やはり俺の現実逃避はまちがっている。   作:ソロ

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秋アニメが楽しみですねー。

ではでは、EE編後編。





第23話 伝えたいモノ

キリトとクライン、そして後から来たのだろうエギルは俺たちに気づく。

 

「ああ、お前らどこ行ってたんだ?」

 

諦めて脳内フォルダに収めることにした俺たちは茂みから出たのである。

 

「ちょっとな。」

 

「と、ところで、キリト、カウンセリングはどうだった?」

 

「嫌なこと思い出させないでくれ。」

 

ああ、察した、相手は菊岡だったのか、ドンマイ。

 

 

 

「じゃあ、そろそろ行くか。……みなさーん!そろそろ出発の時間ですよー。」

 

クラインが乙女たちに呼びかけると、こちらに並んで向かってくる。

 

そして、メニューを開き、装備が変えられた。もちろんベストを尽くしても’途中’は視えなかった。

 

「あの、みなさん、クエスト中はずっとそのお装備で?」

 

「当たり前でしょー、戦闘するんだから。あんたもさっさと着替えなさいよー。」

 

クラインは膝をつく。

はかない期待だったな、水着で戦闘するのは『番外編』くらいだぞ。

 

 

「ええ、僭越ながら、今日は、俺がパーティーリーダーを務めさせていただきます。クエストの途中で目的の大クジラが出てきた場合は、俺の指示に従ってください。」

 

「「「はーい。」」」

 

「このお礼はいつか精神的に。それじゃあ皆がんばろう。」

 

「「「おお!」」」

 

キリトが形式的に一応言ったものの、俺たちのパーティーは基本的にガンガンいこうぜである。SAO生還者が多いパーティーであるため、いうなれば脳筋ども。

 

マイシスターだけが純粋な支援職、うちの彼女だけが純粋な後衛職なのだ。バーサクヒーラー2名は時間が経つと前衛に出たがる。

 

 

俺、シノン、マチ、ミカヅキ、キリト、アスナ、リーファ、シリカ、リズベット、エギル、クライン、そしてユイちゃんから構成される『いつメン』である。

 

 

 

目的座標の上まで飛んでいった俺たちは一度滞空する。

 

ミカヅキは慌てて、メニューを開く。相棒は英単語の暗記が苦手ということだけ言っておこう。かくいう俺も2、3種類しか覚えていない。

 

《ウォーター・ブレッシング》

ウンディーネ以外が水中活動できるようになる補助魔法だ。

 

 

海に潜ると、翅は自然と消える。シノンの右隣に追いつき声をかける。

 

「大丈夫か?」

 

「ええ。いけるわ。」

 

「そうか。」

 

泳ぎの練習の成果もあったのかシノンやリーファもなんとか大丈夫そうだ。

 

より深く海底に向かっていくと、神殿にクエストNPCがいる。

 

「海と言えば、相場が決まっているぜ。マーメイドのお嬢さーん。今、助けに行きますよー。」

 

クラインが欲望に忠実に、先行して向かっていく。相変わらず残念なやつである。

 

「あれって、おじいさんね。」

 

「……クラインェ」

 

ケットシーで眼の良いシノンの発言で、クラインに同情してしまいそうだった。

 

 

 

クエスト《深海の剥奪者》

その名称や《Nerakk》というNPCの名は不可解なもの。盗賊たちに盗まれた真珠を取り返すという内容である。

 

……どこにクジラ要素があるのだろうか。

 

 

水中の城の廊下、水の中を歩くということは不思議な感覚である。

俺たちの間近を小魚は泳いでいくので、水族館みたいでテンションが上がる。

 

「ほへぇー。」

 

「すごいわね。」

 

しかし、いくつかの魔法の使用不可はともかく、武器の振りが遅くなることから高難易度のダンジョンである。慎重に進まなければならないな。

 

だからといって、戦闘を歩いていたキリトとクラインは見えている落とし穴にハマっている。

 

「これが元攻略組のトッププレイヤーとはねー。」

 

「大丈夫ですよー、わたしはどんなキリトさんだって。」

 

「「アハハ……」」

 

単に油断しすぎなだけだ。全力の平泳ぎで彼らは上がってきた。

 

 

 

「パパ、後ろです。」

 

ユイちゃんの声と同時に落とし穴から現れたのは、シーラカンスのようなモンスター。頭部が硬そうでたぶん突進をしてくるのだろう。

 

 

キリトの掛け声で戦闘態勢を各々取り始める。

 

「俺たちがタゲを取るから、側面から攻撃してくれ。」

 

水中での活動が得意なウンディーネのミカヅキと、ただの戦闘狂のキリトが石魚の攻撃を受け止める。動きの止まったところに、俺たちで攻撃を当てていく。

 

それにしても、剣を振るうときの抵抗が重い。シノンの矢も失速してしまっている。

 

「ちょ、リーファちゃん!?」

 

マチの声が聞こえると同時に、後衛で支援に徹していたリーファが勢いよく飛び込んでくる。

 

 

HPが残り少なくなったのか、石魚の泳ぐスピードが速くなり、渦巻を作り始める。俺たちは向かい風を受け続けように水の流れを受け動けなくなる。

 

