やはり俺の現実逃避はまちがっている。   作:ソロ

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EE前編です。




第22話 やはり俺たちの彼女と妹は最高である。

 

8月も半ばとなったが、いまだ夏休み。

夏休みの宿題なんてものはサクサクっと終わらしておいた。

 

波の出るプールの前で待つ。

家族連れが多いと思いきや、カップルをよく見かける。過去の俺ならば、それはそれは腐った目で見ていたことだろう。

 

だがしかし、今の俺には…

 

「お待たせ」

 

「……」

 

「な、なによ?」

 

「あ、いや、その、ニアッテル」

 

「……そ、そう。」

 

覚悟及び期待していたとはいえ、実際に詩乃の水着姿を目の当たりにしてしまうと反応に困ってしまう。俺に選ばせてもらったとはいえ、水色のタンキニはグッとくるものがある。カメラがないのが悔やまれる。そしてじっくり見たいのに、まともに直視できない自分に腹が立つ。

 

俺は熱を冷ますために先に水に入る。

人が少なくて足がつく程度の深さで、流れが緩やかな場所だ。

 

 

おそるおそる水に入る彼女の足は白くて細くて、すらっとしている。

 

浮き輪から身体を出す彼女の両腕を握ってあげる。白くて細くて柔らくて、俺を刺激してくる。

 

「顔は水につけなくていいから、そのままバタ足をやってみるんだ。」

 

「う、うん。離さないでね。」

 

そう言って、水を叩き始めるが力が必要以上に入ってしまっている。

 

「足もちゃんとそろえて、太ももから動かしてやるんだ。」

 

「こ、こう?」

 

素直に俺の言うことを実践してくれる。

まだ水が怖いのか、俺の手をギュっと掴んでいる。

 

俺は後ろに進み、ゆっくりと引っ張ってあげる。

 

「なんだか楽しいわ。」

 

「じゃあ、次は顔をつけてみるか。」

 

「そうね。」

ゴーグルを身につけ、俺の腕の中に入り込むように抱きついてくる。とにかく俺の理性を削ってくるが、平静をなんとか保つ。

 

「今日は俺もいるし心配するな。ちゃんと見ててやるから。」

 

「ありがとう。」

 

なんてまぶしい笑顔だ。

 

 

今日は、詩乃の水泳特訓に来たわけだ。

プールに行ったこともあまりなく、中学校でも水泳の授業は見学が多かったらしい。

 

彼女からの依頼は最優先事項である。

 

 

なぜ急に水泳特訓を始めたかと言えば、クジラに乗るためである。

ユイちゃんがクジラが見たいと言ったところ、両親が奮起した。結論ALOで海中のクエストに向かうこととなった。

 

桐ケ谷妹も帰還者学校で特訓中である。夕方からログインして行くこととなっているため、俺たちは千葉のレジャープールに来たわけだ。

 

 

 

***

 

八幡のおかげで、少しは水に慣れてきた。

今はプールサイドで休憩中。

 

お義姉ちゃんと義兄さんは、ウォータースライダーをまだ満喫しているのかしら。

 

「やっはろー、2人とも!」

 

「ちょっと結衣さん。」

 

由比ヶ浜先輩に引っ張るように雪ノ下先輩が連れられて向かってくる。私よりもずっとスタイルがいい。

 

「あら、奇遇ね、変態谷君。水着を見にきたの?」

 

「え、ヒッキーそうなの!?」

 

「なんでそうなる。いや、たしかに、詩乃の水着を見に来たことはまちがっていない。あ、小町も含む。」

 

仲が良い。軽口を叩きあっているように見えて、いつものコミュニケーションなのよね。

 

 

「……詩乃との、その、デートだ。」

 

私は顔を上げて八幡を見つめる。そういうことはあまり口には出さないから、きっと私のために。

 

「あら、お熱いこと。熱中症には気をつけなさい。」

 

「いやー、ラブラブだね!」

 

でも、2人はたぶん彼のことが……

 

「はぁ。少し詩乃さんを借りるわね。」

 

「ヒッキーはここで待っててね。」

 

「え、ここで?」

 

困惑する彼を置いて、プール内のフードショップの席に連行される。

 

 

 

 

2人は対面の椅子に座り、高校受験の面接のときのようで、緊張してしまう。

「詩乃ちゃんガチガチだよー、リラックスリラックス。」

 

「結衣さん、それ逆効果よ。」

 

「そなの!?」

 

「えっと、お二人は、その、」

 

「ヒッキーのことが好きなんじゃないかって? 今は友達として好きかなー。」

 

