やはり俺の現実逃避はまちがっている。   作:ソロ

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マザーズロザリオ編最終話

オーディナル・スケール編執筆中。



第30話 先へ繋がる道

雪ノ下さんと由比ヶ浜さんが、俺たちの考察をもとに病院を調べてくれた。鶴咲さんと柏坂さんがアポイントを直接病院に出向いて、代わりに彼女の主治医を説得して取ってくれた。

 

この日が彼女にとって大事な転換期だろうから、俺たち奉仕部は全力を尽くす。

 

「こっちでははじめましてだな、紺野さん。」

「やっはろー!さっきぶり!」

 

『もしかして、マチと……ミカヅキ?』

 

「そう。」

「そうだよ。」

 

『ここにいるっていうことは、ボクの、ボクたちのことを……』

 

「現実逃避しようとした君を、あの《世界》に連れ戻しに来ただけかな。」

 

『……もう満足なんだよ。みんなと、『証』を残せたから』

 

「俺も、」

 

ユウキの言葉を遮って、伝える。

 

「俺も、『証』を探そうとしたことがある。ここにいる『証明』をいつも探していた。それは今、俺の右にいる。」

 

『マチが?』

 

「ああ。願いを叶えられて、満足するかと思いきや、次々に願いがあふれ出る。もっと、近づきたい、ずっと一緒に生きていたいって。ユウキもそうだろ。」

 

『でも、……旅はいつか終わるよ。』

 

「そうだな。だからこそ。かけがえのない今を、大切にしたいと思うんじゃないか? 」

 

『でも、でも、もう時間がボクには……』

 

「ユウキ、もっと(みらい)へ行きたくはないか? だから願え、『もっと生きたい』って!」

 

『…うん、願ってみる。もっと、生きたい。……すぐにログインするよ!』

 

 

迷っている時間が惜しい。

 

残された時間を大切にしよう。

何倍にも感じられる時間にしよう。

 

 

あがいて、最期まで笑顔で『生きる』。

 

 

 

 

あのメンバーで冒険して、たくさんの思い出を作ってきた。

 

 

そして、

マチとシノンたちと出かけて、ショッピングをした。

ミカヅキと一緒に、ラーメンを食べた。

アスナと学校に行って、一緒に平塚先生の国語を受けた。

キリトと決闘して、『本気』の剣を見せてもらえた。

 

女子だけで京都に旅行に行って、現実でも冒険をした。

 

 

全てが、夢のような時間が、過ぎていく。

でも、もっといろんな旅をしてみたい。

 

 

 

 

「というわけで、一緒にチョコ作ろう、エイト!」

 

手を合わせて懇願するように、俺に頼んでくる。

その仕草はあざといとは思えない。にしても、声や笑顔がマイシスターに似ているよな。こっちは打算的ではないのだが。

 

「まてまて、なぜ俺を選んだ? そこはアスナやミカヅキもしくは他の女子だろう。」

 

「それはサプライズで、感謝の気持ちをみんなにあげたいから。」

 

首をちょこんと傾ける。まるでそれが当たり前のよう、いや、そうしたいという考えである。彼女の事情は知っていなかったとしても、純粋な懇願を渋るとはいえ断ることはないだろう。

 

 

だがしかし、

 

「俺、《調理》スキル0なんだけど?」

 

「うっそー、今どきの男子って家庭的な人が多いんじゃないの?」

 

儚くもそれは幻想である。

現実世界ではたしかに自炊できる程度の能力が俺やキリトにもある。しかし基本的に自分よりはるかに上手で、愛情を籠めてくれる彼女や妹がいるのだ。こんな好待遇で、自炊しようなどと思わない。結論、《調理》スキルは取っていないし、お菓子作りなどしたことはない。

 

泣きそうなユウキに対して、焦りながら言う。

 

「だ、だが、バレンタインデーイベのときは、女子は《料理》スキルにボーナスが入るはずだ。」

 

2月14日バレンタインデーに向けて、ALOでもイベントがある。当日に結婚相手かフレンドの女子からチョコを貰ったプレイヤーは経験値を得るという簡単なもの。この仮想現実でも、男子は気が張った状態である。現実世界では先日、これまた生徒会長一色のおかげで、お料理教室の雑用をさせられたのだが、その話は関係ないか。

 

「おお!それならボクでもなんとかなるかも!」

 

俺たちは買い出しに出かけた……

 

 

だがしかし、

スキル値が1000のうち100だったとしても、ユウキの満足したものはできなかった。この世界の《料理》は単純化されている。例えば、チョコを刻むときも《包丁》でタッチするだけでいい。湯煎するときも、鍋に入れてタイマーを設定するだけでいい。仮想現実では《料理》スキルこそがほぼ全てを左右するのである。現実で炭を作るやつもいるがな。

 

 

形の崩れた黒い《なにか》を前に立ち尽くしている。落ち込む彼女の姿には既視感があって、しかしあの頃と同じ台詞は、今の俺には言えないだろう。

 

プレゼントを口に放り込みながら、伝える。

 

 

 

 

 

 

***

 

