やはり俺の現実逃避はまちがっている。 作:ソロ
第75層のボス攻略の偵察。
その任務に前代未聞の2人での実行が、ギルド《血盟騎士団団長》の《セイバー》から、提案された。
もちろん攻略会議は荒れる。
それは無謀だと。
74層ボス戦であった結晶無効化エリアという理由から、その危険度は高い。緊急時に脱出できる《転移結晶》が使えないという大きな問題があった。
しかし、
75層のクエストにて入手したという情報がもたらされ、場は騒然とする。
それは、扉が’一定時間’閉まること。
そして、
推薦された者の《名》を聞いて、合意しやがった。重要職である《セイバー》を除けば、最も生存率が高いだろう前衛職2人。
《狂戦士》と《盾戦士》。
「別に、ボスを倒してしまっても構わんのだろう?」
相棒はそう答えてしまった。
さてはお前らFG〇好きだな。
***
「俺、腰に持病があるんだよ。・・・ヘル、ヘル、ヘルメス?」
「いきなりどうした? 病院で寝たきりだし、ヘルニア治ってるかもしれないな。」
ごめん、猫背なだけなんだ。
仮病は、どこか天然な相棒には通じなかった。
「75層ってクォーターポイントだからな。さらに危なそう。」
「・・・たしかにな。」
25層では、《軍》に大打撃を与えた。
50層では、攻略組が崩壊しかけた。
SAOに来る前の俺なら、こんな危険な依頼は受けることもなかっただろう。
でも、これが俺の生き様なんだ。
ギルド《風林火山》から託された蘇生アイテムを、俺が持つ。
ボス部屋が開かれる。
人生で、最も長い5分だった。
***
「諸君、この危険な攻略に参加してくれることを、まずは感謝する。」
攻略組の先導者といってもいい、《セイバー》が門の前に立つ。
「何度も言った通り、結晶は無効化され、戦闘開始から扉は5分間、閉まる。しかし、2人の’英雄’のおかげで、我々はボスの情報を得た。」
「今も下の階層で『解放』を待つ者たちと、勇ましくも死んでいった同胞たちのためにも、我々はやり遂げなければならない。厳しい戦いになるだろうが、諸君の力なら切り抜けられると信じている。」
「――『解放』の日のために!」
その力強い叫びにプレイヤーたちは一斉に応えた。
さいごの戦いが始まった。
***
入ってすぐに天井に貼りつく骨ムカデが降りてくる。
何よりも目を引くのは大きな2つの鎌。
俺とオーガスと、そしてヒースクリフが飛び出す。その後ろをキリトとアスナが追う。
通常のボス戦では、何人ものタンクが前衛として配置される。
しかし、《剣》を交えた俺が下した判断は・・・
「俺たちじゃないと、無理。」
会議中に発せられた、
その挑発めいた発言に、ボスの情報を見て固まっていた歴戦の戦士は闘志を取り戻した。
そして、今も5人の’英雄’の姿を見て、勇気を得る。
***
俺とオーガスとヒースクリフの3人がかりで、鎌の一撃を受けている。
骨ムカデが大人しいやつだったら、’ヒースクリフだけで十分’だろうが、とにかく暴れ動く。
広い空間でそれぞれ守備範囲を持って、骨ムカデの大鎌を受ける。
焦りを生むような、深追いはしない。
《シールドディフェンス》
俺は、大鎌の強力な一撃を、盾で受け流す。
ヒースクリフの方へと行ったところで、
キリトとアスナの姿が目に入った。
最も優先すべきは、尖った尾の切断だ。
トッププレイヤー2人をその配置に就かせた。ボスにヘイトをあまり与えず、背後を追いかけている。
言葉もなく、
瞳を見交わすだけで、骨ムカデの一撃を’同時に’打ち返す。
瞳を見交わすこともなく、
一体となって、骨ムカデの尾に’一撃’を与える。
2人の思考がリンクしているような美しい《剣技》だ。
はじまりの戦いから、2人を見てきた俺が断言する。
無意識に心と心が通じ合う関係。
やはりこの2人の関係は『本物』だ。
2人の姿は、俺にはとてもまぶしかった。
***
1時間という長い死闘だったが、誰も欠けることはなかった。
しかし、1人を除いて、疲弊して立ち上がれない。
こんな攻略をあと何度も続けることは、攻略組に絶望感を与えていた。
キリトは、その1人の英雄を見る。
同じく大鎌を受けていたエイトやオーガスは、地面と一体化するように、うつ伏せに倒れている。
ヒースクリフだけは、1人穏やかに立っている。
・・・それは’神’の表情。
キリトはゆっくり身体を起こし、剣を握る。
アスナだけがその様子に気づく。
「…キリト君?」
片手剣の基本突進技《レイジスパイク》
地面を駆け抜け、漆黒の剣で、'神'を突いた。
しかし、あの《決闘》でも感じたありえないスピードで、十字盾で防がれてしまう。
キリトたちの横を《投剣》が過ぎる。
キリトもヒースクリフも短剣の輝きに気をとられる。
盾を左手に持つヒースクリフに、右側から駆ける。
曲刀の基本単発技《リーバー》
肩に担いだのち、真上から斬り下ろす。
その一撃は紫の壁に阻まれた。
【Immortal Oblect】
「スイッチ」
相棒は俺の横を通り抜ける。
