やはり俺の現実逃避はまちがっている。   作:ソロ

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第34話 そうして、3人は前へ進む 

 

 

倉橋という医者の話を、俺は食い入るように聞く。

 

―――相棒のもとへ歩きながら

 

静かな病院の廊下には、

小町の嗚咽が響いている。詩乃は妹を慰めてくれている。

 

 

「詳しいことはデータを精査してみないとなんとも言えませんが、伊月君の脳には限定的な記憶スキャニングが行われた形跡があります。これは、他の患者さんの症状を参考にしますが、SAO時代の記憶を強く想起させることによって、記憶のキーとなっている単一ニューロンを特定し、そこに電子パルスを集中させて、イメージを読み取ったのではないかと。そして、伊月君は川へ落ちたショックもあるのか、症状が……」

 

「どこまで憶えてる?」

 

「日常生活に支障はない程度ですが……しかし、覚悟はしておいてください。」

 

 

病室のドアを開けば、身体を起こしたままの彼がいた。

外傷はないことには安心したが…

 

「えっと、……はじめまして? ほんとうに、《比企谷八幡》と、《比企谷小町》なんだな。」

 

―――『偽物』の笑顔

 

「詩乃、小町を頼む。」

 

「だい…じょうぶ。ちゃんと…する、から。」

 

涙をこらえながら、涙を流しながら、『現実』に向き合う。

 

 

『泣かないで。』……って、いきなり失礼だったな。」

 

たった一瞬だけ見せた『本物』の笑顔で、たった一言で、俺たちは目を見開く。

 

わずかな『希望』は残っている。

 

 

 

 

***

 

20時50分。

ここが次のボスが登場する場所か。

 

相変わらず、遊びに来ているやつらが多いな。

 

俺と、八幡と詩乃がこの現実で浮いている。

 

「明日奈はどう?」

 

「ああ、SAOの記憶が、次第に失われている状態だ……」

 

明日奈は昨夜、ボス戦でHPが0になった。彼女の実力ならそう簡単には負けないだろう。

 

―――何もできなかった

 

だが、エイジという2位のプレイヤーに妨害されて、イレギュラーな90層クラスのボスからシリカを守って、それで、、

 

―――守れなかった

 

彼女の記憶を取り戻すためなら、なんだって……

 

 

 

「焦るな、落ち着け。」

 

「っ!すまない……伊月は?」

 

「SAO時代だけじゃない。俺たちと過ごした記憶さえもすでに消えている。今は小町がついている。」

 

「なんだって!」

 

もしかしたら、明日奈もすべて・・・

 

「安心しろって言える立場かどうかは知らんけど、安心しろ。」

 

「どうしてだ?」

 

「あいつが『転生者』なのは知っているだろう。月村葉月は、俺や小町の事を《物語の人物》だと言いだした。しかし、詩乃は登場しないと言った。総武高の奉仕部で繰り広げられる《物語》だったらしい。もし、俺たちが生きているこの世界があいつにとって、『SAO』という《物語》の世界ならば……」

 

考察を述べていく八幡は、次第に早口になっていく。

 

「この『世界』で生きた記憶が、すべて失われた?」

 

そんな状況で、

八幡や詩乃、そして小町は平気でいられるのか?

 

俺よりもずっと……

 

「ともかく、相棒は戦闘不能だ。こうなったら、俺たちで……」

 

「八幡も落ち着いて。お義姉ちゃんもできることをやってる。先輩たちもそう。だから取り戻せるわ。」

 

詩乃が右手で八幡の左手を握ると、あふれていた殺気が収まる。

 

 

闘志はそのままに

 

 

俺たちは頷き合い、

 

「「「オーディナル・スケール起動!」」」

 

俺たちの服装、《装備》が変わる。

 

そして、《世界》が広がる。

 

―――既視感のある廃墟のフィールド。

 

《拳》スキルを持つように思える2足歩行のイノシシだ。金属の首輪から鎖が伸びていて、その先は壁に杭として打ちこまれていて、移動範囲に制限がある。

 

「第18層のボス!」

 

「巨人イノシシか。」

 

「現在、都内の各所で合計10体のボスモンスターが出現しているようです!」

 

ユイの情報通りなら、

黒幕は記憶を奪うことを急いでいるように思える。

 

「ずいぶんと大盤振る舞いね。」

 

 

《ユナ》の歌に、テンションが上がっていくオーディナル・スケールプレイヤーたち。俺たち以外の大勢が一気に群がっていって、攻撃していく。

 

やめろ という俺の声は歓声にかき消さる。

 

 

