やはり俺の現実逃避はまちがっている。 作:ソロ
ただ、やはり原作には敵わない。
12月28日。
激動の冬休みによって疲れがまだ残っていて、だらけている。
近いほうから言うならば、クリスマスの日のパーティーの雑用をさせられた。いつものように奉仕部に行ったのが運の尽きだっただろう。総武高生徒会長の一色のせいだ、つまり葉山のせいだ、だから俺は悪くない。
その前のクリスマスイブの日に至っては、新アインクラッド22層のログハウスを手に入れるということで、バーサクヒーラーのヒーラーなほうが狂化した。21層ボスをいつメンだけで倒すという暴挙に出た後、3人は今まで見たことのない最高速度で向かって行った。大切な『場所』であることは確かであるので、こちらは納得はいく。
ともかく、愛する女性と2人きりになれる聖夜なんてなかった。
ソファに転がって、携帯で情報サイト《MMOトゥモロー》を見ていると、
【最強の伝説級武器《聖剣エクスキャリバー》。ついに発見される!】
この話題で持ち切りのようである。いまだゲットされていないことを考えると高難度のクエストなのだろう。俺の時も苦労させられた。思い出しただけで目が腐りそうだ。
伝説級武器とはALOで1つしかような武器であって、性能も凄まじい。ちなみに俺が持つ伝説級武器はピーキーな性能であると言っておこう。親しいプレイヤーがいないと効果がなかったり、プレイヤーを斬ることができなかったり。
SNSのメッセージが、いつメンのグループに送られてくる。
その《宝具》は片手剣であるし、根っからのゲーマーなブラッキーさんは興奮状態みたいだ。【今から全員集まれ】とまたぬかしやがる。彼の嫁は一目散に返事をしてログインしたようだ。キリト大好きガールズも争うようにログインしていった。都合が良い時間帯だったのかクラインとエギルも了承したようだ。予想通りミカヅキとマチも快く向かっていた。
ニチアサタイムもすでに終わったし、どうするかなー って思っていると、家事を終えた詩乃の顔が視界に入る。
「部長から連絡よ。キリトが《奉仕部》に依頼したみたい。」
俺の逃げ道を的確に潰してきたようだ。どうせ猫に関するアイテムかクエストの情報に釣られたのだろう。開いていたサイトを見せると詩乃は納得した顔をする。
「さ、早くベッドに行くわよ。」
そのセリフは読者さんの誤解を生むんじゃないんですかね。
***
待ち合わせ場所となったのは、《イグドラシルシティ》にある《リズベット武具店》。世界樹の上に存在する天空都市だ。ダンジョンが近いことに加え、武器のメンテナンスをするためである。
完全取得とまではいかないが《鍛冶》を上げている俺も、ボランティアさせられた。作業のような工程のメンテはあまり乗り気しないが、一部の武器だけは懇切丁寧に仕上げた。
俺たちが仕事を終えた時には、アイテムの買い出しもすでに終わっていたようだ。
「それで?」
「えっとねー、」
「あ、お前はいいや。」
「ひどっ!」
話をまったく聞いてなかった俺は、ミカヅキやユキノンに尋ねる。求めるのは簡潔で丁寧な情報である。いち早く口を開こうとしたユイユイは求めていない。
「スロータークエストの報酬が《聖剣》らしい。それで大騒ぎになっているらしい。」
「私たちが向かうのは別、過去にキリトたちが見つけたダンジョンということね。どっちが『本物』なのかしらね。」
穏やかじゃないな。スロータークエストとは指定されたモンスターを狩り続けるタイプのものだ。そんな方法で《聖剣》を手に入れるのはまちがっている。
つまり、まだ出発すらしていない俺たちが最もリードしている。
「ねぇ、このクエストから無事に帰ったら、けっ……」
あざとい弟子の顔面に拳を叩きこむ。その親友は慌てふためく。
「みんな、今日は急な呼び出しに応じてくれてありがとう!このお礼はいつか必ず、精神的に!……いっちょ頑張ろう!」
おー と俺は棒読みしておいた。他のメンバーも苦笑いである。
長い階段を降りた先は、雪と氷の世界《ヨツンヘイム》であった。
ウンディーネ3人によって凍結耐性がかけられていくと、薄着の猫2人も震えが治まる。
リーファの口笛とともに、像のようなクラゲのような、8つもの翼の生えた得体の知れないやつが来る。
「トンキーさん!」
ユイちゃんが名を呼んだ。一体だれがそんな名前をつけたんだろう。
「じゃあ、私たちも呼ぶわよ。」
ケットシー3人は、赤と白が特徴的なボールをそれぞれ取り出す。パカッと開いて、閃光とともに出たのは飛竜。このヨツンヘイムでは俺たちは飛ぶことができないから、借りてきたらしい。
考えごとをしていた俺にクッションが巻かれ、1頭が俺を咥え始める……?
