やはり俺の現実逃避はまちがっている。   作:ソロ

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第33話 加速世界

もうすぐ21時。

虫の声が静かな夜の公園。

 

月は、曇っていて見えないか。

 

 

起動させたあと、唯一見つけた知り合いに話しかける。

 

 

「こんばんは、明日奈1人か?」

 

「あっ、こんばんは。伊月君。今日は小町ちゃんは?」

 

「いつもよりちょっと暗いし、俺1人で来た。」

 

「そうなんだ。」

 

そして、《世界》が広がる。

 

―――既視感のある石畳の西洋的なフィールド。

 

現れたモンスターは、巨大なグリフォン。

 

「みんな、準備はいいー?さあ、戦闘開始だよ、ミュージック、スタート!」

 

この前と違って、暗めな歌。

 

 

「アスナ、俺らだけでいけるか?」

 

「無理ね。10分じゃ足りないわ。」

 

「なるほど。じゃあ、時間稼ぎしてくる!」

 

現実世界では明らかに届かない位置までグリフォンは飛行する。立ち止まるプレイヤーたちを置いて、1人立ち向かっていく。

 

まず巨体に投剣で攻撃して、タゲを取った。

 

 

3分ほど斬り合ったところで、

《爪》の《剣技》を両手剣で防ぎ、動きを止める。

 

「撃って!」

 

明日奈の指示で《銃》の連撃が羽に当たる。

グリフォンは一定時間飛べなくなる。

 

「今よ!」

 

近距離武器を持つ人たちが、拙い動きだけど、斬っていく。

 

「「「スイッチ!」」」

 

俺が彼らの前へ躍り出て、アバランシュで片方の羽を、斬り飛ばす。HPが少なくなったグリフォンは片翼で空を駆け始める。しかし、その行動は既視感のあるもので、

 

 

明日奈のリニアーで、ボスを貫いた。

 

―――ファンファーレが鳴る。

 

「よっしゃー!」「あの美少女すげぇ!」「プロか?」「指示通りだな!」「彼氏とかいるのかな。」「モテモテなんだろうよ。」

 

 

「またあなたね。おめでとー」

 

明日奈は《ユナ》のキスから、後退して逃げた。

 

「あら、残念。……またね、《アスナ》さん。」

 

もったいない という声があちこちから聞こえる中、俺は『視線』と『殺気』を探していた。

 

 

俺は明日奈に別れを告げ、1人追いかける。

 

―――救急車の音が響いていた。

 

 

 

 

繁華街で急に立ち止まる。

そいつと同じく大テレビを見上げる。

 

 

『『MMOストリーム!』』

 

『最近話題のARゲーム《オーディナル・スケール》でニュースです。なんでも、イベントバトルであの《ソードアート・オンライン》の旧アインクラッドのボスが出現しているとのことですが……』

 

『ボス戦ではかなりのポイントを獲得することができるみたいですね。しかも!高確率でユナのライブステージも組み込まれているとか……はー、私もランクを上げて通信費を稼ぎたい!』

 

『まあまあ……それに、先月出版された《SAO記録全集》の影響もあってか、封印されたゲー《ソードアート・オンライン》を追体験しようという人たちがたくさんいる模様です。ALOやGGOといった主だったVRMMORPGのログイン数は減少しているようです。』

 

 

「お前、この状況について何か知っているのか?」

 

「場所を変えませんかねぇ?」

 

黒いフード付きポンチョの、細身のやつに連れられて、いやおびき出されたのは水嵩のある川の近く。

 

「さっき、見てましたよー。いや、さすが《閃光》! ああ、《オタサーの姫》、あの頃よりも美人になってましたねぇ。」

 

俺の様子を伺った後、

ずっと手に持っていた見覚えのある本を開く。

 

「『俺が2本目の剣を抜いたら立っていられるものはいない。』、そういえば《黒の剣士》はいなかったですね~。ところで、あなたはどのページなんです?」

 

俺と明日奈が知り合い以上の関係だということを見ていたんだろう。

 

 

「200ページ目、《狂戦士》。」

 

「は?マジっすか。いやーそれは、大物だねぇ!……えーと、『俺1人でやる。お前らは下がってろ。』ですか。そんな優しそうなイケメンフェイスで、実はさぞ傍若無人なんでしょうねぇ。例えば、毎晩女をおかったりとかね!」

 

「さあな。」

 

「そういえば、風林火山のメンバーにぃ、悪いやつらが寄っていってましたね。無事だといいんですけどぉ。」

 

―――敵の狙いに乗るな

 

地面に落とし、本を踏みつける。

 

―――今は落ち着け、俺

 

 

「おまえ、なんで怒らないだよ!!怒れよ!」

 

「キャラ、崩れてるぞ?」

 

