やはり俺の現実逃避はまちがっている。   作:ソロ

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第24話 かつて救えなかった少女たち

 

 

お兄ちゃんが帰ってきた日からそろそろ1年が経つ。まだまだ暑くて、夏が終わろうとしていた頃だったなー。

 

この1年はたくさんのいいことがあったんだよね。

 

ALOに初めてログインして伊月さんと冒険して、彼の過去を教えてもらって、デートもして、今ではお付き合いしています。彼の魅力を語ることもできるのですが、割愛。

 

あとあと、一緒に冒険をするお友達や先輩さんたちもたくさんできたし。

 

無事総武高に入学できたのも外せないなー。学校でも奉仕部に入れたし、詩乃ちゃんとも出会えた。それにしても、お兄ちゃんが詩乃ちゃんと付き合うことになるとはねー。わたしとしても可愛い妹ができたみたいでグッジョブなのですよ。義姉なんだけどね。

 

 

「マチ?」

 

おっと、思い出に浸ってた。

わたしの反応がないことで、シノンが首を傾げて名前を呼びかけてくる。現実世界よりクールな声なんだよね。詩乃ちゃんはいくつかモードがあるのです。

 

「ん、ちょっとね。幸せだなーって。」

 

「うん、そうね。」

 

優しい微笑みで頷いてくれる。そんな妹が可愛くて仕方がない。

 

 

今は、リーファ、リズ、シリカ、ルクスに、シルフの領主さんとケットシーの領主さんを加えた女子会なお茶会です。シルフ領《スイルベーン》の領主邸の広い1部屋を贅沢に使っております。もちろんお茶やお菓子も高級品で美味しい。

 

「シルフ領の最高級の茶葉気に入ってもらえてなによりだ。」

 

「お菓子はうちの領内一のパティシエのお手製だヨ!ジェムアップルのジャムをたっぷり使ってるんだヨ~」

 

「えっ、それってケットシー領しか出現しない《食妖樹》のレアドロップ品じゃないですか!」

 

「そうそう。今日のものは、キリトくんたちのおかげだネ!」

 

先日、ミカヅキさんとお兄ちゃん、そしてキリトさんの3人で討伐しに行ったんだっけ。わたしたちの共有ストレージにごっそり入っていた《肥料》がすべてなくなっていたなー。

 

ちなみにその《肥料》、安くはない。莫大な費用を賄うためにケットシー領で売ったのかな。アスナさんと協力して叱っておきました。これだから食いしん坊3人は……。

 

「さ、さすが領主の会席するお茶会…」

 

「何だかすごく場違いな気がしてきます。」

 

「今日は息抜きのつもりだから気兼ねなく楽しんで欲しい。」

 

それじゃあ遠慮なく味わうこととする。この《世界》で甘いものを食べ過ぎても太らないのは、女子としては喜ばしいよね。もちろん本能的に歯止めが効いてしまうんだけど。

 

「キリトといえば、ルクスったら面白い話があるのよね。実は前に会わせた時に…」

 

「ちょっ、そ、その話は…!」

 

「それがですね! 緊張してテンパって廊下でこけてしまって、キリトさんを押し倒したんですよ。」

 

リズの口をルクスは塞いだとはいえ、シリカがしゃべってしまう。アリシャさんは大爆笑で、サクヤさんもクスクス笑っている。

 

「だが、きっとそのほうが忘れられない出会いになるはずさ。」

 

「「掴みはオッケー。」」

 

シノンとともに、グーサインを出しておく。アスナさんには内緒にしておいたほうがいいかもね。

 

「あ、そういえば、ミカヅキさんやお兄ちゃんは学校でどんな様子ですか?」

 

「そうね。気になるわ。」

 

「あいつらなら、キリトといつもつるんでるわね。様子見に行ったときは理系の巣窟に入り浸ってよくわからないもの作ってたわ。」

 

伊月さんならともかく、数学嫌いだったお兄ちゃんが!工学! 

小町は嬉し涙が出そうだよー。

 

 

「おっと、失礼」

 

「サクヤちゃん、また?」

 

「うむ。」

 

メッセージを読むサクヤさんの顔は真剣なものとなり、アリシャさんはため息をつく。

 

「何かあったんですか?」

 

「…最近うちの領内で少々度の過ぎるPK集団がいるのだ。かなり統率がとれていて手を焼いていてな。商人プレイヤーも初心者も見境なく狙われている。盗賊ギルドなのだが―――まるで快楽殺人のような。」

 

顔が強張っているシノンの右手を握ってあげる。少し落ち着いたようだけど、お兄ちゃんには敵わないみたい。

 

