萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:青川トーン
裏話的なんですが、この辺りの話を書くに当たって「回路-kairo-」さんの「違うということ」の影響がめっちゃあるんです。
もし機会があればぜひ聞いてみてください、回路さんの曲本当に好きなんで……
ロードフェニックスがその動きを止めて既に24時間。
電波ジャックそのものは解除されたが、衛星は放置されたままでメディアはその動向と国連の対処を取り上げていた。
『国連は最悪の場合、反応兵器の使用を視野に入れた対応を行うと発表しており。現在避難誘導が行われています。しかしそれは本当に正しいのでしょうか?彼女は……加賀美詩織は私達を守る為に戦って来たのに、我々が彼女を見捨てるのは』
『彼女は確かに我々を守る為に戦ってきました、しかしあの巨大な力に呑まれ破壊を尽くす怪物になってしまった。彼女の意志を踏みにじらない為にも彼女を眠らせてやるべきだ』
『もう彼女は我々の知るものではない、それに本当に反応兵器で彼女をどうにかできるのでしょうか?戦闘の映像から炎を取り込んで再生しているように見えました。もし反応兵器の熱を取り込んでより強力になってしまえば……』
『映像の中に居たもう一体の怪物は倒されました、おそらく倒す術はあるのでしょうが極力彼女を殺さずに確保したいというS.O.N.G.の思惑もあると思われます』
『現在は脅威と見られていますが、あれだけの巨大な力を調伏したのならば人類は超常の脅威に立ち向かう事が』
街こそ一つ更地にしたが目立った人的被害が無かった事、今は動きを止めている事。
そしてディバインウェポンが倒された事、それが人々に余裕を与えていた。
今すぐ処理すべきだという声、彼女を助けるべきだという声、どちらにも付かず状況を待つべきだという声、様々であった。
もしも加賀美詩織という少女を人々が知らなければ「脅威として排除する」という意見で一致団結していただろう。
良くも悪くもその知名度が意見を分け、世論は救助派・静観派に若干有利に傾いた。
おかげで反応兵器使用もより慎重な議論が行われていた。
「……彼女の日ごろの行いがよかったおかげね」
「そーね、他の誰かだったら即ボカーンだったわね」
カリオストロとマリアが休憩室のテレビを見ながら休んでいた。
特にマリアは「作戦」の為に体力を温存しなければいけない為だった。
「それにしても、賢者の石……貴女達が人生を掛けて作り上げてきたもの……それをこうも簡単に私達に提供してくれいいの?」
「いーのよ、あーしはもう自分にも……誰にもウソはつきたくなかった、それにサンジェルマンが決めた事なんだから」
現在、ギアにファウストローブの技術を応用した強化が施されている。
それはカリオストロが詩織から得た情報や結社での研究の成果、そしてエルフナインのシンフォギアへの理解がそれを生み出す。
「……『アマルガム』イグナイトに代わる強化システム……ファウストローブとシンフォギアの類似性、確かにキャロルのダウル・ダブラも似ていたわね」
「錬金術も歌も失われた統一言語に代わるもの、一つのものから生まれたのだから混ぜられても問題ないってわけ、サンジェルマンもプレーラティも随分も張り切っちゃって……さて、そろそろあーしも作業にもどらないと」
本当なら休んでいる暇はない、けれど焦って失敗する訳にはいかない。
故に交代で休み、作業を絶えさせない、それも作戦のうちだ。
「私達は命を奪い合った敵同士、貴女達が多くの人々を傷つけた事は「私は」許していない。だけど今は同じ道を歩く者として……頑張って」
「……ありがと、それは受け取っておくわ」
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「『アンチリンカー』の製造は完了、特殊車両の用意も出来たか!」
「はい、後はギアの改修を待つだけです。それと「自衛隊」からの協力の申し出ですがどうしますか」
弦十郎は作戦の為の指揮を続けていた、エルフナインとサンジェルマンの二人の知識のおかげで「可能性」は見えた。
だがここに来て、思わぬ乱入者があった。
それは日本国政府、防衛省だった。
モニターに映るのは防衛省職員の顔、弦十郎も彼の名前と顔には覚えがあった、かつて共に仕事をした仲でもあった。
『これは防衛省と内閣府の判断です。日本に三度目の核は落とさせるわけにはいきません』
「……護国災害派遣法か」
『そうですね、護国災害派遣法を利用していますし、「彼女」が指揮権を持つが故に出来るちょっとした裏技ですよ』
「何……?」
『随分と彼女には助けられました、ちょっとばかりそう……やんちゃが過ぎるし、色々困らせてくれますが……子供を助けるのが大人の仕事でしょう?まあ帰って来たら少しばかりお説教ぐらいはしますけどね』
彼は加賀美詩織の監視役、その立場は加賀美詩織が護国災害派遣法により「指揮権」を得た事により思ったより「強力」なものとなった。
国内での超常災害に対する介入権、風鳴訃堂が強引に押し通した歪で醜悪な法だが力はある、そしてそれも使いようである。
『ちょいとばかり来年の予算編成が大変な事になりそうですが、一課が対ノイズ用に研究していた『特殊兵器群』の使用許可も降りたのでね。彼女の頭を冷やすのに是非使ってやってください』
「恩に着る」
彼女がしてきた事は無駄じゃなかった。
多くの人々と係わった事が今、彼女自身を助けようとしている。
そう考えると少し気が楽になった。
「さて!頼もしい援軍が来た事だ!作戦をさらに詰めていこうじゃないか!」
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風鳴翼という光に嫉妬する影、それが加賀美詩織の始まりだった。
影に光へと向かおうとする意志が生まれた瞬間だった。
『はじめまして!私の名前はおりん!好きなものは音楽!好きなアーティストは翼さん!これからよろしくね!』
-かわいい声だね!-
-絶対彼氏持ちだ!夢を見るな!-
最初は楽なモノだと思っていた、ちょっと媚びて振舞えばアイドルになれると思っていた。
『今日はゲーム配信をしていこうと思うよー!』
-どうせヘタクソだぞ-
-待ってそれやるの?チョイスおかしくない?
