やはり俺の現実逃避はまちがっている。 作:ソロ
デスゲーム開始から、もう1年がとっくに過ぎた。
宿屋の一室で、俺は目覚める。基本的に、俺は深夜に狩りをする。朝は寝ていることが多いが、メッセージの着信で起きた。
フレンド一覧は、キリトと《情報屋》の'2人'のみ。
キリトからのメッセージを読み終わり、宿屋を飛び出した。
***
各層を行き来する《転移門》を使って来たのは、
第47層《フローリア》。
とにかく花が多く、フラワーガーデンと呼ばれる観光地でもある。フルダイブの技術力によって、香りすら楽しめる場所だ。
女性プレイヤーは多くはないのだけれど、カップルがほんと多いな。ちなみにSAOには《結婚》もある。
・・・だが俺はソロプレイヤーだ。
全身黒ずくめの剣士を見つけたので、声をかける。
「久しぶり。元気してた?」
「あ、ああ、久しぶり。」
どこか躊躇いがちに挨拶を返してくる。
この前までずいぶん荒れてたけど、少しは落ち着いたようだ。
「キ、キリトさん、この人は?」
俺たちより年下で、珍しい女性プレイヤーがキリトの隣にいた。
「え、と、・・・」
「ナインとでも呼んでくれ。助太刀に参った。」
ちなみに俺の格好は、ありふれた鉄の全身鎧で顔は見えない。片手剣を腰に差している。
・・・花園には全く合わないだろう。
「シ、シリカって言います。よ、よろしくお願い、します。」
とてもとても怖がりながら名乗ってくれた。
キリトの背後に隠れて、コートの裾を握っていた。
***
《思い出の丘》は、街から一本道でつながっている。
庭園の道を道なりに歩いていくと、目的の《花》がある。
シリカの《相棒》を生き返らせることができるらしい。
その《相棒》はプレイヤーではなく、モンスターだ。
ビーストテイマーな彼女は、《迷いの森》で危機に陥ったところをキリトに助けられたわけだ。そして、使い魔蘇生用アイテムを求めて、この層にやってきたのだ。
攻略組のトッププレイヤー2人がいれば、彼女が危険なことは何もない。触手持ちだったり粘液持ちだったりと、卑猥なモンスターはすべて叩き切った。
もちろんマシなモンスターは任せて、彼女のレベル上げにも貢献した。
「キ、キリトさん、怖いです。」
キリトは何も答えなかった。
***
なんだか、こう、
カップルのデートの邪魔をした気がする。
周囲を警戒する騎士だとか、護衛だとか思ってくれればいいのに。
‘ここまでは’安全に《花》を持って帰ってくることができた。
帰り道の途中で、小川にかかる橋が見えた。
そして、待ち伏せしているやつらも視えた。
「そこで待ち伏せてる奴、出てこいよ。」
「え?」
キリトの発言に、シリカは疑問を抱いた。
「ロ、ロザリアさん!? なんでこんなところに。」
さらに1本の木の裏から現れた赤髪の女に驚く。
「アタシのハイディングを見破るなんて、なかなか高い《索敵》スキルね、剣士さん。あなどってたかしら?」
《隠蔽》(ハイディング)はスキルの1つで、姿を隠すことができるスキルだ。
熟練度が上げづらいが、迷宮区ではかなり重宝する。デスゲームであるこの《世界》での生存率を上げる。
《索敵》は《隠蔽》を見破ることができる。モンスターも《隠蔽》してくるからな。
キリトから、シリカに視線を移し、妖艶な顔をする。
「首尾よく《プネウマの花》をゲットできたみたいね。さっそく渡してちょうだい。」
「な、何を言ってるの?」
状況を理解できていないシリカを、キリトは下げさせる。紳士だ。
「そうは行かないな、ロザリアさん。いや犯罪者ギルド《タイタンズハンド》のリーダーさん、と言ったほうがいいかな。」
この世界には、警察がいない。今の《軍》は自称警察である。
故意に盗みや障害を行うと、カーソルが緑色からオレンジ色に変わる。犯罪者のことをオレンジプレイヤーと言ったり、集団をオレンジギルドと言ったりする。
そして、殺人をしたプレイヤーをレッドプレイヤーと俺たちは呼ぶ。カーソルはオレンジのままなのだが。
ちなみに、そのカーソルの色はスローター系クエストで回復は可能である。
《タイタンズハンド》はグリーンとオレンジ、それにレッドで構成されている悪質なギルドだな。
「じゃ、じゃあ、この2週間一緒にパーティーにいたのは。」
犯罪者ギルドの一員であったことに驚き、シリカが尋ねる。
「パーティーの戦力の確認と、お金やアイテムが溜まるのを待ってたの。一番楽しみなあんたが抜けちゃうのは残念だったわー。でも《プネウマの花》、、」
「おい、シリカ以外のやつはどうした?」
うんざりしてきた俺は、話を遮り、問う。
「あんた、しゃべれたの? 怖がりだから、全身鎧なのかと思ってた。あいつらなら、仲間が殺したわ。ドロップアイテムは微妙だったけど。」
話を遮られたため、向こうもうんざりしながら、そう答えた。
指で音を鳴らす。
木の裏にいた10人が現れる。
オレンジが4人。グリーンがおびき出した者を殺してきたのだろう。
オレンジのカーソルとはいえ、全員がレッドプレイヤー。雰囲気で分かる。
今度はキリトが聞く。
「・・・《シルバーフラグス》っていうギルドは?」
「ああ、あの貧乏な連中ね。」
興味がないような声でそう言った。