「私も嫌いじゃないわよ。彼は友達じゃないけれど。だから、その、取ったりしないわよ?」

 

「ヒッキー、しののんのこと大好きだし!」

 

「それにしても、よくあの鈍感谷君を落とせたわね。」

 

「ナレソメっていうんだっけ。聞かせて聞かせて―。」

 

2人の顔には、嫉妬はまったくなくて。友達が幸せなことに幸せを感じているようで。

 

顔に熱を感じ、モジモジしてしまう。

 

「その、出会いはGGOっていうゲームなんですけど。その《世界》で彼に助けてもらったんです。戦い方を教えてくれたり、一緒に冒険したり、さらには現実世界でも助けてもらって……気づけば好きになっていました。」

 

「うんうん、いいねいいねー。」

 

「依頼もそうだけれど、彼がそんなに行動力を見せるとはね。」

 

「その、依頼とは?」

 

「あなたのつよくなりたいという依頼を持ってきたわ。学校の方では、父親が弁護士である葉山君の名を使いながら、数名の女子にOHANASHIしたわね。」

 

依頼の過程で遠藤達をも改心させて、私をGGOでも現実でも側で支えてくれて。

 

「どうして、そこまで……」

 

 

「好きな女の子のためなら、男は全力を発揮するものだよ。」

 

「そういうこと言わないところが、相変わらずお兄ちゃんは捻デレだねぇ。」

 

2人がいつのまにか近づいてきていた。

つまりそれってその頃から私のことが好きだったってこと……?

 

 

「ねぇ、詩乃さん。奉仕部に来ない?」

 

「いいね、それ!」

 

八幡がかつて入っていたという部活。今もたまに訪れている場所で、SAOに囚われた八幡をずっと待っていた場所。

 

「ぜひ、お願いします。」

 

私も誰かの力になりたいと思った。

 

 

 

***

 

「へぇ、あれが、君が選んだ子かー。可愛い子じゃん。」

 

「なんでいるんですかねぇ。」

 

「それはもちろん雪乃ちゃんの水着姿を堪能するためだよ。」

 

どうやって嗅ぎつけたのかを俺は尋ねたんだがな、相変わらずのシスコンぶりである。

 

彼女こそ、雪ノ下陽乃。

雪ノ下雪乃の姉にして、才色兼備で人たらし、つまり魔王である。

 

「むぅ、水着褒めてくれないの?」

 

「俺、彼女と妹のことしか眼中にないんで。」

 

「つまんなーい。……でも、もっと面白くなった。」

 

あ、はい、そうですか。

面白がられる俺としてはまったく嬉しくはないんですよねー。

 

 

「雪乃ちゃんを選ぶと思ったんだけどなー。ねぇ、馴れ初め聞かせて―」

 

「……一目惚れ。」

 

呟くような声で俺が言ったことに、涙を流しながら爆笑し始める。予想通りの反応だったので、目が腐りそうになったぞ。

 

「いいね。いいよー。君のことだから外見じゃないんでしょ。」

 

「今では外見含めて、彼女の全部が好きですよ。」

 

「でも、今の君たちの関係って……」

 

「共依存、とでも言いたいんですかね。」

 

彼女が俺に依存していると、俺が彼女に依存していると言う繋がり。

 

「そうそう。で、どう?」

 

「どう、とは?」

 

「満足してるのかってこと。」

 

「いや、まだまだ物足りないですね。それじゃあ時間も惜しいんで、失礼します。」

 

「君は、本当に変わったね。」

 

それが、良い意味なのか悪い意味なのかは、俺は尋ねなかった。

 

 

 

***

 

 

時刻は18時なのだが、今は昼の晴天である。

太陽の光に照らされ、乙女たちと海は輝いている。

 

2人しか眼中にないのだが、

 

 

シルフ領の遥か南にある海岸まで俺たちはやってきた。

 

キリトとクラインはビーチチェアで寛いでいた。

 

「なあ、キリの字、俺は今日ほどALOの時間が現実と同期してなくてよかったと思った日はねぇぜ。」

 

「リアルはもう夜だからな。」

 

「やっぱ海はこうじゃなきゃよー。」

 

しかし、2人の会話よりも俺たちは撮影で忙しいのである。《隠蔽》に加えて、システム外スキルをフル活用して茂みに隠れている。

 

これだけ言おう、ビキニも最高である。

 

 

 

メニューを開き、カメラを構えると同時に、矢と氷弾が飛んできてそれぞれ砕ける。

 

 

しかも何食わぬ顔で2人は水遊びに戻っている。

やはり俺たちの彼女と妹はすでにALOのトッププレイヤーである。

 

 

 


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