やはり俺の現実逃避はまちがっている。 作:ソロ
真っ暗で最低な場所で仮眠をしていた俺は目を覚ます。
犯罪者プレイヤーにとって世間の風は冷たい。
そして、フィールドでもモンスターに襲われる。
自然とため息が出た。
あくびではないことに、虚無感を覚えた。
俺は今日も’仮面’を被る。
***
ボッチであるはずの俺がある集団に属している。
レッドギルド《ラフィン・コフィン》
この《世界》で’唯一’の殺人ギルドである。
殺人といっても、依頼を受けて動く奴と、快楽で動く奴がいる。
前者は、オレンジプレイヤーに復讐してほしいという依頼を受けるものだ。《殺し屋》といっていいだろうか。
偽善者の多い集団で俺は好かない。作成者なんだけども。
後者は、PvPを求めているやつらだ。
しかし、この世界においては、ただの《殺人鬼》である。罠を張り、殺人方法を編み出し、殺しを楽しむ集団だ。
いや、ほんと、まじで近づきたくない。
俺以外の幹部が快楽殺人派に所属していることに対して、ボスがなんだかんだ依頼派に力を貸しているのが、少しは救いだ。
そして、
俺がこの最悪な《場所》にいる理由が、《ラフィン・コフィン》を守ることだ。
攻略が進むにつれて、プレイヤーは極端に分かれた。
クリアを目指して《生きる》やつと、還ることを諦めたやつだ。
この《世界》には法がない。裁判がない。警察がいない。結果として、犯罪者プレイヤーが増え始めた。
この世界での犯罪が罪ではないと言っていて、
この世界がゲームなのだと認識している連中だ。
犯罪者ギルドの増加は中層プレイヤーに恐怖を与えた。
・・・攻略組を目指したプレイヤーの数を減らすこととなった。
多くの犯罪者ギルドができる無法地帯となった。
そんなとき、犯罪者ギルドの中でも《ラフィン・コフィン》が最大の犯罪者ギルドとなった。
'唯一’のレッドギルドとして、今も君臨している。
犯罪者を集めるためのギルドとして、俺は利用している。快楽殺人派の中で勝手に動く奴を《異端者》として処刑するような動きを、俺は作った。
・・・直接的にも間接的にも俺は手を汚した。
認めたくも考えたくもないが、殺しに秩序を与える’道’を選んだ。
狂っているって、人殺しって、罵るだろう。
それでも、
この《世界》が終われば、そんな秩序は《現実》に飲みこまれるはずだ。
俺は、この残酷な《世界》を終わらせるために、1人で《生きている》。
「・・・茅場ァ」
声が漏れた。
誰かにこのモヤモヤをぶつけたくなっただけだ。
俺は、お人好しにメッセージを打つ。
***
最大のレッドギルドといっても、100人を超えるわけではない。
《殺人鬼》が100人って世紀末かよ。
現在アジトにしている場所は、霧が深く意外とモンスターも少ない。
リーダーのプーさんって何者だよ。
こんな隠れ家見つけたり、何十人もの《殺人鬼》を纏めたりするのだ。さらにシステムの穴をついた殺人方法を次々と編み出す。
快楽殺人のためでもない、殺し屋のためでもない、《ラフィン・コフィン》の結成理由は彼しか知らない。
どこかの魔王みたいに、人を惹きつける奴であり、本心を見せない奴だ。今もフードの下でニヤニヤしている。
その姿を見て、俺の癖を治そうと思った。
「ショーグンさん。定例会議が始まりますよ。」
「・・・ふむ。」
依頼派の奴が話しかけてきた。
名前も知らないけど、復讐のために入ったって、言っていた奴だ。
俺は身に着けている仮面を被りなおす。
「諸君、今日は祭りの日だ。攻略組にいるスパイからの情報によると、俺たちの討伐作戦は実行してくれたらしい。しかし、攻略組は高レベルプレイヤーだ。だが憶することはない。我ら幹部がついている。地形と、麻痺毒を駆使すれば勝てる。奴らを返り討ちにしよう!」
「It's show time.」
「おお!」「夜戦だ夜戦だーッ!」「ヒャッハー!」「女も来るぜぇ!」
・・・騒いじゃって。
そんなんじゃ、場所がバレるぞ?