キリトが冷たい声で言う。怒りと殺気を籠めたような声だった。
「リーダーだった男はな、毎日朝から晩まで、最前線のゲート広場で泣きながら仇討ちをしてくれる奴を探してたよ。でもその男は、依頼を引き受けた俺に向かって、あんたらを殺してくれとは言わなかった。黒鉄宮の牢獄に入れてくれと、そう言ったよ。」
「・・・あんたに、奴の気持ちが分かるか?」
「何よ、マジになっちゃって、馬鹿みたい。ここで人を殺したって、ホントにその人が死ぬ証拠ないし。そんなんで、《現実》に戻った時犯罪になるわけないわよ。」
キリトは、表情を変えない。
俺は、自然と拳を握っていた。
「だいたいいつ戻れるかどうかも解んないのにさ、攻略組は馬鹿よね。命をわざわざ危険にさらしてさ。」
「無駄じ、、」
ロザリアはその言葉を続けられなかった。
俺が、瞬発的に踏み込み、殴り飛ばした。
このゲームでダメージによる痛覚はない。
ロザリアは焦って、高価な《回復結晶》を使う。
俺はメニューを開き、防具を変える。
先ほどまで身に着けていた、ありふれた鉄の全身鎧ではなく、
傷だらけの、少しスマートな黒の全身鎧。
ありふれた片手剣ではなく、漆黒の両手剣《アイアコスソード》
オレンジの1人が顔を蒼白にしながら声を漏らす。
「・・・《狂戦士》」
「や、やばいよ。こいつ、攻略組だ。しかもオレンジ狩りだ。」
やつらは慌てて転移結晶を取り出し始める。
その転移結晶を《投剣》によって、落とす。
飛んできた方向を全員が見た。
腕に包帯を巻き、フード付きコートで顔を隠した軽装の男。顔は髑髏を模した'仮面'で隠されている。
‘盾無し’で、曲刀《災禍剣デモリッシュ》。
そして、カーソルはオレンジだが、レッドプレイヤー。
レッドのやつが騒ぎ始める。
「ら、ラフィン・コフィン。」
「…《執行人》。え、エイトさん・・・」
《ラフィン・コフィン》はSAO’唯一’の殺人ギルドで、レッドギルドである。
***
俺は’エイト’に話しかける。
「まだ、その剣使ってるのか。」
その曲刀は破格の攻撃力を持つ代償として、
一定時間ごとにパーティーメンバーのHPを減少させる。
‘あのとき’から、彼はパーティーを組むことはなく、ボス攻略に参加しなくなった。
エイトは質問に答えない。
そこをどけ、と無言で言っている。
「《黒の剣士》、そっちは頼んだ。」
その呼び名もトッププレイヤーを表す。
犯罪者たちは次々と監獄エリアに自分から逃げるように向かっていった。
残されたのは、麻痺毒で動けないレッド4人。
「…オレンジの掃除は感謝するが、そいつらの中の1人が《裏切り者》だ。」
「だからといって、お前に殺人させたくはないな。」
「……そうか。」
互いに譲れないモノがある。
ここからは、《剣》で語り合う。
SAOにはプレイヤー同士で《決闘》を行うことができるシステムがある。デスゲームであるこの世界において、基本的には初撃決着モードが選ばれる。
素人だった俺たちは、何度も《決闘》を行った。
しかし、今は、
《決闘》システムを用いない。
お互いの意思をかけた決闘が始まる。
***
俺は、踏み込み、ソードスキルを発生させる。
俺が得意とするのは’踏み込み’だ。
敏捷値をあまり上げていないが、突進にブーストをかけることでさらに『加速』する。
両手剣ソードスキル《ブラスト》
一歩踏み込んで、斜め上から斬り付ける単発技。
エイトには後退することで躱される。
エイトが得意とするのは、剣技の見切り。
多くの剣技を’視’てきた経験で、相手の行動を読むこと。モンスターもソードスキルを使ってくるこの世界では重要なスキルだろう。
「相変わらず、考えごとか?」
エイトが聞いてくる。
俺が転生したとき身についていたもの《並行思考》。2つだけとはいえ、俺は戦いの中で、'考える'ことができるわけだ。
「エイトこそ、盾はどうした?」
「・・・捨てた。」
麻痺毒が塗られているだろう《投剣》を腕を振り上げる動作で投げてくる。
避けると、エイトの姿が消えたように見える。
システム外スキル《ミスディレクション》ってやつだ。俺は、背後からの《レイジング・チョッパー》を両手剣で受ける。
三連撃の後、高速での突きになんとか耐える。
「…チートかよ。」
「お前もな。」
《並行思考》でなんとか対応できただけだ。
対人スキルとして、最凶のシステム外スキルを、エイトは身に着けた。
そのうちに、
キリトがレッド3人を牢獄に投げ入れた。
時間稼ぎは十分できた。
……エイトの殺人を'また'止めることができた。
エイトは武器をしまい、転移結晶で行先を呟く。
両手剣がボロボロだ。かなり危なかった。
もし、森や洞窟のような物陰の多い場所なら、俺は負けていただろう。
俺は街に先に戻ることにする。
「キリト、シリカへのフォローよろしく。」
「・・・エイトとお前に何があった。」
俺は何も答えず、去っていく。
エイトに会うたび、
俺の犯罪者狩りは、『いたちごっこ』なのではないかって思ってしまう。
でも、
やはりエイトが傷つくのはまちがっている。
俺たちの’道’は、2つに分かれた。
俺は、狂うように、攻略と犯罪者狩りを続けている。
俺は'兜'を被り続ける