やはり俺の現実逃避はまちがっている。   作:ソロ

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マザーズロザリオ編第3話




第29話 勇気

夜空の下、たった独りの公園。

 

雪が降っていることよりも、あふれ出る涙が悔しくて。

親に逆らえない自分、そして彼に甘えられない自分が悔しくて。

 

「会いたいよぉ、《キリト》君。」

 

「よう、家出少女。」

 

降ってきていた雪が、傘で遮られる。

普段はどこかやる気のないような眼をしていて、今は優しい笑顔を見せるようになった、私の友達で、彼の親友の1人。

 

「《エイト》君、どうして?」

 

「携帯のGPS機能を使えって言われた。ああ、今からジャミングでもかけてみるか。」

 

なぜここにいるのか を聞いたんだけどな。たぶん小町ちゃんから聞いたんだろう。

 

たまに天然な反応を見せる彼に、クスっと小さく笑みが漏れる。顔を難しくして、携帯とは別の端末を取り出して操作している。いつもの顔に戻ったことで、終わったことが分かる。

 

「よし、行くぞ。」

 

「…どこに?」

 

「夜食と言えば、ラーメンだろう。」

 

「それ、身体に悪いんじゃ……」

 

「美味いからな。しょうがないだろうな。」

 

「そうなんだ。じゃあ、一緒に行ってみる。」

 

 

 

 

『24時間経営』という看板を出している小さなラーメン屋。

あっさりとした醤油ラーメンは、まるで彼らと食べた《醤油ラーメン》のようだった。

 

 

そのままバイクに乗せられ、千葉県の八幡君の家まで連れて行かれる。玄関を開けると3人が出迎えてくれる。

 

「八幡、おかえり。」

 

「「いらっしゃい、明日奈。(さん!)」」

 

「お、お邪魔します。」

 

ソファにゆっくりと座る。

通されたリビングは私の家より小さくて、温かった。

 

それは彼女たちが手に入れたモノ。

 

 

「あ、さっきは小町ちゃんいきなりごめんね?」

 

「全然気にしてませんよ~」

 

「そ、そう?」

 

「それにそれに、明日奈さんとは一度お泊まり会やってみたかったんですよ!」

 

現実世界で、

夜中にラーメンを食べて、誰かとテレビを見て、パジャマで恋バナをして、こんな楽しい夜更かしをしたことなんて、なかったな。

 

 

気づけば、久しぶりに気持ちの良い朝を迎えられた。

 

 

 

***

 

2つの頭と、4本の腕で4つのハンマーを持つ巨人。

 

その強さは破格で、偵察は完敗でした。

 

「いやー、敗けた敗けた~」

 

「反省会しましょうか。」

 

一度目のボス戦は偵察だった。みんな目標の難しさを再確認したけれども、冒険の楽しさを感じたことで敗けたのに笑顔。

 

しかし、わたしやアスナさんは違っていて、

 

「みんな、早く戻ろう!」

 

「どうして?」

 

「ボスの扉の前に3人いたよね?あれは大規模ギルドのメンバーだと思う。そして、戦っているときに『見られている』感じがあったと思う。あれは、私たちの戦い……ボスの攻撃パターンを視ていたんだろうね。闇魔法の《ピーピング》、いわゆる盗み見かな。」

 

「たぶん25層と26層でも視られていて、その後すぐに攻略されちゃったんじゃない?」

 

わたしたちの推理に驚愕したメンバーはがっくりと肩を落とす。次の層のボスに意識が切り替わっているみたい。

 

「でも、まだ間に合う。大規模なギルドでも、フルメンバーを集めるのは時間がかかると思う。それに情報はすでにある。」

 

アスナさんがわたしに視線を向けてきたので、頷く。

 

気づいたボスの情報を話し合い、わたしが解決策を提示し、アスナさんがそれを踏まえて各々の役割を決めていく。21層攻略のときの1度しか見たことはないけど、《閃光》の輝きを取り戻したように思える。

 

その凛とした《英雄》の姿は、わたしたちに勇気をくれる。

 

「どうして、そこまで?」

 

「みんなが頑張ってくれるから、私は頑張れる。」

 

そのときユウキに伝えた《アスナ》さんは、大人びた笑顔。

 

 

 

 

***

 

ボス部屋の前、立ちふさがる大規模ギルドの1パーティー。

 

でも、まだ集まっていないようだ。

そのパーティーリーダーらしき人に話しかける。

 

「ごめんなさい。わたしたちボスに挑戦したいの。そこを通してくれる?」

 

「悪いな、ここは閉鎖中だ。これから俺たちが挑戦するんだ。そうだな、1時間くらい待っていてくれ。文句なら、上に言ってくれや。」

 

「は~、そう言って、勝てる可能性のあるわたしたちを通したくないんだよね。」

 

「うん、そうだね。なら、戦おう。せっかく《剣》で意志を示せる世界なんだからね!」

 

「なっ……」

 

「ユウキ…」

 

今度はユウキがアスナに伝える。

 

「アスナ、ぶつからなきゃ分からないことだってあるよ。例えば自分がどれくらい『真剣』なのか、そして『本気』なのかということ。」

 

「そっか、そうなんだね。……うん、もういろいろ、吹っ切れた!」

 

アスナさんは、さっきまでの笑顔とまた違った笑顔だった。

 

 

 

 

わたしたちの気迫に、あちらのパーティーは後ずさりをする。そして、わたしたちの後ろを見て、ニヤリとした。たぶん残りの5パーティーが向かってきている。

 

これで、8人に対して、48人。

 

「ごめんね、2人とも。ボクの短気に巻き込んじゃって。でも、アスナの最高の笑顔が見れたから後悔はしていないよ。」

 

「まだ終わってないわよ、ユウキ。」

 

―――大好きな彼が駆けつけてくれるから。

 

 

―――速く、もっと速く、もっと先へ『加速』する!

