萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:青川トーン

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此処に紡ぐ歌

「あら翼さんいらっしゃい」

「……詩織!」

 

 ロードフェニックスの胸の結晶に触れた翼が目を開くとそこには青と赤、非現実的な空の下に浮かぶ詩織の姿があった。

 

「どうやってこんなところまで来たのかって色々聞きたい事はあるんですが……」

「説明は後だ、お前が戻らないと大変な事にな――」

 

 翼が詩織の手を取る、だがそこで翼は「自分」がどうやってここに来たか、どうやって「外」へ出ればいいのかわからない事に気付く。

 

「その子は連れて行かせない、その子は我々にとってどうしても必要な存在だ」

 

 声の主は、赤い髪の女。

 人柱の精神体だ。

 

「貴様は……誰だ!」

 

「お前達が「神」と呼ぶもの、全にして一つになるもの。その子は我々を世界に繋ぎ止める為の「神代」なのだ」

 

「そうか貴様が……なら尚の事!詩織は連れて帰る!」

 

 翼は天羽々斬を構え、人柱と向き合う。

 

「お前も一つとなれ、さすればもう友を失う悲しみを味わう事はなくなる」

 

 人柱は二人の記憶を読み取り、白いシンフォギアに姿を変える。

 ここは既に「人柱」の中なのだ、万が一にも翼に勝ち目はない。

 

 故に詩織が間に割って入った。

 

「翼さん、剣を下ろしてください」

 

 この空間で何にも縛られないのは詩織一人。

 

「だがそれは!お前を……!」

「わかっています、元はといえば私が始めた事……私が力を求めたから、こんなことになった」

 

 もし詩織が力を求める事に囚われなければ、訃堂の思惑に乗って怪物の姿になる事もなかった。

 そして人柱達が目覚める事も。

 

「決着は、私がつけます」

 

 出口のないこの世界、ソレを作っているのは目の前の人柱だ。

 

「やはり……我々を受け入れてはくれないんだな」

「私はあなた達にはなれない、あなた達が全ての人を取り込む事を許しはできない」

「そうか……できれば力づくで同化する事はしたくなかった」

 

 人柱の白いギアはまるで嘆く骸骨の様であり、この世に縋りつく亡霊にも見える。

 しかし本質として彼らは死者ではない、死ぬ事を忘れた永遠の命そのものなのだ。

 地面から無数の手が生えて、詩織と人柱を囲み、退路を塞ぐ。

 

 それに対して詩織はフェニックスの赤いギアを纏う、その手にする武器は「ない」。

 フェニックスは生と死を繰り返す存在、目の前で一つの命に固執する人柱とは逆の存在。

 

「無手で挑もうというのか!?」

 

 翼の驚愕も他所に戦いは始まる、人柱が白い骨の剣を手に駆け出して距離を詰める。

 詩織はその場から身動き一つせず、振り下ろされる剣をその身に受ける。

 

 赤い血が噴出し、詩織の「命」が人柱を返り血で赤く染める。

 

「……!!詩織――ッ!!!」

 

 何が起きたのかまったく理解できなかった、翼には戦うと言っておきながら抵抗一つしない詩織が理解できなかった。

 

「何故……何故!!何もしない!」

 それには人柱も驚きを隠せなかった、今の一撃も様子見の一撃、簡単に避けられるはずだったし、防ごうと思えば防げたはずだった。

 

「私は、あなた達にはなれない。でもあなた達を受け入れてあげることはできる」

 

 膝をつく人柱を両の手で抱きしめる、詩織が武器を手にしなかったのは「彼ら」を抱きしめてあげるためだった。

 

「人は違う、命は同じじゃない、違うから争うし、違うから怖がる、でも違うから好きになることだってある」

 

 受け入れるという事は何も一つになる事だけじゃない、違ったとしても許しあえるという事。

 それが詩織にとっての答え。

 

「これが……お前の「愛」なのか……加賀美詩織!」

 

 人柱の剣と周囲を囲っていた檻の様な手は光と消え、詩織の傷も消える。

 

「まあ……私の器なんてそこまで大きくないですから……許せない事だって沢山あります、誰かを傷つける事もあります。それも含めて……なんて開き直りなので、あまり評価されても困りますけどね」

