やはり俺の現実逃避はまちがっている。 作:ソロ
ここはユナのライブ会場。
「クラインさん、残念だったね。」
「あいつも行きたがってたのにね。」
まるで何かの思惑がもたらしたかように、奇跡的にSAO生還者がここに集っている。
「あれ……?和人様は?」
「そういえば、ヒッキーもいないね。」
「男3人して、迷子ですの?」
明日奈、小町、詩乃以外のメンバーは彼らを探すようにキョロキョロ見回す。
「「「人助け。」」」
どこか大人びた彼女たちは微笑んだ。
「……始まるみたいね。」
「ゆきのん!こういうの初めてだね。」
「あいつらの分まで、楽しむとしますか!」
「はい! リズさん!」
ド派手な演出とともに、ステージに《ユナ》が現れた。
***
外の駐車場。
フードを被った5人がこちらへやってくる。
「そんなぞろぞろと来て、どうした?」
「はぁー?ライブに来ただけなんだけどぉ。」
「祭りの場所はここかってか。」「血祭りだけどね、アヒャッ。」
俺は白い筒を取り出す。
「そうかい。……バーストリンク」
―――加速世界へ
「勝手に起動してるぞ!」「どういうことだよ!」「おい見ろよ!」「まさか…」
髑髏の仮面と、黒いフード、黒紫の曲刀
「なるほど。あんたが執行人……かよ……」
「いいねぇー。ずっと目障りだったんだよ、あんた。」
「なあ、ショーグンさんよぉ。」
《短剣》3人、《両手斧》1人、そして《片手斧》。
どいつもこいつも血で濡れた凶器を持ち、嗤っている。
この世界においては『罪』が残る。
「来いよ、殺人鬼ども。」
叫びながら襲いかかってきた。
喉を狙う刺突、足首を掻き斬るフェイント、毒を撒き散らす連撃、頭をかち割る振り下ろし、利き腕を奪う斬り上げ。
「温すぎる。」
先読みし、最低限の動きで、躱す。
「くそっ」「なんでだ!」
苛立ちや憤りが、動きを鈍くしていく。
剣を構えて、4連撃。
悲鳴と共にこの世界で死んで、現実に還っていく。
「あらかじめ、斬られる覚悟はしておけよ。」
「さすが。さすが英雄の1人ですね。……面白くない」
仲間が斬られても動じない、今もなお嗤い続けている。
秘策があるのだろう。
気配や殺気が同じ、空気に自然と溶け込み、2人なのに1人に感じる。『答え合わせ』はできた。
ガキン
「「なに!?」」
相棒は、《片手剣》を弾き飛ばす。
「っ!これはこれは、《狂戦士》さんじゃないですかぁ。」「記憶を奪われ意識がなかったはずなのに、よく生きていましたねぇ。」
「死ねないからな、俺。これまでもこれからも。」
敵は双子。
阿吽の呼吸で、連携を繰り出してくる。
敵はチート。
何かの装置で、攻撃を予測してくる。
『加速』すら、無理やり身につけている。
拳を合わせる。
「「勝つぞ。」」
『心』に響く彼女たちの歌。
現実世界、仮想世界、加速世界
どの世界であっても、変換不能な『意志』がある。
「「あの世界のことを忘れさせてやる!!」」
過去を否定し、狂い続け、『今』から逃避しようとする。誰かの過去を奪うことで、痛みを忘れようとすること、それがお前らの現実逃避なんだな。
だからといって、押し付けないでくれ。
心に刻んだ記憶も
創り上げてきた現実も
「「奪われてたまるか」」
《ソード》は色を持ち、『心意』を描こうとする。
スラント
リーバー
スマッシュ
アバランシュ
単発技がぶつかり合う。
記憶という傷を失った彼らへ、俺たちは背を向けた。
****
地下の駐車場。
すでにライブが始まる頃だから、ここには俺とエイジしかいない。彼は本を閉じて、ゆっくり床に置く。
「約束通り来てやったぞ。」
ここが指定された場所だ。
「その前に、ちょっと良いでしょうか?」
背中を見せて、襟を広げると機械が取りつけられてるのが見える。
「これが、俺が強くなった理由です。」
「そうか。」
「卑怯でしょう?……でも譲れないんですよ。」
「……そうか。」
「この予測装置と強化スーツ、そしてランキング2位というステータス!! どんな手を使ってでも、あなたにこのゲームで、俺は勝つ!!」
「「オーディナル・スケール起動!」」
突進技、ソニックリープを、打ちあう!