リーファが落とし穴に落ちかけているようで、キリトは躊躇わず渦に飛び込む。相変わらず無茶をするやつだ。

 

 

俺たちは言葉を交わさずとも連携を始める。

 

もし名付けるのなら、《ユニゾンスキル》。

 

 

シノンは矢をつがえると、マチは氷の補助魔法をその矢にかける。

 

俺は少しジャンプし、足の裏を相棒に向ける。両手剣をバットのように振り、剣の腹で俺をかっ飛ばす。

 

 

『加速』したすれ違いざまの斬撃。

水を切り裂く氷の矢。

 

さらに、天井からの刺突。

 

モンスターはポリゴンと化した。

 

 

 

落とし穴に落ちそうになったリーファを一早くキリトが掴み、男総出で引き上げる。

 

「お兄ちゃん、また助けてくれたね。」

 

そう言ってリーファは微笑んだ。

千葉在住ではないが、俺と小町に負けないくらい、やはりいい兄妹である。

 

 

 

 

***

 

蟹、エビ、マグロといった俺たちより大きい魚介類モンスターに襲われる体験はなかなか新鮮であった。盗賊やボスモンスターの姿もなく、真珠も無事手に入ったとはいえ、クジラは現れない。

 

あとは、じいさんの前まで戻ってきて、抱えるくらい大きい真珠を渡すだけである。

 

「キリト君、待って。」

 

「あ、おい。」

 

「これ真珠じゃなくて、卵よ。」

 

キリトから取り上げて掲げて見てみたアスナは言う。

 

「もしかして、《深海の剥奪者》って、俺たちのことか。」

 

ああ、そういうことだったのか。

つまりまだクエストは終わっていないわけで、

 

「渡さぬとあらば仕方ないのう。」

 

姿を見せたのは巨大な《クラーケン》である。

合計6つのHPバーは強さを示していた。

 

 

俺と相棒が1足の一振りを防いでみたものの、重すぎる。

2人でギリギリであるのに、まだ数本残っている。

 

2人分の補助魔法を受け、キリトが斬りつけた部位も再生される。

 

 

複数の足の攻撃を防いだのは、降ってきた大きな槍。俺たちの危機を救ったのは《海神》。

 

合計8つのHPバーには、もう笑うしかない。SAO時代より高価な《転移結晶》をこっそり出す。

 

どうやらお話で解決してくれたようだ。

ここで戦い始めるなら全力で逃げるつもりだった。

 

 

状況を呑み込めず、みんながポカーンとしていると、海神がこちらを向く。

 

「そなたらの国まで送ってやろう、妖精たちよ。」

 

移動手段として呼ばれたのは巨大なクジラ。

 

依頼完了だな。

 

 

 

 

 

***

 

 

月明りの下、ベランダにいる詩乃に声をかける。

 

「いくら夏だといっても湯冷めするぞ?」

 

「ごめんね、わたし妬いちゃったみたい」

 

「みたいだな。」

 

それは雪ノ下や由比ヶ浜への嫉妬。

 

「先輩たちは美人で良い人でしょう?……胸も大きいし。」

 

「それで?」

 

「それに、わたしの知らない八幡を知ってる。うらやましくてなんだか悔しいなって。もし、私と出会わなかったら、GGOにあなたが来なかったら、先輩のどっちかと付き合ってた?」

 

彼女は寂しそうに笑って見せる。

 

「おいおい、告白した時から、いやその前から夢中なんだぞ。」

 

「嘘でも言ってくれて嬉しいな。」

 

「嘘じゃねぇよ。」

 

俺からすれば詩乃が一番かわいいのだが、まだ自信を持てない詩乃。

それでも、言葉で伝えなくても、伝える方法が俺たちにはある。

 

 

不安そうで、まだなにか言いそうな彼女の唇を塞ぐ。帰還してから鍛えた俺の腕では折ってしまいそうな華奢な体を抱きしめる。

 

彼女も背伸びしてキスを返してくれる。おそるおそる手を繋いでくるだけだった彼女としては大きな進歩で。

 

2人だけの静寂を楽しむ。

 

「あ、流れ星! 願い事叶うかしら。」

 

彼女の横顔は子供のように無邪気で、微笑ましくてかわいい。

 

しかし、過去さえ乗り越えてきた彼女が願うこととは?

 

「八幡とずっと一緒にいられますように」

 

叶わぬ願いを叶えてもらおうということではなく、今の幸せが続くようにと願う。それならば俺も1つの流れ星に誓うことにする。

 

「詩乃と、ずっと一緒にいる!」

 

俺も子供のように星に叫ぶ。ここまで大きな声を出したのはいつ以来だろうか。

 

「ちょ、大声出さないでよ。」

 

顔を赤くしながらそう言う。

 

「ああ、もうバカ、でも大好き!」

 

最高の笑顔で星に叫んだ。

 

 

 

 

独占欲も強くてわがままな女の子にはずっと俺に甘えてほしい。それも俺の求めてきたモノだろう。

 

今の俺は、由比ヶ浜も雪ノ下も知らないだろうな。

たった1人の優しい彼氏の顔となっていたと思う。

 

 

 

 

***

 

それぞれの夜空の下で、それぞれの場所で、愛する人(たち)に伝える。

 

―――ありがとう

 

 

 

 

 

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