やはり俺の現実逃避はまちがっている。 作:ソロ
それでは、後編。
突入メンバーとして、俺、マチ、ルクスに加えて、シリカ、リズベット、リーファも参加している。
森の木々に隠された大きな岩の中に、家のようなフィールドが広がっている。まさしく隠れ家であり、ここを根城としているのだろう。
「ここにも、誰もいないみたいね。」
「だね…」
いくつかの部屋を探索したが、もぬけの殻のように思える。
「あ、ここの壁微妙に色が違います!」
「何かあるのかしら。……って隠し部屋!?」
リズベットが隠し扉を開けると、また何もない部屋。脱出ゲーム要素のあるダンジョンなのだろう。なかなか良いアジトではないだろうか。
などと考えていると、足元に浮かび上がった大きな魔法陣が起動する。罠によって床が崩れたことにすぐに対応できず、俺たちはちりぢりに落ちていく。
落ちた先は薄暗い場所だが、暗視魔法を使うレベルではないようだ。しかし妹とはぐれたことは大問題である。
《超感覚》で気配を探ると、向こうのギルドメンバーは各個撃破するように動いているのがわかった。依頼者の元へ向かうと、彼女にとって因縁深い《グウェン》がいた。
へそ出しで、ミニスカートな和服という軽装すぎる軽装である。そして、金色のストレートなツインテール、高身長、胸の大きさには違和感しかない。目の下のホクロとか変わっていないところもあるようだが。
「これって運命的じゃない?たまたまあたしの目の前に落ちてきてくれるなんて。やっぱりあたしたち相性がいいのよ。だから、あたしを選びなさい《ルクス》。あのときのように《自由》に遊ぼうよ!」
あのときから変わらない無邪気な笑顔で、《ルクス》に手を差し伸べようとする。しかし、《自由に遊ぶ》というのは過去と変わらない《犯罪》であって。
「グウェン、その手はとれない。……でも、私はあなたとやり直したい。」
あのときから変わった微笑みで、グウェンに手を差し伸べる。
「あいつらのせい? 《ルクス》は変わってしまったのね。……それなら、あたしの邪魔をするなら、後悔させてやるわ!」
翅を出し、腰の短刀を抜く。
グウェンの攻撃を、左手の短剣で受ける。
空中からの舞うような連撃に、右手の片手剣を合わせても防戦一方のようである。
最後に見た時よりも強くなっていて、よわくなっている。
「どうしたのよ、ルクス。はやく大ピンチな『大切なお友達』の元に行かないといけないわね!……あなたが悪いのよ。あなたがあたしを裏切るから!」
「私のせいだ。それでも、投降して罪を償ってくれ。」
傷つけてしまったときと同じ言葉。それでも、想いは違う。
「君の言う、偽物の《自由》はまちがっている。こんな人を傷つけるような《自由》は……」
「投……降? また、なの、……こうなったのはルクスのせいなのに!」
《投剣》スキルで投げたのは、3本のクナイ。麻痺毒が塗られていて、これで終わるはずだったのに、これでよかったはずなのに。
―――手裏剣に弾かれる。
あのときと変わらない髑髏の仮面の男、《ショーグン》が霧のように現れる。
「な、んで、あなたが?」
「あのとき、救えなかったから。」
PoHに負けた、あのとき。
俺は彼女たちを呪縛から解放するつもりだった。しかし、気づいたときにはすでに行方が分からなくなっていた。フレンドリストに登録していなかったこともあるし、現実世界では尚更である。
「今更来たって遅いわよ!」
「いや、まだ間に合う。」
動揺している彼女の元に、《部下》がやってくる。
「頭! すみません。やつらなかなか強くて……」
ルクスの元に、友達がやってくる。
「リズ!シリカ!リーファ!マチ!」
敵のメンバーと戦っていた彼女たちが無事だったことにひとまず安心したようだ。そしてもう1人の友達のほうを向く。
「…もうやめよう。これ以上は戦いたくない。」
「いやよ。後悔させてやる! あたしを裏切ったあなたに、《師匠》に!」
グウェンが手を掲げ合図すると、上から光の攻撃魔法が降り注ぐ。地下、空中、そして地上に分けられたメンバーたちに苦戦する。
「なら魔法で…!」
リーファが唱えているところに、《投剣》で小さなアイテムを投げ込むと、魔法が打ち消される。そのスピードは俺や相棒のレベルでないと見えないだろう。シルフ隊の報告にあった《ディスペルマジック》の正体といったところか。
《投剣》の使い方の1つを、上手く使いこなしていることに喜びを感じてしまう。今はこんな状況であるのにな。
何もしなくても間に合うだろうが、マチに投げ込まれてきた石をキャッチした。
幻惑範囲魔法を《高速詠唱》で発動すると、黒い煙幕に包まれる。《超感覚》を持っていないとはいえ、煙幕内では敵のほうが有利だろう。それでも、妹がやりたいことがある。
呪文を唱える声を聞いて、グウェンは的確に《投剣》で投げ込む。しかし、補助魔法を受けたルクスの一撃をなんとか弾いた。
「声が…いろんな方向から聞こえる!?あんたたちどうやって!」
「《天使の指輪》です。」
絆で結ばれた人へ、声を届けるアイテム。ルクスたちが冒険で手に入れた『信頼の証』である。
苦い顔をしているグウェンは、さらに現実を見ることになる。
「もうだめだぁ…おしまいだぁ。」「逃げるんだぁ…勝てるわけがない。」「ずらかるぞ。」
「《断罪人》とはいえ、レベルのないALOじゃあ怖くはない。」
「それでも、頭。終わりだよ、この《ギルド》は。デスペナ受けるわけにもいかないしな。」
