンがゆっくりと降りてきて、俺の方へ向かってくる。

 

「ねぇ、これってどういうことなのかしら。」

 

弓の名は《フェイルノート》。

俺の持つ曲刀《カーテナ》や盾《イゾルデ》と同じ伝説級装備だろう。

 

それが『トリスタンとイゾルデ』という物語に関係するのなら、

「運命、なのかもな。」

 

 

たどり着いたのは、根拠もない不確かな答え。いつもの俺なら否定しそうなものだった。

 

それでも、彼女との出会いを含めて、その言葉を言いたくなった。

 

 

 

 

 

***

 

ALOの時間は現実と同期してはいないみたい。

 

現実世界ではまだ昼であるのに、すでに日が暮れ、星と月が輝いている。

世界樹に向かって隣り合って飛んでいる。彼が側にいて、飛ぶのが気持ちいい。

 

一軒の家の前で2人がこちらへ手を振っているのが見えたので、ゆっくりと降りる。

 

「やっほー、シノちゃん!」

 

「お義姉ちゃん!それに義兄さんも!」

 

水色の髪の妖精だけど、現実世界の面影があるわね。それに雰囲気はそのままだからすぐに分かった。

 

 

3人に促され扉を開けると、クラッカーの音が鳴り響く。

「「「ALOへようこそ!」」」

 

目を見開いていると、エイトに右手を握られる。不器用に引っ張られて中心に連れて行かれる。

 

「えっと、もしかして明日奈と、……キリト?」

 

知り合いの面影のある、水色の髪の妖精と黒髪の妖精に尋ねる。髪が短くて、男の娘じゃないキリトに違和感がある。2人は頷きながら肯定してくれる。

 

「うん。そうだよ。」

「ああ。久しぶり。」

 

 

初めて会う人たちが自己紹介をしてくれる。

「はじめまして。リーファです。キリト君の妹です。」

「シリカです。同じケットシーですね!」

「リズベットよ。装備を作るときにはよろしくね。」

「俺の名はエギルだ。アイテムの売り買いにぜひ店に来てくれ。」

 

3人の同年代の女の子たちに、巨漢だけど優しそうな男の人。

 

「く、クライン、にじゅう…」

 

「お前、マチのときもナンパしたよな…」

 

エイトが脇腹を蹴り飛ばして黙らせていた。武士の恰好をした男の人はクラインさんでいいのよね。

 

 

「はじめまして。シノンです。よろしくお願いします!」

 

ちゃんと笑顔を向けられただろうかと思ってエイトを見る。

いつもの無愛想な顔がくしゃっと崩されていた。

 

 

 

***

今日は、シノンの歓迎会のためにわざわざ集まってもらったわけだ。《料理》の女神であるアスナは最高の料理を用意してくれた。ちなみに現実世界ではエギルが作ることが多い。

 

 

すでに向こうでは女子会が始まっており、対抗して俺たちも男子会を始めることにする。それって誰得なんだろうか。

 

「それで?お前ら大丈夫だったのか?」

 

「ああ、GGOのことか。幹部は1人だったとはいえ、予想以上にラフコフの残党がな。」

 

クラインの唐突な質問に、キリトが少し考えこんだあと答える。

 

「……いくら牢獄エリアに送ったと言っても、生きているからな。」

 

真剣な表情となったミカヅキの発言に俺たちは頷く。SAO事件で殺人を犯したものは帰還後に裁かれてはいない。暗黙の了解として罪に問われないようになっている。

 

とはいえ、ログを確認して、一応リストには載せていそうだがな。入学直後のカウンセリングも、俺とキリトはどこか頻度が多かった。

 

 

「まだジョニーも、そしてPoHも姿を見せていない、よな。」

 

「ああ。お前ら気をつけろよ。」

 

俺たち3人にとって、どこか兄貴のようなエギルとクラインはとても心配してくれる。

 

「というわけでキリト、お前も鍛えろよ。」

 

「うっ、そうだな。」

 

空気が少し穏やかになる。

 

仮想世界で決着をつけようとしてくる可能性が高いが、保険をかけておくに越したことはない。俺よりインドアな生活をしているだろうキリトは渋る。お前をヒッキーって呼んでやろうか?

 

「俺はそろそろ店に行かないとな。またな。」

 

「俺は夜勤だー。先に落ちるぜ!」

 

「おう、今日はその、ありがとうな。」

慣れない感謝を述べると、サムズアップして2人はログアウトしていった。

 

 

なんだか無礼講の日に重い話になってしまったなって思っていると、急にのしかかられて、椅子から落とされ尻餅をつく。

 

「はちまぁん。」

 

「よ、酔ってるのか?」

 

「よってないわよ~」

 

どこか顔の赤いシノンに問うと、気の抜けた回答が返ってくる。

ここは仮想世界である。脳に作用して酔いを味わう飲み物も最近開発された。禁酒や禁煙には役立つだろうなーなんて、思っている場合ではない。

 

助けを求めようとしたが諦めた。

 

向こうでは、

ミカヅキは獰猛化した妹に襲いかかられている。

キリトはハーレム状態、いや取り合い(物理)になっている。

 

 

この状況にため息をつきながら、

俺の膝で丸まって眠り始めた仔猫を撫でる。

 

俺の彼女は、

人一倍愛情に飢えた女の子。

甘えることを求めていて、甘えることが苦手な女の子。

 

アスナたちに囲まれて笑っていた彼女は、普通の女の子だった。

友達とありふれた日常を過ごすという場所、きっとそれも求めてきたモノであって。

 

 

それに、

「出会えてよかった。」

この幸せそうな寝顔が、明るい未来への道を教えてくれる。

 

俺たちはもう独りじゃない。

 

―――だから一緒に探しにいこう。

 

 

 

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