HPの急な減少で、興奮状態となった巨人イノシシは杭を抜き、長い鎖を持ってしまう。リーチの長い《鞭》の振り回しに、次々とプレイヤーが倒され、記憶を奪われた1人のSAO生還者が倒れたままだ。

 

詩乃が《銃》のビームライフルで顔面に狙撃していき、怯ませる。

 

 

「キリト、アシストしてやる。行ってこい。」

 

「ああ!」

 

俺は片手剣を抜き、走る。

 

今の重い身体で、

今までの経験で、

今まで培ってきた剣技で戦う。

 

鎖を弾く射撃

拳をはじく斬撃

 

 

「うおおおおお!」

 

単発技スラントで、縦に斬り裂く!

 

 

 

―――ファンファーレが鳴る

 

息切れしながら、周囲を見渡す。

ラフコフのやつも、エイジのやつも見当たらない。

 

 

「あれは…?」

 

フードの少女の姿を見かけて追いかけるも、どこかを指差したあとに消える。

 

「手がかりなしか?」

 

「…そうだ、ユイ!今まで指差した方向を全部プロットしてみてくれ。」

 

これで、声の聞こえない少女がどこかを指差したのは3回目だ。

 

「世田谷区大岡山?」

 

「パパ、ここは東都工業大学の位置を示しています!」

 

そこに行けっていうことか……

 

オーグマーの設計者、か。

 

「アポを取るよう頼んでやるよ。……気が進まないけど。」

 

とても嫌そうな顔で、携帯を取り出していた。

 

 

 

 

 

次の日、重村教授の研究室へ訪れる。

ユキノンの姉の、ハルノンのおかげで、ここへ来られた。

 

俺は写真を見せながら尋ねる。

 

「単刀直入に伺います。このエイジという人物を知っていますか?あなたの研究室にいるはずです。」

 

「さぁ? 学生は、たくさんいるからね。」

 

「じゃあ、オーグマーによって記憶障害が起きていることはご存知ですか?」

 

「いったい何のことかね。」

 

―――はぐらかされる。

 

 

 

「あなたの生徒だった、茅場晶彦と同じ道を選ぶんですね? こんな『デスゲーム』を引き起こしちゃってー」

 

拳に力が入ってきていると、今まで黙っていた陽乃さんが口を開く。俺はそのどこか寒気を感じる笑顔に口出しできない。

 

しかし、詰問していく陽乃さんにも教授は動じない。

 

 

「何を言っているのかわからんな。それに、SAO時代の記憶を失うことに何の問題があるのかね?―――恐ろしい過去を忘れることはむしろ良いのでは?……さて、そろそろ講義の時間だ。これで失礼させてもらうよ。」

 

―――右手に、手ごたえを感じた

 

 

テーブルの上。

女の子の写真を見ながら、俺たちは部屋から出る。

 

 

 

 

***

 

重村教授の関係者に、(くだん)の少女がいるかどうかを菊岡にメールで尋ねた。

 

 

陽乃さんはいつのまに、あの写真を撮影したんだろう……

 

 

オーグマーではない携帯電話のほうの連絡だ。

 

 

「も……「ひゃっはろー、菊岡君!」

 

陽乃さんにイヤホンの片方を取りあげられた上に、俺の携帯に顔を近づけてきて甘い香りが充満する。

 

俺には明日奈という大切な女性がいるんだ!!

 

 

『いつもいつも、その奇天烈な挨拶はやめてくれるかな……。ともかく調査したよ。重村悠那は教授の娘さんだった。そして、すでに予想はついていると思うが、娘さんの死因は《ナーヴギア》によるものだ。』

 

「うわー、マジで犯人じゃんか。」

 

「被害者はどんどん増えている。なあ、菊岡さん、あんたの力でサービスを停止させられないのか?」

 

『相手は経産省も絡んだ巨大プロジェクトだ。確かな証拠が見つからない限り、ね。少し時間がかかりそうだ。……個人的には、すまないと思っている。また連絡する。』

 

 

それでも反論を述べようとするが、

 

「えー、もっと話したかったなー。」

 

『いや、今仕事中だから……またバーにでも行こう。』

 

「やった、奢りねー!」

 

『ええ!?』

 

なんだか仲が良いな、この2人。

 

 

携帯を取られて、手持ち無沙汰となった俺の方を見る。

 

「あ、そだ。桐ヶ谷、ちょっと彼女さんのところ行って、頭冷やしてきなさーい。」

 

バシッッ

 

細くて綺麗な指からは考えられない、(デコピン)だった。

 

 

 

 

 

 

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