「ムカつく!お前ほんとムカつく!」

 

唾を吐き散らしながら、憤りを見せる。

 

 

俺は白い筒をポケットから出す。

 

「ひっ、ま、待ってくださいよぉ!自分らみたいな凡人とマジで戦う気ですかぁ!?」

 

「このままだと、答えてくれないみたいだからな。」

 

「「オーディナル・スケール起動」」

 

「せめて仮想世界なら、いや……」

 

 

 

ドサッ

 

リュックを降ろすと、重そうな音がする。

 

「招待しよう『加速世界』になぁ!」

 

 

風が消え、音がなくなり、現実の色が消える。

 

現れたのは、何もない無機質な灰色、いや無色な空間。

 

色を持つのは俺たちだけ。《ポンチョ》を纏い、脆そうな片手剣を持つやつと、聖剣を腰に差した漆黒の《鎧》を纏う俺。

 

「主武装にしたらどうだ?『本気』じゃないから、剣が崩れそうだぞ。」

 

「おや、動じないんですねぇー?」

 

「ちょっとした『チート』使ってるからな。」

 

「はぁー?まあいいや。」

 

血に塗れた片手斧を創り出す。

 

「It’s show time.」

 

《バックラー》から飛び出す針を、身体を反らして、躱す。

 

《片手斧》の連撃を後退して、躱す。

 

続けて出してきた突進技を、を広げて、躱す。

 

 

「ソードスキルの硬直がないのか、なんでもありだな。まさに『本気』で戦える《世界》だな。」

 

水色の翅を一度消して、考察を述べる。

意志や記憶を具現化させることのでき、『心』をぶつけ合う世界。

 

 

その『心』は、

光であっても闇であってもいい。

正であっても負であってもいい。

 

―――この無色な世界に色をつけていく

 

 

「いやー、呑み込みのはやいことはやいこと。無駄のない動き、ソードスキルの見切り、そして順応力!! さらにさらに!『加速世界』で動ける天然ものの『実力』! さすがは《英雄》サマだ。」

 

こいつは何かしら脳に埋め込んでいるのだろうか。

それは必ずしも安全ではない、脳に負担がかかるだろう。

 

 

剣の柄に手をかけて、

 

―――抜刀(しんい)

 

が斬り裂き、右腕を吹き飛ばす。

 

「はやく降参してくれ。」

 

 

血は流れない。

顔をひどく歪め、しゃがみこむ。表示されているHPはイエローゾーンに入った。そしてペインアブソーバーがないのだろう、《痛み》を感じていて、そして、

 

嗤っている。

 

「くそっ!くそっ!あーもう、いいもん。《閃光》も《黒の剣士》も全部全部殺してやるぅー。」

 

―――冷静を保て

 

「お前の、親もな!」

 

頭に血がのぼる

―――抑えられない

 

「アハッ、そういうことかぁー。逆鱗み~~~っけ♡」

 

 

グサッ

 

 

を、負の『心意』を籠めて、抜刀するはずだった……

 

目の前とほとんど同じ殺気を背後から感じた時には、

俺の胸から片手剣が生えていた。

 

 

 

ドボン

 

水に落ちた感覚。

朦朧とした意識。

 

 

頭の中を覗かれる感覚。

 

剣を握った日。親友と出会った日。死を感じた日。友を死なせた日。道が分かれた日。狂い始めた日。相棒を救った日。ラーメンを食べた日。本物を見れた日。世界の終焉の日。

 

戦いの記憶も、休息の日常も、霧となって消えていく。

 

 

 

彼女と出会った日も、彼女を泣かせた日も、彼女と愛を誓った日さえも。

 

―――泡沫のモノ

 

 

大切な人たちとの繋がりが、次第に途切れていって。

 

月村伊月(はづき)を、否定せず受け入れくれた父さんと母さんの姿も見えなくなって。

 

 

思い出せなかった原作さえも奪われそうだ。

 

 

 

朽ちていく『証明』

俺がどこにいるのか分からなくなって。

 

真っ暗な世界で、独りになってしまって。

 

 

それでも、どうしてか、《生きる》ことを諦められない。

 

 

もがいて、あがいて、たった1つの(こころ)に向かっていく。

 

ようやく、土の感触がした。

 

 

失くしそうな光に、手を伸ばして、

誰かの温もりが消えないように、手のひらに(しんい)を籠めて、

 

―――握れた

 

 

 

 

まぶしい。

 

 

白い天井、薬品の臭いに顔をしかめる。

 

しかし、

俺は確かに轢かれたはずなのに、ケガはない。

 

 

ここはどこ、なぜ千葉県にいる?

未来なのか、なぜ2025年なんだ?

 

月村伊月って誰だ?

 

―――俺は月村葉月なんだが。

 

 

 

 

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