攻略組による《ラフィン・コフィン》攻略が始まった。
***
霧が’タイミングよく’消え、乱戦状態となる。
すでに囲まれていた。
奇襲しようと思っていたら、逆に奇襲されたわけだ。
多くの《殺人鬼》が麻痺毒に倒れた。
えぇ……自分で使う武器の対策をしていないのかよ。
俺は曲刀《災禍剣デモリッシュドゥーム》を肩に担いだのち、突進する。
曲刀ソードスキル単発技《リーバー》。
プーさんには《友切包丁》で逸らされる。
「Ohー、結構おもしれぇじゃねぇか」
「・・・余裕そうに見えるが?」
本当に底が見えない。
《ラフィン・コフィン》も、こいつも、そして俺も、
命の危機なのに、どうして平然としていられる。
「Let’s Dance.」
「……ダンスは苦手だな。」
流暢な英語にそう返す。
体育の授業で必修化されたダンスのトラウマが蘇った。
隙の多いソードスキルはお互い知り尽くしている。
だから使わない。
今まで培ってきた経験で、互いに剣を振る。
俺の剣技はすべて逸らされ、
包丁が俺の身体に掠り、’痛み’を感じさせる。
この短時間で、経験の差を感じさせられた。
「つまらんな。これなら《黒の剣士》の所に行くんだったぜ。」
「…あいつも普通の日本人だぞ。」
PoHはSAOにログインする前から’戦い’をしてきたのだろう。その殺気はこの《世界》の誰よりも鋭く濃いものだった。
俺はその殺気の中で焦ってしまったのだろう。
ソードスキルを使ってしまう。
曲刀ソードスキル奥義《レギオン・デストロイヤー》
計8連撃の強力な一撃だが、すべて避けられる。
さらには側面から振り下ろされた包丁に、『剣』が両断される。
ポリゴンの粒子を見ながら、
いまだ剣を打ち合う音を聞きながら、
興味を失った顔を見ながら、
俺は意識を失った。
***
夢を見た。
あの『本物』と思えそうだった場所での日常。
1つの長机を囲む日々。
雪ノ下と由比ヶ浜に軽口を叩き合い、依頼を受けてきた『奉仕部』を。
そこには、’あいつ’の姿はないけれど、
それでもたまに、原稿を持ってきた。
なにかのパクりで、読みづらくて、面白くなくて。イラスト設定だとか、プロットだけを持ってくることもあった。
それでも、俺は、熱意が籠っていて、嫌いではなかった。
***
まだ暗い草原で、俺は目を覚ます。
傷だらけの全身鎧を身に着けた《狂戦士》。
珍しく兜を脱いだ彼は、
とても穏やかな顔をしていた。
「・・・勝てなかった。何度もあいつの『剣』を’視’てきたのに。あいつの殺気に慣れていたはずなのに。」
「最後まであいつのことが、分からなかった。手も足も出なかった。足掻くことすら、できなかった。」
「そうか。」
一言だけ、月村はそう言った。
その表情に俺は苛立つ。
「なんでだよ。お前はあいつが憎くないのかよ。あいつは材木座を殺したやつと同じレッドプレイヤーだぞ。・・・材木座を殺したやつなのかもしれないんだぞ。」
秩序を守るためだとか屁理屈を言っていたけど、やはり俺はいつも自分のために動く。
この《世界》の《殺人者》をすべて駆逐してやりたかった。そうすれば、材木座のように、殺されてきた中層プレイヤーが浮かばれるって思った。
でも、
何度も、何度も、月村には止められた。
剣を打ち合った。
その想いが、俺には分からない。
俺はよく観察力があるとか言われるし、自負している。
相手の考えていることを読むのが得意だ。
そうやってボッチとして生きてきた。
・・・それでも、俺は、人の感情が、分からない。
だから、2人の女の子を俺は泣かせてしまった。
俺はずっと過去に囚われてきた。
そして、この《世界》に、逃避した。
「八幡が生きていることが、俺は嬉しかった。」
その言葉に俺は顔を上げる。
「必死になって犯罪者プレイヤーを牢獄に送ってきたことも、いのちを捨てるような攻略をしてきたことも。自分の大切な相棒を守りたかったからだって気づいた。そういえば、義輝は相棒って、よく呼んでくれたよな。」
あの頃のような笑顔でそう言った。
材木座のことを懐かしむような顔を見せた。
俺は、
材木座が殺されたときは、心の底から泣いた。
今まで、怒りを糧に生きてきた。
そういえば、俺が『生きている』ことで、喜んでくれる2人のお人好しがいたな。
1人は、心の底からの喜びという感情を、目の前で向けてくれる。
俺は、人から向けられる感情を、ずっと怖がっていた。
俺は、材木座の気持ちからまでも、逃避していた。
(たとえ、君が痛みに慣れているのだとしてもだ。君が傷つくのを見て、痛ましく思う人間もいることにそろそろ気づくべきだ、君は )
平塚先生から言われたことがある。
考える。
俺が、材木座の立場だったのなら・・・
俺が、それが偽善であっても、材木座の幸せを、考えるのなら・・・
「伊月、墓参りって、何持って行けばいいと思う?」
「うーん。義輝が書けなかった分、この『世界』のことでも書いてみるか?」
ああ、いいな、それ。
俺はメニュー画面を開き、メモを出す。
シンプルに、
《SAO記録全集》
~やはり俺たちの現実逃避はまちがっている。~
はじまりは、、、
そこで文字が打つのが止まる。
「まだ見ぬ層についても、書かないといけないよな。」
一度、筆を置いた。
'相棒'は頷いてくれた。
この《世界》は残酷だけど、美しい。
どこまでもパクりの多い小説家だったな。
この《世界》の終焉を、見せてやりたい。
誰もが過去に囚われている。
どんなに先に進んだつもりでも、ふと見上げればありし日のできごとが星の光の如く、降り注いでくる。笑い飛ばすことも消し去ることもできず、ただずっと心の片隅に持ち続け、ふとした瞬間に蘇る。
それでも・・・
「夜明け、だな。」