 

漆黒の片手剣《エリュシデータ》を地に突き刺し、増援に立ちふさがる―――黒。

 

 

「な、なんだ、いつの間に?」「透明になっていたのか?」「肩のピクシーかわいい。」「あら、いい男。」

 

 

大規模ギルドのメンバーが騒然とするなか、《黒の剣士》は口を開く。

 

「悪いな、ここは通行止めだ。……それに、娘はやらん。」

 

「おいおい、黒ずくめ(ブラッキー)先生よ。幾らあんたでも、この人数は無理じゃね?……メイジ隊焼いてやんな!」

 

パチン!と指が鳴らされ、後方から7つの火の玉が彼に襲い掛かる。しかし、彼に当たる直前に霧散した。

 

「まったく動いてないぞ」「何をしたんだ?」「特別な装備か?」「そんなんチートや!」

 

 

「残念ながら、今は『本気』なんだよ。もし、退いてくれるのなら、どうともしないがな。」

 

もう1本の剣《聖剣エクスキャリバー》を背中から抜く。

《宝具》の輝き、《英雄》の気迫に、冷や汗をかき後ずさりしていく。

 

 

 

 

さらに、先遣隊のパーティー8人が急に倒れる。手裏剣や矢が刺さっていて、おそらく麻痺毒が塗られているのだろう。まばたきすると、突然現れて1人の背中に腰掛ける、髑髏の仮面のプレイヤー。

 

「エイト ダウン~」

 

「どうなってんだよ、一体。」

 

伸ばしたような声を発するニンジャの登場に、ギルドリーダーは頭を抱える。悲鳴が聞こえ始めた方向を見れば、漆黒の騎士がメンバーを長い《根》で薙ぎ払い、吹き飛ばしている。さらに後方には弓を構える射手がいて、凄まじいほどの距離から矢を《曲射》したことを理解する。

 

―――彼らは誰1人として《殺して》いない。

 

 

 

アスナさんは、大切な彼のもとへ向かう。

 

「キリト君。来てくれて、ありがとう。」

 

「いや、俺の方こそ、ごめん……。あいつらに殴られるまで、アスナが苦しんでいることに気づけなかった。」

 

「ううん、いいの。私もちゃんと伝えればよかった。」

 

「そうか。これから、明日奈ともっと向き合うよ。『言葉』で言われなくても、甘えさせてやる。」

 

「もちろん、私もですよ、ママ。」

 

「だから、その、俺ももっと甘えさせてくれ。」

 

「うん、うん!」

 

互いに甘えられる『よわさ』を見せ合う。

それも『本物』の繋がりをもっと硬くする。

 

 

 

「じゃ、キリトさん交代です。」

 

「ああ、ミカヅキにも、重ねてお礼を言っておいてくれ。」

 

「了解なのです。ではでは~」

 

中距離転移魔法で、大切な彼のもとへ向かう。

 

 

 

「なにがなにやら…」

 

ジュンたちの呆然とした声が印象的だった。

 

ユウキの頬はどこか赤くて、キリトさんの背中を見ていた。

 

 

 

 

 

***

 

夕暮れ時に、家の前に立つ。

震える手を彼は握ってくれる。

 

私の手はいっぱい汗をかいていて、

彼の手もいっぱい汗をかいていた。

 

それでも、

ユウキから、みんなから『勇気』を受け取ってきた。

 

そして、

彼が隣にいるとどんどん『勇気』が湧いてくる。

 

 

「明日奈!今までどこへ行っていた、の……」

 

扉を’勢いよく’開けた母さんは、隣にいる彼に視線をゆっくり向ける。

 

「はじめまして。桐ヶ谷和人って言います。明日奈さんとは、以前よりお付き合いさせてもらっております。」

 

「そう。……以前、ね。」

 

「母さん、聞いて。……私ね、大切な人たちを笑顔にできるような、そんな生き方をしてみたい。仕事で疲れた彼をいつでも支えてあげられるような、そんな生き方をしてみたい。―――だからね、あの学校で、あの《世界》で、もっともっといろんな経験をしてみたい。」

 

「はぁー、あなた、ワガママになったわね。……こうして、親離れしていくのね。

 

「俺も覚悟を決めます。もちろん、まだ俺たちは学生の身分です。今までもこれからも『未来への不安』でいっぱいです。―――だから、俺たちを見守ってください。」

 

 

母さんの表情が和らぎ、私たちからちょっとだけ目線を外して、

 

 

「あなたたちの『決意』、どうか忘れないでちょうだいね。……その、明日奈をこれからもよろしく。

 

握った手に力が入り、彼と喜びを伝えあう。

 

 

「そ、そうそう!今ちょうど、夫と浩一郎が帰ってきているのよ。和人君ちょっと会っていきなさい。あっ、お赤飯炊かなきゃね。」

 

―――お義母さんは、なんだか彼女と似ている気がした。

 

ここからが正念場、かなぁ。

 

 

 

 

 




次回、マザーズロザリオ編完結。
ユウキの運命はいかに。



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