 

 詩織の困ったような笑顔に、人柱の表情にもまた優しげな笑みが浮かんでいた。

 

「……もう我々は、お前を同化できない。我々の「負け」だ……」

 

 人柱は詩織から離れていく、そして赤と青の空には亀裂が入り、光が差し込む。

 それは彼らが詩織と翼をここから解放すると認めた証であった。

 

「あなた達はこれからどうするんですか」

「……あるべきように還る、あるべき生命の循環へと」

「それは……つまりどうなるのですか?」

 

『命は星を、世界を循環し、いつか再び生まれてくる』

 

 赤い鳥「フェニックス」が詩織の隣に舞い降りる、近づいて来ていた翼は突然現れた新たな存在に驚くが、ここが普通ではない場所という事を理解し諦める。

 

「そうだな、もしも……もしももう一度生まれてこれたのなら……また歌を聞かせてくれないか、我々を目覚めさせた時の様に」

「はい!いつでもお待ちしております!っていうかよければ配信も見てね!」

「ありがとう」

 

 心からの笑みを浮かべ、人柱達は光となって崩れていく。

 

 ヒビの入った空は完全に砕け落ち、星空と更地となった街、そして帰るべき場所、仲間達の姿が見える。

 

「さあ、帰りましょう翼さん」

「……ああ」

 

 共に寄り添い、一歩を踏み出した二人。

 

 

『――!!』

 

 だが二人の前に叫びをあげるフェニックスが立ちふさがった。

 

「なっ!!」

 

 そしてフェニックスの体越しに見たのは、大地を割り現れる巨大な怪物の姿であり。

 破滅の光であった。

 

-------------------------------------------------

 

 動きを完全に止めたロードフェニックスの胸を金色の光が覆う。

 まだあまり時間は経っていないが、それでも静寂の中で皆それを見守っていた。

 

「……揺れ…?地震かしら?もしかしてレイライン遮断しちゃったからかしら?」

「それにしては妙だぞ、こんなタイミングでくるワケが……」

 

 最初に気付いたのは錬金術師達だった、小さな大地の揺れが段々と増幅していく。

 

「違う!これは!!」

『巨大なエネルギー反応!これは神の力です!!!』

 

 サンジェルマンが感じ取ったのと同時に藤尭が通信機越しに叫んだ。

 そして巨大な揺れと衝撃がその場に居た者達を襲った。

 

「寄り代となるものなど既に……まさか……アダム・ヴァイスハウプト!!!」

『―――!!!!』

 

 咆哮と共に大地を砕き現れたのは100メートルを超える巨体を持った怪物、かつてアダムだったもの。

 そして怪物は他のモノ全てに目をくれず、停止したロードフェニックスにむけて閃光を放った。

 

 余波により特殊車両が転倒し、装者達、錬金術師達も飛ばされて地面に叩きつけられる。

 

 

「一体……何が……そうだ詩織さ――!」

 

 一番最初に起き上がった響がみたもの、それは前面を焼き尽くされ、後ろに倒れて行くロードフェニックスの姿だった。

 

「翼さ……ん……?詩織さん……?」

「呆けるな!翼達は無事よ!」

 次に起き上がったのはマリアだった、彼女の言うとおりロードフェニックスの胸の周りだけは金色の繭の様な光によって包まれていた為か無傷、よくみればひび割れ砕けた結晶の中にまだ翼と詩織の姿が見えた。

 

「それよりもアイツを倒すんデス!!」

「あのバカとセンパイを守るんだよ!!」

 

 さっきの攻撃は挨拶の様なものだが、ロードフェニックスはもう停止してしまっている。

 もう一度同じ攻撃を受ければ無事で済むわけがない。

 

「じゃあ急いでアレを倒さないと!!」

 響が駆け出し、それに続いて装者達が行動を開始する、だがそれよりも早くアダムがエネルギー充填を開始する、間に合わない。

 

「やめろおおお!!!!」

 

 クリスが射線に飛び出そうとする、リフレクターを使って我が身を盾としようという考えだが、それが足止めにすらならないというのは彼女自身にもわかっていた。

 

 死ぬなら、共に。

 