でも、やってみればそれは難しかった。
人に「愛される」というのはどういう事なのかまるでわからなかった。
どうすれば期待された通りの行動ができるのかわからなかった。
『もっと祈れウジムシども』
-えらいハリキリガールじゃねぇか-
-思ってたのと違うじゃねぇか…Ride on-
人に悪意を持たれる事もよくわからなかった。
人を傷つけるというのもどういう事なのかよくわからなかった。
『クソアンチめ、二度と配信できなくしてやるから!!!』
-やべぇよやべぇよ……!-
-おりんおこで草-
-燃える!燃える!-
誰か見てくれるおかげで、段々と自分という形がわかってくる事に喜びを感じていた。
「光」にはまだまだ届かないけど、それでも自分が「影」として多くの人に「影響」する事が嬉しかった。
新しい世界を知るのは楽しかった。
自分と違う考え方の人、自分と違う声の人、自分と違う人。
違うから、張り合いがあった。
自分の方が強いと主張したくなった。
いつか絶対に私の影で世界を覆い尽くしたいと思った。
詩織と人柱の精神体は焦土となった街を見下ろす。
赤い鳥が青い空の下飛ぶ。
「ずっと気になっていたんですが、あの鳥はなんでしょう」
「我々にもわからない、だがお前の心の中に巣食う何かであるというのは確かだ」
「私の心の中の存在、ですか」
少し考えると詩織はイカロスを展開し、浮かび上がる。
今彼女は意識だけの存在だ、故に空を飛ぶ事だって簡単な事だろうが、それでもギアを纏うのは彼女にとって重要な事に思えた。
「あなたは誰」
距離を詰めて、言葉が通じるかもわからない鳥に詩織は語りかける。
『お前を見てきた者だ』
お世辞にも綺麗とはいえない声だった、だが決して悪意を持った声ではなく、詩織は安心して言葉を続ける。
「もしかしてあなたはフェニックス?」
『そう呼ぶものもいた』
「ならありがとう、何度も助けてくれて」
『……お前はそれでいいのか、お前は私さえ存在しなければあの時に人として死ねたのだぞ』
「別に人間でなくなってもそれは私だから、それに……あなたがいなければ出会えなかった人も居た」
『……私に関わってきたものは皆、後悔してきた。お前の背負う蝋の翼を作った者も、私の羽さえ使わなければと悔やんだ』
「……後悔がないといえばウソにはなります、でも後悔も含めて私が貰った物は沢山あるからいいんです」
『ならば……いい』
それだけ言うとフェニックスは再びどこかへ飛び去る。
「あれは、お前を生かしてきたものか」
「そうみたいでしたね、ちょっとやり方がヘンテコでしたがおかげで生き長らえて、多くの人と出会えました」
フェニックスがいなければ、詩織が纏うイカロスのギアは生まれなかった、そして戦いに巻き込まれることも、何度も苦しむ事も。
だがそれでも、今は穏やかな気分であった。
「私達は違う、だから受け入れられない」
「それは呪詛だ」
「いいえ違います、だって」
イカロスのギアがあったからこそ皆と近づけた、戦いに巻き込まれたからこそ多くの人達に知って貰えた。
「歌を綺麗と感じるのは、それを聴く人なんです。評価してくれる、聴いて、褒めて、認めてくれる人がいるからこうして歌いたいと思うのです。時には拒絶だってされますし、悪口だっていわれるけど……たった一人だけでも私の歌を聴いてくれる人がいるなら、私はまだ歌いたい」
それは確固たる自意識の確立、加賀美詩織という人間の心が定まった瞬間だった。