やはり俺の現実逃避はまちがっている。   作:ソロ

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小町について
※2年間八幡がいなかったことで性格変更あり
※八幡の1つ年下


ところで、原作ですが、
2ヶ月以上監禁されても希望を捨てない明日奈って凄い精神力だと思います。
1ヶ月くらい眠らされたままだったのかもしれないけど。



第7話 旅立ち

目をゆっくり開くと、霞んだ視界に白い天井が見える。

空気に匂いを感じた。身体は鉛のように重い。

 

セミの鳴き声が耳に響く。

 

夏、なのだろうか。

 

エアコンの効いた部屋はひんやりとしていて、左手が温かい。

 

 

誰かの声がする。

優しく、手を握ってくれる。

とても、温かかった。

 

「・・・ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん。」

 

「小町か?」

俺から出たのは、か細い声だった。

 

それでも、頷いてくれたことで妹だと確信する。

 

いまだはっきりしない視界で小町を見る。

 

肩に当たるくらいの長さの、俺と同じ黒色の髪をしていて、見覚えのある制服に身を包んでいる。

 

アホ毛と八重歯がチャームポイントである。

 

2年弱ぶりに妹を見た俺は断言する。

やはり俺の妹は世界一可愛い、と。

 

だからこそ、気になることがある。

 

「まさか、彼氏、できた...?」

 

「ふふっ、いつもの、お兄ちゃんだ。」

 

彼女は涙を流している。

 

でも、

心の底から嬉んでくれていることが、今の俺には分かる。

 

「おかえり。お兄ちゃん。」

「ただいま・・・」

 

やはり《現実》も、悪くない。

 

「比企谷君!」

「ヒッキー!」

奉仕部の2人が慌ただしく部屋へと入ってくる。

 

「…ここ、病院、だろう、静かにしろよ。」

弱弱しくも、俺は思ったことをそのまま口に出す。

返事はなく、2人は涙を流している。

 

 

「「「おかえり(なさい)。」」」

 

「あ、ありがとう。」

なんだか、むずがゆい気持ちになる。

 

「あ、ちょっとキモくなくなってる!」

「そうね。目の濁りがマシになってるわ。あなた本当に比企谷君?」

「お兄ちゃん、なんか変わったね!」

 

自分でもそう思う。

ずいぶん変わってしまったと思う。

 

でも、今は、俺はそんな俺が嫌いじゃない。

やはり《現実》も悪くない。

 

 

 

***

 

半月が経った。

いまだ、入院したままである。

 

暇な時間はタブレットを開いて、本を執筆する日々である。

 

入院は、中学の入学初日で車に轢かれて以来だったな。

リハビリは2度目だったが、やはりつらいものだ。

 

 

そういえば、車に轢かれて転生したとかいう相棒の連絡先を聞いていた気がする。元々、電話帳には家族と奉仕部の2人くらいしか登録していなかったため、連絡手段があるのをすっかり忘れていた。

 

 

ちょうどお見舞いに来てくれていた妹に聞く。

 

「小町、俺の携帯って、どこいった?」

 

「え、お兄ちゃん、普段使ってないの?」

 

小町は一昔前の人間を見るような目で見てきた。

……ふんっ、今時のもんは携帯に依存しすぎじゃ。

 

俺の荷物から携帯を探し出してくれると、案の定、電源がついていなかった。

 

充電コードに差したあと、電源をつけた携帯を渡してくれる。着信履歴を見ると、50回をはるかに超える着信が俺の携帯に来ていた。

その事実に目をそらし、電話をかける。

 

『おお、やっとつながったか。久しぶり、エイト。』

声変わりしていたが、それでも相棒の声だとはっきり分かる。

 

「こっちでは八幡だ。久しぶりだな、伊月。」

 

俺が通話をしている様子を、小町は微笑んで見ていた。

その表情はどこか大人びていて、どこか寂しそうだった。

 

 

***

 

お兄ちゃんが目覚めてから1ヶ月が経つ。

 

わたしはお兄ちゃんが還ってきてくれたことが、とにかく嬉しかった。

 

でも、

お兄ちゃんがなにかの文章を書いている時や、伊月って言うお友達さんと電話するときは、遠くに行ってしまった感じがした。

 

シャーペンを置く。

 

そろそろ9月が終わりそうだ。

2月の半ばにある受験まで、残された時間はどんどん減っているのに、やる気があまり出ない。

 