「シルフの精鋭部隊に討伐に向かわせたのだが、返り討ちだったよ。すべての魔法が発動できなかったらしい。さらに、煙幕、目つぶし、暗器や麻痺毒を使ってきたらしい。あとは全員がフードを被っていて、頭首が忍刀と投げナイフを使うという情報くらいだろうか。」

 

それはまるで、あの殺人ギルド。

 

 

暗い雰囲気のまま、お茶会はお開きになった。

 

 

 

***

 

わたしたちが晩御飯の買い出しのためにログアウトしたあと、シリカたちは襲われたらしい。情報通りの、投げナイフや麻痺毒、そして魔法の無効化に4人は敗れた。サクヤさんもPKされるところだったみたい。領主がPKされた場合、大きな損害がシルフ領に生じるところだった。

 

PKに感化されたことで、真似をする人も現れるようになったみたい。ゲームだから何をしてもいいって思うような人が増えてしまう。

 

 

そして、ひよりさんに何かがあった。

さよならを、友達の証を通して言葉で伝えられた。

 

でも、その言葉は……

 

 

 

 

学校の中庭。

すでに夕暮れ時で独りベンチに座るひよりに近づいていく。小町たちを彼女は避けている、いや彼女たちから逃げているから’俺たち’が来た。

 

「ミ……月村さん? その、私ALOを……」

 

「『偽物』のさよなら はもう言うなよ?」

 

「でも、私の過去を知ったら、あなたもいつか……」

 

「逃げない。離れない。俺も小町たちも。」

 

「どうして、そんなこと言いきれるんですか!……一緒にいちゃいけないんです。わたしはあのギルドの一員だから、……だから、あんな過去消えてしまえばいいのに。」

 

彼女はまだ過去に囚われていて、過去から逃げている。本当の意味でまだSAOから帰ってきていないのだろう。

 

涙を流すひよりの頭に手を置いて、優しく撫でる。

 

「仲間だから、友達だから、―――君を救いたいから。」

 

 

 

「過去は消せないだろうな。だが、あがいて立ち向かって今を『生きる』ことはできる。ソースは俺と詩乃な。」

 

「…あなたは?」

 

「《ショーグン》って言った方が早いか? あのとき救えなかったお前と’あいつ’を救いにきた。」

 

それはあいつの名。仇を誘き出すためにラフコフ時代に名乗っていた名前だ。

 

彼女は元ラフコフメンバーなのである。団員に殺そうとされたところを、PoHによって強制的にスカウトされた。太ももの膝に《印》を刻まれたり、脅されたりしていた彼女を依頼派に迎え入れた。オレンジカーソルつきのメンバーに代わって、諜報員としての役目を果たしていた。そして、彼女ともう1人と、ダンジョンに潜ることがよくあった。

 

特にもう1人にはずいぶん懐かれて、あの頃の、唯一の、安らげるひと時だった。

 

 

 

 

 

 

彼女は目を見開いた。

 

いくつかの、彼に救われた過去を思い出す。

殺されないようにしてくれた。

『殺し』から遠ざけてくれた。

太ももに刻まれた《刺青》を消してくれた。

 

 

 

それでも、まだ、彼は救ってくれるというの?

 

「さて、依頼はどうする?」

 

 

思い出すのは、多くの冒険。

私が望むのは、私が嘘をついた彼女たちともう一度やり直すこと。

 

思い出したのは、キャンディの味。

私が望むのは、私が傷つけた彼女ともう一度やり直すこと。

 

思い出せるのは、もう見れない笑顔。

私が望むのは、寄り添う人がずっといてくれること。

 

 

「たす、けて、わたし、たちを……」

 

精一杯、願いを伝えた。

 

私が一番望むことは、また彼女と一緒に……

 

 

ゆがむ視界の中でも、2人が頷いてくれるのがわかった。

 

 

 

***

 

 

シルフ領の主都スイルベーンには、シルフやケットシーの精鋭、そして有志が集められていた。信頼できるメンバーでのみ構成された少数精鋭である。シルフの女領主であるサクヤが俺たちの前に立つ。色気があり美人で、威厳たっぷりである。

 

いてててて! ヤメロー

 

彼女に横腹を掴まれたので、大きなものから目を逸らす。ペインアブソーバーを超越してきやがった。

 

 

「あらかじめ伝えておいた通り、ギルド《邪な蝙蝠》に対し武力を行使する。被害と影響を鑑みるにもはやただの野党と看過できん。……みなの協力をお願いしたい。」

 

「だが断る。」

 

その場違いな発言で、

領主2人や精鋭は俺たちの方を見てくる。睨んでくるというより、説明を求めるような目だ。

 

 

「そのギルドは、俺たち《奉仕部》が相手をする。」

 

 

 

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