エイトの言う通り、みんな笑顔だった。美味しくないチョコを食べて、『ありがとう』って言ってくれた。『ありがとう』の気持ちを『ありがとう』で返されて、心地よかった。

 

「それで、今からどうしよっか。」

 

最後に渡したアスナも同じで『ありがとう』をくれた。アスナのチョコは誰よりも美味しくて、誰よりも優しさが詰まっていた。本当に良い笑顔をするようになったよね。

 

「うーん、そうだ! 今からデートしよ、アスナ!」

 

「ええ!?」

 

 

明日奈と、待ち合わせをする。

といっても、和人たちが作った、なんとかというメカのカメラ越しにで彼女の肩から現実世界を部屋からボクは見ているだけだけどね。

 

黒い上着に黒いズボンで黒い髪の少年がバイクを停める。

 

「ごめん、明日奈、木綿季。遅くなった。」

 

『「ううん、今来たとこ。」』

 

一度言ってみたかった言葉は、明日奈と同時に言ってしまい、笑顔を向け合う。

 

『それじゃあ、和人お願い!』

 

「ああ、音の調節は忘れるなよ。」

 

私と明日奈は彼の後ろに乗り込み、発進する。

 

流れていく街並みは、あの頃、車窓から見たものに似ていた。

次第に馴染み深い場所へ近づいていく。

 

辿り着いたのは、『おうち』。

 

「ここが、木綿季の…」

 

『うん…もう一度見られるとは思わなかったよ。』

 

白い壁の建物も、緑色の屋根は変わっていなかった。

 

庭は、ちょっと雑草が多いかな。晴れているのに、雨戸なんか閉めちゃって。ポストにもたくさんお手紙があるよ。

 

たった1年の思い出は宝物だよ。

 

―――ねぇ、パパ、ママ、姉ちゃん

 

 

 

「……入ってみるか?」

 

「ううん、これで充分。」

 

明日奈も和人も『なんとかしようか』って、声をかけてくれるかもね。

 

「今の私の『場所』はここじゃないから。」

 

気難しい顔はなくなって、優しく頷いてくれる。

 

「管理費なら、パパの遺産で10年くらいは出せるんだけどね。親戚の人が家をどうするかですでに揉めてるみたい。たぶん、もう取り壊されちゃうかな。だから、その前に……ね。」

 

「じゃあ……こうすればいいと思うよ。来年、16になったら、好きな人と結婚するの。そうすれば、その人がずっとこの家を守ってくれるよ。」

 

人によっては怒るかもしれないね。でも、明日奈の気遣いがボクには嬉しかった。

 

「それいいね。明日奈。じゃあさ、―――2人ともボクと結婚しない?」

 

大好きな2人のギョっとする顔を見て、最高の笑顔が漏れる。

 

「なーんて冗談。ボクが入る余地がないくらい、相思相愛なのは知ってるよ。でもね、好きになっちゃったんだ。明日奈の優しさと和人のカッコよさを……」

 

「「木綿季、『家』を守るよ。いつか一緒に暮らそう。」」

 

ボクは顔を上げる。2人とも真っすぐな眼差しだった。

 

―――『本気』なんだ

 

「それに、妹だってできるよ。」

 

「ああ、ユイも慕ってくれるだろう。」

 

ユイちゃんと、この2人と家族に……

 

 

「じゃあさ、ボクね、弟も欲しいや!」

 

もしかしたら、その弟と結婚したり……ね。

 

大好きな2人の子どもなら、大好きになれると思う。

 

 

 

 

 

***

 

今、この《世界》で生きている千を超える妖精が大樹の元へ集まる。

 

たった1人の剣士の旅立ちを見守る。

 

「うわぁ…すごい…妖精たちが…あんなに、たくさん…」

 

 

一緒に冒険した友たちには、《旅》の『思い出』を託した。

 

出会いをくれた親友には、《剣》の『証』を託す。

大好きな女性には、《剣技》の『証』を託す。

大好きな男性には、《リボン》の『証』を託す。

 

 

―――みんなにシルシを

 

 

 

 

ずっと『生きる』意味を探していた。

でもその『答え』を探すのはまちがっていた。

 

ずっと『生きる』ことを頑張ってきた。

でももっと『旅』を続けていたかった。

 

一度色を失った、ボクの『ユメセカイ』は少しずつ鮮やかに彩ってきた。

 

 

 

涙、

大好きな人たちを遮る前に、

 

「「「「「ありがとう」」」」」

 

想う『心意』は―――またいつか

 

 

 

 

***

 

 

 

春。

 

大好きな彼と手を繋いで、(いま)を歩む。

 

突然、私たちの『心』に声が響き、ふと立ち止まる。

 

 

―――ほら!行くよ、勇気!

 

―――走ってこけるなよ!木綿季!

 

少年が、少女を走って追いかける光景(みらい)

少年は、どこか私に似ていてどこか彼に似ていた。

 

 

「和人君、いこ。」

 

 

たくさんの温かい(おもい)が、

一際輝く桜の花弁を、遠い空へ運んで行った。

 

 

彼女の旅の先(みらい)は、

この桜の道の先(みらい)は、

 

―――いつか交じわる

 

そっと光ってる

 

 

 

 

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