両手剣の突進技《アバランシュ》
『加速』し、振り下ろした一撃を十字盾に当て、後退させる。
「おいおい、どうするよ、これ」
隣にいるオーガスが呆然としている。
「…くそ。殺し損ねたか。」
俺から声が漏れる。
俺たち3人の行動に疑念を抱く者たちの中で、アスナが口を開いた。
「システム的不死? どういうことですか、団長…」
「…英雄は魔王だったってことかな。」
「なぁ、茅場。」
ヒースクリフは余裕そうな表情のまま、キリトに向けて口を開く。
「なぜ気付いたのか参考までに教えてもらえるかな?」
「最初におかしいと思ったのは例のデュエルの時だ。最後の一瞬だけ、あんた余りにも早過ぎたよ。」
「やはりそうか。あれは私にとっても痛恨事だった。君の動きに圧倒されてついシステムのオーバーアシストを使ってしまった。」
キリトの答えに頷き、苦い表情をする。
はじめてヒースクリフに’感情’が見えた気がした。
「君たちはどうかね?」
今度は俺たちに尋ねる。
「お前、『茅場』への殺意がなかったからな。」
俺が気づいたのは、人の気持ちを少しは分かるようになってからだ。
こいつはこのデスゲームへ’怒り’を持っていない。
こいつはこのデスゲームで’哀しみ’を持ったことがない。
こいつはこのデスゲームへ’楽しみ’を持っていた。
俺たちはずっと狙っていた、隙を見せるのを。
「さすがに、1人で大鎌を受けるのは、疲れたか?」
ようやく訪れたチャンスに笑みがこぼれた。
俺の言葉を聞き、ヒースクリフは声を出して笑う。
「・・・ふぅ、たしかに疲れたな。」
「予定では95層まで明かさないつもりだった。」
彼の声が変わる。
はじまりに聞いた声を思い出すような声。
「確かに私は茅場晶彦だ。付け加えれば、最上層で君たちを待つはずだったこのゲームの最終ボスでもある。」
「・・・趣味が良いとは言えないぜ。’英雄’が一転最悪のラスボスか。」
キリトは皮肉めいて言う。
「なかなかいいシナリオだろう?盛り上がったと思うが、まさかここで看破されてしまうとは。」
キリトに視線を向ける。
「君は勇者の役割を担うはずだった。全10種類存在するユニークスキルのうち、《二刀流》スキルは全てのプレイヤーの中で最大の反応速度を持つものに与えられる。」
おそらく、PoHもなにかユニークスキルを持っている気がする。
茅場は俺たちの方を向く。
「エイト君は、90層以降に《手裏剣術》を得ることとなっただろう。オーガス君は《抜刀術》。その条件は、、」
「「いるかよ。」」
俺たちは言葉を遮る。
「勇者なんて、ガラじゃない。」
「それに、90層って遅すぎじゃね?」
断られたのに、ヒースクリフはまた嬉しそうな顔を見せる。
「そうか。」
ようやく状況を理解した者たちが’怒り’を持つ。
「「「茅場ァ!」」」
魔王ヒースクリフは左手を振り、俺たちが見たことのないウィンドウを操作する。
キリトを除き、麻痺状態となり、倒れる。麻痺耐性も無視するような、無慈悲なシステム。
「キリト君、勇者である君には、チャンスをあげよう。今この場で1対1で戦う権利を。もし、私に勝てばゲームはクリアされ、全プレイヤーは《解放》される」
アスナは必死に止める。
しかし、アスナのために、彼は立ち上がる。
親しい者たちに声をかけようとするキリトより先に言う。
「キリト、そういうのは《現実》で言ってくれ。」
「キリトよぉ、妹さんちゃんと紹介しろよ!」
「ところでアスナとの結婚式って、いつ?」
「還っても、嫁さんにラーメン作ってもらうぞ?」
俺たちは勇者を送り出す。
「解った。次は、向こう側でな。」
キリトは頷き、背を向ける。
***
さいごの決闘が始まる。
お互いに、剣技を何度も見てきた。
さらに《二刀流》スキルに至っては、知り尽くされている。でも、この《世界》で、ソードスキルを使わないなんてまちがっている。
俺は右手の片手剣に力を込めて、駆ける。
繰り出された、輝くことはない一撃にヒースクリフは目を見開く。
《閃光》の一撃はヒースクリフの肩を突く。
《曲刀》、《両手剣》、《刀》、《両手斧》
あいつらの想いを乗せた攻撃を俺の《二刀流》に混ぜていく。
システムを用いないソードスキルは隙が無い。
だが、ヒースクリフも強い。
一進一退の攻防を見せた。
***
勇者と魔王の戦いなのに、
《解放》をかけた戦いなのに、
2人とも顔は真剣なのに、
ライバルと剣を交えるのが楽しそうだった。
ソードスキルの光が軌跡を描く。
まさに、
―――ソードアート
互いに十字盾と片手剣が壊れても、メニューを素早く開き、片手剣に切り替える。
互いに『心』の籠った、一撃をまた打ち合い始める。
互いにソードスキルを発動する。
片手剣の重単発攻撃《ヴォーパル・ストライク》
互いに誰よりもはるかに、限界を超える『加速』をした、一撃を叩きこんだ。
無機質なシステムの音が、聞こえた。
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