 そんな彼女よりも先に光は放たれた。

 

 

 全てを穢し尽くす破壊の光がロードフェニックスを滅ぼす、事はなかった。

 

 

 

 闇の夜の中、「開放のウタ」が響いた。

 

「命を燃やす!!!」

「炎穿つ為に!!」

「終焉を奏でろ!!」

 

 プレラーティとカリオストロに支えられるサンジェルマンのスペルキャスターから放たれる光が、アダムの破壊の光を押し止めていた。

 

―未来を「死」で灯せ

 

 それは彼女達の意地であり、願いであり、ワガママであった。

 

「私は残酷を強いる運命を許せなかった!!残酷を強いる世界が許せなかった!だから!もう何も奪わせるものか!!」

 

 かつて母を失った日、この呪われた世界を終わらせたいと願った。

 その為にあらゆる手を使い、あらゆるものを犠牲にして今日という日まで進んできた。

 道を進む中で、自分が他人に犠牲を、残酷を強いてしまっていた事さえも気付いていた。

 

 だとしても、誰もが踏みにじられない明日が欲しかった。

 「愛」が踏みにじられない世界が欲しかった。

 

「あの子達の想いも、サンジェルマンの想いも!」

「踏みにじらせはしないワケだ!!!」

 

 たとえ賢者の石とはいえ、たった三つで神の力に敵うはずがない。

 一瞬で塵も残さずに消える筈の彼女等がこうして対等に神の力に立ち向かえているのは「生命の焼却」の効果だ。

 

 人の手によって創られる「自由(リバティ)」の為に、その身と心を捧げてきた。

 

「いつだってこの残酷を壊す事ばかり考えてきた、だけど……こうして守る為に戦うのも……悪くはないわね」

 

 心の底からの笑みと充足感は、死の恐怖さえも乗り越える。

 

「さあサンジェルマン!」

「局長に一発ぶち込んでやるワケだ!!」

「ええ、共に行こう!プレラーティ!カリオストロ!」

 

 『最終兵器』であるラピスの弾丸をスペルキャスターに装填し、狙いを定める。

 

「これがぁあああああ!!!私達の絶唱(ウタ)だああああああ!!」

 

 命全てを掛けた一撃、それはアダムの放つ光を貫き、その巨大な力を打ち砕き。

 

 詩織と翼を守り、彼女達の理想を守った。

 

 

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『――無事か』

「フェニックス……あなたは」

『なに、すこし変な熱に中(あ)てられただけだ』

 

 詩織と翼を庇うようにその身を盾にしたフェニックスは殆ど消炭だった。

 不死の鳥とはいえ神の力に耐えられるとは限らない。

 間違いなく「死」へと向かっているのが詩織にも、多くを知らない翼にも感じて取れた。

 

『わたしは消えない、わかっているだろう』

「そんな有様でっ!説得力なんてありませんよ!私はあなたに助けられてばかりで!まだ何も!」

 

 消えいかんとする「友」を前に、詩織が叫ぶ。

 これが別れなのだと理解してしまった。

 

『……お前の歌は、いいものだった。お前の言葉は綺麗だった。だからそれで十分なのだ』

「……っ!」

『命の循環へと還る、それは私とて同じ……だからまたいつかその歌を……』

 

 フェニックスは燃え尽きて消えた。

 その灰を涙が濡らす。

 

 

 詩織のギアが光と共に消え、制服姿に戻る。

 

 それは「力の消失」を意味していた事は理解できた。

 同時に詩織が純然たる「人間」になった事もまた理解できた。 

 もう融合症例ですらない、ただの一人の人間となった事も。

 

 となれば、彼女にもう戦う力はない。

 フェニックスはもういない。

 同じものであった賢者の石もまた消失した。

 一体化していたイカロスも燃え尽きた。

 

 

 コンバーターは何もない空っぽの器の筈だった。

 だがそこには「光」が宿っていた。

 「歌」が宿っていた。

 「血」が流れていた。

 「絆」があった。

 「命」に満ちていた。

 

 だから詩織は叫ぶ、その歌の名を。

 

「シン……フォギアアアアアア!!!」

 

 輝きと共に、再び景色が塗りつぶされた。

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