―――会場の歌がここまで聞こえる。
「君が、勇気をくれる。」
パルクールという彼が努力で身に着けたシステム外スキルと、彼が努力して鍛えてきた身体能力で俺は追い詰められていく。
それでも、反応速度と経験と本能。
そして意志で、真正面からぶつかる。
「さすがは《黒の剣士》!」
「お前もなかなかだな!」
これでも、英雄に剣は届かない。
《ノーチラス》は歯噛みする。
「最前線で戦うプレイヤーと違って、俺たちは蚊帳の外なんだ。俺は彼女を目の前で失った。そうさ、恐怖に負けたんだ!!」
さらに剣を振るうスピードが速くなる。
「’俺たち’SAO生還者の記憶を使えば救えるんだ!」
「お前の記憶も懸けるのか。」
「っ……ああ!」
これほどの剣技をできるのは、攻略組でもそうはいなかった。俺が日常に浸っていた間、彼は強くなり続けていたんだ。八幡も伊月も鍛えて、更に新たな戦い方を身につけていた。どんな手を使ってでも、大切な人を守るのはみんな変わらないんだ。
そして、もちろん……
「俺も!」
「くっ……」
「俺も譲れない想いがある。」
「なぜ!こんなに強い!?」
「守りたい人達がいる。そして、支えてくれる家族がいる!」
俺も明日奈も。
ずっと一方的に、お互いを守ることばかり考えていた。
ユイがいて、俺たちはもう家族なんだ。
「彼女を救いたいんだったら、守りたいんだったら」
両手で握った片手剣を振り下ろす。
「まずお前自身を大切にしろよ!ユナを泣かせるなよ!」
「くそおおお!」
フェイントをかけ、すれ違うように、首の機械を剥ぎ取る。
予測装置は、彼の脳へ確実に負担となっていた。
強制される動きは彼の身体へ確実に負担となっていた。
「っ!ちくしょー!」
全身全霊の、輝く《スラント》
それがお前の『心意』だというなら。
「俺たちの『心意』はそれを超えていく!」
左手に《光》を生み出す。
幻影の細剣で剣を押しのけ、間髪入れず斬撃。
《ダブル・サーキュラ》
「敗け、か……」
地面に手をついたまま立ち上がらない。
彼の装備が消える。
悔しがるのではなく、どこか納得した顔。
しかし、
次第に会場の雰囲気に俺たちは疑問を抱く。
「歌が、聴こえなくなった……?」
ピロン
それは明日奈からのメッセージの通知音だった。
「会場にボスモンスターが!?」
「SAO生還者がこの場所に集められている。」「つまり、一網打尽ってわけか。」
八幡と伊月も勝ったんだな。
それよりも、マズい状況だ。
全員からスキャンして、記憶を奪うつもりだ。
それほどまでに、重村教授は娘さんを……。
幽霊のように、消えてしまいそうに、エイジは立ち上がる。
「俺も直に、記憶を失うだろう。俺の事は忘れて、幸せに生きてくれって悠那に……グハッ!」
気付けば俺は殴っていた。
許せなかった。
脳裏に1人の少女が浮かんだ。
彼らは確かにいた。
俺が独りだった頃、犯した『罪』
あの5人は俺が殺したようなものだ。
あの世界から逃げたいと言っていた少女を俺が立ち上がらせて、守れなかった少女がいる。
―――クリスマスソングで赦してくれた少女
「自分で伝えろ。」
涙を流すエイジの腕を伊月が掴んで立ち上がらせる。
「助けを求めるのなら、俺たちも力を貸す。」
「それは……」
―――エーくん、待ってるから
エイジは目を見開く。
最後にそう呼んでくれたのは、その最期から久しい。
「ああ。会いに行くよ、今。」
