やはり俺の現実逃避はまちがっている。 作:ソロ
新アインクラッド24層は湖にある小島から成り立っている。
その中で大樹のある比較的大きい島にわたしたちは降り立つ。どうやらアスナさんたちはまだ来ていないみたい。
種族はインプ。紫の長い髪のちょっと年下の少女は、笑顔で地に降り立つ。彼女こそが《絶剣》だろう。自然と、閉じた手に力が入っていた。
彼に頭を撫でられて緊張が和らぐ。
「楽しんできて。」「お義姉ちゃんファイト。」
「うん!」
2人からの激励も貰ったことだし、
「次、わたしがやります!」
「オッケー。君って同い歳くらいだよね!」
「そうみたい。」
「ルールは魔法もアイテムも使っていい。私は剣しか使わないけど。それで、空中戦と地上戦どっちがいい?」
「せっかく翅があるんだし、空中戦にしよっか。」
「いいよー!さ、やろうか。」
メニューを開き操作すると、《全損決着モード》の決闘申し込みウィンドウが出るので、承諾を押す。そこで、名前も確認できた。
カウントダウンが始まる。
翅を出し、’広い空中へ’飛ぶ。
海のように輝く片手剣をわたしが鞘から抜くと、黒曜石のように輝く片手剣を抜く。
「勝負だ、マチ!」「いくよ、ユウキ!」
カウントダウンがゼロになった瞬間、彼女が突進してくる。その『加速』は凄まじい。今のわたしには避けられない。でも、地上ほどスピードは出ていない。
《高速詠唱》で詠唱の多い魔法を唱え始める。
唱える途中で、わたしの肩に、突きが直撃し、HPはイエローゾーンに入る。もし《初撃決着モード》だったら、敗けていただろう。
補助魔法がわたしにかかったように見えるが、首を傾げていて何の効果かは理解していないようだ。わたしは’わざと’後退する。
《リフレックスブースト》
回避率に補正をかける補助魔法を使っておく。回避にほんのちょっとだけアシストがかかるくらいだけど、彼女の『反応速度』に対抗するには必要なものだ。
彼女の’得意な’突進をしかけてくる。きっとこの剣技で勝ってきたのだろう。
でも、もう『視た』。
予測した場所に剣を置くと、片手剣同士は打ちあい火花を散らす。
《ホリゾンタル》
単発技のソードスキルで、水平に斬るが後退することで躱される。
「へー、おもしろいね!」
剣士には間合いがある。
武器そのもののリーチもあるし、踏み込みで近づける距離
それが空中ならば、翅で『加速』するようなことは……できたみたいです。
なんとか避けることができた。
「防戦一方だよー、どうしたの?」
「本番はまだ、だよ。」
今度はこちらから向かいながら、
《オーバーランナー》と《スロウ》の、《並行詠唱》
こちらは速くなり、向こうは遅くなる。
補助魔法を使って、やっと互角に戦えるくらいなんだよね。
《剣》の師匠である彼のように単発技ソードスキルを混ぜながら、『静』の戦い方をする。ユウキは『反応速度』と本能で、『動』の戦い方をする。
最初に受けたダメージもあって、こちらがレッドゾーンに入ったのに、向こうはまだグリーン。
彼女のとどめの刺突を、わざと受ける。
HPが全損するかと思いきや、イエローゾーンまで回復する。
動揺したユウキに、剣を振り下ろすと、イエローゾーンに入った。
「卑怯だと思う?」
「ううん、そんなことない。魔法と剣を混ぜ合わせるのは良いと思うよ。ボクは剣ばっかり磨いてたからね!」
「そっか。でも、もうMPはほとんどないんだよね。補助魔法の効果もなくなっちゃった。」
―――残ったのはソードスキル1発分。
「じゃあ、ここからが…」
「「本番!」」
ユウキのほうが《剣技》を視せていることもあって、剣線を予測することで互角に戦える。
空を舞うわたしたちのHPは赤くなっていた。
片手剣を’両手’で握ると、青の光を纏う。
ユウキのほうは紫の光を纏う。
《フュリアス・ブレイカー》
既存の《両手剣》スキルをアレンジして作ったOSS。何度も視てきたから完成できた、わたしたちの剣技。剣を豪快に振り回す技で、連撃数を多くしたもの。
10連撃の剣技で立ち向かう。