ため息をつく。

お兄ちゃんに勉強を教えてもらっていた頃を思い出した。

 

また、お見舞いに行こうかな。

 

 

 

***

 

俺は、いまだベッドの上だ。2年弱の寝たきりは、かなり負担だったようだ。

 

ベッドについている机に資料を広げる。あの雪ノ下陽乃から、それはもたらされた。

 

約300人の未生還者が、誰に囚えられているか。

 

雪ノ下財閥の令嬢であり、雪ノ下雪乃の姉である彼女を通じて調査をしてもらった。すでに警察や政府も動いているのだろうか、すぐに情報が届いた。

手をこまねいている状態であることがはっきり分かった。

 

あの《世界》が誕生してから1年後、つまりまだあの《世界》が終わっていないときに、VRMMORPGが発売された。ナーヴギアの後継機「アミュスフィア」と同時に「レクト・プログレス」から発売されたものがアルヴヘイム・オンライン。剣と魔法の世界で、9つの種族に分かれる妖精が世界樹の上への到達を競い合っている。

 

その世界に、手がかりがある。

 

 

レクト・プログレスフルダイブ技術研究部門主任 須郷伸之。あの茅場晶彦の、大学の後輩である。

 

最近になって、CEOである結城彰三の娘の、結城明日奈との婚約を求め始めた。ちなみに結城明日奈は未生還者で、寝たきりである。

 

単に軽率であるのか、焦っているのか、それとも余裕があるからなのか。しかし、300人もの人質をとっているのは確かで、巧妙に隠蔽しているため、質が悪い。

 

 

それに、大企業ということもある。

まだVRゲームに関しては法規制が充分ではないのだ。

 

取り調べの開始すら、まだ時間がかかることだろう。

 

 

だから、俺たちSAO生還者が乗り込む。

 

勇者も立ち上がった。まだベッドの上だけど。

婚約阻止のために、アスナの生還のために、誰よりも燃えている。

 

相棒も、すでにALOへと乗り込んでいる。

たぶん最後のフルダイブになるだろうって言っていたことは寂しかったが。それでもあいつとの縁は切れることはないと確信できる。

 

俺も、小町と母親にはちゃんと話しておかないとな。

親父はいいや。

 

 

「お兄ちゃん、これ、なに?」

いつの間にか隣にいた妹に、尋ねられた。

 

 

***

病室のドアを開けると、

わたしが入ってきたことにも気づかず、机に資料を広げて真剣な顔をするお兄ちゃんがいた。

 

横から覗いて目についた文字――VRMMO

そして、棚の上にあるナーヴギア。

 

「お兄ちゃん、答えて。また、いなくなっちゃうの?」

 

わたしはお兄ちゃんが囚われたとき、とにかく泣いた。

お見舞いに来るたびに手を握って、涙をこぼした。

 

お兄ちゃんは、大人びたって言うけど、まだまだ泣き虫なんだよ。

 

もっと泣き虫になっちゃった。

 

わたしは、昔から泣き虫なわたしが嫌いだった。だって、お兄ちゃんに心配をかけてしまうから。

 

 

お兄ちゃんは私の頭を撫でてくれる。

 

昔よりずっと大きくなった手のひらは、

温かくて、冷たかった。

 

 

「小町、俺はあの《世界》が嫌いじゃないんだ。あの《世界》は俺にとって『本物』だった。」

 

お兄ちゃんの目はもう腐っているなんて言えない。

 

「もちろん、悲しいことや苦しいこともたくさんあった。でも、あがいてもがいて、はじめて《生きた》実感を得た。正義のためだとかは言わない。でも俺は、あの《世界》の終焉を見届けて、材木座に伝えたい。」

 

お兄ちゃんの目は、まっすぐだった。

 

「’友達’の『本物』と呼べる関係くらい、俺は守ってやりたい。それに、ラーメンのお礼もあるしな。」

 

お兄ちゃんが誰かを友達と呼ぶことはなかった。

 

 

 

お兄ちゃんは変わった。お兄ちゃんが2年間生きてきた世界を、わたしは知らない。

 

お兄ちゃんに置いて行かれた気がして。

 

孤独は嫌じゃないはずなのに、手を伸ばしたくなって。

 

 

だから、まっすぐ見つめる。

「お兄ちゃん、わたしも、行かせてください。」

 

わたしはお兄ちゃんが成長した世界を知りたい。

 

 

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