「ま、俺たちの関係なんて、どうせ『偽物』だろ?」
そうグウェンに告げて、飛んでいこうとする3人を蹴り飛ばして地面に落とすケットシーの3人組。うちのギルドの女の子はアグレッシブである。
さらに、いち早く逃避しようした3人は、ウンディーネの一撃で斬り捨てられる。ワンターンスリーキルゥ。
「もう、いいわ。」
「グウェン、何を…!?」
消えそうな小さな声で呟いたグウェンは最後の罠を起動させる。岩でできた巨人が、大地に立つ。
「部下も仲間も、友達も!何もいらない!いなくたっていい!」
「まさかこんな隠し玉があるなんて。」
「ここは本来小型ダンジョンだったわけね。」
「その通りよ。SAOのときオレンジは街に入れないから、こういう手は常套手段だったしね。《笑う棺桶》もそうなんでしょ、師匠?」
彼女は《笑う棺桶》の下部組織のギルドのリーダーだったのである。それ以上に交友もあったわけで、事実を伝えて、俺や妹たちを動揺させようとしたのだろう。メタ発言スルノナラ、GGO編でクラインがシャベッタ。
「あれも仕掛けの1つ、トラップモンスターの1体なんだね。」
「そんなのを使役するなんて、どんなインチキなんですか。」
シリカの発言にグウェンはクスクス嗤う。
「あたしの《ディスペルマジック》と違って、こいつは正真正銘の罠よ。強すぎて勝てないエネミーなのよ。だから……」
俺は、岩の拳に押しつぶされそうになっている彼女を抱えて避ける。全てから『逃避』したがっている女の子は華奢で、震えていた。
「プレイヤーが勝てない系ボスってわけですね。」
「準備してませんし、今から間に合いませんし。」
「あーあ、ガチバトルかー」
まるで冒険に来たようなセリフ。SAOのときのように、死ぬことを恐れることはなくて。それでも、勝つことをあきらめることは変わらなくて。
俺たちに背を向けて、ワクワクしながら巨人へ歩いていく。
「《黒の剣士》、《閃光》、《狂戦士》……」
武器を構えるかつての《英雄》たちも、今は不滅のボスに勝ちたいという戦闘狂で。それでも、最前線に立つことで勇気をくれることは変わらなくて。
「ヒッキー、グっちゃんのことよろしくね!」
「エイトガヤ君はさっさと行きなさい。」
「お兄ちゃん、任せた!」
「エイト、帰ってきたら、覚悟して、ね?」
「ひゃい!」
《師匠》も、かつての《師匠》とは思えなかった。それでも、優しかった。
地上の離れたところまで来て、ゆっくりとグウェンを降ろす。ルクスは心配そうに彼女を見ている。
「おい、デュエルしろよ。」
「なにを、言って…?」
返事はしない。
髑髏の仮面を投げ捨て、伝説級武器の曲刀《カーテナ》を抜く。
初めて見る俺の顔に動揺しながらも、短刀を構える。まるで初めて稽古をしてやったときのように緊張している。
殺気を籠めて剣を振り下ろすと、本能のままに避けてくる。そのまま後退しながら投げてきたクナイを的確に弾いてみせる。俺が魔法を唱えようとすると、《投剣》で霧散される。
彼女の剣技を越えて、殺気の籠った一太刀を浴びせた。目を閉じたまま死を待つ彼女はゆっくりと目を開く。
「HPが、減っていない…?」
「ああ、これ? 人を斬れない。」
殺さない誓い。
他の奴からすれば、『偽物』の剣かもしれないだろうが、俺にとっては『本物』の剣だ。
「そういえばなんで決闘しているか言ってなかったな。《ディスペルマジック》が、お前の見つけた《投剣》の技を、自分で『偽物』と言ったからだ。」
「それだけ?」
「おう、躾だ。」
俺の発言に固い表情は綻びる。
「はあー。あなたは変わったわね。でも変わらないところもある。」
―――嘘と欺瞞が嫌いなところ。
「お前も、変わらないモノがあるだろう?」
俺は横目でグウェンの大切な人を見る。
両手を胸に当てているルクス、彼女とちゃんと向き合う。
「それで?あなたはどうしたいの?友達として……」
やり直すわけない という『偽物』の言葉は、口に放り込まれた味に消される。
あたしが彼女にしてあげたように、キャンディを食べさせてくれた。
―――あたしも『本物』を見つけることができたみたい。
「仕方ないからヨロシクしてやるわよ。」
あたし、芽衣美の本心など……ひよりにはお見通しだろうけどね。
「「あなたと一緒にまた冒険したい」」
大切な親友に本当の願いを伝える。
***
いつメンの、元《英雄》あらため戦闘狂どもは気合が入っているようだ。あの岩の巨人からは戦略的撤退したらしい。岩に対して刃物は相性悪いからって、魔法職中心にレイド49人になるようにかき集めてきたらしい。
「やっほー。おにいちゃん!」
あざとい声で、俺の右腕に抱きついてくるグウェン。あの頃と変わらない低身長と小さな胸、それでもちゃんと成長している。けじめとして、SAO引継ぎで新アカウントでログインしてきたようだ。
「エーイートー。」
「お兄ちゃんは、わたしだけのお兄ちゃんだよ!」
「グウェンずるい。だったら私も!」
ミカヅキにちょこんとすり寄っていくと、さらに騒ぎになる。争いの種である俺と相棒は、彼女たちの物理的な争いから投げ飛ばされる。
目を離したすきに、もう仲良くなったぞ。女子ってすげぇな。
「ほら、はやく冒険に行くわよ、ルクス!」
「はい!行きましょう、グウェン!」
翅を広げ、飛んでいく2人の手は繋がっていて、最高の笑顔であって。
「「お前だけの剣技を、期待しているぞ。」」
呟いたのは、相棒と同じ言葉だった。