しかし、ユウキのOSS《マザーズロザリオ》は11連撃。幻想的な剣技で、とどめの刺突を叩きこまれた。
拍手と歓声のなか、リメイクライト化したわたしを、ミカヅキさんが蘇生してくれて支えてくれる。
「いやー、楽しかったよ!」
「うん、そうだね!」
なんだかわたしたち、声が似ている気がする。
「それに、前に戦ったお兄さんじゃん! 今2人強い人を探しているんだけど、一緒に来てくれない?」
『心』の底から世界を楽しんでいることも似ているけど、まるで悔いのない生き方をしようとしていて……
SAOの《英雄》たちと似ていて、でも違っていて……
「うーん、俺じゃなくてあそこにいるウンディーネの女性連れていってみたらどうだ? ボス攻略の指揮上手かったりするぞ。」
「そうなんだ!」
ユウキは彼の指差した方向に猛ダッシュで向かっていき、アスナさんの手を握って引っ張ってくる。どういう状況か分かっていないアスナさんの空いている手を握る。
「ではでは、いきましょ~」「レッツゴー!」
「え?えーー!」
翅を出し、2人で引っ張って飛んでいく。
わたしたちは24層から一度出て、アインクラッドの外周部分を通って、最前線27層に向かっていく。先ほどまでの明るいのどかな層ではなく、地底世界のような暗くて幻想的な場所。
アスナさんの顔は次第に暗くなっていく。まるで嫌な思い出を思い出しているよう。
主街区の一軒の宿屋に降りる。
「お帰り、ユウキ!見つかったの?」
扉を勢いよく開けると、種族バラバラな5人の人たち。ジュン、テッチ、タルケン、ノリ、シウネー、個性あふれるメンバーが迎えてくれる。
「そしてボクが、いちおうギルド《スリーピング・ナイツ》リーダーのユウキ!」
「アスナです。えっと…」
「マチです!それで、何を手伝えばいいの?」
「そっか、ボクまだなーんにも説明してなかった!」
元気いっぱいなユウキは勢いに任せて行動することが多いんだろうね。みんな苦笑いしている。自己紹介を交えたあと、『依頼』の詳細を聞くことにする。
「ボク達、この層のボスモンスターを倒したいんだ!」
「私たちとお二人だけで。」
「「え? ええー!」」
新アインクラッドは過去のものより遥かに難易度が上がっているとのこと。20層を越えたあとから、それが顕著に表れている。21層攻略は『本気』か『真剣』だったから、わたし達2パーティーで攻略できたけど、それより少ないんだ。23層のときは男3人が『遊び』に行って、コテンパンに負けて帰ってきたこともあったっけ。
「8人っていうのはちょっと無理かなー」
「せめてもう1パーティーくらい…」
「25層と26層のボスにも挑戦したんだけど、ムリだったぜ。」
「そ、そっかぁ、『本気』、なんだね。」
一番落ち着いていて年上っぽいシウネーさんが頷いて口を開く。
「私たちは2年ほど前から、いろいろな世界に行って、いろいろな冒険してきました。でも、それももう’たぶん’次の春まで。『最期の旅』としてこの世界を選んだんです。」
「望むことはあと1つ、この世界に、ボクたちがいたという『証』を残すこと。」
「ボス戦に参加したら、黒鉄宮の《剣士の碑》に名前が刻まれるじゃんか?でも、その人数は限られる。そこにアタシたち全員の名を刻みたいんだ。」
お願いします と5人は頭を下げる。
「わたしはいいよ!なにせ傭兵ギルド《奉仕部》のメンバーだからね!」
「……やるだけ、やってみましょうか。この際、成功率とかは置いておいて。」
不安げだった彼女たちは立ち上がって、歓喜する。ユウキに至っては、わたしたちに向かって両手を広げて飛び込んでくる。何かを隠している彼女たちだけど、助けを心の底から求めているし、アスナさんの『道』が変わるきっかけになるかもだし。
―――アスナさんが突然ログアウトしてしまう。
たぶん現実の誰かが電源を抜いたんだろうね。
明日奈さんは、よわさとつよさを求めている。
かつての、わたしと詩乃ちゃんのように、焦っている。
そして、まるで現実逃避をしようとしていた、あの頃のお兄ちゃんのよう。