横でクスクス笑っているやつに問いただす。そいつの飛竜にも相棒が咥えられていた。
「おい、これはどういうことだユキノン。」
「しょうがないじゃない。2人乗りなのだから。」
「そこはグウェンでいいだろう? おい、シノンを俺に渡せ。」
「か弱い女の子にそんなことさせるわけ? 嫌よ、お姉様はあたしのものよ。」
「エイト、ごめんなさい。」
「い、いや、大丈夫だ問題ない。」
彼女の心の底から申し訳ないという気持ちが伝わってきたので、諦めがついた。
うちのケットシーたちは運転が荒いのである。急降下するトンキーに合わせて、遅れまいと急降下する。襲ってくる風圧を耐えていると、急停止する。
「お兄ちゃん、下を見て!」
リーファの声がしたので、なんとか横目で下を見る。
羽化する前なのだろう、翼の無いトンキーに似たモンスターが虐殺されていた。数十人ものプレイヤーが《聖剣》を求めてやってきたのだ。さらに、敵対種族のような巨人モンスターが協力している。
「これって……」
「どういうこと?」
シノンとグウェンが前方の俺に尋ねてくる。
「これがスロータークエストなんだろうな。人型のやつが、動物型のやつを狩っているところに協力しているんだろう。」
俺の背中のほうから光りが発して、巨大な気配が現れる。
「私は、湖の女王《ウルズ》。我らが眷属と絆を結びし妖精たちよ。どうかこの国を、《霜の巨人族》の攻撃から救ってほしい。」
長々と喋っていたが、それが依頼だろう。
ちなみに、スロータークエストの報酬はやはり『偽物』らしい。
まさか《聖剣》を手に入れる冒険が、この世界を救うための戦いになるとはな。
……最後まで女神の姿は拝めなかった。
***
今回のメンバーは、キリトを中心に集まるメンバー7人と、俺たち《奉仕部》8人に分けられる。キリトたちのほうはまともな魔法職がいないことが大問題だろうが、なんとかするだろう、いやなんとかしろ。
ユイちゃんのアシストでマップデータやボスの数の把握は余裕だった。俺たちは一層目のサイクロプスっぽいのをサクッと倒した後、二手に分かれる。2層と3層のボスを倒すことで4層のボスの扉が開くのである。トンキーの仲間が絶滅する前にクリアという、時間制限ありのクエストだから仕方がない。
3層のボスは、長い下半身にムカデのように脚の付いた、蠍のような邪神である。長い槍の攻撃力は異常に高くて、俺とミカヅキは盾や剣で弾く度にHPが激減する。
ユキノンとマチに加えて、シルフのルクスやグウェンも回復役に徹している状況である。攻撃をできているのはシノンの《弓》と、ついでにユイユイの《拳》だけで、このままだと時間がかかるしMPも尽きる。
「いちかばちか、全力で倒す、とか?」
ミカヅキの発言に無言で頷く。
「作戦変更、『いのちだいじ』にから、『ガンガンいこうぜ』。」
ボスの槍が振り下ろされる。
ミカヅキは抜刀した瞬間に、ソードスキルを発動。
《ホロウ・シルエット》
《両手剣》のカウンター技で、槍を上に打ち上げる。
前衛に飛び込んできたマチが魔法で煙幕を張ると同時に、氷の弾丸を顔に浴びせる。時間はかかるが、2つの魔法を同時発動させる《並行詠唱》。
「「スイッチ!」」
「待ってました!行くわよルクス!」
「うん!」
《ラピッド・バイト》
《短剣》のソードスキルで、すれ違いざまに左右から斬りつける。
硬直の多いソードスキルなのだが、剣技の後に次の動作にあるのならもう一度ソードスキルを発動できる。それこそが《剣技連携》。
《ホリゾンタル・スクエア》
《トライ・シュート》
四角形を描くように片手剣で右肩を斬り、3本のクナイが勢いよく左肩に刺さる。
煙幕が晴れてきて、硬直している2人を狙ってゆっくりと槍を構えるが、
《レオパルド・ブリッツ》
《ソニック・インパルス》
《拳》の蹴りが顔面に入り、槍を持つ手に《細剣》の衝撃波が当たり、攻撃の中止を余儀なくされる。
腕や肩を中心に攻撃したため、
一定時間、《槍》を構えることができなくなっている。
ここからは俺のターンである。
《トレブルサイズ》
回転しつつ敵に突進し、右手の剣で切り裂く。硬直が俺を襲うが、さらにソードスキルを繋げる。
《シールドバッシュ》
左手の盾で前方へ打撃する。単発技だからこそ、繋ぎに使える。
《ダンシングヘルレイザー》
今度はその場で回転し切り裂く。
終了後、右手の剣は右肩に添えられていて、左手には袖から手裏剣を取りだして、
「ダメ押しだ」
《シングルシュート》と《リーバー》
手裏剣と剣の単発技。片手ずつでの同時発動は慣れ親しんだ剣技だからこそ、できる。
俺の《剣技連携》で、残りHPはあとわずか。
《弓》の奥義《ストライク・ノヴァ》の、一筋の流星がボスの眉間を的確に撃ち抜いた。
***
ラスボスはおっさんだった。
キリトたちが連れてきた美人さんが実はおっさんで、協力してくれたので余裕だった。
刀使いクラインは伝説級武器《雷槌ミョルニル》を手に入れた!
今はキリトが金色の《聖剣》を、某勇者の剣のごとく、引き抜こうとしているところである。
筋力値はミカヅキの方が高いだろうが、ブラッキーは頑なに譲らなかった。いやそもそも全員譲るつもりで来たわけなのだが。
筋力と、そして意志力で引き抜いた。
すっごい重そうである。重い剣が大好きな彼にとっては本望であるだろう。
……揺れてるんだけど。
「ダンジョンが崩壊します!パパ、脱出を!」
「って言われても階段が…」
まさかアジト崩壊ネタを使ってくるとは。
「なに、のんきなこと考えてるのよ。」
シノンが手綱を握る竜に直に咥えられてHPが減り始めるので、マイシスターが継続回復魔法をかけてくれる。
トンキーも来てくれたようだ。
しかし、キリトは動かない。重すぎる《聖剣》を抱えたままである。
筋力値が足りないこともあるが、まるで《聖剣の重さ》を感じているようで、
「キリトくん」「パパ」
愛する者の支えでようやく動き始めた。
「重いな……」
1人では何も背負えない。でも俺たちならば……
それが3つの仮想世界で学んだこと。
だから聖剣に誓う。
―――この繋がりを守る