「いい顔するようになったな。」
「……エイトさん。」
「すまんな、調査不足だった。ちゃんとお前らのこと書きこんでおくぞ?」
歌で中層の剣士を癒した少女の名を残してくれる。
エイジがそのことを一番知っている。
「それと、新アインクラッドに来い。続編での活躍を待ってる。」
「ええ。《歌姫》を支える《剣士》の名を知らしめてやりますよ。」
今なら、まだ間に合うだろうか。悠那
***
俺たちは会場まで戻ってきたが、阿鼻叫喚だ。
「キリト君!」
「ミカヅキさん!」
「エイト!」
青眼羊から、骨ムカデから、死神から。
大切な女性を救った。
「休む暇もねぇな……」
息切れが激しい。
未知の90層クラスもうじゃうじゃいて、キツい。
「エーくん!」
「悠那!ありがとう!」
巨大な盾とランキング1位の《不死属性》を使って、悠那はエイジを守る。
《ユナ》も、悠那へ次第になっていることから、時間もあまりないだろう。見境なく行う高出力スキャンで『SAO』の記憶どころか全部奪われそうだ。オーディナル・スケールプレイヤー、特にSAO生還者は、目つきが戦士のそれと変わっていて、オーグマーを外すことはしないだろう。
「くそっ、どうすればいいんだ。重村教授は聞く耳を持たない!」
「……みんな聞いて。」
その声は戦いの場に響いた。
「旧アインクラッド100層ボスを倒せばなんとかなる!だから、お願い。」
―――力を貸して、英雄たち!
なんて無茶な依頼だ。
75層でヒースクリフと戦った時のように、運命を決める戦いである。リスクは高くて、もし失敗すれば俺のせい。さらに、今以上の絶望的な戦いを強いられるだろう。詩乃や小町、大切なやつらだけを救うなら、この場から逃げればいい。オーグマーを外して、現実逃避すればいいのだ。
それでも、『生きる』と決めたから。
「わかった!」「了解。」「身体は頼むぞ。」
「「「うん。」」」
彼女たちが勇気をくれる。
だから俺たちは剣を取って、『希望』へ立ち向かっていける。
「ここは俺たちに任せてください。」
頼りになる剣士も、ここにいるしな。
「「「リンクスタート!」」」
―――フルダイブ
「ここが第100層紅玉宮の中か……っておい。」
「さ、さて、ぶっつけ本番か。」
「作戦は、ガンガンいこうぜ、だな。」
溜息をつきながら、冷や汗をかきながら、目を腐らせながら、
ちょっと頼りない剣を抜く。
ドーム状の紅玉宮の中にいたのは、巨神。今まで、見てきたどの巨人よりも大きい。HPゲージは10本。武器は巨大すぎる片手剣と、巨大すぎる槍。
無茶苦茶なラスボス。
言いたいことは、これだけだ。
「「「茅場ァ!!」」」
ガキン ガキン
曲刀と両手剣が悲鳴を上げる。
全力の筋力ブーストをかけ、《ソードスキル》を相殺する。
「「スイッチ!」」
キリトが巨大な腕を駆け上がり、跳び上がる。
「うおおおお!」
片手剣奥義《ファントム・レイヴ》
剣を華麗に回し、奇跡を描く6連撃。
斬り上げ、斬り下ろし、斬り下ろし、刺突、斬り下ろし、そして振り下ろす。
おそらく弱点である顔面に攻撃が入ったとはいえ、1本目のHPバーが半分削れた程度。
「特殊行動か!?」
「気をつけろ!」
「……いや」
ボスの一部である《大樹》から一滴の雫が落ちる。
「まじかよ……」
「たぶん全回復。」
「チートかよ……」
ボスは嘲笑う。
タイムリミットまでの時間はない。―――勝つ確率はゼロ。